1
/
5

『絶メシリスト』成功の裏側と地方PRの可能性


カンヌライオンズ2019をはじめ、国内外の様々な広告賞で表彰され、いま最も注目を集めているシティプロモーション『絶メシリスト』(群馬県高崎市)。一つの地方自治体で実施したキャンペーンにも関わらず、『絶メシリスト』はなぜこれほどの広がりを見せたのでしょうか?成功の要因と、そこから考えるこれからの地方PRのあり方について、博報堂ケトルでプロデューサーを務めた日野 昌暢さんと、PR戦略設計とメディアプロモートを行ったマテリアルの竹中&岩本に語っていただきました。


『絶メシリスト』はなぜ生まれたのか?

”何もない街”高崎市で始まったシティプロモーション

ーはじめに、日野さんが『絶メシリスト』に取り組まれることになった経緯を教えていただけますか?

日野:もともとは、高崎市からのシティプロモーションのコンペに参加しないかと博報堂の営業から声をかけていただいたのがきっかけです。高崎市の市長さんは、「とにかく面白いことがやりたい」と仰っていると。テーマは「食」でした。


ーそんな中で、どのようにして『絶メシリスト』というアイデアが生まれたのでしょうか?

日野:企画に取り組む前に、実際に高崎市に出向いて街を歩きながら、地元の方々にインタビューして回ったんですけど、みんな口をそろえて「この町にはこれと言ったものがない」「昔はすれ違う時に肩がぶつかるぐらい人がいた」「昔はいいお店があったけど全部つぶれた」って言うんですよ。


たしかに、高崎市にはこれと言った観光名所や名物がない。でも、街中にある”普通のご飯屋さん”が、とても美味しかったんです。加えて、そういうお店の店主はだいたい高齢で、「次来たときはないかもよ」なんて冗談で言ってくるんですよ。その様子を見て、うちのクリエイティブディレクターの畑中翔太が、『絶メシリスト』を発案したんです。人って、いざそのお店がなくなると知ると、長蛇の列をつくって食べに行くじゃないですか?その現象にも絡めて、この企画が生まれました。

パートナー企業の決め手は”確信的なアイデア”を持っているかどうか


ーその後マテリアルと組むことになった経緯を教えて下さい。

日野:PR系の会社にはいつも必ず入ってもらうので、この案件でもケトルと一緒に組めるところを探していました。当時、「PRで面白い人はいないか?」という話題が社内でよくあがっていたんですけど、『絶メシリスト』の企画がはじまる前に、『Dentapple※』という別の案件で、うちの畑中が関くんと一緒に仕事をしていて、畑中から「マテリアルに優秀なプランナーがいる」って聞いていたんですよ。「いまマテリアルの関くんが元気がいいぞ」って(笑)その流れで、マテリアルにお願いすることになりましたね。


ーふだんPR会社を探す際の決め手は何なのですか?

日野:日頃のメディアとの向き合いの経験から、確信的にアイデアを持ってきてくれるPR会社さんとご一緒できるといい仕事になるなと感じています。畑中が企画を立てる時に、直感的に拾ってた社会課題を、メディアが受け取れる形に変換してくれたのがマテリアルさんでした。


ケトルには特有のテンポがあるので、それに合わせて気持ちよくやってくれるPRパーソンやPR会社を選んでいます。あと単なるPRプロモートだけよりも、プランニングや企画から関わってやろうという気概のある人が良いです。ケトルのコンセプトは「統合プランニング」なので、PR会社ともワンチームになって企画から一緒にやりたいです。


『絶メシリスト』を成功へと導いた2つの要素

「2017年問題」による”世の中ごと化”

ー『絶メシリスト』を話題化させる中で意識したことは何ですか?

