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「“会社の垣根を越えた個人”によるチームが最強」加藤ミリヤ、チャットモンチー、Chupa Chupsを手掛けた企業間連携チームとは

あるプロジェクトが動き出すとき、クリエイターや協働する会社を毎回変えていくパターンもあれば、いつも同じメンバーでチームを組んで挑む場合もあります。

monopoではどちらのパターンで進めることもありますが、後者の最たる例としては、ソニー・ミュージックソリューションズとの関係性が挙げられます。

これまで加藤ミリヤチャットモンチーといったアーティストのプロモーションを手がけ、この2年半の間に20近くのプロジェクトでコラボレーション。2020年にはChupa Chups(チュッパチャプス)のブランドエージェンシーチームに参加し、今もそれぞれの強みを活かしながら、企画を次々と生み出しています。


固定のチームとはいえ、別々の会社である二社。それぞれの特性をどのように活かし、連携してきたのでしょうか。ソニー・ミュージックソリューションズでアートディレクターを務める上東鷹介さん川本拓三さん、monopoの宮川涼に話を聞いてみたところ、企業やチームがよりクオリティの高い成果物を生み出すために必要なことが見えてきました。


必要な人と組む。社内か社外かは関係ない

(L→R)ソニー・ミュージックソリューションズの上東鷹介さん、川本拓三さんと、monopo宮川涼

―もう二年以上のお付き合いになるソニー・ミュージックソリューションズ(以下、SMS)とmonopoですが、両社が協働することになったきっかけは?

上東:K-POPアイドルのブランドサイトをお願いしたときだから、2017年くらいかな。よく仕事をしている会社から「monopoさんいいですよ」って話を聞いて、monopoのキーマンは誰なのか、ポートフォリオを見ていたんです。

宮川:そうそう、上東さんが僕のポートフォリオからメールをくださった。「YUKIや欅坂46を手掛けているので!」って、誘い文句が強かったのを覚えています(笑)。

上東:宮川さんの作っているものがよかったから、「会いましょう」とメールしました。ウェブ上でナンパした感じ。

― 最初の座組は、企画がSMSで、制作がmonopoだったんですか?

宮川:その時はmonopoでウェブサイトのエンジニアリングだけ請負いました。SMSさんからデザイン用のデータがまるっと送られてきて、それをひたすら実装して、納品していきました。

上東:SMS社内にフロントエンドのエンジニアリングチームがいないから、いつもどこかに外注していたんです。その外注先の候補探しという意味も含めて、一度やってみましょうかって始まり方でした。当時の僕は「サイトを作るだけ」みたいな制作仕事の担当が多くて、企画まで関われる仕事を持ってこられなかったんですよね。

宮川:でも一本目の仕事が終わる前に、すでに二本目がスタートしていましたから、あの時点でもう今のような関係は始まっていた気がします。

―上東さんと川本さんはお二人ともSMSのアートディレクターですが、二人で組むときはどのようにポジションを分けているのでしょうか?

上東:どちらかというと川本さんはグラフィック系のアートディレクターで、CDのジャケットやスチール撮影、OOH(屋外広告など)を含めた紙ものが得意。僕はWEBとかデジタル系。職能がちょっと違うと思ってます。

川本:好みのトーンも若干違いますね。案件によっては二人で協働することもあって、あるタイミングから、宮川さんとも本格的に組むようになったかも。

宮川:そうですね。しばらくは上東さんとだけやり取りをしていたけど、途中から川本さんの存在を教えてもらって。グラフィック系の仕事ができるってことと、乃木坂46のジャケットを担当していると聞いたんです。僕、乃木坂46がめっちゃ好きなので「マジかよ!?」ってすぐ反応して、川本さんのポートフォリオを漁っていました(笑)。

― 案件によっては、monopoから逆指名のような形でお二人に依頼することもあったと聞きました。SMS的には、クリエイティブ側からの逆オファーはどのように感じていますか?

