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前回までのあらすじ やや『ナニワ金融道』や『闇金ウシジマくん』を読みすぎている私は、某社営業マンAに対し、強い調子で仕事を降りる旨を伝えた。その後、打ち合わせを行ったばかりの商店会の方々に事情を説明し心からのお詫びをした。その時から私の頭の中は「今まで声をかけた人たちにどうやって謝ろうか」ということでいっぱいになっていた。そして翌朝、会社へ出向くと…。
早朝にも関わらず、スーツを着たサラリーマン風情のふたりがオフィスのドアの前に突っ立っている。
Aとその上司らしき人物だった。Aは顔面蒼白である。とりあえず、ふたりを「どうぞ」とオフィスの中に招き入れた。
ピカピカなコーヒーテーブルの前でAの上司らしき人物と名刺交換をするとソファーに座るよう促した。
と同時に私はカバンの中に忍ばせていたボイスレコーダーのスイッチを入れた。(まさか2日連続で使うとは…)
Aの上の上の上司C(その部門のトップ)がやけに神妙な語り口で話し始めた。
上の上の上司C「この度は大変に申し訳ないことをいたしました…」
そこから上司Cは、昨夜にAから報告を受けすぐ副部長Bに事情を聞き、この事例が典型的な助成金詐欺にあたること、その結果、商店街とウチに大きなリスクを負わせることであり、把握しておらず申し訳ありませんとか、税務署の査察が入ったら言い逃れできないことでしたとか私の監督不行き届きでしたととか、何度も頭を下げながら長々と説明を続けた。とにかく長くて不謹慎だなと思いながらも眠気が襲ってきた。そして…
上の上の上司C「何卒、この度の助成金の問題のない商店街の案件はぜひお願いしたいと思います」
と言った。私は一旦その話は無視をして眠気を振り払うかのようにクワッと両目を見開き、テーブルを人差し指でトントンしながら、こう質問をした。
私「まず、聞きたいんだけどこれは誰が絵を描いたの?」
言うまでもなく“絵を描いた”というのは“策略を練った”という意味である。(ナニワ金融道で読んだ)
上の上の上司C「そ、それはAの上司の副部長Bでございます」
ふうん、やっぱりAじゃないんだ…。
そして私は「あなたに個人的な恨みはないけど、もしこのまま仕事が進んでこの詐欺が発覚したら商店街と私たちはもう終わりです」と言うべきところを、いきなりテンションMAXで
私「おい!商店街とうちらに、もしものことがあったら一体、どう責任取るんだ!取れねえだろ!」(机バーン!)(自分の机だから特に思いっきりバーン!)
自分の声とテーブルを叩く音で思いっきり目が覚めた。手も痛い。だけど、うちのスタッフは誰ひとりとしてこっちを向かない。むしろ向かない。。(確認ですが、私は血がのぼっているわけでは全くない。社を代表して部下の悔しさを代弁して冷静に、でも強めに机を叩いているだけである。しかしUをディスったAに対しては、ほとんど一瞥をくれることすらもしなかった。なぜならAを追い詰めてUが変な恨みを買ってはいけないという配慮だ。もちろんUは少し消化不良だったろうけど…。その代わりに昨晩、君に生意気な口を利いたAをYシャツがビッショビショになるまでメッタ斬りにしてあるから許せUよ。もはや誰にも信じてもらえないだろうが私の性格は極めて温厚なのだ。これは全て演技なのだ。マジで)
上の上の上司C「おっしゃる通りでございますー!」
しかしその後も長い言い訳が続いた。私の能力の問題か、眠いからなのかは分からなかったが、私は頭がイマイチ働かずに大した質問もできずになんとなく話し合いが終わろうとしかけていた…、そんな時にUが割って入った。
U部長「社長。私からもちょっといいですか?Aさんは以前、Bさん以外の上司にもうひとり黒幕がいると言ってましたがそれはいったい誰ですか?」
斬り込み方がすさまじい。AとCがおし黙る。しかしUの追撃は止まらない。
U部長「主謀者の副部長Bさんの上司は誰ですか?」
上の上の上司C「Bの直属の上司はわ、わたしです…」
U部長「Bさんの上司はCさん、あなたということでよろしいですね。はい、わかりました」
おいおい、Uよ。お前は弁護士か?すげーな。暗に「目の前のお前がホントの黒幕なんだろ」と言わんばかりである。しかしまだまだUの尋問は続く。
U部長「全振連(ぜんしんれん)は御社(某社)が商店街の補助金の事業に絡んでることを知ってるんですか」
上の上の上司C「全振連さんは今回100億円規模の補助金事業になっていて、その審査を電通に丸投げしてるんです…うんたらかんたら…ええ、私たちが絡んでいることは知ってると思います」
スケールがでかすぎて、しかも説明も回りくどくて、うーん?よくわかんないや。
U部長「このような違法な関係を持たせた制作会社はうち以外に何社あるのですか?」
Uよ。お前は刑事か?