岩本:当時私はテレビプロモートチームにいたので、アイデア自体はプランナーの飛田くんからもらっていたのですが。自治体の取り組みがメディアに出ていくためには、観た人に「自分たちの課題」だと認識してもらう必要があるので、当時話題になっていた「2017年問題」に絡めた企画書の作成を心掛けていました。背景に社会課題を持ってくることで、ひとつの自治体の取り組みを大きく見せることが出来ます。あとはテレビプロモーターとして、お出かけスポットネタや飲食ネタとしても、他の情報と並べて『絶メシリスト』の企画を提案していました。


竹中:一企業の話だけで終わらせると、その取り組みは「世の中ごと」ではなくなってしまうので、プロモートでは社会や世の中の動向を絡めた提案や、他の事例と並列した提案をすることが鉄則です。当時は「2017年問題※」が色々なところで取り上げられて話題になっていたので、実際に後継者が不在しているお店の割合など、公式なデータを用いてPRを行いました。


ーテレビPR成功の秘訣は何だったのでしょうか?

日野:マテリアルさんが、日本の後継者不足問題(=団塊の世代が70歳を迎える2017年問題)を見つけて来てくれたのが大きかったです。絶滅してしまいそうなローカル絶品グルメを集めて、ポータルサイトを作ろうという企画に、メディアが興味を持つ大きなポイントを加えてくれたと思います。


竹中:『Dentapple』のときも、その当時は「TPP問題」がかなり取り上げられていたので、それと絡めて企画提案をプランナーたちが行っていました。PRプロジェクトが発足する際に、必ず根底にある社会課題に対して寄与する意義を、より明確に打ち出していく。この視点がないと、どれだけいい取り組みを行っても、施策として自発的に広がっていきにくいイメージが強いです。


ーPRで苦戦したことなどはありましたか?

日野:情報流通の構造的に、はじめにWEBで話題になって、そこからテレビに取り上げられる流れを予想していたんですけど、結果は違って。WEBはそこまで出なかったけど、テレビでは11番組も取り上げられたんですよね(笑)彩貴ちゃん(岩本)の圧勝です。


岩本:個人的には、テレビプロモートはやりやすくて、一発で決まることが多かったです。誰を取材できるかとか、ここはどういうお店でどんな料理を出しているかとか、ヒト・モノ・コトをぜんぶ整理して、リスト化しました。そのリストをもとに、朝帯の番組にはこれ、夕帯にはこれと、それぞれの番組に受けるネタを切り分けて当てていったら、決まりやすかったですね。
テレビの人は、そのネタでどれだけ尺を持たせられるか、何を取材できるか、どういうポイントで視聴率を取れるか…っていうのを気にされるので、そこに刺さる資料を持っていくことを、プロモートの時は常に意識していました。


竹中:WEBでは、バイラル系のメディアに取り上げてもらえました。『絶メシリスト』は、単なるグルメサイトではなく、宣伝用のポスターがエッジ効いていて面白かったり、人気のライターが食レポ記事を書いていたりと、さまざまな話題性があるので、アプローチできるメディアの幅が広かったんです。さらに笑える要素を入れることで、「2017年問題」や「後継者不足」などの深刻な社会問題が背景にありながらも、許容度が広くなったのではないでしょうか。

地方PRの成功には自治体と地元民の巻き込みが不可欠


ーカンヌライオンズ受賞後もテレビに取り上げられてましたよね。

日野:カンヌでブロンズを獲った直後、現地の授賞式会場にいた畑中から「リリースを出そう」と連絡があって。朝の6:00くらいに。その日の夕方には速報でリリースを撒いたんですけど、翌朝に上毛新聞に掲載されて、それがYahoo!ニュースに載って、最終的にはテレビでも取り上げられるって言う、教科書通りの流れでメディア露出を獲得することが出来ました。


過去に一般企業のお仕事でもカンヌライオンズの賞をいただいたこともあるのですが、海外広告賞の受賞がテレビ番組で取り上げられることはなかったんですよね。でも今回はたくさんの取材を受けることができて、自治体で取り組む意味の大きさを改めて実感しました。日本社会全体に潜む課題の解決を、プロモーションという手法を用いて地方自治体が取り組んで、それが評価されたことが、テレビ的には面白かったんでしょうね。自治体がPRに取り組むとどういうことが起こるのかの肌感は、まだ確信的には持てていないのですが、チャンスがある領域だと思います。


