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はたらく障がい者が大活躍する「プラットフォーム」の巨大ポテンシャルとは。

※画像は、メインフォーラムの様子。(引用:日本財団就労支援フォーラム公式facebookページより)https://www.facebook.com/sfnippon/

2020年12月13日、14日に開催された「就労支援フォーラムNIPPON 2020」にて、コンテクストフォーラムANSWER2を開催させていただきました。ANSWER2のレポートを作成し、公開致します。

※就労支援フォーラムNIPPON2020の概要はこちら

コンテクストフォーラム【ANSWER 2】Report

「工賃倍増は、目標が低すぎる ~工賃10倍を実現する 「全国版 民需受発注促進モデル」とは~」

全国版民需受発注促進モデルとは

ANSWER2の進行役である、ヴァルトジャパン(株)の小野より、就労支援業界の民需を活性化する、新たなモデルの解説から始まった。同社は、民間企業から、400種類を超える業務を受注し、1.5万箇所を超える全国の就労継続支援事業所に対して再委託(分配)を行う、障がい者特化型BPO事業を展開してきた。(全国版民需受発注促進モデル)IT系、非IT系を問わず、民間企業の需要を開拓・営業し、就労継続支援事業所が受注しやすいように、マニュアルや運用方法などといったオペレーションを再整備した上で、事業所へ仕事を流通させている。

7年間、本モデルを主事業として展開し続けている同社は、就労継続支援A型・B型事業所で受注可能な民間企業の仕事は、私たちの想像を超えるほど、まだまだ沢山あるという。また、数多くの就労機会を生み出すだけではなく、「事業所の売上」「利用者の工賃」を増加させる可能性に溢れているとも話す。現に、厚生労働省の発表資料*1によると、過去12年間におけるB型事業所の月間平均工賃は、¥4,000程度の増加であるとされている一方、同社のモデルを活用した事業所では、3ヶ月で月間¥40,000の増加を記録。両データは調査対象、調査方法が全く異なることから、直接比較はできないものの、民間企業へ積極的に営業し、民需を掘り起こし、事業所へ新たな仕事を流通させる「全国版民需受発注促進モデル」は、これまで以上に、圧倒的な工賃増加を期待できるモデルの一つであることを、オンライン参加者を含めた会場全体が理解した。

*1: 厚生労働省「就労継続支援事業所実態調査2018 就労継続支援B型事業所 平均工賃について」

ビジネスの世界では、本モデルを「プラットフォームモデル」ともいう。

プラットフォーム界の代表企業ラクスル(株)の元副社長守屋氏による、構造解説と巨大なポテンシャルとは

「仕組みを変え、視点を変える。結果、業界構造が最適化され、今よりも必ず良くなる。」

守屋氏の力強い一言から始まった。

左側に民間企業(発注側)、右側に就労継続支援事業所(受注側)、その間に存在するのが、ビジネスの世界では「プラットフォーマー」と呼ぶ。現在の就労継続支援事業所の世界は、1事業所単位で、社会に供給あるいは提供できる価値(労働等)が異なる。この場合、その価値を求める企業を探し、営業しなければならず、非効率であり、かつ結果が出にくい構造といえる。これは、印刷業界でも類似した構造があった。プラットフォーマーが存在すれば、ビジネス市場全体の巨大な需要を一括で捉え、各サプライヤー(供給者=就労継続支援事業所)が求める仕事の種類、量を、最適に分配することが可能となるという。

さらに守屋氏は、就労支援業界とプラットフォームモデルは、非常に相性が良い。とも話す。

全国の就労継続支援事業所で働くワーカーの数は延べ50万人(トヨタの約1.5倍)、各事業所の遊休敷地リソースは延べ30万平米(UNIQLOのロジスティックセンターの約3倍)を超えるといい、就労支援業界は、唯一無二の巨大なポテンシャルを持っていることから、このポテンシャルを最適に束ねることができれば、社会へ圧倒的な価値を提供できると語った。

本モデルを成功させるためには、

各ステークホルダーが「同じ目標」を持ち、信じ、協力することが大事

印刷業界にイノベーションを生み出したラクスル(株)も、サービス立ち上げ時には、印刷会社と発注側の理解を得ながら、3者で努力を積み重ね続けたという。こうした業界を牽引するプラットフォーマーの経験談を交えながら、「ANSWER2」が開始されて早々に一つの結論がでた。

