教育領域の第2回テーマは、「語学学習サービス」です。
昨今は、英語以外でも様々な言語の選択肢やニーズが増えていますが、今回は最も市場が大きくサービスの幅も広い英語学習に絞ってご紹介します。
英語学習領域が注目される背景
近年、英語学習を中心とした語学ビジネス市場は堅調に伸びています。その背景としては、「日系企業のグローバル化推進」、「訪日外国人客(インバウンド)増加」、「オンライン完結型の英語学習アプリ等の浸透による学習スタイルの多様化」、「学習指導要領の改訂」などの影響が考えられます。
市場拡大に伴い、本領域には多種多様なプレイヤーが参入しています。従来からある「ECC」などの英会話スクールや、「DMM英会話」などのオンライン英会話に加え、英語プライベートジムを提供する「STUDY HACKER」といった新興サービスが参入しているほか、KDDIのイーオン買収、また、「結果にコミット」で有名なパーソナルトレーニングジムのRIZAPがRIZAP ENGLISHを設立するなど、教育業界以外の大手企業も参入しています。
学習指導要領の改訂
市場拡大要因のひとつでもあり、昨今話題となっている学習指導要領改訂について、特に英語教育が具体的にどのように変更される予定なのかを見てみましょう。
2017年に発表された、英語教育に関する学習指導要領改訂の主なトピックは、教育カリキュラムと大学入試の2つに分けられます。
教育カリキュラム
小学校では以前まで小学5、6年生に実施していた「外国語活動」を、2020年度から小学3、4年生に前倒し、小学5年生、6年生からは算数や国語と同様の教科として本格的に英語の授業を実施することになりました。
中学校では、2021年度から原則授業自体を英語で進行し、話す能力を養うために自分の意見を発表したり、仲間の意見を聞いたりする内容の授業が予定されています。
さらに高校では、2022年度から中学校と同様、原則英語で授業を進行するとともに、ディベートやプレゼンテーションなども授業に取り入れられる予定です。
大学入試
こうした教育カリキュラムの改訂に伴い、大学入試センター試験も大幅に変更されます。これまでのセンター試験の英語テストは大学入試センターが作成していましたが、今後は英検、TOEIC、ケンブリッジ英語検定など8種の英語民間試験を導入予定です。また、「読む・書く・話す・聞く」の4技能全てを測定します。
このように、今回の学習指導要領の英語教育に関する改訂は、「英語教育の開始年が前倒しされたこと」、「4技能全体を教育すること」の2点が大きな変更点ととなります。
英語学習領域の主要プレイヤー
国内外の英語学習サービス領域の主要プレイヤーを、主にオフラインで授業を行う英会話教室、オンライン英会話、そして英語教材を提供している3つのサービス群に分類しました。
注目サービス・動向
ここからは英語学習領域の注目サービスを紹介します。
1. 常に600人以上が入会待ちの英語学習ジム・コンサルを提供する「スタディーハッカー」
スタディハッカーは、英語パーソナルジム「ENGLISH COMPANY」や英語学習のコンサルティングに特化した自習型英語学習コーチングサービス「STRAIL」を提供しています。
パーソナルトレーナーは、言語習得に関する研究分野である「第二言語習得研究」の知見に基づくアプローチで指導を行い、3ヶ月でユーザーのTOEICスコア400点アップなど数々の実績を残しています。
「ENGLISH COMPANY」は最長3ヶ月、「STRAIL」は最長半年であり、短期集中型の学習サービスであることが一つの特徴です。
注目すべきは、「ENGLISH COMPANY」、「STRAIL」ともに、高額な価格設定でありながらも多くのユーザーを獲得し、大きく成長している点です。
「ENGLISH COMPANY」で最もスタンダードなコースである「全レベル対応コース」が入学金5万円と月額16万5000円x 3ヶ月であり、ECCといった他の英会話教室サービスと比較しても高価格であると言えます。
にもかかわらず、パーソナルトレーナーによる短期集中型の指導によって確実な成果が期待できることから、2020年1月現在で拠点数は全国に19スタジオが存在し、常時600人以上の希望者が入会待ちという状況です。スタジオの数は、同業の英語パーソナルジムを展開するプレイヤーの中で最も多く、非常に勢いがあります。この人気と効果への期待から、2020年1月にはベネッセの子会社となりました。
2. スマホで手軽に英語学習ができるサービス「スタディサプリEnglish」
スタディサプリEnglishは、リクルートグループが運営する、TOEIC対策や、日常会話、ビジネス英語など目的別に学ことが可能な「英語学習アプリです。
スマホアプリであり、オンライン完結型、1日3分から講義動画を視聴できるなど、とにかく手軽に英語を学習できるのが特徴です。
スタディサプリEnglishは、低価格で英語学習サービスを提供し、多くのユーザーを獲得しています。TOEIC対策コース、ビジネス英語コースがそれぞれ月額2,980円となっており、英会話教室や英語パーソナルジムと比較すると非常に安価であることがわかります。
