1
/
5

住空間のデジタルツイン『ROOV』で不動産業界のDXに挑む。スタイルポート誕生の軌跡とこれから

「不動産業界では本質的なデジタル活用が進んでいません。『ROOV』は不動産DXの壁を突き破るカギになるかもしれません」。そう語るのは、株式会社スタイルポート代表取締役の間所暁彦です。スタイルポートを起業するに至った経緯や、ROOVが生まれた背景、未来に向けて実現したい想いを、たっぷり聞きました。

「求められるほう」に向けてがむしゃらに進んだら、起業の道が拓けた

——はじめに、スタイルポートを起業するまでの経歴を教えてください。

大学時代、就活で第一志望のマスコミから内定が出ず、他にやりたいことが思いつかずにいました。そんなとき、父が勤めていた名古屋にあるゼネコンの社長から熱心に誘われて、「やりたいことがないなら、必要とされる場所で働こう」という気持ちで就職したんです。

入社後は1年ほど実務経験を積み、その後は経営企画に携わっていました。社内公募で早稲田大学ビジネススクールに入学したのは3年が経過した頃です。そこで現在のスタイルポート取締役の中條と出会いました。

ビジネススクール修了後はゼネコンへ戻って、オフィスビルなど民間建築工事の営業や開発事業部での業務に携わりました。そこで不動産ビジネスの知見を深めて、不動産証券化の新規事業を企画。この事業を運用する会社に出向して、J-REITの組成とIPOの準備に取り組みました。

その後証券会社に転職したんですが、1社目のゼネコンのグループ会社のデベロッパーを強化したいので戻ってこないかと打診されました。そこでゼネコンに戻り、グループ会社の開発担当取締役に就任しました。

——そんな中、何がきっかけで起業に至ったのでしょうか。

取引先のいろんな経営者の方から、独立をすすめられるようになったんです。取締役として部門の業績も成長軌道に乗り、自分なしでも現場が回るのではないかと感じていた2011年7月、半ばなりゆきのような形で「スタイルリンク」という社名で起業しました。

当時、取締役の中條やマーケティング担当取締役の堀井、プロダクト・モデリング担当取締役の中村、当時のCTOの阿部らコアな創業メンバーは、一人ずつ口説いて回ってジョインしてもらいました。ビジネススクール時代やデベロッパー時代に出会った、熱量の高いメンバーばかりですね。

こうして会社は初年度から順調に立ち上がり、一般的な中古不動産の仲介、買取再販や新築マンションの品質検査、内覧立会など、業界ど真ん中の路線で規模を拡大していきました。

シリコンバレーの技術を日本の不動産市場にあわせて誕生したROOV

——住空間のデジタルツインROOVの構想はどのように生まれたのでしょう。

独立から5年ほどを経て名古屋から東京に進出するときに、前職で縁のあった会社から「一緒に不動産×ITの新規事業を立ち上げないか」とオファーがあったんです。これはチャンスだと思って会社を合併、新会社の社長に就任しました。

当時注目していたのが、シリコンバレーの投資家に紹介された不動産テックのサービス「matterport」でした。レーザーで建物室内の座標を測量して、そこに室内で撮った写真を合成することで、Web上で室内を歩き回ることができるサービスです。

これはものすごく画期的なサービスだと思ったんですが、同時に日本にはなじまないのではないかと思いました。アメリカでは中古マンションを売り出す場合、居住中の写真でもお構いなく撮影して公開するんですよ。むしろ豪華な家具などが写っていて、それにバリューが付くくらい。ですが、日本ではプライバシーを外に出したくない人が多いので、家具など何もない状態を見せる必要がある。

そうした事情から、日本の場合はフルCGで見せなければ難しそうだと感じたので、matterportに解析の仕組みだけ提供してもらい、ROOVの原型を開発しました。

会社合併後はスタイルリンクという社名を「スタイルポート」に変更していますが、これはROOVの発想のもととなったmatterportの「ポート」と「スタイルリンク」をあわせたものです。もう1つ、「ライフスタイルをトランスポート」するようなサービスを展開したいという思いも込められています。

世の中のほぼすべての商品はEC化されましたが、不動産だけは取り残されていて、本質的な意味でのデジタル活用が進んでいません。VRやデジタルツインの技術が、不動産DXの最後の壁を突破するカギになるのではないか。

そう考えて、図面をクリックするだけで、いつでもどこでも簡単に室内VRに入って空間を疑似体験できるROOVを実現させたいと思いました。

——実際に、ROOVでどのようにデジタルツインが生成されるのでしょうか。

生成の仕方は大きく2つあります。1つは、物件の図面を受け取って、それを我々の製作チームが半分手づくり、半分自動で生成します。自動の部分は自作の制作ツールを活用していて、必要な情報だけ入力すると自動的に立体(3D)になるんです。

もう1つが、図面から完全に自動でデジタルツインを生成する方法。戸建ての住宅については、ほとんどのハウスメーカーが図面を3Dで描くので、このデータをROOVでそのまま変換するとデジタルツインが生成できます。

2つ目の方法では、たとえば打ち合わせしたデータをスタイルポートのサーバに送ると、自動的に3Dに変換して端末に返ってきます。現場では3Dの中をぐるぐる歩き回りながら、「ここの高さをもう少し高くして」とか「色を変えて」といったコミュニケーションができます。

顧客体験を最優先に、難易度の高い開発にチャレンジ

——スタイルポートのミッション「空間の選択に伴う後悔をゼロにする。」に込めた想いを教えてください。

このミッションを目にするたびに思い出すエピソードがあります。

新築マンションを買う人は図面で間取りを見て契約をして、マンションができて初めて部屋の中を内覧できます。

私が内覧会に立ち会った老夫婦で、それまで住んでいた戸建てを売って新築マンションを買われた方がいらっしゃいました。図面では「これくらいの間取りがあれば十分だ」と思われていたものの、実際に物件が完成し、部屋に入った瞬間に「あまりにも狭い」と感じて、奥さまが泣き出してしまったことがあったんです。