「業界構造の改革には、プラットフォーマーを含め、参加する全てのプレイヤーが”協力”し続けることが重要だ。」

ANSWER2の実行案が、一層明確になった。

工賃倍増、いや10倍を実現できる新たなモデルが、いま目の前にある。しかし、今日1日では決して成し遂げられない。楽しては決して実現はできないと。だからこそ、全てのステークホルダーが一致団結して、同じ目標を持ち、一歩ずつ前へと進んでいくんだ。と、力強い言葉と共に、ANSWER2第1部が終了した。

発注企業、受注事業所が語る、全国版民需受発注促進モデルへの期待

第2部では、実際に本モデルを活用している発注企業、受注事業所、自治体代表者の自己紹介から始まった。発注企業が実にユニークだ。東京都内で、100棟を超える女性用シェアハウスを運営するハナサカス社の醍醐氏によると、ほぼ全ての棟の定期清掃を、全国版民需受発注促進モデルを展開するヴァルトジャパン社(進行役)に委託。サブスクリプションモデルで、自社ブランドのベビーフードを世の中に届けるMiL社の杉岡氏によると、自社製品の倉庫機能・細やかな梱包機能(作業)・発送機能を、全国版民需受発注促進モデルを活用して就労継続支援事業所に委託し、自社のロジスティック機能の最適化をはかっている。大手企業や有名ブランド等のネーミング事業(クリエイティブ)を展開する、マークアイ社の西岡氏は、大企業に提案する前段階で必要な、膨大なリスト作成を委託。一見高度なレベルが求められそうな業界だが、クリエイティブの業務は構造化されていることから、経験が少ない障がいのある方でも活躍できる仕事が沢山あると話す。

一方で、なぜ発注企業側は、全国版民需受発注促進モデルを活用するのかも重要だ。作業費コストの抑制が最もの理由ではないだろうかと、参加者に不安がちらつく中、発注企業側の答えは私たちの想像を超えた。ここでは、主な内容をあげる。

1つは、「社内管理コストの抑制」だ。ハナサカス社醍醐氏によると、これまで約5社の事業者に定期清掃を委託していたといい、品質均一化の管理、指示出し、作業者の手配対応、経理処理など、社内従業員が担う管理業務の負担増大が、一つの課題であったという。一方、全国版民需受発注促進モデルを活用することで、発注先が1社になることから、社内管理コストが改善される。大規模な業務であるほど、発注企業側にとっては、大きな経営課題を解決へと導く可能性があるといえる。

2つ目は、「品質の向上」だ。前述の清掃事例に続くが、以前の事業者と比較して、品質が向上しているという。これは、働く障がい者の特性や努力の結果のみならず、現場に同行する職員方の管理スキルも寄与しているといえる。当然ながら、改善点はいくつかあるが、総合的に判断して、素晴らしい成果が出ていると評価をいただいた。

3つ目は、「人材不足の解決」。特に中小企業では、人手不足が経営課題であるケースが多々あるという。マークアイ社の西岡氏によると、1つの作品を世の中に出すまでに、膨大で地道、かつ大量の業務が発生するそうだが、社内の人員では担えないことが多いという。さらに、人材不足の課題解決だけでいえば、特に障がいのある方々をビジネスパートナーに選ぶ必要がないのでは?といった疑問が生まれそうだが、西岡氏は「クリエイティブに関わりたい人」「自分が携わった仕事が、世の中に出ることに喜びを感じてくれる人」がいるならば、障がいの有無など関係ない、と添えた上で、障がいのある方々だからこそ発揮できる価値に、実は大いに期待をしているとも話してくれた。

障がい者だから、作業費が安い。安かろう、悪かろうでも良い。ということを”良し”とする民間企業は、当然ながら存在しない。その上で、登壇いただいた発注企業の代表者方は、全てを納得した上で共にビジネスを進めている。こうしたことから、いよいよ、就労継続支援事業所をビジネスパートナーとして選ぶ時代が本格的に始まっているのだと、参加者そして会場全体は、強く感じられたはずだ。

受注事業所側が語った、就労継続支援事業所の未来への期待と現実的な課題。

全国版民需受発注促進モデル(プラットフォームモデル)により、民間企業側の発注が一層促進されることに期待がもてた。本モデルを活用して受注する事業所、社会福祉法人トット基金トット文化館(B型)の職業指導員鈴まみ氏は、本モデルについて大きな期待を語った。就労継続支援事業所の利用者さん(働く障がい者)は、一人ひとり障がい特性が異なり、個性もやりたい仕事も違う。清掃が大好きな方もいれば、組み立ての仕事が大好きな方だっている。本当は、一人ひとりが望み、適した仕事をマッチンングさせたいが、現状、その世界はまだまだ遠いと感じているという。しかし、本モデルがあれば、さまざまな仕事を受注できる可能性があり、数多くの就労機会も提供でき、結果的には、利用者さんの工賃増加にも大きく繋がると期待できる、と話した。

