中小企業型からスタートアップ型への経営の転換を行い、第二創業期を迎えているベジクルの創業の経緯と成長の軌跡などをお伝えする本記事。後編では、コロナ禍で大打撃を受けたベジクルが、どのように乗り越えたのか、今後どのような展開を考えているのか、青果流通業界への想いを含めて代表・池田の考えを紹介します。
コロナ禍を首の皮1枚で乗り切った
新型コロナウイルスの感染拡大は、外食産業に大きな打撃を与えました。ベジクルの売上も、一時は8割減にまで落ち込みました。一部の中食業態やチェーン店に支えられながら、細々と事業を続ける日々。「あの頃は本当に病みそうだった」と池田は当時を振り返ります。
池田 メンタルは相当追い込まれていました。ただ、瀬戸際でメンタルダウンしなかったのは、やっぱり心のどこかで「日本一になる」という想いを持ち続けていたからかもしれません。また、僕は祖父の会社を引き継いだ形でしたから、「ここでは終われない」とも思いました。取締役の岩崎の影響を受けて、サウナやキャンプなど、うまく気分転換しながら、この難局を乗り切ろうと思いました。
多くの同業者がコロナ禍で経営難に陥る中、ベジクルはコロナ前までの10年間に蓄積した内部留保があったことで大赤字の時期を乗り切ることができました。「たった2~3年で10年の努力が消えた」と池田は語るものの、中小企業経営スタイルならではの内部留保のおかげで、首の皮1枚のところを債務超過にならずにしのぐことができたのです。
そんなギリギリの中でもベジクルは、岩崎の強い提案により、苦難の中でも採用活動を行っていました。
池田 お金がないときに人を採るなんて、中小企業経営からすれば考えられない選択だと思います。しかし、今後の成長の準備をするためにDX人材やコーポレート人材を採用して、コロナ明けの話をしていました。そうやって未来の話ができていたことや、このとき採用したメンバーが非常に優秀で、社内のディスカッションの質がメキメキと上がっていったことに楽しみを感じていたことも、自分のメンタルを支えてくれました。
このようにコロナ禍を生き残ったことで、ベジクルは次の挑戦の機会を得ることになりました。
10年前の自分と、今苦しむ同業者を助けたい
ベジクルは、BPaaS(=Business Process as a Service)のプロダクト開発を強化し、飲食店へ青果を販売する企業を対象に、パートナーシップを組むことで青果流通業界全体のDXを目指しています。自社のDXから業界全体へと目線が変わっていったのには、あるきっかけがあります。
池田 コロナ禍を経て、経営が成り立たなくなり、事業承継のような申し出をいただいた同業者がありました。その会社から業務を引き継ぐ中で、指揮系統を強化するために、1度自分で現場の中に入ることにしたのです。市場に出入りするのはおよそ10年ぶりだったのですが、そこには昔からの顔なじみがたくさんいました。懐かしさも感じましたが、僕の目から見たその人たちは「年だけ取って何ら変わっていない」「頑張っているけど、筋の良い頑張り方がわからないから非効率で成果が出ずに苦しんでいる」と映りました。そのときに「この人たちを助けてあげないといけない」と思ったのです。
もちろん自分たちが勝つことは大事です。でも、産地も同業者も市場の人たちも、誰かがお手本になって生き残れるノウハウを教えてあげないと、10年後も20年後もこの人たちは報われない。「これは自分がやらなきゃダメだ」「変化させるなら今だ」と使命感が生まれてきました。
良くも悪くも10年前と変わらない昔のなじみの姿を見て、使命感を持った池田。さらにもう1つ、業界全体を考えるようになった理由があります。
池田 創業3年目くらいまで、本当に寝ずに働いていて、とても辛かったです。結婚して子どもも小さくてかわいい時期だったのに、子どもとの時間はなかなか過ごせなくて、後悔している部分もあります。僕自身は、そんな風に人生の回り道をした感覚がある。だからそんな10年前の自分を助けたいというのも、事業をする1つテーマになっています。何年もかけて培ったノウハウを同業者に共有して、1人でも多くの人の人生の回り道を減らす働きかけをしていきたいなと思います。
語るよりも「見てもらう」ことで、パートナーの変化を促す
業界を考える中で、池田はBPaaSというモデルに着目。自社だけではなく、同業者にパートナーとなってもらい全国展開するビジョンを描きました。スタートアップ型への変革を意識した頃からの構想でしたが、コロナ禍で苦しむ同業者を見て、その意思を強めたのです。
池田 当然ながら、10年変わっていなかった同業者たちは、業務効率化のためとはいえ、変化をすべてポジティブに受け止めてくれるわけではありません。そもそも変化の必要性に気づいていないのです。そのような相手に対して、僕たちは丁寧に説明するようにはしていますが、どんなに口で言ってもポカンとして「何言ってんだこいつ」という顔をされますから、「まずは当社のセンターを見に来てください」と声をかけて、自社をショールームとして見せています。百聞は一見にしかずで、見れば明らかに効率がいいことがわかるので、大半の人は感動して帰ってくれます。システムの有効性を腹落ちさせ、真似したいと思わせる工夫は惜しみません。
パートナー企業のDXを推進していくためには、受注情報のデータ化を作業の前工程に持っていく必要があります。しかし、その重要性をわかっていないため、前工程に人を配置しておらず、データ化ができない会社が多いという現状があります。また、データ化ができたとしても、それを有効活用できない企業も少なくありません。だから、BPaaS=BPO+SaaS、つまりITリテラシーが必要な業務をまるっと請け負うことにしたのです。
「気遣い」「思いやり」「おせっかい」を持った人と働きたい
この先、業界を変革するために、まず業界で日本一になるという創業前からの池田の目標達成を目指します。
池田 日本一の定義は様々ですが、僕は売上日本一になりたいとは思っていないのです。なぜなら、売上だけを取りに行こうとすると、一定数望まない顧客が紛れてくるから。であれば、時価総額や、「ステークホルダーに日本一評価される会社を目指す」という表現の方がしっくりきます。これをあと数年で実現させます。日本一になった後は、日本で磨いたオペレーションを持って海外に出たいと考えています。特にまだサプライチェーンが完成しきっていない東南アジアへの進出を見据えています。
今のベジクルにフィットする人の特徴について、池田はこう表現します。
池田 人のことを気にかけることができる人。「気遣い」「思いやり」「おせっかい」といったことを僕は大事にしているので、自分のことだけではなく、周りを見ることができる人が望ましいです。そして、スピード感を持って、仕事をやり切れる人ですね。
昔なじみのことを気にかけて業界全体に還元しようとする池田は、まさに究極のおせっかい。17歳の時に見た「日本一」への想いを胸に、池田とベジクルは今、新たな一歩を踏み出そうとしています。
業界のリーディングカンパニーとして変革を推し進める、ベジクルの挑戦は始まったばかりです。