アピリッツにはゲーム開発の部門が五つあります。そのうちの一つ「エクスペリエンスデザイン部(以下、XD部)」はデザイナーが多く在籍する部署です。部長である南さんに、XD部の特色とどんなチームに育てたいかについて教えてもらいました。(2020年12月 取材)
南 弘紀 (みなみ こうき)
2017年 アピリッツ入社
休日は釣りにいったり海外ドラマや映画を見て過ごす。
海外ドラマはSF(ウエストワールド)からファンタジー(ゲーム・オブ・スローンズ)まで。
映画は恋愛(パンチドランク・ラブ)からアクション(マッドマックス)まで。
釣りはワカサギからシーバスまで。なんでもやります。
ゲーム会社からテレビ局、そして再びゲーム会社へ
ーー 南さんはアピリッツに入社してもうすぐ4年たちます。入社前はどのような仕事をされていましたか?
前職ではテレビ局で映像制作をしていました。それよりも前はちょっと複雑で、最初はコンシューマーゲームの会社でデザイナーとして数年働いたあと、ゲーム開発を目指している会社に縁があって転職しました。が、いろいろあって、そこではゲームが作れなかったんです。それで、テレビ局に入りました。リアルタイムCGとプログラムの知識のある人間が必要ってことだったんです。番組のCG映像を作成したり、バーチャルスタジオの作成をしたり。
ーー ゲーム業界からテレビ業界、そして再びゲーム業界に戻ったのですね。きっかけは何だったのでしょう?
自分がテレビ局で働いていた2014年頃から、スマートフォン向けゲームの会社がテレビ番組の一社提供のスポンサーとして登場しはじめたんです。しかも自分がゲーム業界にいた頃は聞いたことのない社名です。あー勢いがあるんだなと肌で感じました。それで、自分もスマホゲームに関わりたくてアピリッツに入りました。
デザイナーが多いチームでゲーム運営をするメリット
ーー XD部はどういうチームですか?
XD部全体で60人ほど所属しています。このうち50人近くはデザイナーですね。もともとXD部は社外のデザイン制作を受託するデザイン専門の組織でした。今はそれに加えて運営移管を担当し、ゲームの運営チームとしてプランナー、エンジニアも参加してもらっています。
また、去年からアニメ業界出身の人もXD部の仲間に加わりました。アニメをふくめたSDモーションの演出を一貫して作成し、ゲームに取り入れています。世の中の流れを考えても必要な要素です。
ーー ゲームの運営をXD部でやってみていかがですか?
デザイナーが一歩踏み込んだ仕事をできるようになりました。以前の仕事の流れだとプランナーからアートディレクターに依頼があって、その指示に沿って良いものを作りさえすれば良かったのですが、今は自分たちでKPIを分析し改善するところから関われますし、広告も自分たちで考えて提案します。
つまり、誰かと交渉したり、説明する必要ができてきます。「こっちのほうが良いから」だけじゃなく、相手にわかってもらうために「なぜこのデザインが良いのか?」その根拠を提示しながら伝える必要があります。なので、趣味趣向で提案するのではなく、論理的に説明できるデザイナーが育っています。
ーー 南さんはXD部の部長となって半年たちました。どんなチームを育てていきたいですか?
時代に見合った価値のある人材がいる組織にしたいです。
どの業種にしても同じですが、時代に関わらず価値が高く担保される唯一のスキルは「新しいことを学び続ける」スキルだと思います。
そのために「ジョブローテーション」を取り入れてます。イラストレーターもモーションもやって、モーションをやってたメンバーをエフェクトチームに入れたり、クライアントエンジニアもサーバー側を触らせたり……。「新しい事を覚えるのが普通」という文化は育てたいですね。
苦労してでも「ジョブローテーション」をやったほうがいい理由
ーー ジョブローテーション、大変ではないですか?