上の上の上司C「昨日の時点で2社…」
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私「うんー?あれ?昨日Aさんは17社って言ってなかったっけ?」
A「いや、12社です。あっ」
わたしはハッタリをかましたのではない、単純に間違えたのだ。バカだから。昨日、Aから聞いていた12社を17社と。がしかし結果的にAは上司の前でおもわず口を割った。助成金詐欺教唆を12社やりましたと…。
それを聞いた上司CがAに向かって2度見、3度見をした後に
上の上の上司C「A!12社もあんのかーっ!ふざっけんなよー!おい!ふざっけんなよー!」
上司Cは一瞬、こっち向いて「あ、すんません」その後またAに向かって
上の上の上司C「お前、ふざっけんなよー!社長の言う通りだぞー!お前のせいでうちの会社潰すぞ!全部言えよ!」
また一瞬、こっち向いて「あ、すんません」その後また
上の上の上司C「部署90人の首がかかってるんだぞー」
私はそのコントのような、やりとりをしばらくボーッと見ていた。このやりとり自体が演技かどうかは私にはわからない。しかし自分の会社が潰れるリスクを感じると怒るんだなーと。冷静に見ていた。だけどAはただの兵隊だ。そんな奴シバイたって意味ねーだろとは迫真のコントの前では言う気にもならなかった。
さらに「ダメージ受けるのは部署90人だけじゃねーよ」と思う自分もいた。だって、
「お前の会社、連結で2,000人弱いるじゃねーか」で、結局私は
私「こんな状態では御社と仕事なんかできません」
上司C「そこをなんとか」
私「完全に無理です。信用できない会社と仕事なんかしません」
自画自賛だが、自分の強みは誰にも媚びないことだと思っている。目の前にどんなニンジンをぶら下げられても思い上がってる奴らの仕事なんか受けない。はした金のために頭なんか下げない。ただ『神奈川の総代理店』の機会損失は数億はくだらないだろう。そしてウチなら神奈川だけでなく東京だって獲れただろう。現に横浜だけでなく都内の商店街も話も進んでいたのだ。でも関係ない。お互いをリスペクトし合える人としか仕事はしない。そのかわり引き受けた仕事は相手が有名であろうがなかろうが差別なく結果を出す。ただそれだけ…。
また私は「こういうのマスコミ大好きだから」と軽くプレッシャーをかけた後に「これから、私を信用して仕事の約束をしてくれた20人以上のクリエイターの方々や、打ち合わせを済みの商店会にお詫びをしに回るんです。時間がありません。どうぞお引き取りください」と言って帰っていただいた。
ただし以下の3点を約束してから…。
1.副部長Bの処分の報告(ホントは目の前の上司Cが黒幕かもしれないけどね)
2.私たち以外の12社への対応の報告(これはぜひ知りたかった)
3.私たちの商店街への営業活動を一切妨害しないこと
*ただし1と2の約束はあれから2年経った今も果たされていない…(やっぱり!)