川本:個人単位で考えれば、結構よくあるパターンだと思うんです。たとえばフォトグラファーと仕事をするとき、普段は僕らからフォトグラファーにお願いする流れが多いんですけど、たまに向こうから「こういう仕事があって、アートディレクターとして入ってくれない?」と打診を受けることがあります。その規模感が会社クラスになっただけで、スタンスはあまり変わらないです。

上東:僕もあまり意識していないですね。SMSも制作会社的な側面を持つし、二社間に上とか下とかもない。フラットだから「楽しそうだね、やろうやろう」って、感覚が合うものを一緒に取り組むようにしています

宮川:この間monopoのnoteでも公開されていたジョージのプロデューサー論でも書かれていましたけど、monopoでは国籍や所属を問わず、いろいろな人と仕事をしています。日本在住の外国人フリーランスをアサインすることも多いですけど、コラボレーションする相手はフリーランスに限らなくていいし、企業内個人というか、A社のあのひと、B社のこのひとでもいい。必要な人であれば社内とか社外とか、関係ないと思っています。


「個で繋がったチーム」で挑んだChupa Chupsのプロモーション

―具体的な案件についても聞かせてください。今年1月、SMSとmonopoのコラボレーション企画で、Chupa Chupsのブランドキャンペーンがリリースされました。始まったきっかけは?

宮川:2019年にMomentum Japanのクリエイティブ・中沢渉さんが、ブランドエージェンシーとして一緒に企画制作するチームを探していたんです。そこに、今回の記事でも僕らの写真を撮ってくれている折茂彰弘くんが僕を繋いでくれたのがきっかけでした。

――そこからSMSとの協働になったとき、どのように進めましたか?

宮川:「チュッパチャプスはただのロリポップではなく、カルチャーアイコンとしての可能性がある」という方向で考えていたのが中沢さんの意図で、ストリートカルチャーを理解している制作チームを目指していました。「じゃあ川本さんだ! スニーカー好きって言ってたし!」と、すぐに連絡して(笑)。きっとデジタルはもちろん、ポスターやOOHもやるだろうなって思ったから、上東さんと同時に「コンペなんだけど」とオファーしました。

― 会社間での役割よりも、個々人のスキルでアサインしていたんですね。

宮川:“特定のカルチャーに対して知見が深いメンバー”という条件は少し特殊だから、社内で集めようとしてもうまくいかない場合がありますよね。中沢さんと僕のように、今回は自分たちのつながりからチームを作っていった方が確実だと思いました。

最終的にはフリーランスのメンバーも含め9社ほどが関わるプロジェクトになりました。アパレル系やスケボー系のブランドとコラボしようとか、ZINEみたいな冊子も作りたいから編集者の長嶋太陽くんを呼ぼう、といったように、どんどん信頼できる知り合いを巻き込んでメンバーが増えていって。

川本:最初のプレゼンでの企画書、1枚目が制作チームの紹介だったんですけど、屋上で撮ったエモい感じのメンバー写真にしたんです。まるでアー写真みたいになってた(笑)。さらにスタッフリストも、「ブランドプロモーションが得意な人」「乃木坂46を担当した人」「MVを数多く作っている人」「カルチャー系記事をたくさん書いてる人」……それぞれ実績まで書いたから、やたらと豪華に見えて。

― SNSで見ていた限り、1月の公開時点でブランドが発信していたコンテンツは多岐にわたっていたように感じました。

宮川:たくさんありました。Webサイトだけではなく、Webサイト内でのコンテンツもあれば、原宿でのポスタージャックやインスタのStories FilterとGIFステッカーなど、Spotifyのプレイリストも作りました。

川本:制作の前段階で「ちゃんとメンバー全員がプランナーとして企画から携わりたいね」って話はずっとしていたし、実際に毎週集まって企画出しを続けていたし、その後どんどん作っていった感じがよかったですね。

― 3月にはChupa Chupsのホワイトデーに絡めた広告がリリースされました。どのような狙いがありましたか?

川本:WebサイトひとつやOOHひとつで見せるものではなく、年間通して色んなアクティビティが様々なカルチャーシーンで同時に行われているんです。それらの点がなるべく繋がって見えるように考えているので、「あれもChupa Chups! これもChupa Chupsだ!」と驚きが連鎖してくれたらおもしろいなと思って企画しました。

宮川:音楽を聴いている日常生活のなかにChupa Chupsがあるとか、好きなアーティストがChupa Chupsを舐めているとか、街を歩いていたらChupa Chupsのポスターがあるとか、カルチャーアイコンとして自然に色々なシーンで見かけるようにしたかったんです。それをゴールにして、クライアント含めチームみんなで企画を作っていきました。