安価かつアプリで手軽に英語教育を受けられるようにすることで、スタディサプリEnglishは、2017年AppStoreの教育カテゴリランキングでトップセールスを記録し、2018年には、アプリはシリーズ累計385万ダウンロードを突破しました。国内の数ある英語学習アプリの中でも特に人気のサービスになっています。
3. GVなどが出資する、北米発の英語学習サービス「English Central」
English Centralは、GoogleのCVCであるGVも出資する、北米発の英語教育ベンチャーです。本サービスは日本人の松村氏が代表を務めており、日本での展開も積極的に行っています。
サービスの特徴としては、1万4000本を超える動画コンテンツを英語教材とした、総合英語学習サービスを提供している点です。これは創業者の松村氏が、興味ある動画の題材だと苦手な英語でもモチベーションが湧いて学習できたという実体験に基づいています。
ただ動画コンテンツを用意しているわけではなく、動画をみてリスニングし、動画の中で使われている単語を書き込むクイズで学び、動画の内容に即したオンラインレッスンを受ける、という学習サイクルを実現しています。
また、本サービスは2020年度からの英語教育改革に際し、大学入試のスピーキング対策および小学校での英語教科化へのソリューションの提供を開始しました。AIを利用し、学校や学習塾では限界のある、「個別指導方式」での英語の「話す・聞く」に関する教材を学校や学習塾向けに提供しています。
4. 楽しみながら英語が学習できる動画を中心とした英語学習サービス「VoiceTube」
VoiceTubeは、台湾発の、オンライン動画を視聴しながら英語を気軽に学ぶことができる英語学習サービスです。
ユーザーは約80,000本ある幅広いジャンルの動画から好みの動画を選択し、リピート再生機能や速度調整など各種機能を活用し、ネイティブの発音を聞きながら、より効率的に英語学習を行うことが可能です。
上記以外にも、英語字幕と日本語字幕が表示され、その中で気になった英単語をクリックすると辞書代わりとなって単語を検索する機能や、ユーザーがスマホに録音した音声についてどの発音がよくてどこが悪かったのかAIが分析・フィードバックする機能なども提供しています。
前述のEnglish Centralにも同様のことが言えますが、VoiceTubeは、Edutainmentの要素を重視したサービス設計が大きな特徴です。Edutainmentとは、EducationとEntertainmentを合わせた造語であり、EdTechとともに欧米を中心に広まっている、”ゲーム感覚で楽しみながら学習する”という概念です。自分が興味のあるコンテンツの動画を教材として使用することで学習過程が一種の娯楽となるため、ユーザーに”勉強”という負のイメージを持たせず、自然と内容を身に着けさせることが可能になります。
まとめ・考察
市場の拡大に伴い、特に成人向けの語学学習サービスにおいては顧客獲得競争が激化しています。そうした中においても成長しているプレイヤーは、高価格かつ高負荷、短期集中型のサービスを提供するものと、低価格かつ手軽で長期間かけて少しずつ進めるサービスを提供するものに大別されます。
このことから、「高いお金を払ってでもパーソナルトレーナーをつけて確実に英語を上達したい」ユーザーと、「とにかくスマホだけで手軽に始めたい」ユーザーが存在することが見て取れます。英語学習サービスを検討する際の起点としては、このどちらかのターゲット層をベースに考え、深い心理を紐解くことで、まだ実現されていないアンメットニーズも発見できるのではないでしょうか。
子供向けの英語学習サービスは、2020年度の学習指導要領改訂に伴う英語教育改革の影響で、学習塾との競争が激化しています。
ただし、学習指導要領の改訂で今後重要になってくる「話す・聞く」に関する教育に関しては、集団指導方式を採る一般的な既存の学習塾の体制では対応し切れない部分があります。
なぜなら、「読む・書く」に関する教育と比較し、「話す・聞く」に関してはスキル向上に向けて生徒が学習すべき確立されたフレームワークが多く存在しないためです。
そのため、「話す・聞く」に関しては座学ではなく実践的に学ぶ必要があり、現時点では個別指導方式の方が望ましいでしょう。その点、ネイティブスピーカーとのマッチングやAI利用といった方法により個別指導が可能なサービスなどは、ユーザーに対してより実践的な指導が行うことができ、またコストも予備校が実践的な英語に精通した人材を新たに採用するより抑えることができます。
英語学習サービスは学習塾とある部分では競合するものの、補完しあう形を模索することで、激しく競合せず、今後も成長する余地があるのではないでしょうか。
教育に娯楽的な要素を加えた概念であるEdutainmentが教育業界で広がりつつあり、Credence Research社のレポートによると、Edutainment市場は年率14%で成長しています。
英語学習領域は現在多くのEdTechサービスが存在しており、レッドオーシャンとなっています。今後、いかに差別化していくかが重要になっていく中で、Edutainmentを意識したUXは一つの有効な手段と言えるでしょう。
次回は、プログラミング学習サービスのトレンドについてご紹介します。
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