「葉山から愛され葉山の誇りとなる」をスローガンに、コロナ禍でも堅調に施設運営を継続する開業15年目の施設「スケープス ザ スィート(以下、SCS)」。ここでゼネラルマネージャーを務め6期目になる髙野 成美(たかの なるみ)が、「葉山の地域住民の方々の支え」を大切にしながら成し遂げてきたこととは──
コロナ禍という未曾有の状況でも、葉山を想う気持ちを大切に
創業26年目を迎える感動創出企業、株式会社ポジティブドリームパーソンズ(以下、PDP)が運営する施設で、唯一ホテル・レストラン・ウェディング・バンケットという4つの事業を持つ複合施設が「スケープス ザ スィート」だ。
観光業が不振だと言われるこのコロナ禍でもさまざまな工夫を行い、集客に努めている。
髙野 「これまでのリピーターさまと葉山住民の皆さまの支えが大きかったです。また、このコロナ禍でマイクロツーリズムを、楽しむトレンドが生まれたのもお客様にきていただけた要因かもしれません。自然に囲まれた立地が評価いただけることが多く、今年の春から夏にかけてもたくさんのお客様にお越しいただきました」
コンパクトデザインホテルとしてのSCSのコンセプトは「美しいランドスケープへ。その日わたしたちはエスケープする」。それをコロナ禍でも提供しようという意識、を常に持っているのだ。
髙野 「今お越しいただいているお客様は、安心・安全を大前提としたご滞在をお求めであることは確かです。しかしそれだけでなく、外出がはばかられる今こそ日常の喧騒から離れて、自分に向き合う時間や新たなインスピレーションを求め没頭する時間、気持ちをリセットする時間をお求めなのだと思います」
このような、特殊な状況において髙野が意識していたのは、葉山の地に長く住む近隣住民のこと。その考えに至ったのは入社4年目のある原体験が理由だった。
2012年新卒入社の髙野は、SCSへの配属後、東京のゲストハウスでウェディングプランナーとして経験を積んだ。入社4年目にウェディング事業のユニットマネージャーに就任。しかし当時担当している施設が近隣住民との折り合いがつかず、閉館せざるを得なくなり、高野は結婚式を予定している方へのお詫びに奔走することとなった。
髙野 「当然、泣いて怒る方もいらっしゃれば、逆に慰めてくださるご新郎新婦もいて。でもそのすべてを通してお客様にとって施設が無くなることがどれほど悲しいことなのかを、身を以て知ったのです。その経験を経て、施設ってブランドがある土地にあればあるほど、そこから認められないと存在価値がないんだな、というのを痛感しました。だからこそ今、葉山の方々への敬意や感謝を大事に持てているんだと思います」
葉山の人々の「地元を想う心」を知り、セカフジ実行委員を発足
2016年にSCSのゼネラルマネジャーに着任した髙野は、何を感じ、何を実行してきたのか。
髙野 「『やっぱりSCSは“コンセプト命のブランド会場”だ』ということや、『PDPでの独自のサービスメソッドである“感動の技術化を体現してこそ、価値のある会場”だ』と認識していたので、21期(2016年)のテーマを「原点回帰」としました。
その言葉通り、われわれは何者かということに焦点をおいて場づくりをしたんです。休館日を活用したコンセプトの勉強会や、4事業毎の“感動の技術化”の勉強会、事業毎のお客様を想像しそれぞれのSTP4Pをメンバーとつくるなど、『インプット』に重きを置いた1年間でした」
それらの取り組みを通じて、メンバーの頭の中にSCSの”あるべき姿”がイメージできるようになってきたという。
髙野 「実際に、降りてくる目標ではなく自分たちから生み出して生きたいというメンバーの発意があったんです。ですので、次のステップとして、22期は室全体のチーム力向上と進化を目指す期と致しました」
お客様へ提供するサービスをよりコンセプトにあわせ、サービスクオリティを高めていくことでよりホテルとしての高みを目指すことにしたのだ。それは、メンバーの自主性に重きを置いた新しい取り組みへのチャレンジだった。
髙野 「“なろう一枚岩に”をテーマにして行ったメンバー主催の運動会にはじまり、その後「One Wave project」を始動し、商品開発プレゼン大会などアウトプットの場をつくりました。また、葉山の方々をリスペクトする意識を共有するべく、スローガンの中に『葉山から愛され葉山の誇りとなる』という言葉を盛り込んだんです」
そして、そのスローガンを言葉だけで終わらせないために週1でのビーチクリーンの実施や、葉山住民の方限定のモーニングやカフェプランのサービスを実施してきた。
髙野 「葉山の皆さまとコミュニケーションを図る中で気付いたのは、住民の皆様が葉山をわが家のように想い、愛しているということ。
