弁護士ドットコムは、“専門家をもっと身近に”を理念に掲げ、人々と専門家をつなぐポータルサイト『弁護士ドットコム』『税理士ドットコム』『BUSINESS LAWYERS(ビジネスロイヤーズ)』、Web完結型クラウド契約サービス『クラウドサイン』などを提供するリーガルテックのリーディングカンパニーです。
現在主軸となる事業が『弁護士ドットコム』『税理士ドットコム』『BUSINESS LAWYERS』などを管轄する『専門家プラットフォーム事業本部』と『クラウドサイン事業本部』。それぞれの事業を束ねているのは、ともに弁護士資格を持つ2人の取締役です。
第6弾の今回は、クラウドサイン事業の責任者である本部長・橘さんのインタビュー最終章。『クラウドサイン』が目指す未来について話を聞きました。
【Profile】
取締役・クラウドサイン事業本部長
橘 大地(たちばな だいち)
東京大学法科大学院修了。最高裁判所司法研修所修了。株式会社サイバーエージェント入社、スマートフォンゲーム事業、契約交渉業務および管理業務等の契約法務、株主総会および株式関係実務に従事。2014年GVA法律事務所入所、資金調達支援、資本政策アドバイス、ベンチャー企業に対する契約アドバイス、上場準備支援などを担当。2015年11月当社入社、2018年4月より執行役員に就任、2019年6月より取締役に就任。
契約の“オルタナティブ”となるべく、進化を続ける『クラウドサイン』
――これまでクラウドサイン事業の“過去”と“現在”をうかがってきましたが、最終章の今回は“未来”についてお聞きします。今、橘さんが思い描いている『クラウドサイン』のビジョンを教えてください
私は『クラウドサイン』を日本全国400万社・1億2,000万人が利用する国民的なサービスにしたいと考えています。かつて西郷隆盛や大久保利通ら明治政府は“印鑑”を制度化し、そこから100年で1億人が使う社会インフラを作り上げました。
“脱ハンコ”を推奨するには、オルタナティブとなるべく社会基盤も含めて考えなければなりません。それは目標というよりも、必ずやり遂げるべき使命だと考えています。
――そのビジョンを実現するために考えている施策は?
1億人が使うサービスに成長させるには、今までのやり方にとらわれず、様々な意味で進化しなければいけません。まず近いうちにマイナンバーカードによる電子署名機能をリリースする予定です。これにより、印鑑証明など公的機関の証明や実印が必要な個人との契約締結を、『クラウドサイン』により電子化することが可能となります。今後は技術の発展を見ながら、例えば顔認証、指紋認証技術により本人確認機能を強化する可能性もありますし、200カ国で契約締結ができるように多言語対応を進化させたいという考えもあります。
また、この事業を開始して改めて感じたのが、誰もが利用できるアクセシビリティの重要性です。紙の契約書だと、目の不自由な方は判別できませんし、足が不自由な方は郵便を出すことも困難な場合があります。1週間に1回しか船が来ないような離島に住んでいる方は迅速な契約締結が行えません。『クラウドサイン』には視覚障害のある方でもご利用いただけるよう、契約書の内容を読み上げることもできますが、紙と印鑑で行う契約よりもより一層アクセシビリティを高め、老若男女あらゆるユーザーが使いやすくスピーディーに対応できるサービスにしなければならないと考えています。
――国民的なサービスへと成長させるにあたって、重視していることはありますか?
まず社会の過半数を獲得するために、日本で利用されているクラウドシステムと連携させたプロダクト開発が重要だと考えています。
ZoomやSlack、Microsoft Teams然り、日本のクラウドビジネスにおけるエンタープライズ製品は、これまでほぼ外資系サービスが席巻しています。しかし、日本における法的証拠力や本人確認手段における機能開発などでは、統一的なグローバルサービスよりも『クラウドサイン』のほうが日本の環境に適しているという自負があります。
また、従業員数が数万人規模となるような大企業では、電子契約を導入する際に、既定の業務フローをどう切り替えていくか、1年ほど費やす大型プロジェクトとなるケースもあります。私たちは日本の商慣習を変えるプロ集団として業務コンサルティングも行っていますので、これからも価値あるサービスを提供していき、選ばれる存在であり続けたいですね。これは、これまでのクラウドビジネスの歴史から見ても非常に大きなチャレンジでもありますので、とてもやりがいがあります。
――近年、国内でも様々なリーガルテック企業が登場していますが、どのような視点でとらえていますか?
すでに、当社はリーガルテックのスタートアップ2社に投資しています。そういった株主としてのコラボレーションはもちろんのこと、『クラウドサイン』はContractS CLMやHubbleをはじめ多くのリーガルテック企業とプロダクト連携も行っています。
自社開発、提携、投資など、その都度、最適な方法を組み合わせながら、今後も『クラウドサイン』に限らず、日本国内のリーガルテック事業を発展させていきたいと考えています。
力強く未来を変えていくルールリメイカー
――これから橘さんが『クラウドライン』で実現したいと考えている社会とは?
甲・乙を用いる表記など、契約書自体のインターフェースも見直していく必要があると感じています。
従来の契約書は裁判官や法律家が証拠として読みやすいかどうか、つまり“裁判官リーダブル”という観点で作られています。当然ながら、機械で読み解くことがしにくく、ゆえに検索もしにくいのが現状です。
また、契約書には当然、獲得した権利義務が記されているにもかかわらず、締結後は法務部しかそれを意識しておらず、現場で忘れられてしまうこともあります。それも読みにくさに起因するもので、契約書は“専門家のもの”となっており、決して“みんなのもの”にはなっていません。今後10年で、契約書は現在とはまったく異なる“マシンリーダブル”な形に変わっていくと考えています。
これからの“あたらしい契約のかたち”を築くチャレンジと進化を続けていくことも私たちの使命であるととらえています。そして、それが当社の理念である「専門家をもっと身近に」にも通じるものだと考えています。
――そんなミッションを実現するために、今後の組織作りで大事にしていることは?
クラウドサイン事業本部では、「Rule Re:Maker(ルールリメイカー)」というミッションを掲げています。印鑑という国民的ツールを築き上げた明治時代の大偉業に敬意を払い、これまでのルールの破壊者でもなく、ディスラプトするわけでもなく、過去を尊重して未来を力強く変えていくというカルチャーを表現しています。
2021年1月に、『クラウドサイン』のタグラインを“これからの100年、新しい契約のかたち。”に刷新しましたが、そこには100年かけて築き上げた印鑑に代わる新しい100年間を作っていきたいという思いを込めています。このように過去に敬意を払って力強く未来を変えていく、誇り高き組織でありたいと考えています。
――最後に、ともに働く仲間たちに向けてメッセージをお願いします
“脱ハンコ”が叫ばれ、電子契約が大きな注目を集める今、この社会の転換点とも言える瞬間に主体者として立ち会える価値はとてつもなく大きいのではないでしょうか。かの“ペイパル・マフィア”と呼ばれるメンバーたちが築いたペイパル創業期やブロードバンド時代のソフトバンク、携帯ゲームで黄金時代を築いたディー・エヌ・エーやグリーなどと同じように、かけがえのない意思決定の連続に当事者として携わることは何よりも素晴らしい経験になることでしょう。
誇りを持って仕事にあたり、一緒に挑戦を続けていきましょう。
以上、クラウドサイン事業本部長・橘さんのインタビューをお届けしました。
6編にわたってお送りしてきた2人の事業本部長へのインタビュー企画は、今回で終了です。お読みいただきありがとうございました。
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