※こちらの記事は、STRACT公式noteにて掲載した記事の転載です。
はじめまして。株式会社STRACT 代表取締役社長の伊藤 輝(いとうひかる)です。事業としてショッピングアシストアプリのPLUG(プラグ)を提供しています。
このnoteは初投稿になるわけですが、自己紹介に加え、STRACTを創業するまでの過去、現在、そして未来について赤裸々に書いてみたいと思います。これまでスタートアップとしてはステルスを続けてきたSTRACTですが、今後のビジョンを実現するためにも、私自身やSTRACT、そしてPLUGについてぜひ深く知っていただき、少しでも興味を持っていただけたら幸いです。
株式会社STRACT 代表取締役社長
伊藤 輝
1995年生まれ。北海道出身。ソフトウェアエンジニア。 8歳より電子工作・プログラミングを始め、14歳から自作ソフトウェアの収益化、15歳からモバイルアプリの開発を始める。個人事業として開発していた音楽アプリのヒットを契機に、慶應義塾大学在学中の2017年、株式会社STRACTを法人成りにより設立。開発したアプリはシリーズ累計国内500万DLを達成。事業売却後、2022年よりショッピングアシストアプリ「PLUG (プラグ)」を開発。大学の研究室ではユーザインタフェース(実世界インタフェース)の研究に従事。IoTデバイス「MagicKnock」を開発。 会社HPより
目次
前座: PLUGについて
ソフトウェア・エンジニアリングとの出会い
ユーザインタフェースの気付き
STRACT創業のきっかけと初期
2,000億円を調達するために
PLUG誕生のきっかけ
リリース後と正式リリースまで
転機となったIVS2022 LAUNCHPAD NAHAと初めてのエクイティファイナンス
事業の成長と、PLUGというインタフェースが創る未来
ユーザーとEコマースの間の「エージェント」という概念
シリーズA 1st Close 10.3億円の資金調達実施
最後に、採用・組織について
前座: PLUGについて
自己紹介やSTRACTについて読んでもらう前に、そもそもSTRACTの事業であるPLUGについて、とても簡潔にまとまった7分の動画があるので、もし宜しければ見ていただきたいです。それから読んでいただけるとよりメッセージが伝わるような気がします。
ソフトウェア・エンジニアリングとの出会い
私は会社の代表をしていますが、同時に現役のソフトウェアエンジニアでもあります。幼少期(小学校中学年くらい)に電子工作に触れて以来、マイコンやソフトウェア、インターネットを使ったものづくりに没頭しています。
一番最初に触れた電子工作は、東急ハンズとかで売っていたような電子工作キットで、そこからハンダゴテや回路を組み立てることを覚えていきました。最初のうちは、自分が作ったものを見て周りが驚く様が楽しかったですが、小学5年生のときに公開した電子掲示板が自分のものづくりに対する価値観を変えたような気がします。
これはこの前オフィスで撮影のためにわざとらしく作り始めた謎回路です(笑)
最近はあまりやっていませんが、こういう電子工作をしていました。
当時の小学生は携帯電話を所有することは今ほど一般的ではなく、放課後公園で遊んだらそのまま帰って、あとは各々寝るだけ、みたいな感じでした。携帯電話は持っていませんでしたが、みんな家にパソコンはありました。私がクラスメイトに公開した電子掲示板は、CGIでできたフリーのBBSプログラムを改変した簡易なものでしたが、確実に当時の私たち小学生の生活を一変させました。公園から帰った後も家のPCからBBSにアクセスし、さっきの仲間とチャットで遊びの続きができるようになったのです。これは現在だとLINEとかもあるので当たり前かもしれませんが、当時の小学生にとっては革命であり、何より作り手としてそれを目の当たりにしていたのですが、そこにはインターネット上の「新しいクラスメイトの社会」が生まれており、さまざまな問題も発生しました。(荒らし・いじめなど)
作り手としてそれを目の当たりにしたこの経験は、私にとって「人から反応を得るものづくり」から「人々の生活を変えるものづくり」へと意識をシフトさせるきっかけとなり、現在のものづくりへの姿勢や価値観の基盤を築く大きな原体験となった気がします。
