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子どものために先生の働き方を良くしたい!元小学校教員の揺るぎない意志と挑戦

「教員の多忙化」という言葉を耳にしたことはありますでしょうか?小学校教員の33.5%、中学校教員の57.7%が1カ月に80時間以上の時間外労働をしています。(教員勤務実態調査)今回インタビューさせて頂いた遠藤先生は、小学校教員として勤務した経験から、先生の働き方改革をすることが日本の教育の質を高めることにつながると考え、行動を起こし、活動しています。いまの活動に至るまでの経緯や活動の内容をおうかがいしました!

赴任期間:2016~2018(4期フェロー)
赴任先 :埼玉県
校種  :小学校赴任(1年目:5年生、2年目:5年生担任)
出身大学:早稲田大学第一文学部哲学科教育学専修
教員免許:第一種小学校教諭免許
経歴  :NTTデータ・NTTデータユニバーシティ・パーソル総合研究所
趣味  :キャンプ・楽器演奏(トランペット)・ダイビング・登山
好きな言葉:こだわれ、こだわれ
いろいろ大変ですが、人生はどんどん楽しくなると、
身をもって証明したいと思っています。教員が子どものために時間を使えたら、日本の教育の質は上がる!

最初に、Teach For Japanのフェロー(教師)として赴任した2年間で感じたことを教えていただけますか?

(5年生担任時の授業準備にて)

どんな環境の子どもであっても、主体的に生きる人を育てたい。人間として生まれたならば、主体的に生きてもらいたい。その手助けをしたいと思ってフェローになりました。

実際に学校が始まってみると、ものすごく大変で…何をしていいのかわからないし、できない自分がつらかったです。特に、最初の1学期は、運動会もあって宿泊行事もあってと非常に苦しい思いをしたっていうのがスタートでしたね。自分が慣れていないっていうのもありましたが、教員になって最初の1カ月は数えているだけでも残業がとてつもない時間になってしまいました。正直、夏休みを迎える頃には、「どうなってしまうんだろう」と思っていました。

でも、先輩フェローに話しを聞いてもらったり、同僚の先生方にすごい支えてもらいながら、だんだんと仕事にも慣れて、毎日が楽しいと思えるようになっていきましたね。

2年目も5年生を担任させてもらったんですけど、去年1年の経験を踏まえてもやっぱり多忙なんですよね。先進的な教育活動にチャレンジしている自治体ということもあり、教員希望者も多く優秀な先生方が多かったと思うのですが、その優秀な先生方をしてでも「多忙感」っていうのがありました。

周りの優秀ですごく素敵な先生方が多忙感で疲弊しているところを見て、これは社会課題だなって思ったんですよね。先生の長時間労働っていうのが。この社会課題にはっきりとフラグが立ったのが自分にとって大きな経験だったと思います。

教員として働く中で「先生の多忙感」を実感されたんですね。教員になる前は「先生の多忙感」をどのように捉えていましたか?

周りからは「地雷原に自ら進んでいくようなもんだよね」って言われました(笑)。なので、情報としては理解してたんですけど、「一日の中で全く余裕がない働き方ってこういうことか…」というのを身を持って理解したって感じですよね。

先生を経験した方はスッとわかる話なんですけど、授業作ったりとか教材作ったりとかするのってやれちゃうし、やりたい部分があると思うんです。でも、一番時間を割きたいことに時間を割けないっていうアンビバレントな感じが、先生にしてみるととても苦しいのです。

先生一人ひとりは、他人のことなのに、本当に一生懸命考えている。こんな集団ってないと思うんですよね。常に子どものために何かやりたいって思っているのに、他のことで疲弊させて、それをやらせてあげられない。この矛盾が、教育界を本当に苦しくさせているなって思ったんです。

だから、この優秀な人たちのが、業務時間的に解放されて、その解放された時間を本当にやりたい子どものための活動に注力できたら、それだけで日本の教育の質が上がるなって感じたんですよね。その気づきが、次のステップに進もうと決心したきっかけになりました。先生の長時間労働問題の解消のための活動をしようと。

でも、この活動は先生をやりながらだと自分に時間的余裕がないと思ったので、一旦外に出て、教育界の隣りから、教育界に貢献できるような方法を探すことにしました。

遠藤先生のおっしゃる「優秀な先生」とはどのような意味合いでしょうか?

