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某一部上場企業にハメられかけたけど、運よく回避できた理由【3】

前回までのあらすじ【読了時間:約3分】

駅前のコーヒーショップにて『助成金の詐欺教唆』の証拠を録音した上で、私は仕事を降りる旨を某社営業マンAに言い渡した。その直後にウチのU部長はあらかじめスタンバっていた都内近郊の別の商店会長の店へ事情説明と謝罪に向かった。私はというと、ついさっきミーティングが終り、すでに打ち上げが始まっていた商店会関係者の集まっているオシャレ居酒屋に向かったのだった。


そのお店の重厚なドアを引くと、先ほど名刺交換をした商店会の面々5人ほどが楽しそうに談笑していた。私はすぐに気づかれ、

電器屋さん「あーおつかれさまー。まあまあ一杯!どうぞどうぞ!」

と席を勧められた。すでにいい感じに出来上がっているようだ。

葬儀屋さん「いやー。なんかスゴイ会社に頼めてよかったー」

クリーニング屋さん「うん、これも食べて!あれも食べてよ!」

予想以上の歓迎を受け、あっという間に席に座らされ右手にワイングラスまで持たされた私は、一瞬どう説明しようか迷ってしまった。「ああー、こんないい人たちを喜ばせるような仕事はきっと楽しかっただろうな」と思いながらもしかたなくワイングラスを置き、席から立ち上がり深々と頭を下げた。


私「……大変に申し訳ありません!今回のお仕事は訳あってお受けできなくなりました!本当に申し訳ありません!」

そこまで言ってから、おそるおそる顔を上げると、商店会の面々が一気にさーっと 5 m ほど後ろに引き下がったかのように見えた。みな、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしている。あたりまえだ。ついさっきまで今後の打ち合わせをしていたのだ。

電器屋さん「ま、まあ話を聞こう!まずはうん、話を、話を聞こう!」

全員の視線が一糸乱れず、私の顔に集まっている。

私はまず、某社が説明している商店会が消費税を払わずにサービス(のぼり旗やパンプレットなどの制作費、またインターネット関連の制作費など諸々)を受けることはできないこと。助成金を支給する組織に確認したところ、商店会が消費税を払うべきであると言われたこと。助成金は本体価格にしか適用されないこと。弁護士ほかに意見を求めたところ、某社にはっきりと助成金詐欺のプランを確認をし、その証拠をおさえた上で仕事を降りるようアドバイスされたこと。一旦は気付かれなくても、もしそのごまかしが発覚した場合、ここの商店会は今後一切助成金が下りないという重大なリスクを負うこと。また私たち制作会社は倒産のリスクを負うこと。法律上は商店会が主犯、私たち制作会社が従犯(共犯みたいなもの)となること。またそういった指南をした某社は、全くやり取りの過程を証拠に残していなかったため善意の第三者で逃げ通せること。確信犯であること。さらにたった今、某社の営業担当のAに事実確認を行ったところ、違法だという自覚があったことを認めたため、私たちは某社がコンプライアンスに問題がある会社だと判断し現時点で違法性がある商店会の仕事、そうでない仕事を含め、某社から紹介された約10件ほどのすべての案件から降りる決定をしたこと。たった今、別の地域の商店会でも同じ説明をさせていただいていることなどすべてを話した。

そして証拠をおさえるためとはいえ、無駄な打ち合わせを行いご迷惑をおかけしたことを心からお詫びした。そして再度、深々と頭を下げた。

私「本当に申し訳ありませんでした…」

商店会の面々は当然、矢継ぎ早に質問をしてきた。

「えっ?そうだったの?うちら犯罪やることになってたの?」

「何?おたくとうち(商店街)がグルになって国(全振連)をだますってこと?」

「つまり某社の言うやり方だと違法なんだね」

「え?将来、ずっと助成金が出ないリスクがあるの?」

答えはすべてYESである。

「というわけで某社が絡む案件は全部降りることにいたしました。お役に立てず誠に申し訳ありません。本当はこの商店街の仕事はぜひともやりたかったんです。現役の編集者やライター、デザイナーみな大変興味を持ってくれていました。実に残念です…」

私がそう言った後のみなさんは実にやさしかった。

「全くおたくは悪くないよ。悪いのは某社だよ」

「次の打ち合わせでコテンパンにしてやる」

「これとは別におたくに仕事を出したいなーみんな」などなどありがたい言葉をいただいた。

さらに食事も酒も勧められたが、これ以上長居はできない…、

私「まだ謝罪しなくてはならない方々がいらっしゃるので…」

と頭を下げてその場を後にした。本当はこんな人たちのために仕事をしたかったなぁと駅へと帰る途中に珍しく感傷に浸りながらも家路へと急いだ。

家についても興奮が収まらない。なにしろ明日以降、私はUとともに声掛けした20名ほどのクリエイターやその他関係者ならびに、まだ正式に仕事を降りる旨を伝えていない商店会などに謝罪をしなくてはならないのだ。未遂なので被害は一切なかったが、

私は道義的責任を感じ、すべての関係者に直接会ってお詫びをする決意でいた。

そして朝方になってなんとか寝付くことができた…。

チュンチュンチュンとスズメが鳴く。

朝起きて、私が事務所へ向かうと…。

そこには某社営業マンAとその上司のさらに上司らしき人物が

なんとウチの事務所のドアの前に直立不動でつっ立っているではないか!



【つづく】

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