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ソフトバンク流“CFOの育て方”ーー経営企画本部長インタビュー

ソフトバンクでは、国内外の革新的企業との提携や、ボトムアップの手挙げ制度から、新事業が次々に生まれています。経営企画本部 本部長の上村 穣に、経営企画のミッションと、新規事業が生まれ続けるソフトバンクのカルチャーについて聴きました。ぜひご覧ください!

根っからの財務畑出身者がほとんどいない、財務統括

『私は3回の転職でさまざまな職種を経て、ソフトバンク株式会社の財務統括にたどり着きました。スティーブ・ジョブズの言葉を借りるのであれば「Connecting The Dots」。最初から計画があったのではなく、その時々で小さな評価が重なったり、人から誘われたりするうちに、振り返ってみれば点と点がつながって今に至っているという感覚でしょうか。

学生時代にアルバイトで携わったのが電話回線サービスの飛び込み営業。今思えばこれが通信キャリアのスタートでした。新卒で入社した広告代理店で10年半働き、さまざまなイベントの運営などに携わりました。その後ポータルサイトの会社でバナー広告の営業、携帯電話の壁紙サービスを扱う会社で画像変換サーバーのマーケティングと営業を経験し、3回目の転職でたどり着いたのが日本テレコムです。マーケティングに携わっているうちに、2004年に日本テレコムがソフトバンクグループの傘下へ。そして現在に至っているというわけです。

実は財務統括の幹部メンバーに、根っからの財務畑出身者はほとんどいません。自分自身も長く広告マンとして働いてきましたし、上司であるCFOは、もともと国産車のメーカーで、代理店の経営管理と企画部門を掛け持ちしていました。他のメンバーも、元無線技士だったり元ネットワークの技術者だったり、キャリアは多岐にわたります。さらに面白いことに、一度も転職していないのに7回も社名が変わった社員もいるんです。こういったさまざまな源流の人間が活躍しているのもまた、ソフトバンクならではの面白さだと言えます。

そんなソフトバンクで働く魅力は、孫 正義が見つけてくるビジネスシーズを利用し、独自の営業ルートを活用することで「最新の武器で、社会問題を解決できる」という点にあります。例えば「PayPay」は、インドにあった決済会社のノウハウやシステムを日本に輸入して我々が営業力を加えたことで、一気に成長スピードが加速しました。コミュニティ型ワークスペースを展開する「WeWork」もまた、グローバルでは日本がダントツに成長株だと言われています。

来たる5GやIoTの時代においても、ソフトバンクには独自で課題を解決するだけのさまざまな財産があります。新しい時代をつくるための“種”を見つけるのが楽しい人は孫 正義が社長を務めるソフトバンクグループ株式会社で、それを日本の広げていきたい人にとってはソフトバンク株式会社で働くことで、楽しさを見つけられるでしょう。』

組織を「規律ある拡大路線」へ導くのが財務統括の大きな役割

『財務統括は、大きく2つの機能を有します。まず、いわゆる会計士的な仕事を担う「財務経理」です。財務会計と税務と監査に携わるため、とことん実績データにこだわります。

そして財務統括のもう一つの顔として企業参謀的役割を果たすのが、「経営企画」です。経営戦略の策定から、各部門と連携して事業計画の作成・実行を推進し、企業価値を向上させる。管理会計をもとに未来を予測して、経営者にレポートをし、時にはM&Aのサポートも担います。

孫は、過去の実績データや、予算と現状の対比にこだわりすぎることを嫌います。「そんな経営はバックミラーを見ながら車を運転するようなものだ」と。それより知りたいのは、この船はどこへ向かって進んでいるのか。この道はどこへ続いているのか。このまま進むとどこへたどり着くのか。その要望に応えるためには、とにかく未来をフォーキャストしながら予報を出す必要がある。経営企画部門は、まるで気象予報士のような仕事ですね。

ソフトバンクの経営幹部たちは、多かれ少なかれ、心のどこかに「ミニ孫 正義」を住まわせているように感じます。それだけ孫の影響力が大きいということなのですが、下手をするとそれが「劣化コピー版・孫 正義」と化してしまうリスクもある。根拠なく自身の営業力を過信してしまうんですね。

そのため私たち経営企画部門がすべきことは、投資規律をしっかり定めることです。ハードルレートは年利率でどの程度か、通信事業に近ければ何%、遠い事業であればリスクがあるのでこの程度など、と定めています。ソフトバンクは大胆な投資が目立っているかもしれませんが、きちんとリスクマネジメントもしています。

今後さらに投資案件は増加して、新規事業プロジェクトが増えていきます。大事にしているのは、担当部門から財務への相談機会を創出していくこと。事業化するにはまだ粗い案件であっても、早い段階で相談にきてもらえれば、料理の仕方を提案することができる。

経営企画メンバーが自ら担当部門に情報を取りに行き、相談の土壌を作ることはもちろん、投資計画書が作れるようになる半日のワークショップ型研修も行っています。私自らが講師として登壇し、財務の判断基準を赤裸々に周知するという、ある意味究極の先手を打っているところです。

