パートナー企業様にこれまでの感謝の気持ちを伝えるため、弊社初となる「キャディパートナー Thanks Day 2019」を先日開催いたしました。その中で、対談「ITで進化するモノづくり産業〜印刷業界に見る構造変化〜」を実施。ラクスル株式会社の代表である松本恭攝様にご登壇いただき、弊社代表加藤勇志郎との対談を通じて、モノづくり産業を変えるために必要なものについて、考えました。
【登壇者】
ラクスル株式会社 代表取締役社長CEO 松本恭攝氏
1984年富山県生まれ。慶應義塾大学卒業。グローバルに事業を展開するコンサルティングファームA.T.カーニーに入社。 2009年にラクスル株式会社を設立し、印刷機の非稼働時間を活用した印刷のシェアリングプラットフォーム事業「ラクスル」を展開。2015年12月からは物流のシェアリングプラットフォーム事業ハコベル」も開始。「仕組みを変えれば、世界はもっと良くなる」をヴィジョンに巨大な既存産業にIT技術を持ち込み、業界の構造変化に挑戦している。
パートナー企業のおかげで今がある
加藤:まず、私もよく聞かれる質問ですが、なぜ印刷業界にITを持ち込もうと考えたのか、何かきっかけがあれば教えてください。
松本:前職のコンサルティング会社で、多くの企業のコストの削減に携わる中で得た気づきがきっかけになりました。それは、どの会社も印刷費が一番削減率が高い項目だということ。印刷業界が変われば日本中の企業の業務改善に繋がると思いました。
加藤:なるほど、経緯は非常に私と似てますね。私ももともとコンサルティング会社に所属しており、そこでずっとメーカー様の工場に駐在して調達のサポートをしていました。そこで目にしたのは作った製品を安く買い叩かれるサプライヤーさんたちの姿。ただ、調達側からしても、他にコストダウンの方法がなくどうしようもない現状がありました。そんな状況を変えるため、新たな仕組みを作りたいと思い、CADDiを起業したのです。
起業直後は家と職場が一緒の状態で、朝から晩までずっと仕事をしていました。松本様も立ち上げ期は非常に苦労されたことだと思います。中でも印象に残っているエピソードはありますか?
松本:キャディさんもそうだと思いますが、やはり最初にパートナーになっていただいた印刷会社様には非常に感謝しています。まだまとまった数の発注ができない中、それでも良い条件でお仕事させていただいたことは忘れません。そういった会社様の社長たちとは今でも年に2回は飲みにいく仲です。今のラクスル株式会社があるのは、支えてくれたパートナー企業があるからだと思っています。
加藤:大変共感できる話ですね。我々も、たくさんのパートナー企業様に支えられて、今があります。中でも、立ち上げ当初、無理な納期と価格を聞いてくださった企業様には感謝でいっぱいです。今後も末長くお付き合いしていければと思っています。
発注だけでなく経営支援まで関わる
加藤:現在、立ち上げから10年が経とうとしていますが、印刷業界が変わってきたなと感じる瞬間はありますか?
松本:まだまだですが、少しづつ変わってきているのかなと感じます。実は、先ほどお話しした立ち上げ期からご一緒しているパートナー企業のうちの一社が上場したのです。我々と組む前は売り上げがだいたい30億くらいだったのが、現在は70億近くにまでなりました。さらに、その動きに触発されて、上場準備に入る他のパートナー企業様も現れています。そんな状況を見て、自分たちの会社を上場させたとき以上の喜びを感じるとともに、業界全体の仕組みが少しづつ変わってきていると実感します。
加藤:それはすごいですね。弊社もそんなふうにパートナー企業様に貢献できるよう頑張っていきたいです。パートナー企業様から見て、ラクスルさんはどう見られていると感じますか?
松本:売り上げに貢献することで喜んでいただけておりますが、一方でそこまで深くお付き合いできていない会社様からは反発の声もあります。例えば、我々は一人当たりの生産量をあげるため生産目標を決めたりしていますが、その目標が高く「働くのが大変になった」とご指摘をいただくのです。
しかし1年2年と続けるうちに、今よりも業務を効率化するにはどうすればいいのかを考えることが会社のカルチャーとして確立されていきます。その結果、印刷部門の担当者が成長し、昇格や昇給をします。そして、現場では「頑張った分だけ成長でき、給与も上がる」と働く社員のモチベーションの向上が起きます。そんな変化を起こせるほど、深くお付き合いさせていただいている会社様は感謝の言葉をかけてくださいます。
加藤:それはすごいですね。我々もただ発注だけ行うのではなく、経営支援まで入っていきたいと考えており、実際に取り組みを始めています。ところで、ラクスル株式会社様では物流サービスも開始し、4年が経過していますが印刷業界とは違った難しさなどありますか?
