2020年1月に「次世代育成パートナーシップ」の締結を発表した、今治.夢スポーツとネットプロテクションズ。ネットプロテクションズでは、自社の従業員だけでなく、大学生や高校生、中学生に向けても課題を発見して、解決型のワークショップを開催。次世代教育・育成に積極的に取り組んでいます。このパートナーシップの締結よりも先に、今治.夢スポーツとネットプロテクションズは次世代育成への取り組みをそれぞれ独自に進めており、そこには驚くほど通じ合う哲学があったといいます。若い世代に積極的に働きかける理由、そして次世代にとっての働く意義とは。深く掘り下げて考えます。
今治.夢スポーツ 担当執行役員 氏家翔太
都内の教育関連企業でのCEOを経て2019年5月に今治.夢スポーツ入社。パートナーシップグループ長に就任し、同年11月から現職。企業理念の実現に共感するパートナーとともに、次世代、地域のために協働できるようなアプローチを続けている。
ネットプロテクションズ 執行役員 秋山瞬
スタートアップ企業での新規事業の立ち上げや支社設立に携わった後、次世代を担うリーダー創出を志して2009年にネットプロテクションズに入社。セールスグループゼネラルマネージャーとして自社決済システムの導入支援、人事責任者としてマネージャー職を廃した人事評価制度『Natura』のリリースに携わる。
ー まず、両社のパートナーシップ締結までの経緯、思いを教えて下さい。
氏家:弊社のアドバイザリーボードである藤沢久美さんが、ネットプロテクションズさんの社外取締役だったことが最初の繋がりでした。弊社代表の岡田武史が今治.夢スポーツを経営するなかで、会社の組織としてティール型組織に関心をもっていました。そこで藤沢さんから「ネットプロテクションズさんという企業がティール型組織を実践している」とご紹介いただいたことがそもそものきっかけです。
お話を伺うと、実は理念の部分で非常に近いものがあるということが分かりました。私達はサッカークラブ運営を中心に、教育など次世代育成に取り組んでいる。ネットプロテクションズさんでは決済サービスを提供していますが同じような未来を目指している。全く違う事業を行っているものの目指している社会がとても似ているということで、将来なにか一緒に取り組めないかという話へと発展していったという経緯があります。
秋山:弊社代表の柴田紳がサッカー経験者であり、サッカーが大好きな人間です。藤沢久美さんにご紹介いただき、柴田と岡田さんにお会いしたときにサッカーに限らず、目指している世界観、思いに共感する部分が大いにあることで話が弾みました。
今治.夢スポーツさんではフットボールクラブだけでなく、バスケットボールなどの他競技、そして人材育成にも力を入れている。その背景として今治.夢スポーツさんには、スポーツ事業に携わりながら「次世代のための心の豊かさを大切にする社会創りに貢献する」という思いがあり、それは弊社が掲げている「つぎのアタリマエをつくる」というミッションとかなり近い部分がありました。そこで、ともに育っていこうという共通概念のもとスポンサードさせていただくことになりました。
ー もともと、ネットプロテクションズでは2010年から大学生向けに事業立案ワークショップとして「サマーインターンシップ」を、2019年からは中高生に向けても同様のワークショップを開催しています。今治.夢スポーツでも次世代から社会変革を牽引する人材を生み出すためのワークショップとして「Bari Challenge University」という取り組みを行っていました。
秋山:もともとはリクルーティングのひとつとして大学生向けに始めた取り組みだったのですが、もっと早い段階で経験して欲しいというメンバーの強い想いから中高生向けにもワークショップをはじめました。今年コロナ禍での実施可否を検討した際も、参加者の親御さんからこの取り組みはぜひ続けてほしいという声を多くいただき、ニーズの高まりを肌で感じました。
氏家:お互いまったく知らないところで、同じような取り組みをしていたと。お互いに親和性の高いものがあるので、スタッフ同士の人材交流やイベントとしての関連ができるようになれば、社会貢献としてもお互いの取り組みにとってプラスになると考えています。
ネットプロテクションズが開催する中高生向けリーダー養成インターンシップ「THINK FLAT CAMP」
ー なぜ、次世代が活躍するための社会づくりに取り組んでいるのでしょうか?