あのときの旦那さまの何とも言えないバツの悪そうな顔が強烈に残っていて、購入前・購入後の情報ギャップを解消できるサービスができないかと考えました。

新築マンションの3DCG画像や360°パノラマ画像では、売主にとっていわゆる「映える」箇所を見せるんですが、購入者は売主が見せたくない部分こそ見たい。自由に歩き回って細かいところも確認ができないと、物件を正しく理解・判断することはできません。

売る側は情報を正しく伝えて、買う側はそれを正しく理解して、トラブルなく売買が成立する。そんな市場を作りたいという想いが、ミッションの背景にあります。

インテリアやリフォーム、設計など、人生において空間選択に伴う意思決定は意外と多く、ビジネス的にも応用範囲が広いんです。ROOVのデータは自分の部屋のデジタルツインなので、その中に家具を配置して見ることができます。

ほかにも、たとえば物流センターは不便な場所にあるので、倉庫を借りるために現地に下見に行こうとすると1日かかってしまうことが少なくありません。もしも事前にデジタルツインにしたものをオンラインでチェックできれば、出張が減りますよね。

——3つの「Our Value」が生まれた背景を教えてください。

創業の原点で、あらゆるアクションの根拠となる「Be Innovative」、出身業界もバックボーンもバラバラな中途採用者をまとめるために設けた「Play Fair」、常に全体最適を最優先に活動を律していく「All For One」。

これらは、取締役の中條と相談して決めました。会社の成り立ち、ビジネスの特徴、組織の成熟度やワークスタイルなどを念頭において作っています。

3つのバリューのうち「Be Innovative」を体現するエピソードとして、スタイルポートではエンジン自体を自社で開発しています。

室内3DモデルをWeb上で動かすには、UnityやUnreal Engineといった既存の海外製ゲームエンジンを使うことが多いのが現状です。なぜなら、すでに普及している技術を用いるほうがコストメリットが大きいからです。

でも、ゲームエンジンは画質をきれいに見せたり、特殊効果を達成させたりするために複雑な計算をしているため、ハイスペックなゲーミングマシンでないとデータ量が重すぎて動かせないという課題がありました。

ROOVは、住宅販売で利用することを念頭にWeb上で完結するという目標があったので、「アプリ不要で、スマホでもサクサク動かすことができる」という譲れない開発要件がありました。

プラットフォーム頼みで必要なUI/UXを自社で作ることができないなら、Unityのようなエンジン部分に該当するものをいちから自作してはどうか。そう考えて、エンジン自体を自社開発することにしたんです。

一歩間違えば車輪の再発明になりかねませんが、ビジョンを実現させるためには他に選択肢がないと決意して、開発に踏み切りました。顧客体験を最優先に、難易度の高い開発にチャレンジするのは、Be InnovativeのValueを重要視しているからです。

この独自開発エンジンは、画質や外部データとの互換性を考慮して、再開発することになりました。2023年の年明けにデビューする予定です。リアルの室内空間とオンライン上のデジタルツインの区別がほとんどない世界を作りたい。今後もそのためのエンジンを開発していく可能性は十分あります。

不動産ビジネスの効率化に少数精鋭で挑む

——今後に向けて、課題に感じていることはありますか?

1つは、市場の拡大です。新築マンション市場の接客支援SaaSは2〜3つ競合がありますが、
現地に行かなくてもWeb上で室内空間が見られるROOVのようなサービスはオンリーワンといえるでしょう。

ですが、マンション市場は長期的には縮小していくため、マンション以外の市場にも展開していく必要があると考えています。建設・不動産市場には、3Dモデリング、デジタルツインによってビジネスを効率化できる余地は大いにあります。

もう1つの課題は、組織です。急増するオーダーに対して、組織を肥大化させずにどう応えていくか。組織が急拡大すると、マネジメント上の問題も発生しがちです。今後も少数精鋭をキープしながらグロースを実現していく方針です。

——スタイルポートとして、どんな未来を目指しているか、教えてください。

不動産購入や住宅建築といった、実際に対面して濃密な商談をしないと販売が難しいとされてきた常識を、3D+Webの技術で革新していきたいですね。究極的にはリアルでの住宅購入と同水準の体験価値を、オンラインで提供し、デジタルならではの利便性を積み上げていきたいと考えています。

そのためには独自に保有している技術を水平展開して、新領域へのトライ&エラーをスピード感を持って繰り出していきます。

具体的には、営業活動から設計、建築につながる広範囲のフローをサポートできる戸建住宅向けのVRソリューションをローンチしようと考えています。これは不動産+建設テックにまたがる、ポテンシャルの高いサービスになるでしょう。

もう1つ、2023年年明けにリリース予定の新エンジンは、大型空間のデータを超軽量で操作することができます。これにより、物流施設、スタジアムのような大規模空間のデジタルツインもサービス提供ができるようになります。

たとえば、スタジアムのデジタルツインをROOVで作れば、「3階のこの席からステージがどう見えるか」がわかるようになる。「アリーナ席の何列目のこの席からはこう見える」というのもすべてわかるので、チケット購入時の参考にしてもらうことができます。

今後も「現場に行かなければ検証できないが、コストと時間の負担が大きい」というペインを解決できるサービスを育てていきたいですね。

株式会社スタイルポートでは一緒に働く仲間を募集しています
1 いいね!
1 いいね!

同じタグの記事

今週のランキング

遠藤 絢子さんにいいねを伝えよう
遠藤 絢子さんや会社があなたに興味を持つかも