急成長を続ける見積もりプラットフォーム「ミツモア」の取締役COOに、元グリー執行役員の伊野友紀さんが就任しました。グリー株式会社で300名の組織を統括していた伊野さんがスタートアップにジョインした理由はなんなのか。ミツモアで何を仕掛けようとしているのか話を聞きました。
[伊野友紀プロフィール]
[略歴]
2006年4月、ヤフー株式会社に入社。
2009年9月、グリー株式会社に入社後、エンジニア、プロデューサーを経てプラットフォーム統括部長としてゲームプラットフォーム事業を統括。
2013年10月、同社執行役員として内製Webゲーム事業を統括。セカンドマーケット子会社やベトナムオフショア子会社の立ち上げに従事。
2017年9月、株式会社エブリー 取締役 CPOに就任。
2017年より投資家・アドバイザーとしてミツモアに関わり、2020年11月に入社。
2021年4月、同社取締役COOに就任。
世界を変えられるチャンスが目の前にあった
ーーはじめに伊野さんから見たミツモアというサービスの魅力はなんなのでしょうか?
ミツモアと出会った2017年当時、インターネット上にサービスECのようなものがまだあまりない時代でした。この10年くらいでデジタル上にないものをデジタル上に置くという流れがどんどん加速していて、これの流れは止められないものだと思うんですね。食べログとかホットペッパーとか。ポータル化して探しやすくなったなと。
たとえば食べログがない時代は、焼肉を食べたいなと思ったら多くの人はチェーン店に行くということが多かったと思うんですが、実はチェーン店のすぐ近くにプラス500円くらい出せば別のおいしいお店があることもあって、そういうものが見つけられなかったのが食べログの登場で「新宿 焼肉」とかで調べればすぐに見つかるようになった。
そういう業界構造の再構築、体験のアップデートみたいなものをミツモアならできるのではと感じました。
先ほどの例はBtoCのC側の話ですが、B側で考えても、集客ノウハウのない事業者が自分で広告運用を集客してと、本業でないことにリソースを割いているのは本質的でないと思っていて、サービス業をポータル上に載せることによって今までのマーケティングの形が変わるだろうなと。
これは5年前でもダメで、先ほど話した食べログ、ホットペッパーみたいな流れにくわえて、スマートフォンがレイトマジョリティまで普及してきた今のタイミングだからこそ起こりえることだと思っています。食べログ、ホットペッパーは店舗型ですが、ミツモアの主なサービスはフィールド型なのでスマホの普及率が高くなる必要があって、今がそのタイミングだと。
逆に10年後だとおそらく別の会社がやってしまうと思うので、まさに今、世界を変えられるチャンスが目の前にあって、そのチャンスをつかめる会社がミツモアだと思います。
ーー2017年というと、すでにバーティカル型の会社があったと思うのですが、そこでミツモアを選んだ決め手はなんだったのでしょうか?
バーティカルの形で世に出てくるものはあっても、ミツモアのようにポータルサイトとして世に出てくるものは少ないので。
新卒でYahoo!、その後GREEとToCポータル系のサービスを展開している会社で働いてきて、個人的にToCポータルサイトが好きというのもあって関わりたいなと。
ーー伊野さんにとってToCポータルサイトの魅力はなんなのでしょうか?
「何の仕事してるの?」と聞かれた時に「これを作ってる」と言って「知ってる!」となる割合が大きいというのはあります。自分のおじいちゃん、おばあちゃんでも知っているサービスを作りたいなと。
インターネットってそういう大きなものだと思うんですね。インターネットの原体験に高校生の時に触れたAOLという世界最大級のポータルサイトがあって、ブラウザが独自で接続するのにAOLのソフトを使わないといけないのですが、リアルタイムでチャットができるという当時としては凄いサイトでした。厳密にはリアルタイムではなく、リアルタイム風に見えていただけだと思いますが、深夜にチャットして、ポータルサイトって楽しいな、凄いなと思ったのが原体験です。
それで就職しようと思った時に「スーツ着たくないな」という思いと(笑)、「世の中を変える何かを創る」というライフミッションに基づいてYahoo!に入ることを決めました。その当時、エンジニアの新卒募集をしていたみんなが知ってる会社はYahoo!しかなかったので。楽天はエンジニア採用がなく、ミクシィもGREEも新卒採用をしていなかったですし。
ーーずっとインターネット、ずっとToCポータルサイトなんですね。Yahoo!からGREEに転職し、執行役員を歴任するなどして、2017年からミツモアにエンジェル投資をしていたかと思うのですが、2020年末のタイミングでジョインしようと決断した決め手はなんだったのでしょうか?
2017年くらいから時折相談を受けるようなかかわり方をしてきたのですが、領域の幅、伸び方、課題が見えてきて、ジョインしたらもっと大きく伸ばせるだろうなというミツモアのタイミングと、次に何をしようかと考えていた自分のタイミングがあったというのが大きいです。
創業から3年くらいはいかにPMF(プロダクト・マーケット・フィット)させるかということが重要でしたが、これからは組織作りの重要度が上がっていくので、自分のこれまでの経験が活きてくるだろうなと。
あとはCEOの石川、CTOの柄澤とは出会ってから約4年になりますが、相談を受けるなかでチームが真面目に頑張り続けている姿を見てきたので、一緒に走りたいなと思いジョインしました。
ーーもしもの話になるのですが、仮に10年前の伊野さんがミツモアを知っていたとしたら、その時でもミツモアにジョインしようと思いますか?