氏家:弊社の企業理念は「次世代のため、物の豊かさより心の豊かさを大切にする社会創りに貢献する」ですが、それを私達の世代だけで実現することは非常に難しいと私自身は感じています。人類には先祖がいて、僕らが繋ぎ、そのあとも人は生きていく。自分の個人的な考えとして命を繋ぐことのほかに、なにかを次の世代に残していくことが重要だとも感じています
組織としていうと、自分の街にJリーグクラブがあるという幸せを今治の街に残していくことはもちろんですが、自分のことを好きになれること、人を思いやれることが心の豊かさだと私は考えています。それを会社の事業やパートナーの皆さんとのアクティベーションを通じて少しずつ次の世代に広げていきたいと思っています。
企業が存在するためには利益が必要ですが、英語で企業を意味する「Company」は人が集まることという意味も持っています。人の集まりとしての私達は、未来に対して貢献していくことに存在意義があると考えています。これまでは資本主義のなかでお金を稼ぐ会社が残ってきましたが、今後は社会にとって貢献できて意義のある組織が残っていくのではないかと考えています。その意味でも、企業理念をきちんと実践していくことが何よりも大切だと考えています。
秋山:私達もかなり近いことを考えています。2012年ごろ、社員がまだ50名くらいのときに、自分たちがどんな組織であるのか、どんな事業であるかを社員全員で考えました。そのときに出てきたことが、まず、自分たち自身の幸せは当然求めたいということでした。
さらに、ひとりでやっているのではなくて、みんなが集まっているところに何を見出していくのかということを考えたとき、株式会社として事業を通じてお客様の幸せにつなげることに加えて、その先にあるより良い社会を創っていくことが重要だと共通認識をもつに至ったわけです。
つぎのアタリマエをつくるという言葉にしても、事業としての価値を生み出していくんだという思いだけでなく、企業のあり方としてもつぎのアタリマエをつくるという、事業と組織の両方の思いを込めています。その一環として、私たちは次世代のリーダーを輩出するという社会的な意義を備えており、かつこれからの企業は社会的意義を備えていることがアタリマエになる、ことを目指しています。
氏家:弊社は、今治市の「しまなみアースランド」という森もある自然豊かな公園の指定管理も行っています。ここでは今治市の教育委員会と連携して、市内の小学5年生全員に対して環境教育のプログラムを実施しています。ただ環境を大切にしましょうという話をするのではなく、彼らが大人になったときにどんな地球にするのか、社会にするのか、未来を創るのかということを問いかけるプログラムを行っています。
未来は今治.夢スポーツが作るわけではなく、未来を生きる次世代の子たちが繋いでいくものなので、そういう子たちに働きかけているという形です。フットボールクラブ運営とは全く違う事業も行っていることが、私たちのの大きな特色だと思います。
フットボールクラブという機能がありながら、次世代のためにできることをしていく。野外教育もBari Challenge Universityも、最終的には次世代に対して貢献することを考えています。
今治.夢スポーツが行うしまなみ野外学校の様子
ー この企画では、働くということについて考えることがテーマなのですが、氏家さんから見て、今治.夢スポーツで働いている方はなににやりがいを感じて働いていると思いますか?
