「フェンダーは、こうやって結ぶんだよ」
隆は、フェンダーの結び方、エイトノットや舫い結びなどの結び方を香織に教えていた。
今回、アクエリアスは真ん中よりもかなり上位でゴールできていたので、そのことに大満足の中村さんは、マリーナに戻ってくると、どの艇のオーナーからも、今日のアクエリアスのレースは、よく走っていたと褒められるので、上機嫌だった。
ゴールした後も、中村さんがラットを交代してくれないので、ゴールした後も、横浜のマリーナのポンツーンに着岸するまで、ずっとラットを操船してきた隆だった。
「舫いを取って!」
隆からの指示に、全く舫いの結び方がわからず、ポンツーンでオロオロするだけだった香織に隆が改めてロープの結び方をレクチャーしていたのだった。
「香織ちゃん、隆さん自らにロープの結び方を教えてもらえるなんて、めちゃ贅沢だよ」
隆から教わる香織に、陽子が言った。
「そうなの?隆さん、優しいからなんでも教えてくれるかと思ってた」
「だって、隆さんは、うちの艇長だよ。私だって、最初は隆さんじゃなくて、麻美ちゃんに教わったし」
陽子は、香織に言った。
「そうだね。一応、俺もラッコの艇長だからね」
「そうなんですね」
香織は、陽子に答えた。
「でも、本当に香織って何もヨットのことをわかっていないよね」
隆は、香織に言った。
「もうヨット教室を始めて4か月ぐらいは経つだろう」
「私、ヨット教室初日以来、あんまりヨットに乗りに来ていないもの」
香織は、隆に答えた。
「学校の先生って、やっぱ忙しいんだ。生徒に教えるのに」
「そういうわけでもないんだけど」
香織は、隆に返事していた。
中村さんも、もともとのアクエリアスのクルーも、マリーナ敷地内で準備が進んでいるビールパーティー会場の方に行ってしまっていたのに、香織だけアクエリアスに隆や陽子と一緒に残って雑談をしていた。
隆や陽子は、今日初めてアクエリアスの艇上で出会ったばかりなのに、もうすっかり香織と仲良くなってしまっていた。
「そうなんだ。ラッコのヨットって、なんか楽しそうだものね」
香織は、陽子に言った。
「私も、陽子ちゃんみたいに、アクエリアスじゃなくてラッコの生徒さんに配属になっていたら、サボらずに毎週ヨットへ乗りにきていたかもしれないな」
陽子のことを羨ましそうに話した香織だった。
「もう俺らとも仲良くなったんだし、来週からは毎週ちゃんと乗りに来れば良いじゃん」
「そうだよね!」
香織は、嬉しそうに隆の言葉に大きく頷いた。
「中村さーん!」
隆は、ビールパーティー会場にいる中村さんにアクエリアス艇上から声をかけた。
「アクエリアスの片付け終わったんだけど、うちら3人で船をバースに戻してきましょうか!」
「お願いします!」
中村さんは、ビールパーティー会場に居座っていて、アクエリアスに戻ってきそうもなかった。
「それじゃ、アクエリアスをバースに戻してこようか」
陽子と香織が舫いロープをポンツーンから外すと、アクエリアスはUターンした。
ラッコは、横浜のマリーナの陸上の敷地にクレーンで上げて保管されていた。アクエリアスは、マリーナの海上にバースがあり係留されて保管されていた。
その海上バースに、アクエリアスを移動するためにポンツーンから出港したのだった。
「外した舫いロープを丸めてから結ぶよ」
陽子は、香織にロープの収納の仕方を教えていた。
隆は、アクエリアスの会場バースに船を停泊させると、陸上から迎えにきて来れたマリーナ職員の操船するテンダーボートに乗ってマリーナクラブハウスに戻ってきた。
これから、クラブハウスではビールパーティーが始まるのだった。
主な著作「クルージングヨット教室物語」「プリンセスゆみの世界巡航記」「ニューヨーク恋物語」など