2010年頃と現在では状況が大きく違うので純粋な比較は難しい。10歳若くて2021年とした時の話なのか、それとも2010年頃の話なのかで前提が変わってくる。
仮に2021年だとして、10歳若かったときにミツモアを見ていたらベンチャーの資金調達とかも解ってなかったので、大丈夫だろうか?と思うだろうと思います。ただ、あの頃と違い今のベンチャー企業の資金調達環境を理解していれば全然大丈夫という判断になるかなと。逆に2010年の頃だとしたら調達環境も違ったのでベンチャーに飛び込むのは大きな決断かと思います。
今はFacebookなどのSNSの発達で、ベンチャーのお金の構造や資金調達情報が取得しやすくなって、そのようなことが理解しやすくなったという変化も大きいと思います。当時と比べて起業家も、ベンチャーに行く人も増えましたし。
ミツモアの可能性、ミツモアが作る未来
ーーミツモアの「見積もり」というシステム自体の可能性についてはどのように考えていますか?
まず「見積もり」という行為自体は商慣習上に今後も絶対に残ると思います。「価格を比較したい」「相見積もりをとりたい」というニーズは仕事でも生活でも残り続けると思うので。
また「質問に答えて、あとは待っていれば見積もりが届く」という体験にも可能性を感じています。インターネット、と言っていいか微妙なところですが「調べるという行為からの脱却」という流れが起こっていますよね。
「フィルターバブル」によって「自分の見たい情報だけがレコメンドされる」というのもまさにそうです。たとえば中国のニュースアプリ「今日头条」は3クリックくらいするだけで、ユーザーに最適化されたニュースが届くようになるので。
「自分でものごとを探す」という行為のない世界をインターネットは目指しているのではと個人的に思っていて、自分の欲しい条件を伝えれば自分に合ったものが出てくる、というのは当たり前になっていくだろうなと。
ミツモアであれば、サイト内で自分で調べて、リストを見て、金額計算をしてといった手間がなく、質問に答えて条件入力をすれば最適化された見積もりが届くので、その流れには沿っているなと。
ーー一方で現在ミツモアは検索からの流入が集客のメインというところはありますが
検索しなくなるトレンドがある一方で、検索しなくてはいけないシーンもあるだろうなと。たとえば「ハウスクリーニングをしてほしい」ことは決まっているけれど、「自分に合ったハウスクリーニング業者を探す」ことは求めていないとか。探すのは面倒なので、Google検索で一番上に出てきた広告をとりあえずクリックして、というようなことが起こっていると思っていて、それは依頼者にとっても、事業者にとっても良いことではないなと。
「ハウスクリーニングをしてほしい」というニーズと条件設定さえあれば、最適なハウスクリーニング業者をレコメンドしてくれるサービスの方が、自分で労力をかけて探すより良いなと思います。
ーーリスト形式で事業者が並んでいる中から選ぶのは体験として良くないということでしょうか?
ものを対象としたECサイトは価格順といったリストで並べる設計でいいと思いますが、サービスを対象としたECは価格順で並べることにあまり価値はないと思うので。食べログも価格範囲では絞れるけど、安いランキングという見せ方はしていないですし。
そこはまだサービスECのベストプラクティスが何かの答えは出ていないので、ある種チャレンジングな部分ではありますが、ミツモアはテクノロジーの潮流には沿っているだろうなと。
ーーミツモアがこのまま成長を続けていったとすると、未来はどのように変わると思いますか?
ミツモアに限らずですが、サービスの認知とマーケットの拡大が起きれば起きるほど、サービスの品質自体は良くなっていくと思います。たとえばクチコミで評価が高くついている人はこういう工夫をしているんだということがわかりやすくなるので、品質向上の浄化作用がそういう面でも働いていくのではないかなと。
ミツモアとして達成しなければならないのは、事業者がより本業に集中できるようにすることですね。集客の手間を省くことで、これまで1日3件しか仕事をできなかった事業者が5件できるようになり、本業に集中するからこそ品質が向上するという好循環を作りたいです。
ーー最後にミツモアに入社してハマる人はどういう人だと思いますか?
・自分の関わっているプロダクトビジネスを信じている人
・変化への対応力が強い人
・個としての強さより組織としての強さを出していける人
かなと。
今まで一緒に働いてきた仕事のできる人たちはみんな、自分の関わっているプロダクトビジネスを信じていました。あとそもそもインターネットやビジネスが好きな人とそうでない人では、たどり着ける境地が違うなと。自分の関わっているプロダクトビジネスを信じて、自分の好きや興味関心を追求し続ける人が結果として事業成長に寄与してくれると思っています。
インターネットビジネスは変化量が激しいですし、特にスタートアップは変化し続けるべきなのですが、変化に対応しつつも流されずに没頭できる人が合っていますね。状況の変化によって方針が変わることは頻繁にあるので「せっかく慣れたのに。。。」と思ってしまうタイプだとハマらないかと思います。
この先のフェーズは個の力よりも組織の力になってくるので、個人技しかできないとバリューを出しづらくなるんじゃないかなと。突き詰めると「他人のために頑張れるかどうか」に行きつくようにも思います。
ミツモアのバリューに「エンジンであれ」というものがありますが、「目標達成のために、みずから問いを設定し、データを集めて考え、決断・遂行できる人」はミツモアと相性が良いのではないかと。
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