プロジェクトアドベンチャージャパンでは、アドベンチャー教育のファシリテーション」というものを対象化して理解を深めていくために登録ファシリテーターと共に勉強会を開いています。ファシリテーターとしての能力を高めるために必要なこと、大切なことは山ほどあり、さまざまな内容の勉強会を行っています。今回は身体表現コンサルタントの荒木シゲルさんをお招きし、身体を使ったコミュニケーションについて学びました。荒木さんは身体を使ってドラマを伝えるパントマイムアーティストであり、ノンバーバル(非言語)コミュニケーションの改善を目的としたセミナーを、学生や幅広い業種の社会人を対象に行っています。
パーツを意識する:コーディネーショントレーニング
日常生活で身体を動かしていると一つひとつのパーツに意識をすることはあまりありません。頭、首、胸、腰をそれぞれに分解していくと、それぞれのパーツの持つ意味や伝わる情報が見えてきます。「頭を上げて視線を下にする」「頭を下げて視線を上にする」では同じ物を見たとしてもそれぞれに違うメッセージが伝わります。コーディネーショントレーニングでは「身体を器用に動かす」ためのエクササイズを行いました。パーツを分解して身体を動かしてみようとするとなんだかぎこちない動きになります。自分の身体が自分のものではないみたい・・。身体のパーツ一つひとつが動かせるようになるということは、自由の度合いも増え、表現の幅が広がっていくことなのだと思いました。そのためには身体を実際に動かしていくことが大切ですね。やりながらだんだんとその動きが馴染んできて、感覚と身体の動きが合っていきそうです。
エクササイズのあとは、パントマイムの動きについて説明を受けました。
パントマイムでは実際の動きにさまざまな誇張を加えて表現する特徴があります。コップを持つパントマイムをするとき、最初にコップを持とうとしてしまいますが、まずすることは「視線」です。「コップを見る」動作から始まって、コップを持つ準備(開いた手を表す)、コップを持ったときに「ピクッ」と反応し、持ち上げます。ひとつの動作をパーツに分解し、それをまた一連のプロセスに統合していきます。グループをパントマイムに例えると、「グループを一人ひとりに分解して見て」、そして「全体としてコーディネーションして見る」ということになるでしょうか。一人ひとりの身体(腰の向き、足の開き方、首の曲げ方など)から発せられるメッセージにも敏感になれそうですが、グループというものの見え方もかわるかもしれません。
私たちの日常の中でも、言葉で語る以上に身体が語っていることがたくさんあります。ファシリテーターとして場に立つとき、誰かの前で話をするとき、相手は言葉以上に身体からのメッセージを受け取っています。子どもたちに任せているように声掛けをしていても、子どもの近くにいて手を広げていたり、不安そうに首をかしげていたら、子どもたちには「君たちを信用していないよ」というメッセージが伝わります。自分の身体がメッセージを放つことに意識的であることが大切です。
人の有り様、場の有り様を見る:ステイタスを知る
「ステイタス」とはインプロ(即興演技)で用いられる演出法です。場にいる人物の立場の高低を表します。例えば先生が生徒に威圧的に話をしているとします。この場合先生のステイタスが高く、生徒が低い。しかし、おしゃべりをしている生徒が出てきて、先生が怒っても静かにならない場合、先生が怒れば怒るほど先生のステイタスは下がり、生徒がふざければふざけるほど生徒のステイタスは上がります。
「ステイタス」は固定したものではなく、場や関わりによって流動していきます。荒木さんからは「ステイタスの高い人がスーツを着てジャングルに立つと、その人のステイタスはぐっと下がってしまう」という例が出されました。役割の高低としてのステイタスもありますが、関係性や状況が入り交じる中でステイタスは変わっていくものだそうです。
与えられた役割と場の状況によってどのような物語が生まれてくるのでしょうか。今回はそれぞれに与えられた役割(ステイタスの高低を1〜8に分類して一人にひとつ役割がランダムに割り振られる。8がステイタスが一番高い)で即興の場面を演じます。誰がどの役割を持っているかはわかりません。姿勢、態度、声、立ち位置なの要素が組み合わさり、その場でのステイタスの高低が見えてきます。偉そうな態度を取る人、極端に下手に出る人、周りの様子を伺いながら自分のステイタスを出していく人などさまざまです。面白いと思ったのは、写真でも分かる通り、一番高い人と低い人は見た目にもわかりやすい。でもステイタスの高い人が2人いたとき、どちらの方がより高いステイタスなのかは一見すると分かりにくいのですが、その2人が話したり、関わりを持つと歴然とします。まさに、ステイタスが場や関係性によって流動的であるということがはっきりとわかる一場面がありました。
場面を演じた後、参加したファシリテーターからは、普段の自分とファシリテーターをしている自分ではステイタスが異なるという気づき、場や関係性が動いていく中でその時々の流れで人前に立てたらいい、子どものグループに関わるとき、無意識にステイタスを下げて親近感を持って話をしたり、逆にやる気の無いグループに対して高いステイタスで関わり始めてきっかけを掴むなどの話が出てきました。無意識にやっていることに「ステイタス」という考え方を知るだけで、場を読む力やファシリテーターとしてその場にどういようとしているのか、いたいと思っているのかを意識できる素晴らしいチャンスになります。ステイタスを知ることで場を見ることができます。
ファシリテーターの皆さんは始終、楽しそうにワークに取り組んでいました。人の動きや人の態度など、枠組みで整理しにくいものに枠組みを作って、分解や概念化をしやすいので、今後の参考になったようです。
部屋の隅で眺めていた身として感じたことは、身体についての学びは外から見ているだけでは学ぶことはできず、実際に身体を使ってやってみないとわからないことが多いからこそ、体験することが大事なのだろうと思いました。ステイタスの関連で言えば、見ている存在のままでいるのは自分のステイタスの有り様もよくわかりません。関わってこそ場は動き、関係性も自分の有り様も動いていく、それは人間関係のうえでとても大切なことなのだと思いました。
荒木シゲル公式サイト:http://shigeru-araki.com/
(20180320)