「最近お腹が張りやすくて苦しく感じる」「排ガスやゲップの頻度が多くなった」
このようなお腹の不調は、もしかしたら「SIBO」によるものかもしれません。SIBOとは新しい病気の概念であり、2020年頃から積極的に研究が始まり、少しずつ医療機関でも診療の対象となることが増えてきました。
医療業界ではSIBOという病気は浸透しつつあるものの、まだ世間的には認知度が低い病気です。今回は、SIBOとはどのような病気なのか、基礎知識から予防方法まで詳しくご紹介します。
SIBOについて
まずは、SIBOの症状や原因について解説していきます。
SIBOとは?
SIBO(小腸内細菌異常増殖)とは、小腸内に限局してさまざまな種類の細菌の数が異常増殖しお腹の不調や心身の不調をきたす病態のことを言います。発生部位である小腸は、主に摂取した食べ物を消化・吸収をする役割を担っています。
腸内は、液体で満たされている状態のため限られた菌しか存在していません。小腸内に生息する細菌の数は約1万個と言われていますが、異常増殖することによって約10万個にまで増えることもあります
SIBOはさまざまな要因が関与することによって大腸内に潜む菌類が小腸内に入り込み、食べ物を消化・吸収する過程の中で増殖した細菌によって本来発生することのないガスが小腸内に異常発生します。その結果、お腹が張って苦しくなったり便秘や下痢を繰り返したりと身体に不調を引き起こしてしまうのです。
腸内の菌を育むことは健康に良いイメージを持たれている方もいるかもしれませんが、菌活は大腸には効果的であるものの小腸は働きや構造が異なるため、必要以上の細菌の増殖は逆効果になることがあります。積極的に菌活を実践している人の中で、期待する効果とは相反し「便秘になりやすく不調が続いている」という方は、SIBOの影響を受けているかもしれません
SIBOの症状
SIBOによって引き起こされる代表的な症状をご紹介します。
・腹部膨満感(お腹の張り)
・腹痛
・便秘や下痢
・排ガスの増加
・ゲップの増加
・胃酸の逆流
腸内環境が悪化することによって、自律神経の乱れや不眠・免疫力の低下、抑うつ傾向など腹部症状だけではなく精神的な不調をきたすことがあります。
SIBOの原因
なぜ必要以上に細菌の増殖をするはずのない小腸で異常増殖が起こってしまうのでしょうか。主な原因について詳しくご紹介します。
腸ぜん動運動の低下(腸の動きが弱くなっている状態)
腸の動きが弱くなると、通常よりも小腸内に食べ物が長く留まってしまいます。食べ物が長期残存することによって腸内細菌が増殖しやすい環境へと変化し発生の原因となります。ぜん動運動が低下する原因として神経疾患やストレス、膠原病や糖尿病などが挙げられます。
胃酸や胆汁の減少
胃酸や胆汁には強い殺菌効果があり、小腸への細菌の侵入を防ぐ役割を担っています。それらが減少することで細菌の増殖に繋がります。PPIなどの胃薬の長期使用や肝臓疾患(肝臓がんや肝硬変など)が主な原因としてあります。
小腸の一部である回盲弁の不調
回盲弁は、大腸から小腸へ細菌が逆流するのを防ぐ役割を担っています。お腹の手術歴がある人や炎症などによって回盲弁の機能が低下し、大腸内に存在する多数の菌が小腸内に流れ込み細菌が棲みつく原因になると言われています。
免疫機能の低下
腸管は、免疫において重要な役割を担っています。IgAという免疫抗体が腸管粘膜から分泌されることにより、細菌やウイルスが体の中に侵入することを防いでくれています。しかし、重症複合免疫症やIgA欠損症、HIVなどの免疫異常があると、細菌増殖の原因になってしまします。
SIBO治療方法
SIBOの治療は、薬剤性と食事療法の2種類が実施されています。症状の程度や診断によっても異なりますが、まずは食事療法を実施し症状の改善がみられるかどうかを判断します。改善がなく経過が変わらない場合は薬剤療法として内服を開始することがあります。
薬剤療法
腸内に潜む細菌を除去するために抗菌薬や腸の動きを良くする薬剤が処方されます。ピロリ菌やカビの一種でもあるカンジダによる影響であると判断された場合は原因物質の除去を目的とし細菌治療目的で薬剤が開始されます。
食事療法
SIBOの改善には、低FODMAP食という食事療法が推奨されています。
Fermentable:発酵性
Oligosaccharides:オリゴ糖(はちみつ、大豆製品)
Disaccharides:二糖類(牛乳、ヨーグルト、海藻類)
Monosaccharides:単糖類(果物等)
And:と
Polyols:糖アルコール(糖類、ガム等の菓子類)
各頭文字をとったものです。これらのカテゴリーの食品を約3週間ほど控え、改善の有無を評価していきます。そして症状が安定してきたら少しずつカテゴリー毎に食事を再開し食べられる物を増やしていく方法を行います。
SIBOの人の割合
SIBOは、まだ世間的にも浸透していない疾患のため、潜在的にこの疾患を引き起こしている人は多数存在すると言われており、明確な発症割合は現段階では明確ではありません。
SIBOは、呼気検査を受けた消化器系の症状を持つ患者の33.8%で検出され、さまざまな病気とも合併して起こっている可能性が高い病態です
SIBOの予防方法
SIBOは誰にでも起こりやすい病気の一つです。比較的重症化しにくく日常的なお腹の不調をきたす症状が多いので、一時的な不調であると判断されやすく軽視されやすい疾患でもあります。しかし症状の程度は人によってさまざまですが、ある研究結果によると心不全・膵がん・胆管がんなどの重篤な疾患の要因の一つに、実はSIBOも深く関係していることが明らかになっています。
この結果から、SIBOを予防することは重篤な病気を発症するリスクを減らすことにも繋がります。予防するためには何が重要であるのか具体策と共に詳しくご紹介します。
食生活を見直す
SIBOを予防するために最も重要なことは、食生活を見直すことです。治療法でご紹介した低FODMAP食のように、できるだけ菌の増殖を活性化させる発酵食品や食物繊維が豊富に含まれている食品、パンやパスタなどの小麦製品の摂取を控え、和食中心の食生活を目指しましょう。
そして、暴飲暴食や偏食にも要注意です。過度な食事摂取や間隔を空けずに食べ物を摂取し続けることは、消化器官それぞれに負担をかけるだけではなく、腸内の食べ物の残存期間が長くなることによって細菌増殖の要因にもなりやすくなります。
偏食による栄養バランスの低下によって、腸内フローラの悪化にも繋がり小腸にも悪影響を及ぼします。食事の際は、適度な量と時間間隔を意識してバランスの良い食生活を送るように心がけましょう。
まとめ
SIBOは、海外では積極的な治療や研究が進められていますが、日本ではまだ病気の歴史は浅く新しい概念でもあるため医療機関や医師によっても診断や治療を受けられるかどうかが変わってきます。
自費診療として取り扱っている医院も多いので、受診の際には対応が可能であるか確認をしてから受診をするようにしましょう。そして健康的な食生活を意識して発症の予防にも積極的に努め、腸内環境の向上を目指してくださいね。
参考文献:World J Gastroenterol 2023 June 14; 29(22): 3400-3421