松本:印刷の場合はさきほど申し上げたように、深くコミットすることで生産性の改善ができるので、お互いにハッピーな状況が作りやすいです。しかし物流業界は、結局のところ運ぶ際の積載量を増やすことや工場の容量を大きくすることが生産性をあげるための要素として大きく、印刷業界と同じやり方では改善できません。そこで、着目したのが現場で行われているオペレーションをもっとIT化できないかということ。例えばこれまで紙で保管していたデータをデジタル化し、誰でも好きなときにアクセスできるようにしたり。
ただ一概に現場で使われているツールを新しくすれば良いのではないと思っています。例えばファックスは実は紙で出力し、そのまま紙で送れるため、非常に便利なツールであったりします。
加藤:確かに、そういうこともありますよね。製造業界でもファックスを使用している会社は多いのですが、ただ「古いな」などと決めつけるのではなく、なぜ使われるのかを見てみると面白い発見があるということはよくあります。ファックスに関しては、実際工場で汚れた手でも何か記入してすぐに返信できる、そういう意味では実はパソコンを使うよりも便利な側面もあるんですよね。その上で、例えばファックスで来た図面をそのまま自動で読み取って見積もりを出す、といったプラスアルファの機能もつけていきたいと思っています。
ITとリアルの掛け合わせには現場への深い理解が必要
加藤:松本さんは、昨年初めてCADDiのビジョン(「モノづくり産業のポテンシャルを解放する」)を聞いたとき、どんな感想を持ちましたか?
松本:我々同様、ITとリアルの掛け合わせに挑戦したいのだという話を聞き、嬉しく思ったのと同時に、すごく難しい世界に入ってこられたなと思いました。一番難しいのは組織の作り方ですね。この事業を成功させるためにはITの知識に秀でる必要がありますが、同時に現場への理解を深くする必要があります。さらに、サプライチェーンマネジメントやカスタマーサポート、マーケティングの部署も必要です。これまでそのような組織づくりを行ってきた企業はなく、前例がないぶん非常に難しいのです。
また、CADDiさんの業界は印刷業界同様、商品の種類が細かく多岐にわたるのでその一つ一つに対応するシステムを作らなくてはならないぶん、より難しいだろうなと思っていました。
加藤:おっしゃる通り、我々も実際に取り組んでいて、ITの知識を持つのと同時に、現場への理解を深めることが非常に重要だと思っています。そこで、例えば社員に対して現場の感覚を掴んでもらうため、長期間工場に行き、フルタイムで働いてもらったりしています。松本様はITとリアルを掛けあわせるために特に意識していることはありますか?
松本:高い解像度で現場で起きていることをわかるようにすることです。ただサービスの仕組みを理解していれば良いのではなく、例えば、現場でどういうプロセスで何を使って発注をしているのか、現場のモノの配置や社員の導線はどうなっているのか、など。この理解がない状況でシステムを作っても現場では全く使えませんから。解像度高く現場の姿を描けているかどうかは社内の評価軸の一つにもなっています。パートナー担当者もエンジニアも、経営者も全員が高い現場感を持っていなければ業界の仕組みを変えることなんてできないと思っています。
加藤:おっしゃる通りだと思います。自社本位での提案はほとんど意味をなさないと思います。新しいものをご提案差し上げたとき、導入に抵抗のある企業様もいらっしゃるかと思いますが、そんな中で気をつけていることは何かありますか?
松本:新しいことを導入する際は、とにかく一度経験してもらい、この仕組みは誰のどの問題を解決し、自分の働き方がどう良くなるのかを理解してもらう機会を作ることを心がけています。そうすれば、現場で働く人たちの方から「使いたい」と言ってもらえるようになり、新しい仕組みを導入するのに一番良い環境が整います。
長い時間かけて大きな成果を生み出す
加藤:確かにそうですね。最後に、今後CADDiに期待することを一言いただけると嬉しいです。
松本:今我々は、100年後の人たちに「産業のあり方が一気に変わったね」と言われる歴史の1ページを作っていると思っています。ただ、歴史は一夜にして変わるものではありません。5年、10年と時間をかけ少しづつ変わっていくものなのかなと思っています。
だからこそ、短い時間で物事の変化を測るのではなく、大きな変化を長い時間かけて追いかけて欲しいなと思います。モノづくり産業に携わる全ての人が、より儲かり、より残業が減り、より後継者が後を継ぎたいと思ってくれる。そんな構造変化を実現していってほしいです。
我々も違う業界ではありますが、長い時間軸での経営を行い、一緒に業界の構造を変え、世の中に大きなインパクトを与えていければと思います。
加藤:そう言っていただけて非常に励みになります。頑張ります。本日はありがとうございました。
松本:こちらこそ、ありがとうございました。