クルージングヨット教室物語56
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「麻美子は、先に寝てていいよ」
隆は、陽子と夕食後の食器を洗いながら、麻美子に言った。
「そうだよ。麻美ちゃんは、いつもお料理作ってくれているから、食器の後片付けぐらいは、うちらでやるから大丈夫よ」
瑠璃子も、麻美子に言った。
「私が、隆さんと洗っておくから」
陽子が、麻美子に伝えた。
「ありがとう。それじゃ、今夜は先に寝かせてもらおうかな」
麻美子は、瑠璃子と陽子に返事した。
「香代ちゃん、先に寝ようか」
麻美子は、香代のことを誘って、アフトキャビンに入った。
「おやすみ、麻美ちゃん。末っ子の香代ちゃんと一緒に。後は、長女と次女にお任せして」
瑠璃子が、麻美子に笑顔で言った。
「長女と次女って、瑠璃ちゃんが長女で、陽子ちゃんが次女なの?」
麻美子は、瑠璃子の言葉を聞いて笑顔になっていた。
「おやすみ」
麻美子は、香代を連れてアフトキャビンの中に引っ込んでしまった。
「瑠璃ちゃんが長女で、陽子ちゃんが次女なら、私は?」
雪が、瑠璃子に聞いた。
「え、雪ちゃんは・・」
瑠璃子は、返事に困っていた。
「近所のおばさん」
隆が、お皿を布巾で拭きながら、雪に言った。
「私は、近所のおばさんかよ」
雪が、隆の言葉に苦笑した。
今は、アクエリアスのメンバーたちは、自分たちの船に戻ってしまっていて、麻美子は、アフトキャビン内で香代と一緒に先に眠ってしまっていた。
ダイニングに残って、食事というかアクエリアスの人たちとの宴会の後片付けをしていたのは、隆と陽子、瑠璃子に雪の4人だけだった。
「明日はどうするの?」
「式根島にでも行こうか。明日は式根島で一泊して、その後は大島に立ち寄ってから横浜に帰ろう」
隆は、陽子にクルージング後半の予定を説明した。
「私たちも、もう眠いから寝ようかな」
「そうしよう」
隆は、瑠璃子に言った。
ここのところ、夜は毎晩のようにアクエリアスのメンバーがラッコのキャビンに来ていて、遅くまで麻美子や雪と宴会しているから、少々寝不足になっていた。
お皿の後片付けが終わると、瑠璃子と陽子は、ダイニングサロンのテーブルを下ろして、その上にクッションを敷いて、ダブルバースに変化させると、タオルケットや枕でベッドメイクしていた。
陽子と瑠璃子は、ダイニングのベッドに横になっていた。
「ねえ、隆さん」
ダイニングとギャレーの間の仕切りになっているカーテンを閉めてあげていた隆に、陽子が声をかけた。
「どうした?」
「なんかさ、こうやって、私と瑠璃ちゃんが横になっていて、隆さんがそこに立っていると、本当になんか隆さんが私たちのお父さんで家族になった気がしてくる」
「そうだな、家族で良いんじゃないの。ほら、ラッコっていう家族だよ」
隆は、陽子たちに答えた。
「なんか、隆さん、かっこいい言葉」
「っていうか、よくあるクソドラマのセリフみたい」
瑠璃子と陽子が、キャキャっと笑っていた。
「それじゃ、近所のおばさんも、フォアキャビンで寝ますね」
雪が、フォアキャビンに入りながら言った。
「ラッコって家族か」
「そう、クルージングに出ている間だけでも、ラッコって家族だよ」
隆が、陽子に繰り返し返事していた。
「でもさ、家族は良いんだけど、俺ってお父さんなのか?せめて、一番上のお兄さんじゃないか」
「それは無い」
隆の言葉は、2人に即座に否定された。
「麻美ちゃんがお母さんで、隆くんがお兄さんはちょっと図々しくない」
ファオキャビンから雪の声が返ってきた。
「それじゃ、お父さんも寝ます!」
隆は、2人に返事すると、アフトキャビンに入った。