先生として教えるのがうまいとか、学校の仕事の処理が早いっていうのだけじゃなくて、子どもを見る目が素敵なんですよね。一人ひとりの先生が、いろんな価値観を持ちながら先生をしています。でも、なんていうかな、、、人間が育っていくことへの価値を感じていて、それを支える仕事であるってことに誇りを持っているんですよね。人の成長に関わることの大切さを素敵に捉えている方が自分の周りには多かったんです。

ただ、強いて言えば先生の世界で留まっている部分があると感じました。例えば、全然違うジャンルの研修に参加してみるとか、趣味でもなんでも新しい世界を体験してみるとか、それと教育をつなげて考えてみるとか、遊び半分学び半分みたいな活動がもっとあってもいいのかなって思ったんです。でも、あれだけ忙しければそれもできなくて当然だろうなっていう思いもありました。だから全然責められることじゃない。

それでも、すごーく欲張りな言い方をすると、常に子どもたちになにか新しいことを伝えるための余白みたいなものを持っててほしいなって思ったんですよね。先生っていうのは学び続ける仕事だろうなって思うんですよね。本当に能力が高くて、子どもたちのことを思える人が、余白を持てるような働き方になって、もっと新しい学びをしたら、とんでもないことになるだろうって確信的に思っています。

自分の意志が未来をつくるのは本当だと実感

先生の長時間労働問題を解決するためにどのような活動を始めたんでしょうか?

先生の長時間労働問題の解決をライフワークにするとしても、いきなり独立はできないので、ライスワーク(食べていくための仕事)はどうしても必要でした。それで、以前から興味を持っていた企業の人事関連を商材に扱う会社にキャリアチェンジしました。ここで学んだことも、結果的に今の仕事にとても結びついているので、人生って面白いなと思います。

それからは、仕事をしつつも、ライフワークを具現化するために、休日返上で教育系のイベントに参加しました。そこで、自分の考えていることをプレゼンさせてもらって、リアクションをいただいて、Facebookでつながって、という感じでとにかく足で稼いで人脈づくりを始めました。

その中の1つに「教育長・学校長による未来の教育を考えるスクールプラットホーム」(略称スクールプラットホーム)っていう文部科学省のの若手官僚が、「教育改革のキーは現場にある」というふれこみで開催するイベントに参加したんです。

そこで知り合った方と定期的に情報交換するなかで、あるトークイベントを紹介してもらって参加しました。そのときに、元教員で労働問題に取り組んでいる藤川伸治さんとお話をする機会に恵まれて、自分の考えを伝えたところ、共感してくださったんです。そのあと、少しずつ人脈が広がっていって、先生の働き方改革のコンサルを専門にしている先生の幸せ研究所代表の澤田さんとつながることができました。

少しずつ人脈が広がっていくなかで、具体的に活動の場を広げたいと思うようになりました。それで、昨年まで勤務していた学校にお願いして「先生向けの働き方改革研修」を夏休み期間中にさせてもらえることになりました。

その研修が決まったことを澤田さんに報告したら「大阪の学校の研修会をしてみませんか? 」という提案をいただき、澤田さんがつくりあげていたワークショップを使わせてもらって、前任校と大阪の学校の2カ所で研修をすることになりました。

人のつながりで活動の場を切り拓いていったんですね!研修内容はどのようなものだったんでしょうか?

(働き方改革の研修で登壇時)

「働く時間を見直すための『 時間予算ワークショップ』」っていう名前の研修で、「時間」を「予算」と見立てます。この「予算に見立てた時間」をどう上手くやりくりするかという観点で自分たちの今の業務を見直しましょうという内容です。

具体的には、「1日の業務時間内に30分の余裕を作ってください」というテーマでブレストをしていきます。

①一日の業務を紙に書き出して、自分の業務を見える化します。
②30分を捻出するためのブレストをします。

ポイントは、1人で30分を捻出するのではなく、2人で30分を捻出するという考えにすることです。複数人で業務を工夫をして、業務のやり方を変えて時間を作るんです。

ただ単にそれだけなんですが、「仕事っていうのはこうやるもんだ」って思っていたことが、誰かとつながって意見交換することで、「あの仕事って実は無駄だよね」とか「こういう風に変えられるよね」って意見がバンバン出てくるんですよね!

研修を受けた先生からもらった感想で「未来の学校のことを話しているようで、とてもワクワクしました」という内容のものがありました。それを見たときに、「やっぱりここだな! 」って思いました。先生たちがワクワクできるような職場になってほしいし、それをつくっていく過程をサポートしたいなと強く思ったんです。

それからは先生向けの働き方改革の研修をしていく活動がメインになったんでしょうか?

