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武家屋敷の歴史の戻し方 日南市飫肥(おび)城下町にあるお食事処〈武家屋敷 伊東邸〉

いよいよ設計に着手

明治時代の建物で、図面の類は一切なく、
元家主が描いたであろう間取り図が1枚あったのみ。
現状の図面を描くことから始まりました。

唯一あった図面っぽい資料。元家主さんが描いたであろう手描きの間取り図。

現場は壁や屋根まで植物が登っているところもあり、
採寸することが困難なほど荒れた状態。毎回、草刈りから始まります。
敷地全体の草を刈り、外形の寸法から、柱や梁の長さ、
断面の寸法まで取りこぼしがないよう調査していきました。

採寸などの調査をしていると、昭和の時代にやったであろう、
家族や生活様式の変化に合わせるための増築や改築の跡が見られ、
屋根の下地材を支える桁(けた)には茅葺き屋根がかかっていた跡も見つかりました。

市の担当者に報告したところ、
「できるだけ以前の状態まで戻してほしい」とのこと。
ここで、ふと「何を基準に以前なのか」
「いつを基準に歴史的な風景なのか」と疑問に思い始めました。

既存の屋根の構造体。梁のサイズや、柱梁間の寸法を再現するよう設計する。

どこまで歴史をさかのぼって残すのか。
元の状態だった茅葺き屋根にしたり、伝統的な工法でやったり、
柱梁の材料も既存のものを積極的に再利用したりと、
戻せることなら建築当初の姿まで戻したい思いがありました。
しかし、今回の物件では、建築基準法の壁が立ちはだかり、
いずれも実現することができませんでした。

茅葺き屋根は、物件がある地域が準防火地域で、
不燃の材料で屋根を覆う必要があり、断念。
工法や材料についても、現在の耐震基準を満たすことはできませんでした。

それでも、茅葺き屋根が将来実現できることを想定した下地を敷き、
屋根や全体の構造も茅葺きにした際の強度を確保した設計をし、
未来に託すことにしました。

既存の構造体だけ残した状態。この状態になってから、構造体の詳細な寸法を再度採寸し直した。

昭和につけ加えられたアルミサッシや、セメント瓦、
現代の生活様式に無理矢理合わせた水回りやトタン製の外壁など、
無秩序に足されていった歴史的ではないと判断されるパーツをひとつずつ剥がしていき、
アルミサッシは木製の建具に、セメント瓦は日本瓦仕様の飫肥瓦に、
トタン製の外壁は飫肥杉張りに変更。

できるだけ当時も使用されていた素材を採用し、
畳間の寸法、材料の厚みやサイズなど、現代の法律をクリアできる範囲で
当時の様子を残すよう心がけました。

庭側正面から見た外観。屋根は金属仕上げとなったが、茅葺き屋根を載せることもできる下地とした。
エントランス側正面からみた外観。

内装についても、できるだけ歴史のかけらや伝統的な様式を感じられるよう、
鴨居の高さは昔のままに、以前に茅葺き屋根だった様子が伝わるように、
天井は張らず、屋根の下地がすべて見えるようにしました。

既存の鴨居の高さや、柱と梁のサイズ、距離などをそのまま表現した。
武家屋敷の板間を表現するために飫肥杉の板を張った床。

床には、素材として不向きながらも、武家屋敷の板間に使われていた
地元産・飫肥杉の板材を張りました。
そうすることで、当時の様子を感じてもらうとともに、
地域の風土も感じてもらえるはずです。

庭に新設した石垣。以前使用されていた瓦を石垣の間に入れ、歴史のかけらを敷地内に残す。
新設した冷蔵ショーケース内蔵のレジカウンター。以前使われていた外壁などの板材や、建具を再利用して特注で製作。
上棟式の風景。完成を待ち遠しく思う近隣の方々が餅まきに参加し、多くの人が集まった。


まちの期待を背負い、いよいよオープン

外装の復元改修と飲食店としての内装工事も終え、
いよいよお客さんを受け入れる準備ができました。

上棟式には、何ができるのかと楽しみにする近隣の方々が集まり、
オープン前のお披露目会にも、このプロジェクトの関係者や
これから関わる方々が多く集まり、祝福してくれました。

オープン時、仲間から祝福を受ける本田清大さん(右から3番目)。
オープン時、店頭に立ち忙しくお客さんの対応をする本田さん。

2018年4月、まちの期待を背負った〈武家屋敷 伊東邸〉は無事にオープンを迎え、
飫肥城下町の新たな観光スポットとして、生まれ変わりました。

当初は観光客だけを想定していましたが、
飫肥城下町やこの復元された武家屋敷を自慢げに案内する
地元の方に連れられた友だちグループや、
親戚一同で食事をする地域の方々もよく見かけます。

こうして、地元の人にとっても、県外から訪れた観光客にとっても、
居心地のいい場として親しまれる新たな飫肥の観光スポットとなりました。

地元の方とそのお友だちが一緒に食事をする風景。地元も観光客も憩う場所ともなった伊東邸。


武家屋敷 伊東邸

住所:宮崎県日南市飫肥8-6-10

TEL:0987-55-8010

営業時間:11:00~17:00 *夜は完全予約制

定休日:火曜

Web:武家屋敷 伊東邸

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