中学時代は、当時流行っていたプログラミング言語であるPHPを活用してさまざまなネットサービスを量産していました。その中でも自動リンク収集機能を内包したアンテナサイトは数百万UUという大きなトラフィックを生み、当時は銀行口座を作れなかったのでMicroAdのようなクリック保証型アドネットワーク広告の売り上げをPeXのようなポイント交換サービスでEdyに変換してガラケーにチャージして使っていたのを覚えています。このときから、ソフトウェアの収益化、つまりはビジネス感覚とその魅力に気づいていきました。
高校入学と同時に、時代はスマートフォンへと移り変わり、私はiPhoneをはじめとするモバイルアプリの開発に没頭しました。特に、海外でブームとなっていた洗練されたアプリデザインをPinterestなどで眺め、それを模倣しつつ実装していく作業が大好きでした。振り返れば、iOSは初期段階から驚くほど完成度が高く、今でもその先進性には感慨深いものがあります。また、当時はWeb制作を手掛けていた地元の先輩のオフィス(実際はアパートでしたが)に出入りし、プロダクトについて黙々と考え、議論し、そして形にしていく日々を過ごしていました。その時間には、現在のスタートアップのような熱気とクリエイティブな雰囲気が確かに存在しており、私はその環境に大きな刺激を受けていました。今でもこのときのメンバーとは仕事を共にすることがあります。
高校時代の溜まり場だった札幌のオフィス(アパート)
高校時代、さくらインターネットの田中社長と(サービスのホスティングでお世話になっていました)
ユーザインタフェースの気付き
学生時代のこれらの経験を通じて、自分の中でさまざまな感覚の基礎が築かれたと感じています。しかし、ずっと心に引っかかっていたことがありました。
「iPodに音楽を入れる方法を教えて」「パソコンが壊れた(フリーズしただけ)」「ヤフオクの使い方がわからない」などPCオタクだった私にとっては割と簡単なことに親や兄弟、周りの友人たちが当然のように皆躓いているということでした。そもそも「パソコンが得意だから」みたいに思われているのもピンときていませんでした。でも、ちゃんと説明するとほとんどの人が使えるようになり、感謝されるわけです。
そこで気づいたのは、技術そのもののポテンシャルと、ユーザー体験の間には明確なギャップ(あるいはハードル)が存在するということでした。
逆に言うと、そのギャップを埋めてあげるだけで、誰でもコンピュータをはじめとした技術を使いこなせる価値になるのだと気づき、以降、私のものづくりは、「誰でも簡単に使いこなせる」ということを念頭に設計するようになります。
一見、当たり前のように思えるかもしれません。しかし、実際には「使いやすさにこだわる」という姿勢は、意外にも世の中で十分に徹底されていないのです。
そのギャップを埋めるソフトウェアの開発に取り組んでいた高校時代、「ユーザインタフェース」という言葉に出会います。
ユーザインタフェースとは、ユーザと計算機の間に存在する「接点」のことです。つまり、それは技術とユーザとの距離を示します。
ちょっとしたシンプルな工夫で劇的に便利になるような伊東家の食卓のライフハック的なイメージがわかりやすいかもしれません。
どんなに優れた技術であっても、それが誰でも使える形になっていなければ、ほとんど意味を持たない──そう考えていた私にとって、この「インタフェース」という言葉はまさにその考えを的確に表現するものでした。
このときの想いは、人生のミッションとしても、会社のミッションとしても変わらず持ち続けています。
このユーザインタフェースの思慮を深め、発明できるような学びを得るにはどうしたらよいか、ということで調べた結果、慶應義塾大学SFCの増井俊之研究室に辿り着きます。増井先生は私にとって師匠とも呼べる存在です。iPhoneのフリック入力をSteve Jobsのもとで発明し、さらにガラケーの予測変換システムを開発した、まさに偉大な研究者です。(スタートアップ界隈では、HelpfeelやGyazo(旧Nota)の発明者として有名かもしれません)
興味深いのは、フリック入力にしても予測変換にしても、技術そのものはシンプルで、必ずしも難解なものではないという点です。重要なのは、発想力。その発想について、増井先生は「コロンブス指数」と名付けて提唱していました。この概念について詳しく知りたい方は、ぜひこちらの記事をご覧ください。
慶應義塾大学に入学後、初めて研究室を訪ねた際に、増井先生から「お風呂でプログラミングしたくない?」と言われたときは全く意味がわからず困惑したスタートでしたが、そこから全世界インタフェースデザイン(≒ユビキタスコンピューティング)の面白さにどっぷりと浸かり、4年間にわたってインタフェースの可能性と向き合い、既成概念を次々と壊していく経験を重ねました。