竹中:あと何より、高崎市とケトルさんの関係性が非常に良かった。自分も別の案件で地方PRを担当したことがあるのですが、その時に痛感したのが、地域を巻き込むプロモーションは、自発的にモチベーション高く動いてくれる人がいないと絶対に成立しないということ。そこの関係性構築と、高崎市の皆さまの企画に対してのモチベーションの高さが、『絶メシリスト』成功の最大の要因だと思います。


日野:生きた企画になるためには、地元に影響力のある人たちがこの企画に賛同している必要があります。高崎市の場合は、市長を筆頭に、自治体に『絶メシリスト』を企画として走らせるパワーがあったことが大きかったです。企画の意図を理解してくれて、高崎市の人たちが一体となってやってくれました。
『絶メシリスト』に取り組む前に、高崎市でご挨拶回りをしながら、「こんなことしようと思っているんです」っていうのを話したんですけど、その際に地元の方から直接アドバイスをもらえたり、協力の声をいただけたりしたので、そこからプロジェクトが広がりました。JR高崎駅に無料でポスターを貼らせてもらったり、市役所の人がお店に行って店舗掲載の交渉をしてくれたり。あと髙﨑市出身の映像プロデューサーも、予算が限られるなか「地元に貢献したい」という想いで動画制作に協力してくれて。


ローカルプロモーションでは、自発的に「やりたい」と思って動く人たちの熱量が鍵です。成功事例から逆算して、成功の要因を紐づけていくことは簡単なんですが、施策を「ホームラン」にするには、地元の人が動いてくれるような働きかけがとても重要になります。


『絶メシリスト』の成功から考えるこれからの地方PR

『絶メシリスト』実施後に起こった変化


ー『絶メシリスト』の実施後、高崎市で何か変わったと感じたことはありましたか?

日野:知らない人はいないってぐらい、高崎市民の方々がこの施策を知ってくださっています。地方はどうしても車社会なので、幹線道路沿いにある大きなチェーン店で食事をすることが多いと思いますが、『絶メシリスト』を知っていることによって、地元の人が地域にある古き良きグルメの良さに気づいてくれると良いですね。


調査していないので肌感になりますが、地元の方々が「知っている」ということは、外の人から「どこかいいご飯屋さんない?」と聞かれたときに、『絶メシリスト』を選択肢として差し出してくれるのではないかと思っています。そんな地元の方々の動きが、この施策の広がりを下支えしてくれているんじゃないかなって。


あとは、番組のロケ地として使われたり、他の地域からもやりたいというご相談が来るようになったり。それらがすべて「高崎から始まった」と言うことができる。この施策はまだ終わっていなくて、これからもずっと続いていきます。日本中の人々がローカルの古き良きグルメの価値に気づいていけば、自然と「後を継ぎたい」って思う人が増える可能性が高くなります。『絶メシリスト』という言葉や概念が、人の行動に影響を与えることができれば、それこそが本質的なPR効果なのだと思います。


竹中:高崎市がどうというのもそうですが、『絶メシリスト』は二次コンテンツの広がり方がすごいと思います。テレビ番組になったり、ロケ地になったり、出版化されたり…。制作者が自発的に「作りたい」と思うようなコンテンツを作り上げたんですもんね。


日野:概念そのものが高崎発祥で広まっていくことが、いちばんのプロモーションだと思います。”絶メシ”という言葉が、うちの社長(嶋浩一郎さん)の言葉を借りると”社会記号”になっていて。ふわふわしている現象を、みんなが認識できるように言語化した、秀逸な事例になったと思います。


ー国内外でこれほど多くの賞を獲得できたことについてどう考えますか?

