2020年8月25日 テレビ東京「ガイアの夜明け」で放映された、WHILL株式会社による、羽田空港での自動運転パーソナルモビリティの世界初の実用化。
コロナ禍の中、前倒しでの開発、実験や、在宅勤務などのハードルにも負けず、期限内の導入を実現させたWHILLの一人ひとりには、「サービスを世の中に出す」ことへの、執念とも言うべき強い思いがありました。それぞれのストーリーをお届けします。
白井一充 Kazumichi Shirai WHILLシステム開発本部 執行役員 本部長
大阪大学工学部機械工学科、大阪大学大学院知能機能創生工学修了。知能ロボット研究室 石黒研究室で小型ロボットの研究・開発に従事。2010年 ソニー株式会社入社。電子書籍端末やデジタルペーパーの設計に従事。電源回路設計、電源制御マイコンのFW開発、タッチパネルのLinux driver開発などを経験。
在職中にWHILL創業者と知り合い、「新しくて、インパクトがあるものをつくる」という自分の目標にマッチしていると2015年3月にWHILL入社。現在は、WHILL自動運転パーソナルモビリティを開発するシステム開発本部を統括。
「新しくて、インパクトのあるものを作る」ために生きると決める
―WHILLに入る前までを教えてください。
大学と大学院では機械工学専攻で、ロボットの研究室に入っていました。小型のロボットの制御が主な研究テーマでした。形のあるもの、そして新しいもの・世の中にないものを作りたいと考えていた時に、それを続けているコンシューマー向け製品開発の会社はソニーだけだなと思い、ソニーへの入社を決めました。
ソニーでは、電気回路設計の職種で入社しました。新しいものを作りたかったので、新規事業開発部門を志願し、配属されました。この部門では、ソニーリーダーという電子書籍端末の開発で、電気系とソフト系どちらの仕事もしていました。企画職の人を合わせても60人くらいの組織で、大企業にしては少ない人数でしたし、みんなで新しいものづくりにベクトルを合わせて取り組んでいたので、とても楽しかったですね。その後は、A4サイズの電子ペーパーを使ったデジタルペーパーというBtoB向けの新規商品の開発をしていました。
一方で、週末には趣味でものづくりをする活動をしていたんですよね。そしたら、WHILLの前身でもあるサニーサイドガレージ(以下SSG)にいた人と出会ったんですよ。その人たちはWHILLの立上げには加わらずにそのまま会社員を続けながら SSGの活動をしていて、そのメンバーからWHILLの話は聞いていました。そしてその後にひょんなタイミングからその人たちを介してWHILLの創業メンバーに出会い、WHILLがシリーズAの投資を受けたタイミングで一緒に働かないかと誘ってもらいました。
―入社の決め手はなんだったのでしょうか?
もともと、「新しくて、インパクトがあるものをつくる」というのが、私の人生の目標です。はっきりとこの目標を言語化したのは、就職活動のときでした。
3−4歳の頃からロボットや動くものが好きで、大学、大学院でもロボットの研究をしていましたが、そのまま研究者になるか、企業に入るかで悩んだ時、「ロボットを作りたい」という気持ちが、どこから来たのか考えてみました。抽象度を上げて考えた結果が、「自分は、新しくてインパクトをあるものを作りたいんだ、そのために生きているんだ」ということでした。
羽田空港にて
WHILLの話を聞いた時に、ソニーと比べてWHILLのほうが目標を実現できる可能性が高いかな、というのが入社を決めた理由の一つです。さらに、やはりロボットのような動くものが好きで、いつかはまたそちらの世界に行きたいと思っていましたし、少人数でものづくりをすることに楽しさを感じていたので、目の前にあるこのチャンスをつかもうと決断しました。
サービスが世の中に出ないと意味がないと全員が思っている
―今WHILLではどのような仕事をしていますか?