その集大成として、音響信号解析とマイコン技術を活用し、簡単な「ノック」という動作だけでさまざまな家電やテレビ内のコンテンツを操作できるIoTデバイス「MagicKnock」を開発しました。このデバイスは、複雑で煩わしい既存のリモコンを置き換える、新しい体験を提供するものでした。
MagicKnockの写真
大学の研究室にて
MagicKnock - 魔法のように、あらゆるものをノックでコントロールできる実世界指向インタフェース魔法のように、あらゆるものをノックでコントロールできる実世界指向インタフェースmagicknock.com
STRACT創業のきっかけと初期
大学2年生のとき、次に聴きたい音楽トラックを推薦する「音楽推薦エンジン」を作りたいと考えました。その実現に向けて、リアルな音楽視聴行動データを推薦エンジンの学習に活用することを目的に開発したAndroidの音楽プレイヤーアプリが、予想外の形でヒットすることになります。(残念ながら、推薦エンジン自体はあまり満足のいくものにはなりませんでしたが。)
ヒットの理由はシンプルでした。「誰でも簡単に迷わず使える」設計に徹底的にこだわったからです。ヒットを予想していたわけではありませんでしたが、サブスクリプション型の音楽アプリが台頭する前の時期で、意外とシンプルで即座に使える手軽なアプリが市場にはなかったのかもしれません。その結果、このアプリは国内累計500万ダウンロードを達成するまでに成長しました。
アプリの収益増に伴い、当時「Leapcast」という名前で登記していた個人事業のPLを引き継ぐ形で法人成りし、2017年に登記し直したのが、現在の株式会社STRACTです
創業時のオフィスの様子
創業後、しばらく一人社長状態の会社でしたが、アジャイルなアプリの改善、アドテク技術などを経験し、当時は利益も大きく出ていたため、「誰でも使いこなせる」ことをテーマにさまざまな事業に挑戦してきました。
その中で、デーティングアプリ「dately」はミドルヒットを記録しました。ただし、この事業は市場構造的にプロダクトよりもマーケティングに依存しすぎており、事業のグロースポイントが偏っていたため、早い段階で事業譲渡を決断しました。
STRACTは創業から事業譲渡までの約5年間、黒字経営を維持し、健全な運営を続けていました。一見すると順風満帆に見えますが、構造的に成長し続ける事業を築けたわけではありませんでした。事業譲渡後、再び一人となった会社で、次の挑戦について黙々と考える日々を過ごしました。この時期については、取締役大川が触れています。
2,000億円を調達するために
インターフェースの可能性を考えるとき、その題材は必ずしもソフトウェアやインターネットに限定されるものではないと思います。実際、大学時代にはハードウェアの開発に取り組み、リモコンやスマートフォンを淘汰するような新しい発想を模索していました。また、ディープテックに代表される次世代基礎技術も、誰でも使える形でインタフェースとして具現化されれば、人類の文明そのものを再定義する可能性を大いに秘めているのではないでしょうか。
そもそも、人類の歴史は数百万年にわたります。つい最近まで、狩猟で得た動物を焼いて食べることが当たり前だったにもかかわらず、このわずか100年ほどで文明は驚異的な進化を遂げました。農業革命、産業革命、そして現在進行形の情報革命──これらの転換点を経て、トランジスタとインターネットの発明によって人間の生産性が飛躍的に向上した、まさに歴史的なタイミングに私たちは生まれているのです。
さらに興味深いのは、日本という特殊な環境です。この国は文化や言語的な要因から、いわば「ガラパゴス化」した経済大国であり、国外のサービスが参入しにくい市場特性を持っています。その結果、競合が少ない独自の競争環境が形成されているのです。この環境下で新しいインターフェースや技術を形にすることには、他にはない可能性が広がっていると感じています。
孫正義さんの言葉を借りるわけではありませんが、「これは、事を成さずに死ねないな」という思いを、今でも強く抱いています。そして、事を成すためには、当然ながら100年単位の戦いを覚悟しなければならないと考えています。
つまり、次の時代を支える100年続くインフラを築き上げることが不可欠です。今の時代だと、自動運転やLLM(大規模言語モデル)といった技術が次世代のインフラとなる可能性が高いと感じています。10年後はおそらく、衛星からのリモートセンシングと通信環境、およびそれらエコシステムを利活用したソフトウェアが次のインフラ候補として台頭しチャンスが訪れるのではないかな、と思っています。
