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東北出身、新人映像クリエイター2人が、6年目の3.11を描くなかで学んだこと。


――取材帰りのバンのなかでは、悔しくて二人で悶々としていました。


そう語ったのは、現在スパイスボックス入社2年目の本郷と菊地です。二人は、デジタルを使った広告コミュニケーション事業を行うスパイスボックスに入社し、新人クリエイターとしてドキュメンタリーを中心に扱う自社メディア「newStory」の動画や記事の企画、編集を手がけています。


彼女たちが入社したのは、それぞれ2016年4月と10月。本郷は宮城県仙台市出身で、高校2年生のときに東日本大震災にあいました。自身の住宅や家族は無事でしたが、すぐ隣りの名取市は大きな被害を受け津波に流された人も多かったそうです。菊地は、震災当時高校3年生。3月11日は受験のためにたまたま東京にいました。埼玉に住むお姉さんの家に身を寄せて、1ヶ月以上自宅に戻ることができなかったそうです。


二人にとって東日本大震災は、人生でも最も大きな印象を心に残した出来事の一つです。そんな二人がスパイスボックスに入社し、「newStory」の担当となった時、いつかは必ず震災をテーマとした記事を作りたいと考えていたと言います。それが実現できたのが、震災6年目の今年の春でした。


東北出身の二人の新人が、どのような気持ちで震災にまつわる2つの記事を作り、クリエイターとしてそこから何を学んだのか、採用広報によるインタビュー形式でお届けします。


【newStory】


記事:東日本大震災から6年 福島県の帰宅困難区域で語られる、ここにいる理由

記事:「忘れないよ」「語ることで心の整理を」被災した子どもたちが形にする、あの日の光景


Q:改めて、今回「震災」というテーマで記事を作った経緯を教えてください。


本郷

私たちが企画・制作を担当している「newStory」は、FacebookなどのSNS上で、エンゲージメント(※文末に注釈)している社会共通の課題や話題を取材し、ドキュメンタリー動画などにして配信するメディアです。自分なりの視点で題材を選び、コンテンツとしてSNS上で多くの人に“語られる”メッセージを発信することを大切にしています。同じ東北出身である菊地も私も、このメディアを作る一員となった時から「震災」をテーマにした記事を作りたいと考えていました。

菊地

そんな自分たちの想いを先輩や上司に何度も話して、6年目の3.11を取材するチャンスをつかむことができました。その後、具体的にどんな記事を作りたいかを二人で考えていきました。そのなかで、東北出身の私たちでさえ、東京での暮らしが長くなるにつれ、「震災」が過去のものになりつつあることに気がついたんです。でも、絶対に忘れちゃいけないし、誰にも忘れられたくないので、自分たちの記事を通して、もう一度、震災のことを読者の皆さんに考えてもらいたいと思いました。


Q:記事、動画作成にあたっては、どのように企画作業を進めたのでしょうか?


本郷

毎年3月11日が近づくと、さまざまなメディアが震災後の東北の現状を一斉に報じます。自分たちの企画を考えるなかで、それらのニュースを見ながら私たちが感じていたのは、視聴者に訴えるようなエモーショナルなニュースばかりが目立つなということでした。でも実際には、あらゆる困難な状況を受けとめながら、明るく前に進んでいる人もたくさんいるはずです。そこで私たちは、福島の“本当の現状”を伝えることで、震災を風化させないためのコンテンツを作ろうと考えました。

菊地

いろいろ調べていくと、「帰宅困難地域」に指定されている福島県の浪江町と富岡町で、4月から元住民の方の帰宅が一部可能になるという情報が見つかりました。また、帰宅困難地域であっても役場やスーパー、診療所などに限っては、周辺の住民の方のために営業している場所があることも知りました。そこで、東北のなかでも未だに最も生活することが難しいはずのその場所で、そこに暮らす方々がどんな気持ちで日常を送っているのかをインタビューすることにしました。


Q:実際に浪江町、富岡町に行ってみてどう感じましたか?