日野:これも畑中が考えたのですが、『絶メシリスト』のままでは伝わらないので、『Red Restaurant List』に名前を変えて、海外の人にも共感できるように翻訳したのが良かったと思います。カンヌは他の日本勢が苦戦する中での受賞でしたし、アドフェスではゴールドを含めてたくさんの部門で賞をいただきました。広告賞狙いというわけでもなく、地方のプロモーションとして本当に機能することを狙った施策が評価されたのは「後継者不足問題」が日本だけの課題ではなく、世界共通の課題だったことが大きかったです。

地方PRの新たな可能性とエージェントの関わり方


ー『絶メシ』の成功を踏まえて、今後取り組みたい地方PRはありますか?

日野:地方PRは、地元の意識も変わらなければならないため、継続して根気強く取り組む必要があります。関わる人が儲けが出るとか、経済活動にプラスになることが起こらないと継続しないので、施策を行うことで街全体が得する仕組みになっていないといけなくて。だから何年か前に起こった「バズ動画ブーム」は、すぐに終わってしまったのだと思います。お祭り的なことでお客さんを呼んでも、継続的な集客にならないし、経済の活性化には繋がらないですもんね。


高崎市長から口酸っぱく言われていたのは、「単発で終わるものではなく、継続するものを作って欲しい。」という言葉。この言葉を踏まえて、今回は特に地元との向き合い方を丁寧にすることを心掛けましたが、このような地道な取り組みが、地方PRには欠かせない要素だと思います。


PRも広告も地域の役に立てるはずだけど、単年度で成果を追い求めるのはなかなか難しい。そんなすぐに地域は変わらないですし、結局は、民間の気持ちのある人を束ねて、事業体としてやっていかないといけないので…。何より、皆が意志を持ってプロジェクトに参加して、楽しんでいることも重要です。絶メシリストも、みんなで楽しくやっていました。


竹中:日野さんの人を巻き込む力は本当にすごいですよね。


日野:案件が小さいと会社の仕事として関われないってこともよくありますよね。でも、せっかくの機会なのにそれだと勿体ないので、そんな時にはプライベートで関わっていくと良いと思います。そうすることで、自分の筋トレにもなりますよ。

これは仕事の話ではないのですが、『リトルフクオカ』っていう、東京在住の福岡好きが集まるコミュニティをプライベートで運営していて。そこで100名規模のイベントを定期的に開催したり、イベントで知り合った人たちと新たな仕事を始めたりしているんですけど、その活動の一環で”福岡出身の人が上京した時のあるある”みたいなのをミュージックビデオにしたんです。それを福岡が第二の故郷と豪語する彩貴ちゃんが、福岡のテレビ局にプロモートしてくれて、なんと4番組で取り上げられました。
岩本:プライベートの時間を使って、福岡のテレビ局に電話しました(笑)


日野:仕事とかプライベートとか関係なく、好きなことを好きな人たちとやるって大切なことです。地方PRでは、特にそういうことが大切だと思います。


パートナー企業としてのマテリアル


ーマテリアルから日野さんへ、メッセージをお願いします。

岩本:一緒にお仕事やリトルフクオカの活動をさせていただく中で、日野さんの”人の巻き込み方”がすごく勉強になっています。相手に「自分も何かしたい」って思わせるパワーが凄いんですよ。これからもたくさん学ばせて下さい。


竹中:岩本と同じく、日野さんはローカルや人の巻き込みが本当に上手い。関係構築のスペシャリストだと思います。プロデューサーとして、どこの案件においてもその地域で必ず挨拶回りするところとか、すごく尊敬しています。僕も見習っていきたいです。


ーさいごに、日野さんからもマテリアルへメッセージをいただけますか?

マテリアルの方々は、プランニングが綿密です。プロモーターもプランナーも、すごい色々考えてくれます。”若くて元気な会社”だからこそ、チームのみんなも仲良さそうだし、個人単位ではなく組織として動いてくれるのは心強いです。今回の『絶メシリスト』に関しては、「2017年問題」を持って来てくれたことは、ホームラン級の功績だと思います。

マテリアルグループ株式会社では一緒に働く仲間を募集しています

同じタグの記事

今週のランキング

時田 友里香さんにいいねを伝えよう
時田 友里香さんや会社があなたに興味を持つかも