PLUGのロゴがなぜロケットなのか。実は宇宙・衛星通信を次に社会実装したいインフラとSTRACTが捉えているからです。
PLUGのロゴに秘められた本当の想い
私たちは、技術そのものを新たに生み出すのではなく、既に世の中で発明された素晴らしい技術を、誰でも使いこなせる形に社会実装すること(=インターフェースを作る)でインフラを構築していきたいと考えています。そういう意味では、ディープテック企業が目指す山と大きな違いはありません。異なるのは、同じ山を「どのルートで登るか」というアプローチの違いにすぎないのかもしれません。
では、次世代のインフラを築き、ビジョナリーカンパニーとなるには、一体どれほどの資金が必要なのか。直近の例を挙げれば、ChatGPT(LLM)が数千億円規模の資金を集めて実装されたように、何を成すにしても、数千億円規模の資金が不可欠なのだと実感します。
そこで、数千億円規模の資金を調達するにはどうすればよいのかを考えます。当然ながら、そのような資金を市場から集めるためには、企業価値がそれ以上である必要があります。では、実際にその規模の企業価値を持つ会社が、日本のインターネット企業でどれほど存在するのかを整理すると、10年から20年という期間でそれを達成している企業はごくわずかです。たとえば、ZOZOやエムスリーなど、十数社程度に限られるのが現状です。
つまり、短期間でそのレベルの企業価値をインターネット・ソフトウェアセクターで構築しようとすると、マーケットも当然限られてきます。
そんな中、私たちが注目したのが「カカクコム」のマーケットです。Eコマースやインターネット広告の中心に位置する市場であり、2024年11月現在、その時価総額は5000億円を超えています。
カカクコムは「価格.com」「食べログ」「求人ボックス」などを運営し、まさにコマースの入り口となる存在です。その業績は素晴らしいものですが、モバイルネイティブかつデータとAIが主導する現在の時代においては、さらに新しいアプローチによって、ユーザー体験そのものを根本から変えることができるのではないかとずっと考えていました。
Eコマースやインターネット広告の巨大かつ力強い成長性
STRACTが現在開発している「PLUG」というアプリは、まさに「どうすれば10年以内に2000億円を調達できる企業を創れるか」という観点から始まったプロジェクトです。この挑戦は、これからのコマース市場に新しい価値を生み出す第一歩だと確信しています。
PLUG誕生のきっかけ
PLUGは、米国で大人気の「Honey」に大きな影響を受けています。Honeyは、数千万人のMAU(月間利用者数)を誇る巨大なブラウザ拡張サービスであり、2020年には約4300億円という巨額でPayPalに買収されたプロダクトです。Honeyについての詳細は、株主であるCoral Capitalの記事をご覧ください。
海外プロダクト好きだった私は、以前からHoneyを注視しており、日本でも同様のモデルを展開できないかと考えてきました。しかし、HoneyはPC版Chromeを中心としたブラウザ拡張機能を基盤としており、米国と日本ではChrome拡張の普及率に大きなギャップがあります。また、日本のEコマース市場がモバイルシフトを進めている現状を踏まえると、従来の形でスケールさせるのは難しいのではないかという懸念がありました。
さらに、日本では米国ほどクーポンコードの文化が根付いておらず、Honeyのモデルをそのまま輸入するのはカルチャーフィットしないことも明らかでした。
ただし、うまく実現できれば、すべてのEコマースのユーザー体験をユーザー側のソリューションとして根底から丸ごと改革し、大きな市場のど真ん中に切り込める可能性があるので、頭の片隅に常にアイデアをあたためていましたし、もちろん、先ほどのビジョナリーカンパニーの礎になる事業となるポテンシャルも想像できていました。(PLUGがどのように大きな市場に切り込んで変革を起こせるのかについては、この記事で後述します。)
そんな中、2021年のWWDCで、iOSのデフォルトブラウザであるSafariにブラウザ拡張機能(正しくは機能拡張)が解放されることが発表されました。この瞬間、私はそれまで取り組んでいたすべての業務・事業を一旦ストップし、日本版Honeyのプロトタイプ開発に着手することを決意します。すべてのSlack通知やメッセージをオフにし、引きこもって設計と実装に没頭しました。