機体の制御のプログラミングの担当を経て、現在は、90%以上の業務が、自動運転サービスの開発を行うシステム開発部門のマネジメントです。自動走行・衝突回避は、世の中的にも関心の大きなテーマになっていて、未来に大きなインパクトを与える取り組みですから、とても注目度も高いですし、やりがいも大きいですね。
その他に、マネジメント自体のやりがいもあります。自分がプログラミングをやっていたときは、ものづくりの喜びがありましたが、今の喜びは、ものを作るためのチーム作りに対するもの。チーム全体がうまくいくことが私の仕事です。チームがうまくいき、実際にサービスが世に出た時に、自分が頑張った結果が生きているなと思えると嬉しいです。
また、ほとんどのメンバーは自分がオファーを出した方々なので、長く楽しく働いてくれるというのも嬉しいですね。会社全体や、関わる技術全体を広く見て、自分が考えた決断を下せるのもやりがいです。もちろん、決断には責任を伴いますが、決めたのは自分なので納得できますし、もしチームメンバーが失敗することがあっても、そうやろうと決めたのも自分なので、納得できます。
チームビルディングについては、金曜日にその日の成果を称え合うWin-sessionや、一人ひとりと振り返りの時間を取る1on1のセッションなど、メンバーのモチベーションを保ちつつ、心理的安全性を保つことを心がけています。やはり、お互い人間なので、理詰めだけだとマネジメントはたちゆかない部分があります。各メンバーが活躍する環境を整えるというのもマネジメントの大事な要素の一つだと考えています。
今のチームメンバーに共通しているのが、自分もそうですが、「サービスが世の中に出ないと意味がないと思っている」という部分かなと思います。志向として、サービスを世の中に出すことを重視し、そのために柔軟にソリューションを模索できる人が、WHILL社にあっていると思います。
あらゆる場所でWHILLに気軽に乗れるような世界に
―これまでの5年間で、会社の規模も事業展開も大きく変わりました。見える景色は変わりましたか。
会社としては、最初はプロダクトも一つ、すべてが混沌としていて、少ない人数で会社のため、顧客のためにできることは何でもやってきました。お客様の訪問やデモ、メンテナンスを、営業だけではなくエンジニアもやることがよくありました。それが、だんだん組織が整って、システム開発という自分の領域に集中することができるようになりました。マネージャーになってからは、他の部署との関わりもまた違う意味で増えたり、経営的な数字も見ることが多くなるし、会社の中での自分のプロジェクトの位置づけもわかるようになったり、色んな変化がありました。
事業においては、パーソナルモビリティの販売・レンタルに加え、世界中の施設で、自動運転システムを導入するMaaS事業も開始しました。
2017年頃から、MaaS事業は構想としてはありましたが、最初は自分もやや半信半疑だったところがありました。これは本当に実現できそうだ、と思えたのは、実証実験でWHILL自動運転システムを初めて走らせたときです。人の通行が激しい空港で、長距離の自動運転に成功し、衝突回避機能もうまく作動したし、システム全体もうまく動いたのをこの目で実際に見て、これは頑張ればサービスローンチを実現できる、と思いました。
―今後の展望を教えて下さい。
WHILLをよりインテリジェントなものにしていきたいですね。電動車いすというカテゴリではなく、もっと多くの方に乗ってもらう乗り物になるには、一層便利さを追求していかないといけないと考えています。そのためにはWHILLというモビリティを、より賢い乗り物にしていきたいと思っています。人の生活を快適にするロボットや、毎日のアシスタントになってもらえたら嬉しいですね。
現状でも、ユーザーの方々の生活をより便利・快適にするお手伝いはできてきているとは思いますが、やはり試乗会などで「どうですか」と進めても、「私はまだ乗らないわ」という高齢者の方が多くいらっしゃいます。まだ、WHILLがイメージを変えきる所まで、到達していないんですね。そのような、イメージの変革を、自動運転のWHILLの実用化によって、もっと加速していきたいと思います。
イメージを変えるというのは並大抵のことではありませんが、逆に、イメージを変えるほどのものを作れたら、それは私の目標とする「新しくて、インパクトのあるものをつくる」を実現できたことになると考えています。それが私の夢であり、WHILLのビジョンに繋がっていると思います。
全員が熱量も能力も100%以上出して頑張っているのがWHILLという会社です。GOする意思決定も変更する意思決定も、とても早い。それがグローバルで戦うスタートアップの要だと思いますし、そんなWHILLでこれからの世界を変えるようなプロダクトやサービスを作り続けて、あらゆる場所でWHILLに気軽に乗れるような世界にしていきたいです。
「ガイアの夜明け」収録後に松下奈緒さんと
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