ホテルや飲食店を運営するまちづくりの会社『UDS株式会社』。新たにSOKIというホテルブランドを、熱海と金沢に展開しています。SOKIは、漢字で書くと”素器”。飾らないそのままの皆様をお迎えできる器のようなお宿でありたいという意味が込められています。SOKIブランドの初号店『SOKI ATAMI』は、 2020年11月にオープンしました。
新卒入社してオープン準備から携わっている澤端美侑(さわばた みゆ)さんと、SOKI ATAMIのマネージャーである稲毛美恵(いなげ みえ)さんにお話を伺いました。ホテルに対するまっすぐな愛が伝わるインタビューとなっています。ぜひ最後までお楽しみください。
『無為自然』
──まずはSOKI ATAMIのコンセプトを教えてください。
澤端:『無為自然』というコンセプトで運営をしています。ホテルって宿泊者がかしこまりすぎてしまったり気が休まらないことがあるんじゃないかと考えていて、あるがままの姿で、飾らずに過ごしてもらえるように空間や接客を考えています。
熱海は温泉地なので、湯治の文化を紐解いた養生体験も特徴の1つです。身体に優しいお食事や地元のお茶を楽しみつつ、温泉に浸かって内と外から整っていただけます。
──飾らずに過ごしてもらうために、接客ではどんなことを心がけていますか?
澤端:くつろぎたい時にスタッフがカチカチしたサービスをするとどうしても姿勢を正さないといけないと感じてしまう。距離感を大切にしつつ、かしこまりすぎないようにしています。
──お客様はどんな目的で来られますか?
澤端:UDSのホテルとご存知の方も多くいらっしゃって、デザイン性の高さや空間づくりはUDSらしさが出ていて魅力になっているのを感じます。ソフト面ではやはり素に戻っていただきたいので、自分たちも素に近い状態で接客をしています。
稲毛:1月にSOKI ATAMIに異動してきて、スタッフ同士の仲の良さにびっくりしたんです。素で働いてるスタッフが多くて、お客様も素に戻っている。自由に里庭に出たり、好きなように過ごしています。
──里庭はコンセプトに合っていてすごく魅力的ですよね。どんな使い方をしていますか?
澤端:ハーブや野菜、梅を植えています。ここで取れたものはお客様に楽しんでいただけるようにアクティビティに落とし込んでいて、ドリンクに使ったり、夏には夏野菜の収穫体験もあります。
──安らぎや丁寧さをコンセプトにしているホテルは他にもあるけれど、そういった遊び心が本当の安らぎに必要になりそうですよね。
澤端:そうですね。お客様には喜んでいただけているかなと思います。スタッフもその時期の旬のものを調べたりして、楽しみながらやれています。
人にしかできないことをとことん追求する組織
──こういう丁寧さを売りにした作り込まれた空間のホテルは増えてきている気がします。その中で選ばれ続けるには何が必要なのでしょうか。
稲毛:人の思い出に残るかどうかは、ハードやコンテンツの良さだけでなく、スタッフとお客様の関わり合いが重要だと思っています。それが最終的に私たちの仕事だと信じて、人にしかできないことをとことん追求して、逆にAIにできることは全てAIに任せていきます。
──効率化は大きい会社だからできる部分もありますし、強みになっていそうです。
稲毛:例えばこういう旅館型のホテルはお客様の滞在時間が長いから、チェックインやチェックアウトの時間に混んでしまいます。チェックインの説明などは、お客様が本当に求めていることなのか1つ1つ紐解いていく必要がある。
──UDSのホテルはそれぞれコンセプトがあって、アンテルームなら"アート"でスタッフがアートの企画や説明をするし、all day placeなら"コミュニケーション"の場としてスタッフが街と人とを繋いでいく。そういうコンセプトとスタッフの関わり方でいうと、SOKI ATAMIは心も体も整える場所として、お客様の安らぎのためにできることを追求している?