そのとき伊藤忠商事にいながら私の事業アイデアの壁打ち相手になってくれていた(というか無償でユーザインタビューやPoCなど動いてくれていた)、現STRACT取締役大川にはいきなり方向転換する旨をLoomで一方的に送り付け、取り組んでいた事業を放り投げ、大変申し訳なかったと思っています。(今では笑い話ですが、当時は「何言ってんのこいつ?」くらいに思われていたと思います)
そんなこんなで、2021年の11月に、PLUGがベータ版としてAppStoreに登場します。この時点では、価格比較の機能しかありませんでした。しかもすごいとりあえず感のあるボロボロの状態です。当時を思い返すと、一刻も早く世の中に出すことしか考えてなかったような気がします。
PLUGを初めてAppStoreに公開する瞬間@大川宅にて
リリース時に写真を撮る大川
リリース後と正式リリースまで
PLUGのベータ版リリース後、私たちは日々、検証と改善、そしてマーケティングのテストを繰り返しました。絶対的な自信を持って取り組んでいましたが、ここで最初の壁にぶつかります──想定していたコストでユーザーを獲得できなかったのです。コンセプトや機能に問題があるのか、それとも別の要因なのか。葛藤しながら、大川と共に「これではどうか」「あれではどうか」と、試行錯誤を重ねていたのを覚えています。
正直に言うと、2022年2月の時点で、自分の中で設定していた撤退ラインに到達しそうだと感じ、別の道を模索すべきではないかと思い始めていました。
しかし、その矢先、マーケティングの新しいフォーマットを発見し、これが驚くほど大きな成功を収めました。問題はプロダクトやコンセプト自体ではなく、チャネルや表現方法にあったのです。この経験を通じて、C向けサービスはPMF(プロダクトマーケットフィット)を達成すれば一気に成長すると言われる話を、まさに体感しました。
詳細については、アプリマーケティング研究所さんに取材いただいた記事をご覧ください。
「これならいける」という確信を得た私は、ユーザー獲得に本格的に着手するタイミングでPLUGを正式リリースすることにしました。それが2022年3月のことです。
転機となったIVS2022 LAUNCHPAD NAHAと初めてのエクイティファイナンス
2022年7月、STRACTはPLUG事業で、IVS2022 LAUNCHPAD NAHAに登壇しました。LAUNCHPADはスタートアップの登竜門のような伝説的なイベントで、私は高校生のころからファンとして愛聴し、スタートアップに熱狂するきっかけともなっていました。
LAUNCHPADは通常エクイティ資金調達済みのスタートアップがさらなる次のステージへ進むために登壇することが多く、当時の私たちのようにエクイティ調達なしの経営スタイルで臨むのは珍しかったと思います。実際、具体的にエクイティファイナンスを検討していたわけではありませんでした。
しかし、これまでの事業で築き上げたキャッシュは、事業譲渡後のさまざまな検証や、PLUGの初期立ち上げに次々と投入され、最終的には一時的に債務超過の状態にまで突入していました。それでも、PLUGへの投資を止めるという選択肢はありませんでした。
大川とは「もしLAUNCHPADに出場できたら、本格的にエクイティファイナンスを始めよう」と話していました。そのため、狭き門であるLAUNCHPADへの出場が決まったときには、喜びとともに、一つの覚悟が定まった瞬間でもありました。
LAUNCHPADピッチ時の様子。当時史上最大の参加人数でした
PLUGカラーのブルーで揃えて、気合い入ってました。
このアロハポーズは、尊敬する新庄剛志の決めポーズなんですが、当時日ハムの監督に就任しこともあり、個人的にブームになっていました。
ちなみに、PLUGのカラーがなぜブルーなのかは、当然「信頼」を示すブルーという意味もありますが、「日ハムの新チームカラーがブルーになったから」、というのもあります(今だから言えますが)
「IVS2022 LAUNCHPAD NAHA」は、STRACTにとって大きな転機となる出会いの場となりました。その中でも特に印象深いのが、シードラウンドのリード投資家であるCoral CapitalのJamesとの出会いです。Jamesとは、LAUNCHPAD登壇後に那覇の屋台村か何かの路上で友人を介して繋いでもらいました。そのとき、私は少し酔っていたこともあって、ひたすら宇宙の話ばかりしていたのを覚えています。(なぜ宇宙の話をしていたのかについては、上記のインフラの話の通りです。)しかし、Jamesはその話を楽しんでくれ、さらにHoneyに関する深い事前理解もあったため、10日後にはシードラウンドのリード投資としてタームシートを提示いただきました。
