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【GIS基礎知識】リモートセンシングとは?

離れた遠隔地の土地利用状況でも衛星画像から鮮明に分析できる仕組みであるリモートセンシング。

農業や林業などの分野で注目の仕組みについて、概要や数値指標について簡単にお伝えします。



リモートセンシングとは?

リモートセンシングとは遠隔探査技術と呼ばれ、対象とする地形や樹木、建物などの対象物を離れた場所から非接触で計測する技術です。

具体的には、観測装置(センサー)とそれを搭載する機器(プラットフォーム)を利用して大気や地上、海洋などの遠隔地のデータを取得する技術を示しており、対象や事象ごとに異なるものが利用されます。

以下にプラットフォームとセンサーについて簡単にまとめてお伝えいたします。


プラットフォーム

プラットフォームには人工衛星や航空機、UAV(ドローンなどの無人機)といった上空から計測を行うものや、車両や三脚など地上から計測を行うものが存在します。

人工衛星や航空機などは高い高度から計測することで広範囲のデータを取得できるという強みがあります。

一方、低い高度で飛行するドローンや地上から計測する場合は、小範囲になるもののより高精度なデータを取得できるという強みがあります。

この中でリモートセンシングでよく利用されるのが、100km平方キロメートルもの広範囲の画像を撮影できる人工衛星です。

人工衛星にはテレビなどの通信で利用される通信・放送衛星、スマホの地図アプリなどで利用されるGPS衛星などがありますが、リモートセンシングで使われるのは地球のデータを取得する目的で利用される地球観測衛星です。

地球観測衛星は国や研究機関によってさまざまなものがあり、有名なものだと以下のようなものがあります。

  • ひまわり:日本の天気予報に使われる気象衛星。東経約140.7度の赤道約25,800km上空を地球の自転周期と同じ24時間で周ることで、同じエリアのデータを取得
  • Landsat(ランドサット):アメリカ航空宇宙局(NASA)やアメリカ地質調査所(USGS)が開発・運用している地球観測衛星
  • SPOT(スポット):フランスが中心となって開発・運用する地球観測衛星


センサー

センサーにはデータの収集方法によって、以下のような分け方がございます。

  • 受動型:対象から放射された電波を収集する仕組み。太陽の反射光を受容する写真計測が代表例。
  • 能動型:観測装置から電磁波を照射し、反射した電磁波を収集する仕組み。代表例としてはレーザ光を照射し、対象物体に反射したレーザが帰ってくるまでの時間から三次元座標を取得するレーザ計測がある。

センサーは感知する電磁波の波長帯の長さにより特性が大きく分かれるのも特徴です。

リモートセンシングにおいては以下の4種類の波長帯を利用することが多いので、覚えておきましょう。

  • 可視光線:人の目に見える波長帯。主に写真計測に用いられる。
  • 近赤外線:人間に見えない波長帯の中でより可視光線の赤色に近いもの。植物の葉は近赤外線の波長を強く反射し、その種類ごとに反射の強さが異なるため、植生の分類を行う際によく用いられる。
  • 熱赤外線:人間に見えない波長帯の中で最も可視光線の色から遠いもの。地表面や水面に反応するためその温度を計測する際によく利用される。
  • 中間赤外線:人間に見えない波長帯の中で、近赤外線と熱赤外の中間にあたるもの。可視光線に比べて反射は強くないものの、土にやや反射する性質がある。

また能動型のセンサーで代表的なものに合成開口レーダー(SAR、Synthetic Aperture Radar)があります。これはマイクロ波と呼ばれる短い波長を照射してとらえるもので、昼夜の区別や雲・煙の状況に左右されることなく地上の状況を把握できるのが特徴です。そのため雲の影響を受けやすい海水面などの観測に利用されることが多くあります。



リモートセンシングにおけるデータの種類

リモートセンシング技術は、取得できるデータの広さとその利用用途により、大きく基盤データ補完データの2つに分類することがでいます。

以下にそれぞれの概要を説明します。


基盤データ

基盤データは、光学衛星画像、空中写真、航空レーザーによって取得された数千ha以上の広範囲をカバーする情報です。

土地所有権の境界線把握や資源量調査、道路の新設などある程度広い面積を見て判断する際に利用されることが多いです。

森林分野を例にすると森林資源量の調査や既に設置された林道の把握や新たに新設する林道の設置計画、森林境界の明確化など、治山や林地台帳などの関連分野で活用することができるようになります。


