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学生起業家、総合商社を経て。代表取締役Co-CEO南原の使命

代表取締役Co-CEOとして、ATOMicaの事業全体をリードするポジションを担う南原(みなみはら)さん。学生起業家だった南原さんは、新卒で総合商社に入社し、社内起業を経験しました。“エリート”と呼びたくなる南原さんの経歴ですが、かつては組織やメンバーの成長には興味がない、クールな一面もあったそうです。しかしATOMicaに入ってからは、メンバーの成長が一番の喜びに変わったと表情を緩めます。

ビジネスの道を走り続けてきた南原さんが、総合商社の後ろ盾を捨ててまでATOMicaで成し遂げたかったこととは何か。内面の変化はなぜ生まれたのか。インタビューで迫っていきます。

南原 一輝(みなみはら かずき)|代表取締役Co-CEO

大学時代に海外インターンへ参加、のちに学生起業。新卒で大手商社に入社し、デジタルマーケティング事業や新規事業を担当。ATOMicaではCo-CEOとして、事業・組織の開発からファイナンスに至るまで、執行パート全般をリードする。


商社の後ろ盾を捨てて、ライバルと事業がしたかった

南原さんは前職の総合商社で社内起業を経験しました。飲食店をワークスペースとして利用可能にするアプリをリリースし、ユーザー数も順調に伸長。そんな順風満帆なタイミングで、声をかけてきた人物がいたそうです。

「既にATOMicaを始めていた嶋田瑞生に『一緒にやろうぜ』と誘われました。でも当時は社内起業家として自身の案件が採択されて、メディアでも取り上げてもらったタイミング。正直『こんなときに何を言っているんだ』と思いました(笑)」

嶋田さんと南原さんは大学時代からの関係。ともに学生起業を経験し、事業の進捗などを定期的に報告する仲でした。「友人でありライバルのような存在だった」と南原さんは振り返ります。

最初こそ「今は転職なんて考えられない」と思っていた南原さんでしたが、声をかけられてから1年半後には、心境に変化が生じていました。事業は順調である一方で、心にあった違和感が隠しきれなくなっていたそうです。

「僕には商社の後ろ盾があるので、事業をスピンオフさせた後に万が一上手くいかなくても商社に戻る選択肢があるんです。集まってくれるメンバーはみんなリスクを背負ってくるわけなのに、自分だけ失敗しても安泰なんですよ。このモヤモヤを解消するには、社内起業ではなく独立しかないと考え始めました」

今後のキャリアを再考していたところで、浮かんできたのは嶋田さんの顔でした。

「嶋田はあの後も何度も声をかけてくれました。彼はもう、自分の会社としてリスクを背負いながら従業員を雇っていたんです。純粋にすごいなと思いましたね」

自ら起業するのか、ATOMicaに入るのか。二つの選択肢から、南原さんはATOMicaを選びました。

「今だから言いますが、自分は元々事業開発が好きで、組織運営やマネジメントには興味がない人間でした。そんな自分であれば、起業しても組織面でつまずいてしまう未来が見えたんですよね。でも嶋田は本当に愛がある人間で。彼と会うといつも、事業の話じゃなくて一緒に働いている仲間の話ばかりするんですよ。自分と違う能力を持った彼となら相方として一緒にやっていける。そう心の底から信じられました」

南原さんの背中を押したエピソードがもう一つあります。何度も訪れていた滋賀の長浜での体験です。

「長浜は大好きな場所なのですが、コロナになってからはすごく閑散としてしまって。よく行っていた喫茶店で夕方訪れたのに『あなたが今日初めてのお客さまだよ』と言われたんです。地方だけで経済圏が成り立つ形を今のうちから作らないと、みんなの大切な場所が失われてしまうんじゃないかと感じました。長浜での経験が忘れられず、ATOMicaを通して地域を活性化させたいという思いに駆られました」

2021年6月、南原さんは“ライバル”に迎えられながら、ATOMicaに入社しました。

自分を変えてくれた、コミュニケーションの天才との出会い

現在南原さんが掌握する領域は、ビジネス全般。共創拠点の事業推進や資金調達など、いわゆる「何でも屋」として多忙な毎日を過ごしています。さまざまな経験を積んだ南原さんに最もやりがいを感じた出来事を聞くと、意外な答えが返ってきました。

「コミュニティマネジメントチーム(CMTと呼ばれる各拠点のコミュニティ運営メンバー)から、『ATOMicaで働けて今すごく楽しい』と言われたことです」

組織やマネジメントに興味がなかった南原さんが、なぜ今メンバーの喜びに自身の喜びを重ねているのでしょう。

「僕って、何をやってもある程度80点90点取れるタイプだったはずなんです。でも、ATOMicaには自分にはできないことを150点くらいでやってのける人がいる。例えば、CMTです。彼ら、コミュニケーションの天才なんですね。僕が事業のためと思って提案したことを、『お客様が悲しみそうだからできないです』とストレートな感想をぶつけてくれたりする。事業の前に、目の前にいるお客様を大事にするんです。そんな彼らを見ていて、自分の中で何かが変わり始めました」

