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クルージングヨット教室物語94

Photo by Buddy Photo on Unsplash

「どうだった、城ヶ島は?」

麻美子は、三崎から横浜のマリーナへの帰りのデッキ上で香代に聞いた。

「楽しかったよ!」

香代は、嬉しそうに笑顔で答えた。

「隆さんに肩車してもらったら、城ヶ島のマリーナも見れたの」

「また、隆に肩車をしてもらったの?」

麻美子は、香代に聞き返した。

「でも、途中で本当の小さい子がお父さんに肩車されているのとすれ違って辞めたんだよね」

瑠璃子にバラされてしまっていた香代だった。

「そうだったんだ」

「船底がガラス張りの観光船があって、観光船に乗ったんだよ」

恥ずかしくなって、麻美子との会話を慌てて変えた香代だ。

「ガラス張りの観光船なんてあるんだ」

「うん。海の中がぜんぶまる見えになんだよ」

「ほら、そこを走っているじゃん」

隆が、ラッコの後ろの方を走っているクジラの絵が描かれている船を指差した。

「あ、あの船か」

麻美子は、隆の指差した方向を見て呟いた。

「あの船の底ってガラス張りになっているんだ」

「今度、また三崎に行った時は、麻美子も一緒に観光船に乗ってみよう」

隆は、麻美子に言った。

「デートのお誘いだね」

瑠璃子が指笛を吹いていた。

「いや、別にデートのお誘いではないよ」

隆は、瑠璃子に照れていた。

「次、三崎に来た時は、私たち皆、朝は寝たふりしておかなきゃ」

「なんで?」

「そしたら、隆さんと麻美ちゃん2人だけで観光船に乗りに行けるじゃない」

「そうか!」

陽子の言葉に、瑠璃子は頷いていた。

「フェリーが走って来た」

麻美子は、ラットを握っている香代に報告した。香代は、フェリーに近づき過ぎないように注意しながら、ラッコを走らせていた。

「また、お昼って浦賀のなんとかいうマリーナに寄るの?」

麻美子は、隆に聞いた。

「ベラシスマリーナのことか、別に毎回、毎回帰りにベラシスに寄ることもないだろう」

「そうなのね、なんかいつもクルージングの帰りに立ち寄って、カレーを食べているから休憩地として立ち寄る場所なのかと思ってた」

「別に、そんなわけないから」

隆は、麻美子の言葉に苦笑した。

「まあ、皆が食べたければ、カレー食べに立ち寄ったって良いけどさ」

「別に、カレーでなくても良いかな」

「あそこのカレーは美味しいけどね」

という返事が多かったので、今回のクルージングではベラシスはスルーすることになった。

「それじゃ、このまま観音崎を越えたら、横浜のうちのマリーナまで直行しよう」

隆は、皆に言った。

観音崎を越えたところで、今までラッコの後ろを走っていたアクエリアスが、ラッコのことを追い抜いて、そこから横浜のマリーナまでは、ラッコの前方を走ることとなった。

「浦賀に寄るのかなと思ってさ」

後で、横浜のマリーナに到着してから、中村さんに聞いたところ、浦賀までは途中でベラシスマリーナに立ち寄るかもしれないと思って、ラッコの背後を走っていたのだそうだった。

やはり、船自体のセーリング性能はラッコよりもアクエリアスの方が速いようだ。


作家プロフィール

主な著作「クルージングヨット教室物語」「プリンセスゆみの世界巡航記」「ニューヨーク恋物語」など


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