補完データ

補完データとは、UAVや地上の機器に設置されたレーザの照射や撮影された写真によって取得され、局所的・高精度なデータを指します。

基本的には基盤データと合わせて使い、以下のような場合に利用されます。

  • 対象にするものが小面積で、整備されていない箇所で情報整備が必要な場合
  • 基盤データは整備されているものの、火山噴火や地震、台風などの自然災害による地形変化、間伐などの施策による植生の変化などで情報を変更する必要がある場合
  • 樹幹や橋のヒビなど、基盤データではわからないより高精度な情報が必要な場合

補完データを用いることで2つの時間軸での比較分析を行えたり、位置情報などにより基盤データと紐づかせてクラウド上で共有することが可能となります。

役割上リモートセンシングにおける土地利用分析などを行うには欠かせないデータといえるでしょう。



リモートセンシングの活用事例

衛星に取り付けられたセンサーでは温度・水域・光量などさまざまなデータを取得することができます。

これらのデータを元に計算すれば、地表状の植生状況や土壌の水分量などを調べることができるため、リモートセンシングは地球上のさまざまな地形や土地利用の分野で利用されています。

一般財団法人リモート・センシング技術センターでは、以下のような活用例をホームページにて公開しています。

  • 植物を計る: 森林伐採、砂漠化、農作物(水田)の状況
  • 地表の温度を計る :ヒートアイランド現象
  • 海面の温度を計る :黒潮の蛇行、エルニーニョ現象、漁場予測
  • 地表の高さを計る: 地図の作成
  • 雲の状態を計る :天気予報、雨の強さ、台風の内部状況
  • 水の状況を計る :ダムの貯水量、洪水の被害状況



人工衛星によって植生状況を把握する指標:NDVIについて

リモートセンシングで使用されるデータの中でもよく利用されるのが、植生の量や活性度を反映させる指標であるNDVI(正規化植生指標:Normalized Difference Vegetation Index)です。

植物には近赤外線を強く反射させる特性があるため、赤色波長帯のバンド間の比を求めれば、植物がどのような状況であるかが分かります。

NDVIは以下の計算式で求めることができます。

NDVI = NIR-Red/NIR+Red
NIR(近赤外:Near InfraRed):近赤外波長帯の反射率、Landsat8の場合はバンド5に相当
Red(赤色:Red ):赤色波長帯の反射率、Landsat8の場合はバンド4に相当

NCDIは-1〜1までの数値で表され、数値が高い方が植物が健康で繁茂していることを意味しています。



人工衛星によって水域を把握する指標:NDWIについて

人工衛星のデータを生かす指標には、植生状況のほか湖沼や河川などの水域状況や水分量を調べる際にもよく利用されます。

水域を可視化する際には、SWIR(短波長赤外線)と呼ばれる波長帯のデータを利用します。

水はSWIRを吸収する性質を持つことから、これを調べることで土壌や土地に水が存在することを調べることがでいます。

またSWIRと赤外線の量を調べることで地表面の、SWIRと近赤外線の量を調べることで植物に含まれる水分量をそれぞれ調べることができます。

その際に利用されるのがNDWI(正規化水指数、Normalized Difference Water Index)という概念で、地表面・植生ともそれぞれ以下の計算式で求めることができます。

NDWI(地表面)= Red-SWIR / Red+SWIR
NDWI(植生)= NIR-SWIR / NIR+SWIR

なお地表面についてのNDWIには、積雪も含めることに注意してください。



森林分野におけるリモートセンシングの利用傾向と事例

森林分野においてもリモートセンシングの活用は進んでおり、調査手法も様々なものが利用されています。

利用傾向や事例について簡単にまとめて紹介します。


技術別の利用傾向

出典:林野庁「高精度な森林情報の整備・活用のためのリモートセンシング技術やその利用方法等に関する手引き」


林野庁が2018年3月に報告した資料によると、最も多く利用されているリモートセンシングの技術は航空レーザで、市町村や森林組合などで利用されていることが多いです。

続いて多いのが光学衛星画像で、こちらはより大規模で広い範囲で分析することが必要な都道府県や国有林で利用されるケースが目立ちます。

一方空中写真では規模に関わらず使われるもののその数は多くはなく、UAVや地上といった補完データ取得に使われる機器については2018年の時点では使用例は限られています。