稲毛:特に今はそこにコミットしていて、もう一度開業をやり直してるような状態です。UDSの課題でもあるんですけど、企画の段階から運営に移行していくと、もともとのコンセプトが絶対に薄れていくんです。オペレーションをしていくと、コンセプトよりも目の前にお客様のニーズに応えてしまうから。そうするとコンセプトがずれはじめてしまう。開業から2年たってそこをやり直せているのは、今後のホテル像として重要なことだと思います。
──とても面白いです。一般的なホテルだと企画と運営が別なので、運営が始まったらコンセプトからずれていってしまう。UDSは1つの会社に企画・設計・運営がいることで、ワンストップで運営できるからコンセプトがずれないのが強みだと思っていました。今後は、企画・設計と一緒にコンセプトの再定義をし続けることがさらなる強みになると。
稲毛:時代の変化もあるし、コロナが開けて人々の価値観も変わっている。やってみなきゃわからなかったお客様のニーズもある。それをどうすり合わせて、より良いホテルにしていくのか。それがホテルを続ける側の使命かなと思っています。
──一般的なホテルだと現場の運営がそこの違和感に気づいても、修正できる範囲が狭まくて堂々巡りが起きる。UDSはそこも解決しようとしているんですね。
新卒2年でホテリエ×企画・広報・PR
──澤端さんのご経歴をお伺いしてもいいですか?
澤端:2020年に新卒で入社しました。その頃はまだSOKI ATAMIは開業していなかったですしコロナも真っ只中で、オンラインでの座学や東京のホテルで研修をしていました。同年の9月に熱海に来て、何もない状態からハーブを植えたり、備品を洗うことから始めています。11月に開業してからは主にレストランのサービスを担当していて、今は広報・企画・PRもさせてもらっています。
──新卒で開業前のホテルに携われるのって貴重な体験ですよね。
澤端:最初は何から何までやるんだなってびっくりしました(笑)でもスタッフと街を歩きながら、お客様にお勧めしたい場所ができたねって話しあう過程は本当に楽しかった。みんなで一からホテルを作り上げることができて、愛しかないですね。
──話していても"愛"が伝わってきます。何から何までやるのを経験すると、自主性も身についてきますか?
澤端:そうですね、会社としてもやりたいことを尊重してくれます。やりたいことを提案して、断られた記憶があんまりない。「このままじゃ駄目だけど、こうしたらいいかもね」と言って、実現まで一緒に考えてくれる。スキルをつけたいと思ったら無限につけれる気がします。
──コンセプトを踏まえた上で出した企画は何かありますか?
澤端:ハーブを使ったワークショップやヨガの企画、ブランドとのコラボプランの販売・発信までさせてもらいました。似たようなコンセプトのクラフトジンと、四季ごとのレシピを一緒に考えたりプラスアルファで香りも楽しめるような養生体験をプランに落とし込んだりしました。
──新卒2年目でコンテンツを作ってそれがしっかりと形になっているのはすごい実績だとおもいます。企画の考え方や調べ方は、マネージャーを見て学んでいったんですか?
澤端:SOKI ATAMIを担当しているプロジェクトデザイン事業部はもともと企画の部署なので、企画関連の相談に強いと感じています。運営メンバーからもアドバイスをいただきつつ、プロジェクトデザイン事業部の人に全国の運営ホテルの企画や数字を学ばせてもらいました。
──今後はどんなことをしていきたいですか?
澤端:SOKIブランドの認知を拡大させていきたいです。熱海だけでなく金沢にもできたので、初めてのSOKIの広報をやっていた経験を生かして、ブランドの展開・発信をしていければと考えています。
現場が楽しく働けていれば数字は自ずと上がる
──マネージャーの稲毛さんに、組織やマネジメントについて伺っていければと思います。接客やコミュニケーションが好きな人は多いですか?