また、他にも多くの重要な出会いがありました。LAUNCHPADを運営するHeadline Asia、LAUNCHPADのサイドイベントで出会ったNew Commerce Ventures、LAUNCHPADの審査員であったTybourne Capital Managementの持田さん、さらに現地でプレゼンを見てくださったPaidyの杉江社長からも投資を決めていただきました。
結果として、シードラウンドでは合計3.1億円の資金を調達することができました。
シード投資オファーをいただいたスタバテラスにて、CoralCapital Jamesと。暑すぎました。
こうして振り返ると、IVS LAUNCHPADの影響力がいかに大きいかがよくわかります。シード期のスタートアップにとって、熱狂の中心に飛び込むことは大きな可能性を広げる鍵となるでしょう。ぜひ挑戦してみることをお勧めします。
事業の成長と、PLUGというインタフェースが創る未来
初めてのエクイティファイナンスで軍資金を調達した私たちは、いよいよ本格的にスタートアップの仲間入りを果たしました。創業以来初めて赤字を計上し、ずっと黒字が当たり前だった私にとっては少なからず衝撃的でしたが、この変化を受け入れ、次々と脱皮を重ねて成長していく覚悟を決めました。
事業は比較的順調に成長を続けていましたが、組織の課題、理想と現実のギャップ、それに伴う焦りや苛立ちなど、さまざまな困難に直面しました。特に、組織に関する課題には多くの苦しみを伴いました。(今後どこかでしっかり振り返りを発信できればと思っています。)
紆余曲折を経て、2024年11月現在、PLUGは累計130万ダウンロードを突破し、週間アクティブユーザーは45万人を超えました。また、PLUG経由の流通総額は年間換算で100億円を超えるペースに成長。提携先のECサイトも国内で1100社を超え、前年比3倍以上の成長を遂げています。
130万DLを突破しています。
PLUGについては、よく「価格比較アプリ」や「キャッシュバックアプリ」として括られることがありますが、それは全然違います。PLUGは「ショッピングアシストアプリ」です。PLUGが秘める可能性やその具現化については、この記事の上部にあるICCカタパルト動画に簡潔にまとめられていますが、改めて詳しくお話しさせてください
ユーザーとEコマースの間の「エージェント」という概念
PLUGは、ユーザーと世界中のEコマースサイトの間に立つ「エージェント」です。人材や不動産にエージェントがいるように、同じような役割を想像してください。つまり、世界中のEコマースサイトから、ユーザーに代わって最適なディール(商取引)を探し出し、それを最適化してユーザーに届ける存在です。
PLUGはユーザーとECサイトの間に存在する「エージェント」です。
ここで重要なのは、「ECサイト側は何もする必要がない」という点です。一般的に、ECサイトの体験を向上させると聞くと、ShopifyやKARTE、チャネルトークのように、ECサイト側にツールを組み込んで改善する方法をイメージするかもしれません。
しかし、PLUGの発想はその逆です。ユーザー側にツールを組み込むことで、ゲートウェイの役割を果たし、すべてのECサイトを一括でアップデートし、より便利な体験を提供するのです。
このアプローチは大胆かもしれませんが、PLUGが目指すのは、ユーザー目線でEコマース全体を再構築すること。そのための仕組みとして、この「エージェント」の考え方が核となっています。
では、この「エージェント」の役割を果たすためには、どうすれば良いのか。その第一歩として、私たちはブラウザ拡張機能を選択し、このポジションを実現しました。具体的には、ユーザーがブラウザ上で行う購買や購買検討の行動を、自動的に最適化する仕組みを提供しています。
現在提供している「PLUGベストプライス」や「PLUGオファー」は、このエージェント機能のほんの一部に過ぎません。
PLUGが目指す未来には、さらに多くの展開が控えています。以下は、現在公開している今後の展開の一部です。
「PLUGキープ」は、商品版のPinterestとも呼べる機能で、インターネット上のあらゆる商品をワンタップで「キープ」できる仕組みです。
