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インタビュー#1 常務取締役 矢野暁|なぜ住宅の仕事なのか

株式会社ザ・ハウスに入る前

私は大学を卒業して、新卒でハウスメーカーに入社しました。当時の住宅業界は今以上に超営業型のスタイルをとっていましたので、「考えることは悪、行動だけが善」という教育を受けました。

とにかく展示場にいらっしゃるお客様の記名をとるのが最大のミッションでしたので、住所を入手したら、求められていようがいまいが自社の売り込みをするために夜討ち朝駆けでお客様を訪問していました。

当然のことながら、お客様に嫌がられるわけです(笑)展示場には様々なご事情を持ったお客様がいらっしゃいます。二世帯住宅を建てたいんだけど、賃貸併用住宅を建てたいんだけど、道路が狭いんだけど、大きな幹線道路に面しているんだけど・・・など、誰一人としてまったく同じ条件で家を建てる方はいません。それなのに、どなたにとっても自社の商品が一番優れているという売り込みをするのですから。

それで私は、お客様にとって何が一番いい方法かをアドバイスして、それが確かに自社の商品だと確信できたお客様とだけお話を進めるというスタンスに自分の営業スタイルを変えました。

ある日、お母様とお嬢さんという二人家族の20坪ちょっとのお住まいの商談に関わることがありました。

実は私自身、このご家族に自社の商品があっているのかどうか、確信がもてないまま何度か打合せを重ねていました。その商談では、私の他に1社ある競合メーカーが残っていました。

正直に「○○さんがもしこういう点を最重要視するなら、競合メーカーの方がいいと思う。一方で、こんなことを最重要とお考えになるなら、当社の方がいいかもしれない」というお話を繰り返しさせていただきました。

後日、お母様から私にご依頼いただけるというご連絡がありました。その時に、お母様がおっしゃったことを忘れることができません。私に依頼を決めたのは、当時まだ学生だった娘さんが言った一言に背中を押されたのだそうです。

それは、「あの人はうちのことを一番よく考えてくれていると思う」という一言でした。私は商談中に娘さんとお会いしたことは無かったのですが、あとでお母様に聞くと、隣の部屋でずっと私とお母様の商談を聞いていたんだそうです。

契約していただいたこと以上に、私のお客様に対するスタンスを評価してくださったことが何よりも嬉しかったことを覚えています。この出来事が私がハウスメーカーを辞めるきっかけになりました。「お客様が自由な選択肢の中で、最適な方法を選べる家づくりに関わりたい」そう思い、建築家との家づくりをプロデュースする会社に転職します。

ハウスメーカーでは決まった構造、構法、仕様という制限の中でしかできなかったことが、建築家とならその人にあった家づくりを自由にできる!そう思っての転職でした。

ところが実際に建築家と仕事をしてみて驚きました。一級建築士というと、当時の私からすれば雲の上の存在です。しかし、その会社に所属していた建築家は、当時5年しかハウスメーカーに勤めていない私よりも住宅の知識がなかったのです。せっかく理想と希望に溢れて転職したのに、これは大変なところに来てしまったぞ・・・というのが当時の率直な感想でした。

でも、一方で、建築家と家を建て、喜んで雑誌に紹介されている方々がいる・・・。私が目の当たりにした現実と私が雑誌でみた施主の喜んでいる姿は全くつながりませんでした。

当時はまだネットが発達していませんでしたので、雑誌が主な情報源でした。毎月、毎月、雑誌を見ていると、あることに気付きます。雑誌にのっている建築家の顔ぶれがほとんど変わらないのです。そうか!と思いました。それは、経験のある建築家と経験が少ない建築家とでは、私が思っていた以上に知識の差があるんだということです。

当時私が勤めていた会社は、私が建築家とお客様との間に入って、家づくりそのものの調整役をする形でした。私が経験不足の建築家を補う役割です。でも、私が関わることで、お客様は私へのフィーを負担しなくてはなりません。

そんな矛盾を感じて、転職した会社を1年足らずで退社し、縁あってザ・ハウスの設立に関わることになります。それが今から17年前、2000年のことです。

現在(2016年)

弊社の社長の関はアンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)出身で、住宅に関しては全くの門外漢でしたが、初めて会った時に「この人となら理想のサービスを実現できるかもしれない」と直感的に感じました。

会社を立ち上げた頃は、いったいこのサービスが支持されるのかどうかも分からず、毎日がドキドキするような日々でした。でも、おかげさまで17年間、お客様にとって最適な家づくりの方法をご提案し、これまで2000軒を超える家づくりの実現をお手伝いさせていただきました。

迷惑がられることが多かったハウスメーカー時代の仕事から、現在は、日に日に喜んでいただけるお客様の数が増えていく仕事をしています。数は多くないかもしれませんが、着実にひとりひとりのお住まいの夢を叶えている手応えを感じています。

数多くのお客様と接するこの仕事をしていると、本当に人それぞれお考えが異なることに気付かされます。住まいに関わる仕事なので、もちろん専門知識の習得は欠かせませんが、住宅のこと以上に、人と人との間に渦巻く心理や感情について深く考えさせられることが少なくありません。

例えば、多くの方が「決して奇抜な家を求めているのではなくて、普通の家がいいんです」とおっしゃいます。でも、ひと口に「普通の家」と言っても、何を「普通」と感じるかは、その方の生活スタイルや大事にしている事柄によって異なります。

実際に、ある方にとっては「普通」なことが、ある別の方にとっては「普通ではない」という場面にたくさん遭遇します。

ザ・ハウスを立ち上げてまだ3年目のことです。あるご夫婦が家づくりのご相談にお見えになりました。お持ちになったメモの中に、ひとつ目を引くご要望がありました。それは「西日を眺めたい」というご要望でした。

「強く差し込む西日を遮りたい」というご要望を聞くことはあっても、「西日を眺めたい」というご要望を伺ったのは初めてのことでした。私が「これは?」とお尋ねすると、奥様が長い入院生活を強いられていた頃に、「病院の窓から見える西日に、明日への活力と勇気をもらったので」とのことでした。

その方にとっての西日は、快適な生活を邪魔する物でも、淋しさを感じさせるものでもなく、ポジティブな毎日を過ごすための原動力でした。そして、家づくりを託された建築家は、西日が空や雲に映し出す表情を存分に楽しめる窓を設えました。

住まいに関わる仕事は、自分の「この手」で、人の人生をリアルに良くすることができる仕事です。ひとりひとりに個性があるように、住まいの形はその家族の数だけ存在します。家が建つまでは全く意識することがなかった何のことはない朝の光や流れる風や月明りが、こんなにも毎日の生活を心地よくしてくれるものだったのかと感激される方も少なくありません。

経済的なことだけで言えば家を持つことは必ずしもベストな選択ではないかもしれません。でもおひとりおひとりのお客様と接し、完成したお住まいで活き活きと毎日の生活を楽しんでいる様子を拝見すると、経済的な価値以上に、住まいには人の日常を豊かにするパワーがあることを実感します。それをもっと多くの方に知っていただきたいですね。

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