Ayaca Bianca Kimura
早稲田大学在学中に1年間の米国留学を経験。米国で途上国の政治を学んでいたことから、発展途上国の現状を知りたいと2011年夏にインドネシアでのインターンを実施。スラムの現状を目の当たりにし、世の中の人々の生活を根幹から支えたいと考えるように。大学卒業後は総合商社を志望し、念願叶って伊藤忠商事へ入社。エネルギー事業に従事して6年目になる。
■MoGにフェローとして参加しようと思ったきっかけ
会社の同期から「親友がvery50っていう団体にプロボノとして関わっているんだけど、春の1週間のプロジェクトに参加できる社会人フェローを探してるんだよね。ビアンカにぴったりだと思うんだけど、興味ない?」と誘われたのがきっかけでした。
その後プロボノをしている友人およびvery50のスタッフの皆様と直接お話するという流れだったのですが、不安要素はいくつかありました。一つは3月末という年度末の繁忙期と重なっていたこと、もうひとつはMoGそのものに参加したことがないのにフェローとして運営側に回って大丈夫だろうか、ということでした。
そうした不安要素はあったものの、会社にいるといつも同じ人と仕事をすることが多いので、全く会ったことない人たちとプロジェクトを進めるということに面白みを感じました。それにたとえMoGのことが分からなくても、その環境に身を置けばなんとかなるかなと。笑
また彩さん(veryスタッフ・北野)のバックグラウンドである途上国支援が自分の経験と共通していたのにも親近感を持ちました。そんな彩さんから「高校生に私たちが見たようなスラムの現状を体感してもらうのはとても意義があること。さらにそこに想いをもって働いている、ビアンカのような社会人がいるということを高校生に伝えたい。サポートはきちんとするのでフェローをやってみませんか?」と言ってもらえたのが決め手になりました。
母親が元教師なこともあって元々教育という分野に興味はありましたが、行動に移す機会がなかったんです。MoGに関わる様々な人たちと話す中でvery50が団体として掲げるミッションにも共感したし、関わってる人全員が同じ想いを持っていると感じたので、「やらない後悔よりやる後悔」だと思い、最後はわりとえいやで決めました。笑
↓今回のMoGに参加したvery50スタッフ・社会人フェロー・大学生インターンと
■渡航までの事前準備
今回のMoG実施校が立命館宇治という関西の高校だったのもあって、Slack・ウェブ会議・Facebookグループなどのオンラインツールを駆使して事前準備を進めていきました。対面だと仕事もあってなかなか調整が難しいので、オンラインでやりとりできる環境が整備されているのは助かりました。
フェローとしてMoGに参加することを決めてすぐ、very50のスタッフの方々とオンラインでミーティングを実施し、過去に実施したプロジェクトのことや、MoGとして大切にしてほしいことなどを計2時間ほどお伺いしました。
その後2月中旬から本格的に活動開始となりましたが、正直何をしていいか全く分からなかったので、プロジェクトごとにあるSlackのチャンネルで他のフェローが何をしているかを把握できるのは助かりました。
また生徒とのやりとりはスタッフが作ってくれたFacebookグループを使っていました。他のフェローが作っていたのを真似して作成した自己紹介フォーマットを生徒に書いてもらい、メンバー全員とウォール上でやりとりしたり、リーダー・副リーダーとは4回ほどオンラインでミーティングをしたりと、渡航前に生徒との信頼関係を構築することを心がけました。
他にも、生徒が見てる事前学習のビデオを見て予習したり、現地の起業家とも3回ほどテレカンを実施し、ビジネスの強みや現在の状況、困っていることなどをヒアリングしました。全て手探りではありましたが、私のグループについてくれた大学生インターンがMoG経験豊富だったのもあり、ゴールの設定やタスクのリマインドなどあらゆる場面でとても頼りになりました。
↓FBグループでのやりとりの様子
■現地に行ってから
・いよいよプロジェクト開始
