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クルージングヨット教室物語80

Photo by Wes Tindel on Unsplash

「私も、ラッコに乗りたいな」

香織は、スーパーから戻ってくると、隆に言った。

「これから、船を出航したら、金沢沖を抜けて、追浜のところにある深浦の入り江にヨットを泊めてお昼にするから、そこで一緒にお昼をしようよ」

隆は、香織に言った。

「アクエリアスと一緒に、深浦の入り江に行こう!」

隆は、アクエリアスのオーナーの中村さんにも伝えていた。

「それじゃね、向こうで会おうね」

隆と陽子は、アクエリアスのデッキ上に乗って、横浜のマリーナを出港して行く香織に手を振った。

「じゃ、私たちもラッコで出航しましょうか」

麻美子が、陽子と隆に言った。

「よし、香代船長、出航しましょうか」

ラッコのステアリングを握っている香代に言った。

「まだ、船は出航していないよ」

「うん。今日は、香代がラッコをポンツーンから離岸させるところから操船してみな」

隆は、香代の真横に立って、香代の操船を見守っていた。

陽子や雪、瑠璃子がポンツーンに結ばれていたラッコの舫いロープを外すと、香代の操船でラッコはポンツーンから離れて、沖に出港した。

「セイルを上げようか」

沖合いまで出ると、皆はラッコのメインセイルとミズンセイルを上げた。香代は、今日初めてラッコをポンツーンから離岸させた時は、船をぶつけないかと緊張していたが、ここまで来てしまうと、もう何も心配することなく、ラッコをセーリングさせている香代だった。

先に出航したアクエリアスが、前方をメインセイルを上げて、走っていた。

「香織ちゃーん!」

少しエンジンの速度を上げて、アクエリアスの横に追いつくと、ラッコの艇上から隆や陽子たち皆が、アクエリアスの香織に向かって、手を振っていた。

アクエリアスに乗っている香織も、ラッコの皆に手を振り返していた。

先週は、ヨットレースだったので、エンジンは停止して、風の力だけでセーリングをして走っていたが、今日はレースでも何でもないので、エンジンもかけたまま、機帆走で走っていた。

「先週、レースで周ったブイじゃん」

金沢沖に設置されている緑色のブイのところまで2艇はやってきた。

横浜のマリーナのクラブレースでは、いつもこのブイをレースの折り返し点のブイに使っていた。

横浜のマリーナを出港してすぐのところに設置されている赤い小さなブイとコミッティーボートの間をスタートラインに見立てて、その間をスタートしたら、金沢沖のこの緑色のブイを反時計回りで回って折り返してから、本牧沖に設置してある大きな黄色ブイを回って、コミッティーボートの待機しているスタートラインが。今度はゴールラインになってゴールしていた。

「ここで、アクエリアスって、先週は一気に4艇ぐらい追い抜いたんだよね」

「そうなの?私、知らない」

陽子に聞かれたけど、瑠璃子は覚えていなかった。

「それは知らないよな、だって、瑠璃ちゃんはコミッティーに乗っていたんだし」

隆は、瑠璃子に答えた。

「そうだよね!先週のことなのに、なんで私、忘れてしまっているんだろうと思ったけど、私って、ラッコでコミッティーボートしていたんだから、ここに来ていなかったものね」

歳のせいで忘れたわけではないと安心した瑠璃子だった。

金沢沖の大きくSUMITOMOと書かれた赤いクレーンの先に、日産の追浜工場があった。追浜工場の奥にある入り江の中に、ラッコとアクエリアスの2艇は入っていった。

入り江には、いっぱいヨットやボートが停泊していた。

その手前のところに、作業用の台船が泊まっていた。ラッコは、その台船に横付けした。ラッコが横付けし終わると、その後ろのところにアクエリアスも横付けした。

「ここも、ヨットハーバーなの?」

入り江にたくさん停泊しているヨットやボートを見て、陽子は隆に聞いた。

「ヨットハーバーでは無いんだけど、ヨットやボートのオーナーたちが、勝手にここへアンカーを打って、自分たちの船を停泊させてしまっているんだ」

隆は、陽子に説明した。

ここの場所は、後に横須賀市が港を整備して、深浦ボートパークというヨットやボートを停泊する施設に生まれ変わらせた場所だった。

「ここで、お昼ごはんにしましょう」

麻美子が、皆に言った。

出航前に、横浜のマリーナ近くにある相鉄ローゼンでお買い物して来た食料を使って、ラッコのギャレーではお昼ごはんの準備が始まっていた。

「私、野菜を切るね」

アクエリアスが台船に着岸すると、すぐにアクエリアスからラッコに移って来た香織も、ラッコの皆と一緒になってお昼ごはんの準備をしていた。

「お昼にしようか」

アクエリアスの舫いロープを結び直していたアクエリアスのメンバーたちも、香織に少し遅れてラッコのキャビンに入って来た。アクエリアスのメンバーたちが、パイロットハウスのメインサロンに腰掛けると、雪や麻美子がビールやグラスを皆に配って、飲み始めていた。

「どこに行ったのかと思ってたら、もうこっちで皆と料理してたんだ」

中村さんは、すっかりラッコの皆と仲良くなってしまっている香織の姿に気づいた。

「隆くんさ、彼女のことヨット教室卒業したら宜しくね」

中村さんは、隆に言った。

「卒業したら、ラッコで引き取ってあげてよ」

ラッコのメンバーと仲良くなっている香織の姿を見て、中村さんの方から隆に伝えていた。

「はあ、別に良いですけど・・」

隆は、中村さんに答えていた。


作家プロフィール

主な著作「クルージングヨット教室物語」「プリンセスゆみの世界巡航記」「ニューヨーク恋物語」など

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