南原さんに、心を揺さぶる体験が訪れます。

「初の宮崎出張で『ナンちゃんこんにちは!』って、初対面で僕のあだ名を呼んでくれたCMTメンバーがいて。『あ、ナンちゃんって呼んでいいですか?』って後から聞いてくるみたいな(笑)。それがめちゃくちゃ嬉しくて記憶に残りました。さらに、終礼の時間には、その日にお会いした会員さまのことを一時間近くみんなで喋っていたんです。人をこんなにも好きになれるなんて、才能だなと思いました」

人との触れ合い方に長けたメンバーとの出会いは、100%ビジネスで埋まっていた南原さんの頭に、柔軟性をもたらしました。

「一瞬で目の前の人をファンにするCMTのみんなが、もっと自分達の才能を広げていけるように。その仕組みを作るのが自分のミッションなんだと自覚しました。だから、『働けて楽しい』と言ってもらえるのが今は何よりも嬉しいんです。人間って変われるもんですね」

仲間を思い浮かべながら、南原さんは屈託のない笑顔を見せました。

「あったらいいもの」よりも「ないといけないもの」を作る

もし南原さんが商社時代の友人に会ったらATOMicaの入社を勧めますか?と、率直な質問を投げかけたところ、「勧めます」と即答。その理由を聞きました。

「一つは、地方都市に関する課題に、直球で取り組めるところですね。ATOMicaは『あったらいいもの』じゃなくて、『ないといけないもの』を作っています。自分の中でも、ちょっと便利にさせるものよりも、人生を変えるようなものを作りたいという思いがあったので素直に魅力に感じています。しかもATOMicaはお客様が目の前にいるので、事業の手触り感がすごくあるんです。特に商社だと上流部分の仕事が多いので、事業の手触り感はやりがいを感じやすいポイントじゃないかと思います」

もう一つの理由は、「仲間」だそうです。

「例えば飲みにいくとなっても、商社時代は上司部下の関係性がはっきりしていたので、事前に予約をして、段取りして、と仕事の延長線のような感覚でした。でも今は、金曜夜にみんなで仕事をして、誰かがビールを開けて、お酒片手にああでもないこうでもないと語らい始めて……趣味の延長戦のような感覚です。同僚であり仲間であり友達のようでもあり、それでいて言いたいことは言い合えるいい関係性だと思います」

さらに南原さんは、副次的に派生した魅力についても語りました。

「『帰る場所が増えた』というのも嬉しいポイントです。宮崎、北九州など色々な場所に拠点があって、出向くと歓迎してもらえて、『帰ってきた』という感覚になるんですよね。自分の帰る場所が増えていくのって、幸せに直結するんだなと実感しています。コミュニケーションを大事にする会社なので、会社の仕組みとしてももっと取り入れて、用事がなくても拠点間を移動できるようにしたいですね。それがATOMicaにとって最大の福利厚生になるように」

「オフィスに行くという感覚よりも、実家に帰る感覚に近い」と語る南原さん。120拠点以上の開所を目指すATOMicaでは、全国各地に“実家”ができることになります。

ビジネスとして成功させる。それが本当の意味での地域活性化だから

ATOMicaにマッチする人物はどんなタイプなのか問いかけました。

「正直、ATOMicaに入る前の自分のようなタイプの人は、ちょっと違うかもしれないと思っています。お客様とか地域の方とか仲間とか、周りの人たちが幸せになることに精一杯目を向けられる。それを感覚的にできる人が向いていますね」

さらに、人としての優しさにプラスして、「根性」も大事だといいます。

「優しいからこそ、その方のことだけを考えてしまって、結果的に自分がやらないといけないことまで疎かになってしまうパターンもあると思います。だからこそ、バランス感覚が大事かなと。目の前の人に対して一生懸命になるという外向きのベクトルは持ちつつも、自分の内向きの軸をブラさずに、決めたことを最後までやりきる力を大事にできる方と働きたいですね」

人を思いやる根っこの優しさと、諦めない胆力。両方を大事にする人を、南原さんは「心優しいスーパーマンのような人」と喩えました。

最後に、Co-CEOとしてのミッションを問いかけます。

「ATOMicaって、一見ボランティアのようにも映るようです。事業としてやっている感じがまるでない業態だからですね。でも本当は、しっかり売上を立てて、ビジネスとして進めていく仕組みや役割が必要です。それを担うのが僕だと思います」

なぜビジネスとしてやる必要があるのでしょうか。

「僕たちがいなくなっても、地域に根ざした仕組みが残り続けるようにするためです。そこまでできてやっと、『地域を変えられた』と思っているので。持続的に地域活性化させるためには、ビジネスの要素は切り離せません」

本気で地域の活性化を願い、本気で仲間の喜びを願う。最後まで諦めない、心の強さを忘れずに。「心優しいスーパーマンのような人」は、南原さん自身を指すのかもしれません。


取材・執筆/早坂みさと

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