事前に各生徒と蜜にコミュニケーションとっていたので、カンボジアに到着した初日から全員の名前と顔を一致させることができ、スムーズに信頼関係を築けました。
元々生徒向けに1~6つのルールが伝えられていて、7つ目のルールを社会人フェローが決めることになっていたので、私は「START with WHY」を設定しました。このルールをプロジェクトの進行中も何度もリマインドして、そのたびにチームが本来の目的に立ち返ることができたのでよかったです。
1日目は夕方に生徒が到着したこともあり、バタバタと一瞬で過ぎてしまいました。初日はまだ修学旅行的な空気も強かったですが、2日目に社会起業家であるベルさんが、自身が地雷で足を失ってからの軌跡を語ってくれたことで、生徒たちの温度感がガラッと変わったのを感じました。おそらく「いかに自分が生きてきた世界とは違うか」を実感し、「このアクセサリービジネスを成長させたい」というスイッチが入ったのだと思います。
その後は各地のマーケットへ市場調査に出かけ、日本にいるときに立てていた仮説を4C5Pといったマーケティングのフレームワークを使って検証しました。立命館宇治の生徒たちは欧米人観光客にアンケートを実施したり、現地の店員さんに話しかけたりとかなり積極的で、高校生とは思えない行動力の高さに驚かれされました。
一方でフェローとしての反省は、時間が限られていたこともあってとりあえずプロジェクトを前に進めなきゃと思っていたので、マーケット分析が弱いと思っていたがあまり突っ込まなかったことです。私自身の方針としても「成功体験を持って帰ってほしい」と思っていたのもあって、生徒たちの好きなようにやらせていました。
それに対してvery50のスタッフの方からチームへ「今のままじゃ甘すぎる、真剣にビジネスを考えているのか?」という葉っぱをかけられました。自身の方針とは違っていたので正直戸惑いもありましたが、結果的にはそこでハードボールが投げられたことが、チームの成長の起点となったように感じます。
このときメンバーから完璧だと思われていたリーダーの子が泣いたことで、それまでフォロワーだったメンバーが着火し、圧倒的に当事者意識が高まりました。一瞬チームがカオスに陥ったように見えましたが、これも"ナマモノ"”リアル”にこだわるMoGらしさなのだと思います。
・毎晩行う内省セッション
夜の時間帯には大学生インターンが主体となり、生徒たちに自己理解を促すための内省セッションを実施します。1日カンボジアの炎天下で活動した生徒たちの疲労はピークだったと思いますが、それでも実施すべきとても重要な時間だと感じました。このセッションで生徒たちが記入したシートをホテルの部屋に持り帰って、各生徒への翌日の接し方を考えるようにしていましたね。
この内省セッションの中にある”Story of フェロー"というコーナーでは、私自身の生い立ちや仕事の話を生徒とシェアしました。発展途上国の政治を学んだ後に実際にインドネシアのスラムの現状を見て「世界の人々の生活をよくしたい」と思うようになった結果、今現在エネルギーやインフラの仕事をしている、といった話や、大学生の私が得た衝撃をみんなは高校2年生というこのタイミングで得られているのがどれだけ恵まれているか、だからこそこの機会を活かすも殺すも自分たち次第だよね、といった話をしました。
セッション後は毎晩全チームのフェローと大学生インターンが集まって、先生方に向けその日のチームの様子を共有していました。この場で他チームの状況を理解することで、自分たちのチームを客観視できましたね。またホテルの部屋も他フェローの女性2人と一緒だったので、よく悩みや課題を相談しあえたのもよかったです。ともにフェローをやっているからこそ、短期間でも強いつながりができるのだと感じました。
・販売会&最終プレゼンテーション
フェローは先生ではないので、基本的には方針の壁打ち相手になったり、アドバイスをしたりと生徒と併走するイメージです。私も大きく路線から外れていない限りはハンズオフで見守るようにしていました。具体的には立命館宇治の生徒たちは英語に抵抗がない子が多いので、行動は得意ですが、思考が弱いところがあったので、7つ目のルールである「Start with WHY」を定期的にリマインドしていました。