キープとはお気に入りに近い概念で、その商品の価格が下がったり、セールが始まったり、クーポンが取得可能になったりした際に通知が届く仕組みです。購買検討段階で非常に役立つエージェント機能といえるでしょう。
さらに、このキープ機能は物販に限らず、ホテルや航空券、不動産、車、美容など、インターネット上で申し込みや契約といったトランザクションが発生するさまざまな商品に対応していきます。
キープ機能のイメージUI
この機能の革新的な点は、キープした商品に対して、ユーザーにパーソナライズされたオファーが届くことです。従来の広告は、ユーザーにとって一方的な情報提供にとどまりがちでした。しかし、PLUGキープの登場により、ユーザーが自ら興味のフラグを立て、それを基にPLUGがECサイトと交渉や比較を行い、最適なディールを作成して届けることが可能になります。これにより、広告が双方向性を持つようになり、インタラクティブな新しい形を実現します。
インタラクティブな広告の新しい形
さらに、この仕組みを活用すれば、これまで離脱してしまい追い切れなかったユーザーにもエージェントを介してオファーを届けることが可能になります。EC事業者は、本当に獲得したいユーザーに対して広告費を効率的にフォーカスできるのです。このプロセスがクロスドメインで横断的に機能する点は、まさに新しい発明と言えるでしょう。(近日リリース予定ですので、どうぞご期待ください!)
「PLUGあと払い」は、ECサイトでのクレジットカード決済を、PLUGがその場で発行するワンタイムバーチャルカードで代行し、すべてのECサイトであと払いを可能にする機能です。ECサイトにおける決済時のフリクションがもたらすCVR(コンバージョン率)の低下は非常に大きな課題です。この仕組みは、その課題をゼロに近づけることを目指しています。
「PLUGインシュアランス」は、旅行予約時のキャンセル保険や家電製品の修理保険をPLUGが提供することで、あらゆる大きなECでの買い物を安心して行える環境を実現します。
「PLUGショッピング」は、PLUGアプリを通じて世界中の商品を一括検索し、最も良いディールを見つけ、その場で購入できる仕組みです。ショッピング体験をさらに便利で効率的なものにします。
これらに加えて、PLUGはサジェスト機能やローカル市場へのアプローチなど、幅広い領域にユーザー側のエージェントとして切り込んでいきます。
まとめると、PLUG事業のTAM(総アドレス可能市場)に対するアプローチは、ホリゾンタルに広がる巨大なマーケットのそれぞれにおいて、ユーザーが触れる部分をバーティカルに切り取り、獲得していくモデルです。
しかし、これはマルチプロダクト戦略ではありません。すべてが「エージェント」という抽象化された概念に内包されており、ユーザー体験としてもサービス間にハードルがなく、シームレスに一体感を持って感じられる「ひとつのインタフェース」を提供します。
この仕組みが成り立つのは、PLUGがユーザーに信頼され、常に寄り添う存在であるからこそです。PLUGは、ユーザーのそばにいるエージェントとして、その信頼を基盤に革新を生み出し続けています。
こうして振り返ると、PLUGが秘めている可能性の大きさを感じていただけるのではないでしょうか。日々開発を進める中で、まるでGoogleやYahooをゼロから作り直しているような感覚を覚えています。
シリーズA 1st Close 10.3億円の資金調達実施
2024年11月、STRACTは創業以来2回目となるエクイティファイナンス、シリーズAの1st Closeで10.3億円の資金調達を実施しました。シードラウンドを含めると累計で13.4億円の資金を調達したことになります。
今回のラウンドでは、既存株主であるHeadline Asiaにリード投資をいただき、同じく既存株主のCoral Capital、さらに新規投資家としてDelight Venturesの3社にご支援をいただきました。
まずは、このラウンドを通じて力強くご支援いただいたすべての投資家の皆さまに、心より感謝申し上げます。
Headline Asiaは上記にもあるとおり、私のスタートアップの熱狂の原点およびSTRACTの転機のきっかけになったIVS LAUNCHPADの運営でもあり、シードで出資していただいてから各方面でさまざまなサポートをいただいておりました。特にAssociateの西島さんは、圧倒的な事業解像度・リサーチ力の上、PLUG事業の真価および可能性を最も理解していただいていると感じています。フラットかつ高い解像度目線感で、事業や戦略のディスカッションができる株主ほど起業家から見てありがたい存在はないと思います。
