前回のブログ『結婚からたった2ヶ月で会社を辞めて独立してしまうという、親や会社を敵に回しかねない暴挙が、なぜかうまくいった理由』(デイリーランキング最高6位)の続きです。【読了時間 約4分】
前回「順調に売上が伸びて来たからそのままでもよかったんだけど会社の事業内容を変えようとした」的な話を書きました。
今は月次で試算表を作ってますが、当時は普通の会社のように決算書ができてくるのが年に1回でした。実際のところ決算期まであんまり会社の財務内容がわかんないんですよね。
どんぶり勘定で予算も消化していて、損益計算書も貸借対照表もよくわかってない。
まあ、東日本大震災まではそれでもよかったんですよね。なぜなら、
税理士も「こんなに素晴らしい決算書は見たことない!」みたいに言ってくれてたんで。。
まあそれはそうなんですよ。業種的に。デザイン会社には基本、仕入れなんか必要ないし、在庫もないし、経費だってたかが知れてます。電気代に紙代にパソコンとアプリケーションがあればOKみたいな。紹介だけで仕事が回ってくるので営業経費も広告宣伝費だってほとんどいらない。接待なんかもしないし…。
だから売上高営業利益率(売上高に対する営業利益の割合)なんか95%超えてました。
つまりほとんど利益(ちなみに平成25年の全業種平均は3.4%経済産業省発表)
クライアントには相場よりもお安く仕事をしていたつもりだったけど、無駄遣いもしないんで勝手にお金が貯まる。
それが東日本大震災後に「このままじゃいけない!」という気持ちと「井口くーん、雇ってくんない?」と友人に言われたことがきっかけで『のぼり旗』の事業が小さくスタートします。
そのころには本当に、有名な仕事とか、みんなが知ってる仕事とか、カッコイイ仕事とか、流行とか、ホントに興味がなくなってきて、対『大きな会社』から対『小さなお店』へシフトさせようと考えていたところでした。『大きな会社』のデザイン改革、改善はある意味、やりきった感があったこともあり少しづつ、マジメに商売に取り組んでる『小さなお店』をサポートしたいと思うようになりました。
余談ですけど私は28歳の時に土日を使って某大学のオープンカレッジの、たしか『女性起業家によるビジネス講座(たぶんそんな名称)』に通っていたんです。そこで男女の経営者の違いについての講義があったんですが実は「なるほどー」と思ったことがあって、それは
男性の経営者はスケールを追いがちで(年商何億だとか社員数だとか)
女性の経営者はやりがいを追う(何のためとかどう役に立つかとか)
といった内容でした。その時の素直な感想として「女性の方が健全だな」と思ったわけです。もちろん今は両方大事だなと思っています。
ま、それはともかく、ちょうどそのころに昔から知ってたTさんというグラフィックデザイナーから連絡があり、こんな風に言われました。
「井口くーん、うちの会社潰れちゃったー。雇ってくんない?」
昔から、なれなれしいヤツだなと思ってましたが、どこか憎めない感じの彼と会ったらやっぱり雇いたくなってしまいました。でも彼に任せられそうな仕事も見当たらない…。
そこで私はこう言いました。
「正直、Tくんに渡せそうな仕事はないよ。でも作るわ。そういえばECをやってみたかったんだよねー。」みたいな軽いノリで社員として雇うことを決めました。と同時に『障がい者雇用ができるかもしれない』という気持ちを彼が後押ししてくれたのかもしれません。私の一人息子が重度の知的障がいをもっているのも大きな理由でした。
ただ、のぼり旗をECサイトで売るというアイデアは、アイデアだというのも憚(はばか)られるようなごくありふれたサービスでした。もうすでにたくさんのサイトが立ち上がってましたし…。
ただ、たくさんのサイトで扱ってるデザインはごく一部のメーカーのカタログから転用してきた似たり寄ったりのものでした。
サイトが違うけど商品は同じ…。
なーんてことがよく起きてました。
面倒だからイチからデザインするところは本当に少ないんです。そんなにかわいいデザインもないしなぁと思ってました。
じゃあやってみようかと…。完全オリジナルで。
というのがコトの発端です。結構軽いノリです。内部留保を切り崩しながらともに働きました。ウェブサイトも作り、商品もアップしつつ、さあローンチだあ!みたいな…。ただ、あたりまえですが全くと言っていいほど売れません。笑
しかし当時の私はことの重大さをわかっていません。そうです。バカなのです。笑
とはいえ少しづつ品数が増えるごとにちょっとづつ売れるようにはなってきました。がしかし当然増えた人件費をまかなうことすらできません。
そこで私は弟(現デザインのぼりショップ店長)とTさんとで話し合いを持ちました。
私「デザインのぼりショップが厳しい。思った以上に売れてない。そこでみんなに相談があるんだ。ニュースを見てればわかると思うけど、東日本大震災が起きてから災害ボランティアの方やいろんな企業や国も支援を打ち出している。私も個人的には寄付もしている。だけど自分たちの“仕事”でギリギリまで、同じ苦しみを受けるような思いで役に立ちたいと思っているんだけどどうだろう。売れてない厳しい今だからこそ企業哲学をホンモノにしたい」
店長「なるほど。で具体的には?」