「自分がやりたいことを実現するのではなく、ベルさんのビジネスをヘルプするのがあなたたちの役割なんんだよ」ということは口酸っぱく言っていましたね。そこは生徒たちも理解してくれて、「これかわいくない!?」で突き進むのではなく、「ベルさんの意向に沿っているのか?」を確認するようになっていました。
販売会の頃になると、意思決定も実行もかなり生徒主体になっていくので、フェローとしてはいい意味でどんどん暇になっていきます。笑 そのうえで販売会で「売る」ことだけを目的にしないこと、でもベルさんが「自分の商品ってこんなに売れるんだ!」と自信を持てるような異次元の売上を出そうという目線合わせを行い、あとは完全に生徒に任せていました。
結果、数時間の販売会で400USドルを超える売上を記録し、ベルさんの月平均売上の数倍を1日で出すことができました。私自身もこの結果には驚いたのですが笑、驚異的な数字は素直に褒めたうえで「今日の売上はあくまで短期的なもの、最終プレゼンでベルさんが自分で持続可能なビジネスにできないと意味がないよね、ここから何を提言するかが大事。」という話をしました。
そうして迎えた最終プレゼンの内容はとても素晴らしかったのですが、なにより初日とは見違えた生徒の姿に感動し、終始涙が止まりませんでした。自チームに限らず、他チームの生徒を含めて相当純度の高い"人間の成長"という変化を目の当たりして、人生で初めてレベルで心が揺れた瞬間でした。
■帰国後、MoGを振り返って思うこと
「参加してよかった」以外に感想が浮かびません。笑 今後世界を変えていくのはスキルと情熱を併せ持った今回の高校生のような子たちだと思うので、そんな子たちの成長を目の当たりできたのは大きかったです。昨日できなかったことが次の日には余裕でできるようになっていて、私も学生の間にMoGに参加していたら全然違う人生になっていたのではないかと羨ましく思いました。参加するまでは「こんな私がどや顔で生徒たちに接するなんて…」という思いがありましたが、高校生にとって両親以外の社会人というのは非常に貴重な存在であることを実感しました。
また生徒ほどではありませんが、自分自身も大きく成長することができました。総合商社のような大きな会社にいると、自分一人のスキルがどの程度社会で通用するのか不安になることもありますが、今回自チームのMoGをある程度形にできたことで「これまでやってきたことは確実に力になっている」と自分が蓄積してきたものに自信が持てました。
さらに高校生と接しているうちに元々教育事業に興味を持っていた自分を思い出し、「いつか学校をつくってみたい」と思うようになりました。具体的なHOWはまだまだ分かりませんが、これはMoGに参加しなかったら気づけなかった自分のWANTだったと思います。今回フェローとして参加したことで「自分が本当に人が好きなんだ」ということを実感しました。
現在は日常に戻ってはいますが、なんとなくでも目標が見えたことで、教育系のニュースに興味をもつようになったり、周囲に集まる人が変わりました。これからも積極的にこういった機会を掴んでいきたいと考えています。
■フェローを考えている人へ一言
結局全ては人と人とのつながりなので、MoGを通して出会った他のフェローや大学生インターンなどのすごく優秀な人たちとのつながりは私の今後の財産です。あとは関わった高校生の今後の成長も楽しみですね。彼らとは今も連絡をとりあっていて、先日も私の誕生日にお祝いの動画が届いたばかりです。笑
フェローに参加するにあたっては「人の成長」や「起業家のビジネス」に対するコミットや覚悟は必要ですが、必ずしも「教育に対する興味」は必須ではないと思います。「何かを変えたい」と思っている人や、ただなんとなく日常が続いている人にとっては、ライフチェンジングな経験になるのではないでしょうか。
正直私もはじめはよくわからなかったけど、当初の「楽しそう」と思った直感に素直に従って行動した自分を誇りに思います。迷っている人には「環境に飛び込んじゃえばなんとでもなるから、有無を言わさずやれ!」と伝えたいですね。笑
↓現地の起業家、ベルさん夫妻と