今回調達した資金は主に、PLUGの中核を担う「検索エンジン」および「推薦エンジン」の開発、計算機資源への投資、そしてインターフェースの研究開発に充てさせていただく予定です。
これらのエンジンについて、簡単に説明すると次のようなイメージです:
- 検索エンジン:世界中のオープンデータを構造化し、高速かつ直感的にファセット検索を可能にする技術。
- 推薦エンジン:ユーザーの行動や消費データなどのコンテキストを基に、個々人にパーソナライズされた最適なディールを生成する技術。
検索エンジンは、LLM(大規模言語モデル)のような機能をイメージしていただければと思います。
一方、推薦エンジンについては、推薦に有効なファーストパーティデータをモバイル文脈で活用できるプロダクトとして、PLUGは業界最大のポテンシャルを持っていると確信しています。この分野こそ、私たちが最大の価値を発揮できる投資対象だと考えています。
さらに、プロダクトやアルゴリズム、計算機資源への投資に加え、事業開発やマーケティングの強化にも注力していきます。これに伴い、採用活動にも一層力を入れていく予定です。
最後に、採用・組織について
ここまでビジョンを語ってきましたが、STRACTは現在、正社員7名という小規模な組織で構成されています。あえて筋肉質な少人数体制で進めてきたと言っても過言ではありません。
しかし、今回のシリーズAラウンドでの資金調達を機に、いわゆるステルスモードから脱し、大規模な広報活動を展開し始めました。これにより、採用や事業開発を含め、会社として外向きに攻める姿勢へとシフトしています。
広報用につくったPLUGくんのパネル。左がマーケ責任者の角田、右がCEO室長の山田
STRACTのバリューは3つです
- Dogfooding
- High! Standard.
- Be a Grand Maison
Dogfoodingはエンジニアの方なら聞いたことがある表現かもしれません。
私たちは、現時点で開発者自身が最もコアなユーザーです。命をかけて作り上げたプロダクトが、自分自身の生活も豊かにする──そんなプロダクトこそが魅力的だと思いませんか? だからこそ、プロダクトへの要求水準は高く、妥協は許しません。常にユーザーファーストを掲げ、自分自身が使いたいと思えないものは世に出さない。それがPLUGの開発哲学です。PLUGは、ほとんどすべての人が活用できる、ユーザーを選ばないプロダクトです。
自分が作ったもので、大切な人たちの生活を豊かで楽しいものにしてみませんか?
採用や会社カルチャーについては、STRACTの採用ページ・カンパニーデックで詳しくご覧いただけます。
STRACTは今、「2周目」の人たちが集まってきています。
例えば、創業期メンバーから上場を経験し1000人を超える組織まで成長に伴走したAnymind元執行役員の山田は、次の挑戦として、まだスタート地点とも言える数人の状態のSTRACTに飛び込んできてくれました。早速ものすごい勢いで会社を変革してくれています。実を言うと、今回の資金調達リリースに向けてほとんど全ての広報業務、取材対応、見え方調整、コーポレートリブランディングを一手に引き受けてくれました。しかもそれを1.5ヶ月という短期間でやりきってしまうという圧倒的な完遂力にただただリスペクトしかありません。
CEO室長山田の入社エントリーnoteは近日公開予定です…!
テックリードの加藤は、伊藤から属人化したPLUGの開発を剥がすべく、ヤフー → Route06を経てこの荒野に芝刈りに来てくれました。やはりプロは違うなと、毎日感じています。ソフトウェアエンジニアとしてもそうですが、バランス感・EQ、どれをとっても勉強させていただいています。ようやくこの長い呪縛から解放され、安心して開発および開発組織の構築をお任せできそうです。ありがとうございます。
開発組織についてのnoteは近日公開予定です...!
STRACTのメンバーは、みなEQが高く、ビジョンを信じて同じ方向を向き、挑戦し続けています。それだけでなく、ユーモアもたっぷり持ち合わせた、素晴らしいチームです。こんな素敵なメンバーと共に働けることを、私は心から誇りに思っています。
このチームのためにも、そして私たちの掲げるミッションの実現のためにも、これからも自身の成長と挑戦を続けていきます。