みんな大変ですよ(笑)でも、僕は「やったほうがいい」と判断しています。
まず、向き不向きの問題です。そもそも若い人たちって「アピリッツでこれがやりたい」と入ってくるんです。目的や意欲があることは歓迎しますが、実は「本当に向いていること」への可能性を閉ざしてしまうリスクも生まれます。
なんでもそうでしょ? すべての業種に深みがあります。そしてそれは、やってみないとわからない。
ーー 「意外と向いてた」ってありますよね
はい。山をこえるまではしんどいけど、山をこえた人は新しい武器を手に入れることになるので「やってよかった」ってなるんですよね。
もちろん、知らない仕事に当たってモチベーションが下がることだってあります。しかし「モチベーションが上がらないから新しい事を覚えられない」となってしまうことは相当危険です。環境に左右されず「自分のキャリアのためにも新しいこと覚える」と真摯に取り組める人になってほしい。
ーー 環境に左右されない人は強いし、頼りにされますよね
はい。たとえばデザイナーからアートディレクターを目指す人は多いですが、アートディレクターはゲームの全リソースに責任を持つ仕事です。指示が出せない領域はあってはならないし、ベテランにだってきちんと指示を出さないといけない。
ゲームすべてのデザイン業務の指示が出来て、尖った武器を一つ持っている。そんなアートディレクターが存在したら、プロジェクトにとってこれ以上に頼れる存在はいない。
もちろん、管理側の立場からすると「この人はこれが得意だから」って、つい同じ仕事をアサインしたくなります。そのほうが正直使いやすいしラク。でも、本人にとって本当にいいことなのか? って長い目で考えると、本人のためにはならないと考えています。
だって、これから数年後に現れる若手は義務教育でプログラミングを勉強してるような子たちですよ? ひとつのことしかできない人が本当に今までの価値が担保できるのか? かなり疑わしい。
デザイナー出身の人間として、いまXD部にいる多くのデザイナーに将来のキャリアについてアドバイス出来ることがいろいろあります。そういうとき、僕はただ明るいだけの未来は提示しません。不況の波が一定の間隔で襲ってくることも知っていますし。一つのスキルに特化しすぎて辛酸を舐めている同世代もみています。多才かつ有能な若手だってどんどんあらわれる。
だから生き残れる人になってほしいです。そのためには、今の仕事に向き合い、技術を高め、次のステップに進むことが大切です。
深堀りできるひとは強い
ーー どんな人が伸びていますか? また、どんな人にXD部の仲間となってほしいですか?
ジョブローテであたえられた仕事に知識がない状態で入っても深堀りができる人ですね。勉強して、深堀りして、自分なりの解釈ができる人は伸びています。ときどき「こうあるべき」みたいな形を導き出すひとがいるんです。それって人から教えられてできるものじゃない。
技術や知識は、同業者や他業種の人とかかわることで得た情報を、自分で咀嚼することで、やっと身につけることができます。
今、エンジニアとデザイナーが一緒になってグラフィックデータの軽量化をゴリゴリやっていますが、そういった業務は互いに刺激しあえるので、深堀りができるチャンスだと思うし、両者ともそれをしっかり理解して進めることが出来ています。
何かを極限までやりつめてる人は、他の分野でも深堀りできます。掘りなれてるんでしょうね(笑)なんでもいいんです、研究でもスポーツでも。
ーー 南さん自身も部長になって変わったことはありますか?
経営が見えてきましたし、関わる人が増えて、アピリッツがどういう会社なのかがつかめてきました。契約や経理周りだって自分で勉強しないといけないですし、あたらしい領域を学ぶ訓練をしていなければ出来なかったことだなと思います。
誰しもが認める価値を身につけてほしい
ーー 心がけていることはどんなことでしょう?
なにをおいてもXD部のメンバーの市場価値を下げないこと。社内でも、世の中でも、市場価値が高いことは常に意識しています。デザイン業界には海外勢もいますし、低価格で良い絵を描く人もいっぱいいます。エンジニアリングに関してもプランニングに関しても、今と同じ仕事をしながら今の価値を保つことは難しいと感じています。
そんななかで、企業の中で活躍できる価値の高い人材とは? と考えると、開発や運営の状況をみて動ける人材はプロジェクトにとって有利ですよね。誰しもが認める価値だなと思います。
あとは、若いスタッフに対しては、早い段階で干渉しすぎないことも意識しています。「仕事で悩んでる」とよく聞きますが、業務において「悩む」ことは正しくない。「問題を解決する」ためにどういったアプローチをするか「考える」ことが正しい。そして本人が導き出した「考え」をもとに建設的な会話をおこない、スタッフの成長につなげたいと考えています。
転載元:Appirits Spirits
https://spirits.appirits.com/interview/8545/