「本当は、もっと仕事とお金を増やしたいんです。」といった本音を、笑顔を交えながら語ったシーンも、実に印象的であった。

一方、受注できる仕事が増えた際には、「職員さんによるマネジメントの課題」を、解決する必要があるとも話した。前述の通り、利用者さんは、一人ひとり特性や個性が異なるため、「仕事と利用者特性」を最適にマッチングできるかどうかが、今後の課題であるという。ANSWER2では、こうした職員さんによるマネジメントに関する課題を解決するためには、「ひとつずつ前例(事例)を積み重ねることが極めて重要だ。」という結論がでた。新たな仕事や、新たなモデルにチャレンジする際には、職員さんを含め、さまざまな専門家と連携した体制が必要であることは当然だが、最も重要なことは、「前例を積み上げること」。冒頭にも述べたとおり、本モデルに関係する全てのステークホルダーが”協力”しながら、前例を積み重ね続けることで、業界全体が良き方向へと向かうのだと、発注企業、受注事業所、そしてプラットフォーマーの一同が口をそろえて、第2部が終了した。

官と民が連携。全国版民需受発注促進モデルは、国策とも連動し、新たな価値創造を実現する

第3部は、本モデルを活用した、自治体による官民連携事例の解説から始まった。

大阪府茨木市役所の健康福祉部長北川氏は、本モデルが就労継続支援事業所のみならず、生活保護受給者を含めた就労困難者の未来をも実現できる「期待と可能性」について語った。同所は、2020年8月に、ヴァルトジャパン社と「ICTを活用した、就職困難者への就労支援を行う包括連携協定」を締結。両者は、内閣府が展開する「地方創生SDGs官民連携プラットフォーム」を利用し、本締結に至った。

茨木市は、「次なる茨木へ」をシティコンセプトに、市内の就労困難者に希望を生むべく、本モデルを活用した実証実験を開始。ヴァルトジャパン社から提供される仕事の中には「コラム作成」といった、一見レベルの高そうな業務があることのみならず、市内のワーカーさんが、実際に本業務を担っていることに驚きを隠せなかったという。まだまだ、始まったばかりではあるため、引き続き、ひとつずつ着実に成果を積み上げられるよう、全面的に支援していきたいと堅実に述べながらも、自治体が主導となって、地域の就労的課題を解決するんだ。といった、内なる真の想いも、会場全体に伝わった。

コクヨアンドパートナーズ社の榎本氏からは、2020年7月に公示された、厚生労働省委託事業「共同受注窓口を通じた全国的受発注支援体制構築事業一式」の概要を解説いただいた。同社は、これまで蓄積してきたBPO事業(企業や自治体からアウトソーシングされた、さまざまな仕事を受託し運用する事業)のノウハウを、就労支援業界に活かしたいという想いで、本事業を受託。(協働パートナー:ヴァルトジャパン社)

本事業は、新型コロナウイルスの影響により、就労継続支援事業所の受注量(売上等)が減少してしまっていることを背景に、全国の共同受注窓口と連携して、民間企業からの仕事を、就労継続支援事業所に流通させることである。全国の共同受注窓口へのヒヤリング・調査を行いながら、民需の開拓も行う。榎本氏によると、民需の開拓のみならず、共同受注窓口の機能的な課題は少なからずあるものの、地域の共同受注窓口が担う重要な役割と価値も感じているという。その上で、民需の受注拡大は共通課題であり、共同受注窓口との連携モデル(本モデル)が、一つの抜本的解決策になることへの期待と意気込みを語った。

自治体そして厚労省の事例を基に熱論が続く中で生まれた、一つのキーワード「SDGs」

「SDGsは、何も大企業だけの話ではない。中小企業も、実はビジネスの成長だけではなく、社会への貢献、社会的な課題を解決したいという想いを持っている。」と、力強く語ったのが、ハナサカス社醍醐氏だ。醍醐氏は、本モデルを活用する前から、障がいのある方々と共に仕事をしたいと考えていたが、まず何から始めて良いのかが分からなかった、と本音を述べた上で、ヴァルトジャパン社との出会いを機に、共に仕事をすることを決断した。と熱く語っていただいた。さらに、「まだまだ私たちと同じような想いを持っている中小企業が、世の中に沢山あるはずだ。」とも、続けていただいた。

