Qrio株式会社に入る前
子供の頃から化学が好きで、大学院で応用化学を専攻していました。でも、もっぱら気になるのは「伝え方」の話。大学で研究されていることが世の中に出るまでにはおおよそ10年間はかかると言われていて、当時の僕は「がん細胞と血管の壁の接着力を測定するための方法」を研究していました。
それ何の役に立つの?というと「抗がん剤を飲んだ時にがんが血管にくっつきにくくなれば薬が効いているよね」という用途がひとつあるのですが、学会でそれを学術的に話そうとすると、ファンデルワールス力が云々という話になり、専門外の人からは「何言ってんだこいつ…」となり、関心を持ってもらえません。なので、できる限り専門知識を持っていない人に伝わりやすい表現やスライドってどうすれば作れるんだろうかということばかり考えていて(大学院生としては力の入れどころがおかしい)、結果、それを仕事にしたいとしたのが社会人の始まりです。
新卒で入った会社では飛び込み営業からコピーライター、中国での印刷マネジメントや日本でのクーポンマガジン業務設計、マンション情報業務設計など色々とやらせてもらいましたが、基本的には紙の仕事が主でした。2009年冬にxperiaの初号機を触ったとき、ああこれはスマートフォンの時代になるなと思い、その後モバイルインターネットの会社に転職しました。
ソーシャルゲーム元年みたいな時期だったこともあり、やることなすこと事例なし。でも、事業自体の考え方であったり、事業をスケールさせるために社内外をどう巻き込んでいくのかであったり、UXの考え方に触れたり、エンジニアやりたいなと思うきっかけになったりと、今に繋がるきっかけをたくさん与えてもらえたと思います。
ひととおりやったな、と思ったタイミングでふらっと起業してみて1年くらい。経営は思ったことの100倍くらい大変だと思い知らされました。もちろん自分で好きに決められること、どんどん開拓していけることは楽しくても、日々の資金繰りをどうしよう、営業をどうしよう、どの領域を攻めようなど、だんだん自分の得意じゃないことに時間を取られることが増えてきたかも?このままのスピード感で新規事業が成立させられるのか?など悩むことは多々ありました。
そんな中、受託のお仕事を頂いていた中の1社がQrio株式会社でした。IoTの領域が伸びてきそうだな、と思ったのが2015年の春。縁あってご紹介いただいて、その時に関わり始めたのが、クラウドファンディングのMakuakeでも話題になったスマートタグのプロジェクトでした。そして色々あって、もう中でやった方が経営としてもディレクターとしてもいいんじゃないか、ハードウェアを作る資本がある場にいた方がサービスを考えることにリソースを集中できるのではないかとなったのが入社のきっかけです。
現在
ざっくり言ってしまえば、スマートタグ事業のマネージャーです。元々「発注元」としてお仕事していたプロデューサーと一緒に、この事業をどう大きくしていこうかと日々話しています。その上で、jsエンジニアとして新規事業のフロントエンドのコードを書いたり、LTに立って会社のことを知ってもらったりなど、社内自分探しな状況でもあります 笑。
社内的なところで言えば、起業していた会社からついてきてくれたメンバーが所属する組織のマネジメントをやりつつ、ワイルドカードとしてあれこれメンバー間を繋ぐようなこともしています。まだ1ヶ月目なのでハードウェアのお作法、理論はSonyの技術者の方から教わることもたくさんありますが、新卒のように学ぶことがたくさんある環境なのは、正直楽しいです。Qrioは元々Sonyからの出資も受けて作られた会社なので、ハードウェアの専門性(技術面もデザイン面も)について相談できるのは非常に心強く思います。
社外に関わる話で言えば、IPA(独立行政法人 情報処理推進機構)とHCD-net(人間中心設計推進機構)間で進められているIoT製品の利用者品質を向上させる取り組みのメンバーとしてガイドラインの制定に携わっていたりもします。業界に関わるものとして、そして人間中心設計専門家として、これから広く使われるプロダクトのあるべき姿と、現実の開発現場をつなぐ役割として「IoTのディストピア」にならない夢のある世の中にしてやる!と息巻く日々です。
Qrio株式会社について
一点突破型のメンバーが多い組織だと思っています。
入社直後、誰が何を得意なのかいまいちわからない頃、個別に時間をもらって話を聞いてみていたのですが、メディア立ち上げの経験者がいたり、Instagramマスターな営業がいたり、BLEの深い実装を知っているエンジニアがいたり、デザインにも電気工事にも詳しいプロデューサーがいたり…言い出せばきりがないですが、そういう人たちが集まっている会社です。
IoTという言葉自体はバズワード化していて、かつてのUXと同じように、もはや概念すぎて使わない方がいいのかなと思いながらも、日本全体のIoT業界をどう盛り上げるのか、その上でどう世界と戦っていくのか、という議論は普通に出てきます。
日本の中で競合だなんだと騒いでいたら、きっと黒船に一掃されて全部なくなってしまう。また、単にモノを作っていくだけでは事業としては成立しない。あくまでサービスが主体にあって、そこにモノが加わることで従来より便利な世界を生み出せるよね、というのがメインの考えに置きやすい会社だと思います。なので、場合によっては個人でアプリも必要ないですし、デバイスも必要ないけどサービスとして成立させられる、なんてパターンも当然ありえます。
元々は、海外のスマートロックがドア工事を必要とする物ばかりで、賃貸物件の多い日本では成立しえないよね、という課題を解決することから始まった会社がQrioだと思っています。課題があって、それを解決する手段は何なのか?体験は何なのか?がスタートなので、モノありきでの事業の考え方をすることはありません。
そういった話は山手線の中で社長の西條さんとふらっと話したりもしますし、サービス主体で考えよう!となれば、自分たちだけでつくらないで、既存のデバイスを使って成立させることも今後は出てくるかもしれません。そういう意味では、いわゆる「IoT企業」のイメージとは違うかもしれませんね。
今後どういうことをしていきたいか
まずは、スマートタグの可能性を広げていくこと、IoTの力で便利になったね、と思える人を増やすことがメインになると思います。
スマートタグのサービスは「落し物発見器」としても使えるのですが、その先の、だれでも恩恵の得られる状態にするには?の世界づくりを前提に開発しています。なので、元々の自撮りシャッター以外にも、今後はamazon dash的な使い方もあり得ると思いますし、アプリ不要で成立させるための環境整備にも取り組んでいきたいです。家族全員がスマートフォンを持っていなければならないとか、スマートフォンがないと成立しないとか、そういう状況ではないサービスを生み出していければ、通信インフラの乏しい国や地域でも恩恵を受けられますし、何より自分がそういった世界を望んでいるのも大きいです。
あとは…人間中心設計のノウハウをどう生かしていくか。Webやアプリのことは考えてきたけれど、ハードウェア(梱包から配送、モノ自体の日頃の使い勝手、壊れた時や人に譲る時の対処などなど)のことをこれまで考えてこなかったので、今後自分と似たようなWebの人が入ってきた時に動きやすい、何かいい事例が作っていければと思います。
もちろん、エンジニアとしての技術やマネジメントも磨いていきたいです。ワガママすぎるかなと思いつつ、その上でデザインも技術も両輪で理解出来るボードメンバーとして会社を大きくしていきたいです。あれもこれもやりたいし、まだまだたくさんありそうな伸びしろは伸ばしたい。だから、今IoTベンチャー界隈にいます。