出典:林野庁「高精度な森林情報の整備・活用のためのリモートセンシング技術やその利用方法等に関する手引き」


上図のグラフで利用ニーズの結果も見てみます。

森林調査が最多ですが、航空レーザだと路網の現状把握にもよく使われることが多いとわかります。

以下に2つのグラフからわかることをまとめます。

  • 最もよく使われるのが航空レーザ。森林管理や路網などで限定された範囲ではあるものの詳しい土地利用状況を把握したい自治体や森林組合に頻繁に使われている。
  • その一方、数平方キロメートルもの広範な範囲をみたい国や都道府県の場合は衛星画像がよく利用される。
  • 木幹単位といった高度な精度が求められる際に使用する補完データを取得する機器は、他のプラットフォームと比べると普及が進んでいない。



リモートセンシングの事例

森林分野でリモートセンシングを用いた事例は全国に存在し、先ほどお伝えした林野庁が2018年3月に報告した資料の中にも多くの事例が紹介されています。

福岡市森林・林政課 材積区分図 
出典:林野庁「高精度な森林情報の整備・活用のためのリモートセンシング技術やその利用方法等に関する手引き」


例として、福岡県福岡市の森林・林政課では1600haの山林における森林資源量や路網の計画のため、2016年より航空レーザによるリモートセンシングを導入。

間伐の際に使用する作業道の策定の際に、従来は空中写真や投稿線から検討ののち現地調査を行う必要がありましたが、リモートセンシングの導入によりGISソフトや路網設計支援ソフトで机上で高精度の計画が可能となったため業務を省力化することに成功しました。

岐阜県群上市 材積分布図
出典:林野庁「高精度な森林情報の整備・活用のためのリモートセンシング技術やその利用方法等に関する手引き」


また岐阜県群上市では103,000haという広大な森林における資源情報の収集に光学衛星や航空レーザによるリモートセンシングを導入し、材積把握をおこなっています。

従来の森林簿を活用するやり方に比べて現場の状況に近いデータが得られるようになるという点から、木材生産を推進するエリアのゾーニングの際に高い信頼性を得られるという点で強みがある、と同市は評価しています。

そのほかにも世界では森林火災による二酸化炭素排出量の測定やアマゾン熱帯林の伐採面積の拡大状況の把握など様々な用途でリモートセンシングが使われています。 広大な面積を一括で分析でき、かつ現地に出向く手間がなくなるリモートセンシングの技術はますます普及すると思われるため、今後も多くの事例が出てくるでしょう。



まとめ

リモートセンシングは広大な面積を一度に分析するのに向くうえ、かつ現地調査の手間を大幅に減らすことができることから、森林管理の業務効率化に大きく貢献するツールと言えるでしょう。

ただリモートセンシング導入コストやデータの更新、ソフトウェアの開発などに問題を抱えていると考えている森林管理団体の声も少なくありません。

また、当社のWebGIS「mapry GIS」でも点群データと航空・衛星写真を組み合わせてさまざまなデータ分析が使えるようになっています。

ブラウザ上で動かせるため、インストールや画面操作が大変なGISソフトよりも使いやすいのが特徴なので是非ともチェックしてみてください。



参考文献

中島円「その問題、デジタル地図が解決しますーはじめてのGIS」ベレ出版2021年出版、p111~116

一般財団法人リモート・センシング技術センター「リモートセンシングとは」https://www.restec.or.jp/knowledge/sensing/sensing-1.html (2024年3月18日取得)

宮崎浩之・田中康平・田村賢哉・玉置慎吾「環境変化を定量的に把握しよう Pythonで学ぶ衛星データ解析基礎」技術評論社2022年出版、p26〜36

一般財団法人リモート・センシング技術センター「利用事例|森林」https://www.restec.or.jp/service/forest/index.html (2024年3月19日取得)

株式会社パスコ「Red Edgeバンドを活用した松くい虫被害*木の抽出」https://alos-pasco.com/solutions/detail/post-259.html (2024年3月19日取得)

林野庁「高精度な森林情報の整備・活用のための リモートセンシング技術や その利用方法等に関する手引き」2018年3月 https://tenbou.nies.go.jp/science/description/detail.php?id=86 (2024年3月20日取得)

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