仕事が十分に受注できない要因の一つには、利用者さん、職員さんのスキルや、世間的な障がい者への理解不足だけではなく、ただただ、就労継続支援事業所が「知られていない」という実態があるのかもしれない。視聴者からの質問への回答にも出たが、「ビジネス市場に知ってもらう」ことができれば、本モデルは、民需を更に掘り起こすことができるかもしれない。SDGsも就労支援業界も、「実態を正しく知る」ことから始めることが、何よりも重要だという議論も加熱した。

その上で、MiL社の杉岡氏は、SDGsに対して「安易なマーケティング手法の一つ」にならないことと、「本気で世の中を変えていく意思を持つことが大切。」だと訴求した。同社の業界では、”オーガニック”と表記すれば売れる。といったマーケティングが先走りし、結果的に、消費者に不利益を与えている実態が生まれているという。表面だけではなく、本質的かつ抜本的な社会的課題を解決することに真の意味があり、同社はその意思を持って事業を展開し、業界へ新たな価値を創造している。だからこそ、障がいのある方一人ひとりの個性や特性を最大限に発揮できる仕組み(マッチング)を作ることが、プラットフォーマーの真の価値であるとも語っていただいた。

これらの議論は、就労支援業界に重要な意味を与えた。守屋氏は、発注企業と受注事業所(サプライヤー・供給者)の利益そして価値を出し続けるためには、プラットフォーマーは、短期的な双方の利益と社会的価値のみならず、中長期的な視点と戦略(勝ち筋)も、持ち合わせる必要があると語った。だからこそ、今重要なことは「土壌を作ること」であり、就労継続支援事業所が本来持っている価値を最大限に発揮するために、プラットフォームの利点を活用して、どのような仕事が一人ひとりの障がい者にマッチングするのかを把握し、民間企業と新たな仕事を通じて、共創関係、信頼関係を積み上げていくのだと。その先に見えてくるのが、仕組みと視点を変えた、一人ひとりの個性や特性が最大限に発揮される業界であり、我が国日本の未来である。と語り、会場全体はより一層、一体感に包まれた。

民需受発注促進(ビジネスパートナー)の先にある「雇用の創出」

前述の中長期的な戦略の一つに、「雇用の創出」がある。全国版民需受発注促進モデルは、企業の仕事を就労支援業界に流通させるだけではなく、障がい者雇用をも生み出している。

なぜか。本モデルに発注する企業は、障がい者雇用における課題を抱えていることが多々ある。IT系・非IT系問わず、委託した業務は、ほぼ100%、発注企業の事業において重要な役割を担っている。これらの委託された業務を遂行しているのは、まぎれもなく働く障がい者だ。だとすれば、業務を担当した方が顕在・潜在問わず、「一般就労したい。」という意思があれば、委託した業務とマッチしている障がいのある方を、発注企業は社員として迎えたいのだ。質問をいただいた視聴者からへの回答にもあげたが、実際に本モデルを通じて、発注企業へ就職した方が生まれている。本モデルは、障害者雇用(法定雇用率)へ良き影響を与えるポテンシャルをも秘めていると、会場全体が理解し、一層本モデルへの期待が高まった。

最後に

ANSWER2は、就労支援業界、ビジネス界、自治体(国策含む)の構造的な課題を整理し捉えた上で、圧倒的な先行事例を交えながら、「全国版民需受発注促進モデル」という実行案を熱論しました。誰もが、「仕事を通じて、自分を必要とされたい。」と願うはずです。だからこそ本モデルは、就労支援業界で活躍されている全ての方々のみならず、我が国日本の全ての国⺠が恩恵を受けられるほどの、偉大な可能性を発揮すると、私たちは人生を懸ける想いで信じています。

本分科会にご登壇いただいた皆様方は、はたらく障がい者と職員方が牽引する「就労支援業界」をより良く変革するために、決して欠かすことができない、とてもとても大切な存在であります。ANSWER2、そして就労支援フォーラムNIPPON2020を機に、プラットフォーマーのみならず、発注企業、受注事業所、自治体、そして日本が一つになり、「仕事を通じて、自分の存在価値を強く実感し続けられる社会」に向けた、力強い一歩を踏み出せると、私たちは強く信じております。

オンライン参加、会場参加の皆さま、そして、公益財団法人日本財団様に、心より感謝を申し上げます。

「ANSWER2」進行役

ヴァルトジャパン株式会社 代表取締役 小野 貴也

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