氏家:実は弊社のバックオフィスには、フットボールクラブから転職してきたスタッフは一人もいないんです。その経験があるのは代表の岡田だけで。では、私達がなにに惹かれて今治にやってきたかというと、それは企業の理念なんです。
私自身はサッカー経験者ではないですし、今治に来るまでは教育業界でずっと仕事をしてきました。前職では教育を通じて次世代の育成に少しでも貢献できればという気持ちを胸に講師を含めて200名程度の規模の外国語教育関連の企業のCEOを務めていました。縁あって今治.夢スポーツに出会ったのですが、サッカーを通じても、手段が違うだけでたどり着くところは前職と同じだと感じて今治にやってきました。
子どもたちが喜んでくれる、今治の人たちが元気になってくれる、ワークショップに集まった若い人たちに絆が生まれたり、出したアイデアが実現していくことで私自身は理念が少しずつですが確実に実現できている手応えを日々感じています。そういうことが私たちが感じている喜び、やりがいなのかなと思っています。
ー 同様に、秋山さんは、ネットプロテクションズで働いている方のやりがいをどこに感じていますか?
秋山:働くことで得られる、または必要とされる成長には、業務に関する水平的な知識やスキルの成長があげられますが、弊社ではそれよりも意識や知恵という垂直的な成長を重視しています。自分自身が何者であるのかを内省する機会やフィードバックを大切にしており、その上でなにを目指していくのか。ネットプロテクションズでなにをするのか、よりも人生においてどのようなWILL(意思)をもつのかが重要だと考えています。
これは、次世代育成にも繋がるのですが、なぜ私たちが次世代を育成するかというと「やりたいから」なんですね。私たちの思い自体が、自分自身の幸福を追求することよりも、次世代のためになにかをしたいというWILLをもっている。だからこそ、それに取り組むことがやりがいにつながっているのだと思います。
ー では、これからの社会で働く次世代の若い方々には、どのような人になってほしいとお考えですか?
秋山:いまは変化が激しく、誰も先が読めない時代です。そのため、これからの社会で活躍するには、外に答えを求めるのではなく自分で正解を創っていくことが重要なのではと思っています。なにか課題があったときに、最善の選択肢や最短のルートを求めがちですが、社会が大きく変化して前提が変わってしまうこともある。そうしたときに向き合うべきはどちらかというと自分の内面。自分の人生として大事にするものがあるなかで、なにを正解にするのか選んでいくこと、選んだ道を正解にするべく今できることに全力を尽くすことが大事なのかなと思います。
氏家:自分自身がどう生きていたいのか。今の世の中ではなにが起きるかわからないからこそ、重要なことですね。さらに私が思うのは、変化や未知のできごとを受け入れる柔軟さです。過去に執着するのではなく、起きた変化を受け入れて未来に進んでいくことが必要だと思っています。自分の足で、移ろっていく世界を楽しめるような感覚をもっていることが大切なのではないでしょうか。
秋山:その意味では、「問いを解ける」よりも「問いを立てる」人になってほしいと私たちは思っていて、変わり続ける社会に対してどのような課題があるのかを自発的に見つけていく視点を持つ人を増やしていきたいと思います。
ー 最後に、このパートナーシップを通じてどのような活動を行い、どのようなメッセージへとつなげていきたいとお考えでしょうか。
氏家:次世代育成パートナーというパートナーシップを締結させていただいたわけですが、次世代育成というのは短期的な話ではありません。例えば私の親からしたら私は次世代ですし、今はまだ幼稚園に通っている私の娘も、いずれ親になりその次の世代にバトンを繋いでいくでしょう。このように次世代というのはいつまでも存在し続けます。いま、私たち自身が関わっている時間には限りがありますが、両社がなにかしらの形で今後も繋がっていき、次世代、さらに次の世代へと貢献していきたいと思っています。
また、このパートナーシップを通じて社会で活躍する次世代の子たちが、まったく違う場所で次の次世代に貢献していくというような連鎖的な繋がりができて、次世代育成パートナーというものが生まれたことが広く続き、いつまでも消えないものになることを願っています。
秋山:まったく同感なのですが、ひとつ付け加えるとしたら、私が大事にしたいのは「恩送り」という考え方です。ペイ・フォワードという考え方が私はとても好きなのですが、前の世代がしてくれたことをその人に返すのではなく次の世代へとつなげていく。例えるなら駅伝のように、一人で走るマラソンよりも、思いをつないでいく、伝えることがパワーになる。そんな取り組みにしていきたいと思っています。
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