稲毛:そういったメンバーだけではなくて、人前は苦手だけど内側の整備が得意な人もいます。ただ接客をするだけのスタッフはいなくて、経理も施設管理もやるので全員がマルチタスクになっている。だからこそ、UDSのホテルスタッフは一人一人の個性とスキルとやりたいことが伸ばせる。
今はもう弱みを改善する必要はないと思っています。もちろん最低限のレベルまでは改善してほしいけれど、弱みを強みにしてもらうつもりは一切なくて、強みを突き抜けてもらえば十分だと思っています。
──マネジメントする側としては、楽しみなスタッフがいっぱいいそうですね。
稲毛:ここのメンバーはみんな「聞いてください!」「これ見てください!」ってやりたいことがあるんですよ。自分の中でワクワクしていて、形にしたいことがある人が多い。SOKI ATAMIの真の強みは、みんなが努力を惜しまないことだと思います。残業しなくていいと言ってるのに働いちゃうんです。
──愛の強さが出てますね。ホテルの現場で企画をやりたいという人が多いと、どうしても接客のクオリティが下がってしまうことがあると思います。その点UDSはなぜ接客のクオリティが保てているのでしょうか?
澤端:目の前のお客様を楽しませたいし、そのために私たちができることは何だろう?っていう考えが前提としてあるからかもしれないです。
──企画や数字を考えて切羽詰まっている時の接客って笑顔がなくなってしまいがちだけど、UDSはそういうのがない感じがするんですよね。
稲毛:もしかしたら数字へのコミットの仕方が、他の会社さんと違うかもしれないですね。オープンでフラットな職場というUDSのフィロソフィーがあるので、上から数字に対して詰められるようなことはない。みんなの責任だから、みんなで考えようという働き方をしています。
もちろん数字の責任はマネージャー以上の責任であるけれど、現場にいるメンバーが楽しく働いてくれて、ゲストにいいサービスをしてくれたら、必ず数字は上がる。なので環境の整備や社内のコミュニケーションの仕方を大切にしています。
澤端:イベントの企画をする時も「こういうことをやりたいんですけど、予算をいくらもらえますか?」と言うと、「それはお客様が喜ぶことなんだよね?じゃあこれをやるためにいくらくださいって提案してください。後は僕たちが責任取るから」と言ってくれたことがあります。会社のフィロソフィーが社内で浸透しているのを感じます。
ホテルで働きたいと思っていなくても楽しく働ける
──会社の安定性や一人一人に向き合える環境は大企業のように整っているけれど、現場のスピード感や裁量はベンチャーに近いですよね。
稲毛:まさにそうですね。現場はベンチャーに近いので、整っていないことも多いです。企画をやりたい人が集まりやすいけれど、仕組みづくりや数字に強い人が来てくれても輝けると思います。
──整っていない分、受け身だと厳しい部分はありますか?
稲毛:自発性がある人に任せて、その人ができることやればいいと思います。ただよりUDSらしい人っていうとやはり自発性がある人なのかもしれない。やりたいことをどんどん明確にしてくれたら、その実現のためにこちらも手伝える。
組織としても、個性を持っていて「これやりたい」「やらせてください」と言ってくれるような方が嬉しい。やりたいことはなんだっていいんです。消耗品を本気で管理しますとか、街づくりをやってみたいとか、ここを起点に夢を広げていってほしい。
──澤端さんは、ホテルスタッフとして入社して、今では広報やイベントもやられているかと思います。他にも身につけられるスキルがあればお伺いしたいです。
澤端:入社した時はデザインの知識なんて全くなかったんですけど、最近は館内の製作物もやらせてもらっています。入社する前は、まさかホテリエをしながら広報ができるなんて思っていなかった。いろいろできそうな会社だなってふわっとしたイメージはありましたが、こんなにもやりたいことをやらしてくれるのかと驚いています。
──実例があればイメージしやすいと思うので、一人一人が新しいキャリアパスを作っていることをしっかりと紹介していければと思います!
澤端:ホテルで働くとなるとどうしても食事のサーブやチェックイン・チェックアウトの仕事って思いがちだけど、UDSはそうじゃない。企画・広報・数字管理からもっと大きいと環境問題まで、可能性がたくさんある。今はホテルで働きたいと思っていない人でも、楽しく働ける場所だってことが伝われば嬉しいです。
文章・編集:田中拓海
写真:田中拓海
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