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【10月15日まで】歌舞伎町・王城ビルを舞台にChim↑Pom from Smappa!Groupが展覧会「ナラッキー」を開催

歌舞伎町のシンボル的ビルを 新しいアートのハブに

東京オリンピック・パラリンピックの開催で、日本中が沸き立った1964年。同年に東京・歌舞伎町に竣工されてから約60年間、この大歓楽街を見守り続けてきた建物がある。城を模した外観が特徴的な「王城ビル」だ。名曲喫茶、キャバレー、カラオケ店と業態を変えながら人々に愛され続け、2020年3月に一度幕を下ろした。

歌舞伎町王城ビル Photo by 林靖高

この王城ビルを歌舞伎町におけるアートのハブとして生まれ変わらせるべく、任意団体「歌舞伎町アートセンター構想委員会」が提案したプロジェクトがすでに始動している。

今回紹介するのはプロジェクト第一弾。

大星商事株式会社(王城ビル所有者)、Chim↑Pom from Smappa!Group(以下Chim↑Pom)、Smappa!Groupの三者が送るプロジェクト型展覧会ナラッキー(Na-Lucky)」だ。



本展は「奈落」をテーマの1つにしている。

「奈落」は仏教用語で「地獄」を表す言葉で、そこから転じて劇場の舞台や歌舞伎の花道の床下の空間を指すこともある。奈落は、演者の通路や演出装置の置き場としてなくてはならない場所だが、元の「地獄」という意味から暗くてネガティブなイメージを抱かせる言葉だ。

そんな「奈落」を思わせる仕掛けが、本展にはたくさん散りばめられている。

奈落の概念を「拡張」する

順路に沿って、チケットを手に歌舞伎町の守り神である弁財天を拝み、王城ビルの裏口へ。はじめに向かうのはビルの2階だ。

ここではまず、2階からビルの最上階までを見上げる吹き抜けの最下部に立つ。足元が一部解体されて1階部分も見えるこの場所は、奈落でありながらただの「底」ではない。上下左右、このビルの中から外へと、奈落の概念を「拡張」する。

Photo by上原俊

次のセクションは「The Making of the Naraku」。

ここは、ドラァグクイーンやポールダンサー、車椅子ダンサーなど、歌舞伎町で独自の文化を作り上げてきた人々が集結するフェス「歌舞伎超祭」とのコラボレーションエリアだ。彼ら・彼女らのパフォーマンスの記録をこの「奈落」で展示することで、舞台の上と下、歌舞伎町の内と外それぞれでのパフォーマーの在り方を、見る者に強く印象付ける。

日本のドラァグクイーンのパイオニア的存在であるMONDOは、ステージに立つとき施すメイクを「顔拓」として紙に写し、個人的に記録してきた。「顔拓」を公開するのは今回が初めてだという。楽屋に置いてあった資料などの裏面を台紙にしたこの「顔拓」は、MONDOがこれまでステージに立ち続けてきた歴史を通して、ドラァグクイーンとしての生き様を訴えかける。

パフォーマーのアオイヤマダは、「奈落」の持つ「穴」としての側面を、女性性や子宮に重ね合わせる。一方で「身体と奈落」にも関係性を見出し、このビルの「奈落」の各所で撮影したヌード写真で、観客にも「自身と奈落」のつながりを考えさせる。

Chim↑Pomメンバーの水野俊紀は「歌舞伎町は、『奈落』の底を経験してきた人が多い街だと思う」と話す。

「ネガティブなイメージで受け取られがちな言葉だけど、奈落であっても光というか、奈落だからこその光というか…。そんな側面も想像してくれたら」

Photo by上原俊

4階へ上がるとそこにはパーティールーム「神曲」が。

ここでは観客全員がカラオケ歌い放題だ。かつてカラオケ店として栄えた王城ビルの軌跡を思わせるエリアでありながら、その時居合わせた観客が何を歌うかによって印象をがらりと変える、予想のつかない展示空間でもある。「ステージ」あっての奈落、奈落あっての「ステージ」だ。この王城ビルの「ステージ」を観客自身がそれぞれの感性で彩ることができる。

Photo by上原俊

次に向かうのは王城ビルの屋上。

光は新宿より」というメッセージが掲げられている通り、夜に訪れると王城ビルから空へとサーチライトの光が放たれている。王城ビルは歌舞伎町の大通りから少し奥まった場所に位置するため、周囲のビルの看板やライトのほとんどを裏側から眺めることになる。歌舞伎町が持つ光の側面を、奈落からステージを見上げるような視点で観察できる格好のスポットだ。

Photo by上原俊

続いて、ビルの最深部である地下1階へ。

ここでまず目に留まるのが、映像と音の空間「Asshole of Tokyo」。東京のマンホールの下を撮影したChim↑Pomの作品の名前を引用している。先ほどの開けた屋上とは打って変わって、薄暗さや閉塞感のある地下のエリア。下水道を「都市の排泄の穴」になぞらえた作品だが、ここでも「奈落あってのステージ」という本展のテーマに通じる観念を感じられる。

すぐそばにはドクターフィッシュの泳ぐ水槽と、ドクターフィッシュがヒトの手や足の角質を食べる様子を捉えた映像作品が。「」と名付けられたこの展示空間では、実際に水槽に手足を浸けて、ドクターフィッシュに角質を食べてもらうことができる。さらにこのドクターフィッシュは、1階の「にんげんレストラン」で料理して出してもらえる。この過程までが「喰う」「喰われる」の関係性が複雑に絡みあう作品「餌」だ。

Photo by上原俊

「何だか分からないけどガンッとやられる」経験を

2023年9月2日にオープンした「ナラッキー」。当初は10月1日までの開催を予定していたが、好評につき10月15日まで会期を延長することが決まった。

現場スタッフの1人は「TikTokなどでも評判が広がったおかげで、普段美術展などに行かないライトな層の方もたくさん訪れていると思います」と話す。

Chim↑Pomメンバーの水野も同じ傾向を感じていると言う。「どんな人にもスムーズに受け入れられるような展示ではないかもしれないけど、『何だか分からないけどとにかくガンッとやられる』みたいな経験って大事だと思う」

展示を見終えて王城ビルから出ると、歌舞伎町の持つ「光と影」のコントラストがよりくっきりと目に映るはずだ。どちらか片方が重要なのではなく、お互いがお互いを引き立て合う。あなたの「奈落」観はどう変わるだろうか。ぜひ王城ビルで、新しい「奈落」の概念に触れてみてほしい。


ナラッキー
Chim↑Pom from Smappa!Group
会 期:2023年9月2日(土)〜10月1日(日)→10月15日(日)まで延長!
火曜日休館。また、10月2日(月)もメンテナンスのため休館いたします。
会 場:王城ビル(歌舞伎町1−13−2)
開館時間:15:00~21:00(最終入館 20:30)*1Fレストラン、ショップは22:00 まで営業
※ただしイベントによって時間変更予定
料 金:2,000 円(併設されるレストラン、ショップは入場無料)
※学生の方は学生証提示で1,500円
※障がい者の方は手帳提示で1,500円(付き添い1名まで。なお、館内のバリアフリー未対応ですのでご留意ください)
※新宿区民の方は入館時証明書提示で100円引
※小学生以下無料、キッズルーム完備




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