書籍「ビジョナリー・カンパニー3」に、傲慢から生まれる規律なき拡大路線へ走った結果として、企業が衰退へ向かうという記述があります。それを知っている私たちにできることは、「規律ある拡大路線」へ立ち返すこと。これを守ることで、成長し続けることが可能になります。上場企業として株主の皆さんに安定的な配当を行っていくためには、規律を守りながら、長期間成長し続けることが大事だと考えています。』

ボトムアップの案件に効力を発揮する「手形法」の文化

『ソフトバンクという会社は、若手にとっても企画を実現させやすい環境だと思います。それはなぜなのか?ソフトバンクにはまるで「手形法」のような文化が根付いているからです。誰にでも約束手形は振り出すことができるのですが、信用度の低い手形は流通しません。その代わり、信用度の高い人に裏書をしてもらうことで出回るようになる。信用度の高い人というのは、マネジメント層を含むマネージャー陣を指します。

部下のアイデアを聞いた上司が「面白いからやってみなさい」と後押しする。そして一度後押ししたら、最後までスポンサーになり続けないといけない。これがソフトバンクにおけるボトムアップの文化です。批判されるのは、一度手形に裏書をしたのに、「そんな覚えはない」と言って梯子を外してしまうこと。私もソフトバンクに入社するまで、そういう経験を何度も味わってきました。しかしソフトバンクでこれは“アウト”です。

そうは言っても、上司がなかなか話を聞いてくれない場合もあるでしょう。そんな時は、新たなスポンサーを探しに行くことができるのもソフトバンクの社風ですね。諦めずに探していると、どこかで「応援しよう」と、手形に裏書をしてくれる人が現れる可能性がある。そうやって認められるうちに、最終的に経営会議の場まで行ける企画も出てくるのです。

自動運転バスの周辺サービスを開発する「SBドライブ」などは、まさにそうやって経営会議に上がってきた例です。これは臨時で開催されたアイデアコンテストで高評価を受けた企画で、あるとき経営企画に持ち込まれてきたんです。このアイデアに未来を感じた私は、裏書をすることを決意。少しずつ地ならしして経営会議を通過させ、先日ついに自動運転バスを、一般車両の進入を制限して専用空間にすることなく公道で走らせることができました。

▲自ら”裏書”したSBドライブでは現在取締役を務める

SBドライブのいいところは、何より解決すべき社会課題が明確で、お客さまの顔が見えていて、解決のための手段が伝わりやすい点にあります。法律などのハードルはありますが、ソフトバンクだからこそ実現できる社会課題の解決、つまり地域の交通手段を確保するために、バスの運行コストを下げて本数を増やすというアイデアが明確だったことが肝になりました。

ボトムアップで上がってきた案件に対してリーダーが即断即決でき、さらに上の場で議論される。そのプロセスが、シンプル且つ大胆にできるのがソフトバンクなのだと思います。』

今後のミッションは、最高財務責任者=CFO輩出のための実践教育

『ソフトバンク・ビジョン・ファンド(SVF)の初回クロージングが完了した2017年に、CFOを100名輩出することを目指したプロジェクト「CFO100」の提唱を始めました。SVFは単体で10兆円規模のファンド。これは世界中のベンチャーキャピタルの調達総額を上回る規模と言われます。

SVF出資先企業とソフトバンクで取り組む国内新規事業プロジェクトがどんどん創出されるようになれば、事業計画担当者が絶対的に足りなくなります。そこで、「社員はスキルを磨き、各プロジェクトにおける最高財務責任者を目指してほしい」という方針を打ち出したんです。これがCFO100です。

私自身、研修講師という立場で社員のフィナンシャルリテラシーを上げるよう日々努めていますが、このプロジェクトを通して「マインドセット」「スキルセット」の向上を、以前に増して促すようになりました。マインドに関しては、一般社員であろうと経営者感覚は持ち続けなくてはならないし、スキルに関しては、経営層であろうとも永久に磨き続けなければならないものだと考えています。

財務統括では、将来的にCFOとして活躍できるようになるためのスキルマップを公開しています。必須である財務の知識から、経営企画で必要な会社のつくり方、投資の意思決定をするために必要な考え方など、さまざまなスキルを社員一人ひとりが段階的に学んでいく。

社員一人ひとりがこのスキルマップをじっくり見て、勉強をする。そして、一番重要なプロセスは「プロジェクトにアサインされる」ことです。そのためには財務統括全体のプロジェクトに立候補するもよし、コネクションをつくって個人的に提案するもよし。蓄えた力を“潜在能力”のままで終わらせないことが大切です。

もしプロジェクトで実力を発揮し成功を収め、新たな会社を立ち上げることができれば、CFOへの道がひらけます。

私たちの仕事としては、まずは足元で人を育てて、会社を丸ごと任せられる人材をどんどん輩出していくこと。実際に2018年度には、20名近くの社員が経営企画本部を飛び出して新たなチャレンジをスタートしています。これから先、まだまだソフトバンクグループは拡大していきます。企業の経営戦略を財務面からリードしてくれる実力ある人材を「実質CFO」として送り出せるよう、日々奮闘していきたいと思っています。』

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