実はまだ続きがありまして…。当時、ぼくは働き方改革の対象として、公立学校や教育委員会を想定していました。そんなときに、TFJのアラムナイ(修了生)が新渡戸文化学園(私立学校)で働いていて、直接話をする機会がありました。そこで、私立学校も働き方改革の対象にはなりうるなと思ったんです。

それで、自分の活動内容を説明させてもらう機会をもらってお話しにいきました。そうしたら、話しを聞いてくださった常務理事兼統括校長が「遠藤さんが考えていることは、うちの学校に必要なこと。コンサルとして外からやるんじゃなくて、先生やりながら内部で一緒にやりませんか? 」ってその場でおっしゃってくださったんですよ!

ぼく自身も、活動の主軸を教育に移したいなって思っていました。それに、新渡戸文化学園で働いている先生方が、ものすごく面白い人たちばかりだったことも魅力的でした。さらに、新渡戸文化学園がちょうど教育改革を進めていて、その方向性に「幸せをつくる人になろう」というのを掲げていたこと、そして、目指す子ども像が「自律型学習者の育成」だったことに共感した部分が大きかったんだと思います。これはもはや断る理由がないなと。

いまふり返ってみると、「教員の働き方改革を解決したい」って決めた2018年4月から、全部がつながってるなーって気がするんですよね。自分の意志が未来をつくるっていうのは、本当だなって。そして、本気でやりたいと思えることの種をもらったのは、フェロー時代に見たこと、感じたことです。

子どものために先生の働き方が良くなっていること

いまされている活動内容を具体的に教えていただけますか?

(新渡戸文化学園にて)

新渡戸文化学園での役割は、1/3くらい先生をしながら、残りの2/3を働き方改革や新たな取り組みを推進するというものでした。肩書は、統括校長補佐兼教諭です。

でも、今回の新型コロナウイルスの影響で、オンライン対応の推進役としてがんばっています。ホームページを作って課題を配信したり、子どもたちが交流できるZoomの会を設計したり、先生たちやご家庭とコミュニケーションを取りながら、毎日答えのない問いに対して向き合っているという感じですね。

がんばっているのは当然ぼくだけではなくて、チームで進めようという気持ちが高まっていると感じています。だからぼくの役割は、どれだけ先生たちの能力が発揮されるような場をつくれるかっていうことだと思っています。もちろん、その先には子供ためにということを常に考えています。だから、コロナの状況下にあっても、働き方改革の延長線上の仕事をしていると思っています。

これから何を意識して、どんなことを具現化したいと考えていますか?

これはぼくだけではなくて、新渡戸文化学園の先生がみんなミッションとして思っていることなんですけど…広くあまねく子どもたちが良い教育を受けられるような社会にしたいなって思っています。だから、そのモデルを新渡戸で作っていきたいです。

しかも、私立でお金があるところだからできるとか特殊な環境だからできるのではなくて、意志さえあればできるっていうようなモデルをつくって、それを日本全国でも実現化していきたいなって思っています。

じゃあ具体的にそれが何なのかはまだ全然わかんないんですけど、最終的には公教育、大きく言えば日本の教育が良くなっていくようなところに結びつけていければなと思っています。そして、それには「先生の働き方」っていうのが大きなキーワードになるんだろうなって思うんです。子どものために先生の働き方が良くなること

学校現場からの声

(学校法人新渡戸文化学園 理事長 平岩国泰さま)

遠藤先生は、新渡戸文化小学校において統括校長補佐に就いていただいています。教壇に立っていただくこともありますが、学校全体の学びの在り方、教員の存在や働き方、保護者や地域との協働などを総合的にデザインいただくことが最大のミッションです。職種は“学校デザイナー”とも言えます。

民間企業からTFJフェローとして教員を務められたご経験すべてが現在の仕事にいかされています。スピードがすごいですし、一方で先生方との丁寧なコミュニケーションを重ねて実行されています。就任当初より目覚ましい実行力を見せてくれています

遠藤先生のような人が日本中の小学校に入ってくれれば間違いなく現場は進化します。それこそが日本中の教育に求められていると感じています。

(編集後記)
「子どものために先生の働き方が良くなること」という言葉の中に、遠藤先生の子どもと先生への愛情を感じることができます。教員を経験したからこそ実感した教員の働き方。そして、それを変えることで、教育が良くなるという強い想いがいまの遠藤先生の原動力だと感じました。これからの遠藤先生の活動に目が離せません!

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