菊地

町に入ってすぐに衝撃を受けるほど、想像を絶する世界が広がっていました。正直、福島県は津波の被害が少なかった分、復興が進んでいるんじゃないかと思っていたんです。でも、そこは6年前の3月11日から何も変わっていないような光景でした。立ち入り禁止区域に指定されていたこともあり、6年もの間人が立ち入らなかった市街地は、まるで時が止まったように崩れた家がそのまま残っていました。逆に海沿いは、建物という建物がほとんどなくて町というよりも平原と言った感じでした。

本郷

「この場所で働いている人がいる」、ということ自体が大きな衝撃でした。そして、だからこそ、ここで働く人が「この街で生きる理由」を上手に拾い上げ、読者にとって意味のある記事にしたいと強く思いました。


Q:インタビューはスムーズに進みましたか?


本郷

お話を聞くこと自体は、思った以上にスムーズでした。みなさん気さくで。もちろん「撮影はNG」とおっしゃる方もいましたが、想像していたよりも「明るく、前に進んでいる」お話をたくさんしていただくことができました。時には笑顔を見せて話してくださる方もいました。

菊地

約2分の動画にまとめる予定だったので、約10分ずつ何人かの方にインタビューをさせていただきました。「明るく、前に進んでいる」方々の姿や声を紹介したいと企画したインタビューだったので、これで良かった、はずなんですが、取材帰りのバンのなかでは、悔しくて二人で悶々としていました。

明るく前向きに話をしてくださった方々が、「どうしてそう感じているのか」や「言葉にはしきれない思い」にまで踏み込んだ取材ができていたのかが、急に不安になったからです。私たちにとって、先輩と一緒じゃない取材はこれがはじめてでした。もしかしたら、自分たちが「話して欲しい」ことを、相手に「話させる」ような取材をしてしまったんじゃないかと思ったんです。

本郷

ただ、取材スケジュールは変えられないので、撮り直すことはできませんでした。その後は、宮城県のなかでも特に津波被害が大きかった名取市の閖上(ゆりあげ)地区に移動しました。そこには、津波の犠牲となった14名の中学生を追悼するための慰霊碑があり、それを守る社務所として建てられ、今では住民の交流の場にもなっている「津波復興祈念資料館」があります。そこで、子どもたちが作ったジオラマを取材しました。心のケアを目的に、震災時に子どもたちが見た光景をジオラマにしたものとのことでした。「いたい」など、心に突き刺さるような言葉が一緒に置かれているものもありました。そこでの取材を終えて東京に戻りました。


Q:取材を終えた感想はどうでしたか?


菊地

実際に現場に行って、実際にそこに暮らす方々のお話を聞けたこと、それを動画や記事としてまとめられたことには満足感はありました。でも、やっぱりもっと踏み込んだ取材ができなかったのか、という葛藤は残り続けましたね。

帰ってきてからいろいろ考えるなかで、自分たちは少し傲慢だったかもなと思ったりしました。今考えれば、震災を風化させないために「何か」記事を作れば、読者の方が勝手に「何か」を感じてくれると思っていたような気がしています。「明るく、前に進んでいる」人の声を拾うことありきで取材をしたので、そうした声は拾えましたが、それによってどんなメッセージを読者の方に伝えたかったのかと聞かれると上手く説明できません。それぞれの方が、それぞれに何かを感じてくれたはずだ、としか(苦笑)。ただ、それでも読者の方に実際の声を届けられたことには意味があったと考えています。

本郷

私は、帰ってきた後、自分たちの取材や記事についていろいろ考えたり、反省したりするなかで、ある企業が行った震災関連の広告に目がとまりました。銀座の街に広告幕を設置し、あの日の津波がもし銀座に来たらどの高さまで来るのかが分かる、という仕掛けでした。それを見た時に、あぁ、自分たちがしたかったのはこういうことだったかもなと思いました。震災のことを忘れられないように、東北から遠く離れて暮らす人たちに震災を「自分ごと化」してもらいたかったんだなと。じゃぁ、そのためにどうアプローチしたら良いか、から考えていたらもっと違った取材もできたのかなと思いました。

菊地

まだまだ駆け出しで、今でも反省することが多い日々です。でも、今回の取材では、本当にいろいろなことを学ぶことができました。自分たちが、本気で向き合いたいと考えていたテーマに取り組ませてもらえたことが大きかったのかもしれません。新人ながら仕事を任せてもらえる環境ですが、その分いつまでも先輩に甘えてばかりはいられないので、これからもより良いコンテンツが作れるように日々成長していきたいと思います。



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