クルージングヨット教室物語55
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「何か食べたいものがある?」
麻美子は、神津島のメイン通りを歩きながら皆に聞いた。
香代は浴衣、瑠璃子はカラフルなワンピースで街中を歩いていた。
新島の通りと同じように、通りには10代の若者たちで溢れかえっていた。
「せっかく浴衣を着ているんだし、また今夜も花火をしようか」
麻美子は、花火屋さんの前で、手を繋いで一緒に歩いている香代に言った。
「今夜の夕食だけど、クレープを作ろうか」
麻美子は、通りを歩いている若者たちのほとんどがクレープを食べ歩きしているのを眺めながら、香代や瑠璃子たちに提案した。
「クレープなんて作れるの?」
「作れるわよ。簡単よ」
麻美子は、瑠璃子に答えた。
「作ろう!」
「そうしましょう。中身には、甘いものじゃなくて、お肉とか野菜のおかずを挟んで」
今夜の夕食は、クレープに決まった。
それから、魚屋さんやお肉屋さん、小さなスーパーでクレープに挟む食材を購入した。
「私、クレープの皮を作るね」
麻美子は、粉を混ぜ合わせて、クレープの皮になる元をボウルで混ぜていた。
「お肉って、このぐらい焼けば大丈夫かな」
ラッコのギャレーでは、麻美子が中心になって夕食の準備が始まっていた。隆までもが、陽子と並んでダイニングのソファに腰掛け、テーブルの上でサラダになる野菜をきっていた。
「雪って、料理はあまり得意じゃないでしょう」
隆は、前の席でじゃがいもの皮を剥いていた雪に声をかけた。
「うん、普段から料理なんて全くしないもの。会社から帰る前にデパ地下で惣菜を買って食べてる」
一人暮らしの雪は、隆に正直に返事していた。
「隆と同じようなものじゃない」
「俺は、別に会社の帰りにデパ地下に寄って惣菜なんか買ってないよ」
隆は、麻美子に言った。
「惣菜は買ってないけど、私の母親が作った夕食を食べてるだけでしょう」
「まあ、普段から料理はしていないけどな」
隆は、麻美子に答えた。
「ね、料理苦手だったら、サロンでアクエリアスの人たちと先に飲んでてもいいよ」
雪は、麻美子に言われて、料理から解放されるのが嬉しそうに、パイロットハウスのサロンへ移動してアクエリアスのメンバーたちとビールを飲み始めていた。
「はーい、今夜のお夕食です」
麻美子は、クレープの皮が盛りつけられたお皿を、メインサロンでお酒を飲んでいるアクエリアスのメンバーたちの前にも出した。瑠璃子がクレープの中身になるおかずのお皿を出した。
「クレープの皮を取って、中に好きなおかずを取ってから丸めて食べてね」
麻美子は、アクエリアスのおじさんたちに食べ方の説明をした。
「クレープか。ヨットでクレープを食べるなんて初めてだな」
中村さんが、麻美子に言った。
「島の街中で、皆がクレープを食べていたから」
「ヨットでクレープっていうのも良いものだな」
「皮をフライパンで薄く敷いて、焼くだけだから簡単で良いわよ」
麻美子は、中村さんに言った。
「手巻き寿司みたいなものだものな」
中村さんは、クレープの皮を1枚取ると、中に肉と野菜を挟んでからくるくると巻いて、食べていた。
「街中で食べていた甘いクレープよりも、食事になってて良いね」
ヨットで食べるクレープは、意外にも好評だった。