先日m-floのフィーチャリングシリーズである「loves」プロジェクトが数年ぶりに復活したんですけど、その第一弾で、Chupa Chupsもコラボさせてもらったんですよ。ミュージックビデオの世界観と連動したコンセプトムービーや、メイキングビデオが公開されています。

― 「ただのタイアップ」ではなく、自然なコラボレーションに見せていたんですね。

宮川:Chupa Chupsのブランドメッセージが「FOREVER FUN」なので、コラボする人たちも一緒になって「FUN(楽しい)」と思えるようにしたいなって。アーティストやクリエーターたちの活動の一環にChupa Chupsがある状態というか。僕らも含めて、みんなが自分ごとで取り組んでいる感じを出したかったです。

―バレンタインはここ数年で「義理チョコ辞めよう」といった風潮が広がりました。ホワイトデーも昔とは意味合いが変わってきたように思います。今回のプロモーションではどういった解釈をされましたか?

宮川:これまでのホワイトデーって”バレンタインデーのお返し”として頭を悩ませる対象だったり、そもそも印象的な思い出がなかったりするよね、というのが意見として挙がって、調査もしたんです。そうしたら調査結果でも、みんな義務感を感じていたり、思い出が真っ白だったりして。

そこで、せっかくならもっと自由に、もっとカラフルに、Chupa Chupsと楽しく過ごそうよ!というメッセージを込めて、「HAPPY WHITE DAY」を「HAPPY COLOR DAY」に塗り替えることに決めたんです。男から女、女から男ではなく、もっと多様的に。友達同士で贈りあってもいいし、一緒に食べる日にしてもいいじゃん!楽しもうよ!というコンセプトです。

ホワイトデーの一週間前、3月6日までは、どの制作物も白黒で「HAPPY WHITE DAY」を謳っている広告を出しているんですけど、土日でグラフィティーアーティストがカラフルに塗り替えて、「HAPPY COLOR DAY」に切り替わるんです。

週明け9日には、「ホワイトデーを、もっとカラフルに。」というコンセプトとともに、全てのクリエイティブをまとめたリリースを出しました。WEBもその時点で「カラー仕様」に模様替えして、m-floのMVとコラボレーションしたコンセプトムービーや、インスタのStories FilterやGIFステッカーなど、様々な施策を公開しています。


固定チームで協働することで見えてくる会社間コラボのメリット

― 広告代理店や事業会社と制作会社の一般的な座組みを考えると、プロジェクトのために外注業者として依頼して、それっきりでおしまいといったパターンや、あくまでも実制作だけを依頼することもあると思うんです。でもSMSとmonopoは長期的に、しかも企画時点から協働していますよね。そのメリットを伺いたいです。

宮川:同じメンバーで組むメリットは明確にあります。たとえば、超有名なプランナーやアートディレクターには大きな仕事が集まります。大きな仕事なのだから失敗したくないでしょうし、特別な理由がない限り、初めて組むようなクリエイターにはきっと依頼しないと思うんですね。

― 確かに、失敗したくない仕事ほど盤石な布陣で挑みたくなりそうです。

宮川:だから優秀な人たちは、大きな案件が来たときこそ、ある程度固定のチームで動かすようになっている気がします。そのチームに関係値ゼロの状態から、外部のクリエイターが参画するのは、ほぼ不可能。だったら案件が小さなうちからチームを組んで一緒にやって、一緒に成果を出して、一緒に成長していく。すると必然的にステージが上がっていくし、より大きな仕事に早く出合えると思う。「仲間の勝負案件のときにそばにいる存在になる」っていうのが、効率がいいんじゃないかと。

上東:それもあるし、この三人でいえば、職能や興味範囲が被っていないから、関係が続いていると思う。得意領域を食い合うこともないし、それぞれ企画もちゃんと考えるから、毎回違うアイデアが出せる。企画を実現すること自体を毎回おもしろがってやるから、誰かに寄りかかってる感じもなくて、それがまたおもしろい。

宮川:ああ、そうかも。あと、お二人と僕は世代も少し違うから、たまに出した企画の良さを全然わかってもらえないことがあって(笑)。「これ絶対通るから、二人がわかんなくてもいいから提案させてくれ!」とか。

上東:最初は全くピンとこなくて、後から戦略を教えてもらって整理して、左脳で考えてみて、「あ、確かにこれは、届けたい人たちには刺さるなあ。これいけるよ〜」って後から乗り気になるやつ。

宮川:3日後くらいに急に前向きになってくれたりしますよね。川本さんは最後まで「わかんない」って言ってるときもあったし(笑)。

― 川本さんはいかがですか?