海岸にゴミが落ちていれば自分の家の庭のように怒り、葉山の客足が減っていれば、どうしたら良いか自分事で考える。そんな皆様とご一緒させていただく中で、私たちも同じ気持ちであらねばならないと強く思いました」
これまで、地域のイベントに参加することはあっても、SCSが中心となり地域を盛り上げるという動きはなかったいう。
髙野 「地域に必要とされる存在になるために何ができるかと考えたときに、私たちが一番良く知っている冬の葉山の魅力をもっと広め、冬の葉山に訪れる人を増やしていこうというテーマにたどり着き、“セカフジ実行委員会”の発足に至りました」
企画をしていく中で、商店会、商工会や町役場との協力を得て地域との交流が深まったことで、ただ葉山でお店をしている”スケープスさん”ではなく、一緒に葉山を盛り上げていく”仲間”として周りからの見られ方が変化していったのだ。
葉山の想い×メンバーの想いが、コロナ禍での集客につながった
このような実りの多い22期を経て迎えた23期。テーマを「蒔いた種を咲かせる」に設定し、町の方々との共同活動も計画していた最中に、新型コロナウィルスの感染が拡大し始める。ウェディングや宴席の事業が延期を余儀なくされる中で、髙野はメンバーとどんな施策を打ってきたのか。
髙野 「『One Wave Project』の中で生まれたアイデアに、“活用できていない空間を財産に変える“というキーワードがありました。SCSは通常宿泊者以外の朝食営業は行っていないのですが、“商品開発プレゼン大会“にて、この『期間限定テラスモーニング』という商品アイデアがすでにあったんです。
このプランは、誰よりも早く出社するキッチンメンバーだからこそ知っている“季節の移り変わりが感じられる森戸の美しい朝焼け“を、宿泊以外のお客様にもご体感いただきたいという発想と、『婚礼時以外お客様の目に触れないSCSの屋上テラスを平日に眠らせておくのはもったいない』という、メンバーの想いから生まれました。
コロナ禍で、婚礼や宴席の実施が難しい今こそこのプランをリリースできるのではないか、という思考にみんながすぐ転換することができ、打ち出したその日からご近隣の方を中心に多数の問い合わせを頂戴しました」
そしてもうひとつ施策を打った。婚礼・宴席がなく使用していない2Fのバンケットルームを、期間限定ランチとしてOPENしたのである。SNSやクチコミでも評判となり、今では2F指定でのご予約も増えてきているという。
髙野 「思考を止めずに策を練ることで、生める“感動“は常にあるのだと、有事をとおして改めて実感しました。不変なのは、圧倒的な世界観のある施設を目指し、一貫性のあるサービスと、質の向上に努めることです」
「人の人生を豊かに」。誇りを紡ぐための伴走は、これからも
PDPはどんな状況であっても、「毎日が感動に満ちあふれ、多くの人が“幸せ“と胸を張れる国にしたい」という夢を持ち続け、お客様や関わりのある人すべてに“感動“を与えることを目指していく。
髙野 「『One wave project』の一環で商店会の活動に参加して、そこからセカフジ実行委員会について話をするなど住民の皆さまと同じ目線で過ごす時間が増えました。
それにより当初は距離をおかれていた方たちが、テイクアウトメニューを買いにきてくださったり、商店街の会合場所として使ってくださったり。町に受け入れていただけたと思うシーンが多々あり、喜ばしく思っています」
そして、改めて葉山の魅力を感じる日々を送っているのだと髙野は語る。
髙野 「コロナ禍でも近隣地域からも多くのお客様にお越しいただいており、改めて葉山の美しさやブランドがSCSにとってもかけがえのないものだと実感しています」
そんな葉山というブランドを守ってきた地域の方々に必要とされる存在になりたいと、近隣住民の方を対象にしたイベントや葉山の魅力を発信する取り組みを進めている。
髙野 「新しい生活様式への変化の影響はどの事業でも感じます。その中でも世の中に必要とされている施設にしたいな、と。今までと違う仕掛けを組み、これまでとは違う新しいホテルをつくらなければいけないと感じています。
これからは何においてもコロナは切り離せないので、視点を変えて地域の方と一緒に取り組んでいきたいです」
去年、SCSは葉山町商店会の理事に選任された。
髙野 「自分が学生のときに就職活動をしている中で、やりたい社会貢献を想像したとき、差別や偏見をなくしたいと強く思いました。そのアプローチとして「感動こそが人の心を豊かにする」というPDPの考え方に共感し入社を決めました。
だから葉山の方にとって、明日からまた頑張ろうって思える場をつくることも私がしたい社会貢献なんです」
強い想いを礎にして生まれた貢献活動は、今では地域も巻き込む共振力へと成長している。葉山から愛され、葉山の誇りとなる場所であり続けるために、髙野はこれからも葉山の人々と歩み続ける。