私「ライバル会社(そのときはライバルなんておこがましい足元にも及ばない)が、こぞって『がんばれ日本!』とか『絆』ってのぼり旗を売ってそこから100円を寄付するボランティアをやっている。それもいいと思うけど、僕は震災からちょうど1年後くらいにある意味、支援の機運も風化しつつあるタイミングで、のぼり旗の印刷縫製料金とデザイン料金とポールの料金すべてを無料で1万本を被災地に送りたいと思う。ちょうど震災から1年経った頃には、もう一度商売を開始したいと思う時期だと思う。お金の寄付でなく自分たちが売ろうとするその商品自体のチカラでもう一度立ち上がろうとする人たちを後押ししたい」
店長「う〜ん……まぁ、気持ちはわかるけどそれは無茶だ。会社がつぶれたら元も子もない」
Tさん「のぼり旗が売れないからって無料で配るって発想は何だよ!意味不明だよ。絶対ヤメてくれ!とにかく1万本は頭がおかしい。大企業じゃないんだから」
私「でも中途半端なことはやりたくない。最悪マンションを売ればなんとかなると思うんだ」
店長「……う〜ん。気持ちはわかるけど……、せめて1,000本なら…」
という話し合いを経て結局『被災地限定のぼり旗1,000本無料提供運動』が約半年後の2012年の3月に実施されることが決まりました。
当然、短期間にフルオーダーのデザインを大量にこなすためにはデザイナーが足りないわけで…。でも不思議なことにデザイナーが1人、2人、3人と自然と増えていくことになります。また営業マンが増え、学生アルバイトも1人、2人と増やしていきました。
詳細を省きますが結局、毎日新聞社さんや河北新報さん岩手日報さんほか各種メディアに取り上げていただいたおかげであっという間に1,000本以上を無料で提供することができました。
連日、注文のファックスや電話が鳴り響きました。まさにてんやわんわでした。一時的にありえないほどの仕事をこなすなかで私たちが得たものは
1.たくさんの実績
(個人商店だけでなく学校、教育機関、地方自治体、社団法人、商店会など)
2.仕事のスピードアップ、ワークフローの改善、効率化。
3.直接、お客さまと電話で話すことで理解が深まった。クリエイターのエゴを超える経験。
(後日、店長と一緒に、特に注文が多かった岩手県の山田町のお客さまにあいさつに行きました。多くの人と話すうちに“時間”というものの捉え方が変わる体験をしました。とにかく被災地で知り合った方々は先延ばしをしないのです。即断、即決、即行動なのです。きっと命が限りあることを体感しているからだと思います)
4.涙が出るような数百通の感謝の手紙や写真など。
カタチのあるものや、ないものそれぞれ得ることができましたが、結局は最も大切な『信用』が残ったような気がしました。
ただ問題も残りました。一度、増やした人件費はカンタンに削ることはできません。スタッフには人生設計があります。会社都合でクビにすることはなかなかできないのです。
と同時にある意味、ボランティア的なことをしている間は売上が下がるということも体験できました。それは昔、マガジンハウスのTarzanという雑誌をデザインしてた時に『障がい者特集』をやると部数が激減することを経験上、知っていたのですが、予想どおり『被災地限定のぼり旗1,000本無料提供運動』をやったときにもそもそも少なかった売上がさらに下がりました。
(このブログもボランティア的要素が強いのでコンバージョンの低下が予想されます。ただ、そんなことは、もとより覚悟の上だったりします)
というわけで、
私の決断は結局3期連続の赤字というカタチで帰ってきました。
だけど、これっぽっちも後悔をしていません。そしてこの『被災地限定のぼり旗1,000本無料提供運動』をやってから半年ほど遅れて会社全体での売上が3期連続前年比130%成長の軌道に入っていきました。そして今ではもちろん黒字化しています。この経験から私たちは学びました。ピンチの中にチャンスありではなくて、
ピンチでなければチャンスがないという事実です。
そしてそのピンチから学んだもののひとつとして財務に関しての考え方です。具体的にいうと社の決算書の作成は年1回では少なすぎるということです。正直をいうと決算書についてそれほど重視してなかったというか、そもそも読めていなかったというか…。まあだからムチャできたとは思うのですが、その経験から今では月次で試算表を出しています。
今ではしっかりと予算を組みながら、石橋を叩いて進んでいます(笑)
ウソです。数字は細かく把握しながらメッチャ攻めています。
それでも、ともに働きたいと言ってくれる『普通じゃない人』を探しています。
私は同じ方向を向いている人と働きたいのです。
その人たちに報いたいと本気で思っています。
そして私たちの仕事でどれだけの価値をつくれるか。笑われてもいいから、チャレンジしたいのです。
デザインのチカラで人生の勝利者をつくりたいのです。
というわけでコツコツWANTEDLY(この人材募集サイト)さんでコツコツ情報開示を行っているのでした…。
(ちなみにWANTEDLYを利用してるエントリー数がトップの企業とブックマークされる数だけで比べると私たちは約2.8倍強のコンバージョン率らしいです。ありがたいことです)
結構、たくさんの人と会えているのでもう十分かなと思わなくもないですが、
いや、それでもさらに求む『普通でない人』。笑
【つづく】