川本:もう二人がだいぶ言っちゃったからなあ(笑)。強いて言えば、初めて一緒に仕事をする人だと、お互いのクセが分からないから、ちょっとした賭けの要素が出てくると思うんですよね。どんなコミュニケーションの取り方をして、どんな考え方をするのか、わからないから

― たしかにそれはリスクでもありますね。

川本:でも何度か仕事を重ねていけば、やりやすい方法を見つけて阿吽の呼吸ができてくる。僕も相手のことを理解するし、相手も自分のことを理解していくから、どんどんやりやすくなる。関係値がグダグダになってくるとあんまり良い成果物が仕上がらないかもしれないけど、理解しあった上でお互いに足りないところを補填し合える関係になったら、仕事のクオリティはより上がっていくなっていう実感はありますね。

―話を聞いて逆説的に思ったのが、「いっそ三人で独立しても良さそうなのに、なんでそれぞれ会社に所属しながら仕事をするんだろう?」ということでした。会社に所属しているメリットってなんだと思いますか?

川本:僕はあんまり人を信用していなくて(笑)。仕事のうえでは二人をもちろん信頼しているんですけど、お互いの生活を支え合うまでの信頼ができるかってなると、そこはまた別の話。だから会社に自分の生活は保障してもらいつつ、その枠に収まらない仕事をするのが、一番自由な働き方かなって今は思っています。宮川さんの子供の分まで俺が稼がないといけない! とか、考えるとドキドキする。

宮川:僕は、単純にフリーランスだと受けられない規模の仕事が会社には来るからかな。あと、monopoはアパレル関係の仕事だったり、海外の仕事だったりと、僕の守備範囲外の仕事も多くて。そっちも遠目で見つつ、自分が好きな音楽やカルチャーの仕事を受けられる。自分だけだと、好きな方向にしか伸びにくいけど、守備範囲外のことを会社のメンバーとなら伸ばしていけるというのが、自分の幅も広がっていいなと。

― たしかにmonopoはいろんな種類の仕事を受けているように見えますね。

宮川:あとは、この三人が同じ会社にいたら、その会社に来る仕事しかできないですけど、それぞれ違う会社にいるからこそ、いろんな案件に関わることができていると思うんですよね。電通にいれば電通にしかこないようなデカい案件が来るし、ソニーミュージックだからこそ音楽の仕事が来る。それぞれの仕事を持ち寄ることで、別の会社に所属する者同士で組む意味が出てくると思います。

上東:僕も同じ。やっぱりそれぞれの会社でそれぞれのポジションがあって、その中で色んなおもしろい案件を持ってくるから、お互いのステージが上がっていって、すぐに相談しあえる関係もできたんじゃないかと思います。もう「会社同士で付き合っている」っていう感覚は、あんまりないかもしれない。

宮川:便宜上やるべき人が集まって、仕事をしているだけなんですよね。形式上、必要になる営業やディレクターを中継する必要もないし、この形の方がスピード感もあって楽しい。

川本:そうそう。あと、宮川さんって、すっげえレスポンスが早いんですよ。俺らのなかで「宮川さん、たぶん5人くらいいるよね? 今返事してるやつ、botじゃない?」と(笑)。

上東:「進捗まだですか」は絶対にbot。だからスルー。

宮川:全然返事来ないんすもん。ドキドキする! しかも大体は案件がいくつも同時並行で動いているから、ずっとSlack見ながら「この件の返事はいつ来るんだ?」って焦ってます(笑)。

よりクオリティの高い成果物を生み出すために必要なのは、強みや知見を持ったメンバーと会社の枠組みを超えてつながることと、そのメンバーと深い関係値を築くこと。そのためには長く一緒に戦線をともにすることが手っ取り早いというのが、三人の話から見えてきたことでした。

会社の在り方や個人の働き方に見直しが求められてきているこの時代に、社員を信頼し、真の意味で裁量を個人に委ねていく会社と、その裁量の中で全力を尽くす個人の姿が見えたことは、働くことや雇用することのヒントになりそうな気がします。企業間のコラボレーションの継続によって、より楽しく興味深いコンテンツが溢れていく未来が垣間見えました。


執筆:カツセマサヒコ 編集:長谷川賢人 撮影:折茂彰弘

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