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…そしてボイスレコーダーのスイッチを切った後で、私とU部長は笑った。
私「オレさぁ、17社って多めに言っちゃったぁ。バカだね。間違えちゃったー」
U部長「それでついAは12社っていい直したんですよ。多めに間違えて良かったんじゃないですか」
2人「ガハハハハハハハハ」
としばし、高笑いを上げると
私たちはすぐさま、声かけをしたすべてのクリエイター、制作会社、編集者、ライター、そして話が進みかけていた商店会全てに電話やメールで報告をした後に、U部長が急遽作成した顛末書を持って可能な限り直接足を運んで事情説明と謝罪に回った。それは約3日ほどかかったと思う。
ひたすら礼を尽くし頭を下げた。ひとりひとりに足を運んだのは、ぬか喜びさせてしまった方達へ本当に申し訳ないと感じたからだ。
ただ、ありがたいことにそのお詫び行脚で誰一人として不満を言う人はいなかった。
むしろ「こんなに早い段階で見抜いてくれてありがとう」と感謝されることも多かった。この業界では業務委託契約を結ぶことなしになんとなく仕事が進む悪しき文化があるがゆえに、みな仕事先でさまざまな苦労をしているのだ。そしていろいろな人が過去の理不尽な経験を私に語ってくれた。そのひとつひとつの話の中には壮絶な体験がちりばめられていた…。
私はこの人達に早くやりがいのある、きちんとした仕事を渡せるようになりたいと心に誓った。
本当に申し訳ないと思いU部長とともに都内のみならず、鎌倉までお詫び行脚は続いたのだが、幸運なことにこの件で私たちはほとんど信用を損なうことはなかった。
なぜなら仕組まれた助成金共同詐欺に巻き込まれるのを未然に防げたのは
13社中、私たちだけだったからだ…。(運がいい!)
私は正々堂々と仕事をしたい。圧倒的な実力でクライアントを喜ばせたい。誰にも文句を言われることのない思い出に残る仕事をしたい。
そしてこの事件から再確認したこととしてコンプライアンスに問題のあることは一切やらないこと、それはどんな機会損失を出してもやらない。永遠にそれでいい。(覚えとけ、次の社長!)
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……だけど私は、ただでは起き上がらない。
あれから2年以上経って今は優秀なWEBコンテンツ制作会社、グロースハッカーと仕事をするようにもなり、某社と同じ、否それ以上のレベルのサービスを提供できる状態になったのだ。
2017年以降は、商店街の役に立つ戦いをもう一度、開始しようと決意している。
そしてチカラある人とともに多くの人を喜ばせる本格派の仕事をしていきたいと思っている。
あの時に仕事を渡せなかったクリエイターの方たちに満足のいく形で仕事を提供したいと思っている。
そのためにも私たちは仕事に対する高い“倫理観と能力”を兼ね備えた“誠実”な人財を探し続けているのだ。
そして今後も継続的な採用と人材育成に力を入れるつもりだ。
私たちは毀誉褒貶の人を悠々と見下ろし、今後も着実にいい仕事をしていきたいと考えているにすぎない。もちろん仕事もプライベートもいい時もあれば悪い時もある。つまり順風でも逆風でもその時々でやるべきことを見極めて【ちっぽけな悲哀】なんか笑い飛ばしながら楽しんで前に進みたいと思っているのだ。
で、結局…、
求む!表面的には破天荒でイっちゃってる人でいいから根っこはマジメな人!(笑)
追伸 「で、某社はどこなんだ?」という疑問もあるかと思いますが、本件は私たちにとっては未遂であり彼らが今後、営業妨害でもしてこない限り、一切他言するつもりはありません…。ただ仮に、もしそのようなことがあれば、、、言わずもがなである。ひとたび戦いを起こすのならば必ず勝つ。そしてその切り札である【あの音声データ】は今もクラウド上で、すやすやと眠っているのだ。