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変わりゆくエンターテインメントの波に乗る〜TBSプロデューサー・マンガボックス副編集長対談〜

※こちらはnoteで2022年5月に公開した記事からの転記です。


2013年から提供を開始したアプリ「マンガボックス」。
有名作家の人気作から新進気鋭の話題作まで、枠にとらわれない幅広いラインナップを擁し、マンガボックス編集部オリジナル作品の『ホリデイラブ~夫婦間恋愛~』『にぶんのいち夫婦』はTVドラマ化、週刊少年マガジン編集部作品の『恋と嘘』はアニメ・映画化するなど数々のヒットコンテンツを生み出してきました。

そんなマンガボックスで働く様々な社員にインタビューをする本企画。今回は番外編として、マンガボックス副編集長・野上雄一郎さんとTBSプロデューサー・植田博樹さんの対談の模様をお届けします。

TBSとマンガボックスの協業関係が始まってから一つ目の取り組みとなったドラマ『リコカツ』を原作とするマンガ制作について、また、テレビとマンガのコンテンツとしての違いについて、TBSとマンガボックスそれぞれの立場で、お二人のありのままの想いを聞いていきます。

『リコカツ』の制作を通して見えたもの

──さっそくですが、マンガボックスとTBSがタッグを組んだ最初の作品『リコカツ』の制作についてお伺いしていきたいと思います。同作はドラマに先駆けて、2021年3月にマンガボックスでマンガ版の連載がスタート。その後、4月から始まったドラマの放送は6月に最終回を迎えましたが、マンガ版の連載は現在も続いています。その『リコカツ』での両社の協業は、どのような経緯で始まったのでしょうか。

植田さん:2020年の中頃に、マンガボックスとTBSが資本関係を結んだことをきっかけに、ドラマ『リコカツ』を協業の第一弾のケースとして一緒にやってみようという話が局内で上がりました。
その際、TBSとして意図していたのは「自社オリジナルのドラマをマンガとしても出してみる」という試みです。社内では、ドラマをマンガにしたものがマンガのマーケットにマッチしているのかという議論もあったのですが、まずはやってみようと。

野上さん:そうですね。『リコカツ』を筆頭に、TBSさんからは複数の企画のご提案をいただいたのですが、その中でドラマになることが決まっていて、かつ、放送のタイミングが最も近かったのが同作だったため、最初の協業ケースとして是非ということでこちらからもお願いしました。
植田さんの言われる通り、ドラマの内容をストレートにマンガにしたものがマンガ読者に受け入れられるのだろうかという議論は我々の中でもあったのですが、今回はドラマの内容になるべく忠実にマンガにしていくという選択をしました。

植田さん:きっと、そうですよね。マンガボックスさんには、マンガとしてのバリューを自由に追求していただいて構いませんとお伝えしたところ、ドラマの視聴者に寄り添ったものとして丁寧に描いていただくという方針を定めてもらいました。感謝の気持ちでいっぱいなのですが、同時に、マンガ制作の現場にはジレンマを感じさせてしまったのではないかとも思っています。

──ジレンマというのはどのようなものでしょうか?

植田さん:当たり前ですけど、テレビとマンガって全く違うコンテンツなんです。例えると、テレビ、特に地上波はファミレスみたいなもの。何を食べるか決まっているわけではないけど、とりあえず家族みんなで向かって、結果みんなバラバラなものを注文してもいい。何を食べても全部、そこそこ美味しいんです。一方、マンガはラーメン専門店のようなものです。自分の店の味に特徴をつけて、他のラーメン屋さんに勝つことを目指す世界だと思っています。その土俵で「うちはファミレスです」と言っていても勝負にはなりませんよね。その点、『リコカツ』については、マンガボックスさんに歯がゆい思いをさせてしまったところもあったんじゃないかなと。

野上さん:そのラーメン屋さんの例え、すごくピンときました。おっしゃる通り、マンガはそれぞれの作家が独自の味を研ぎ澄ませて勝負している世界で、我々マンガボックスも出版社としてその一翼を担っているつもりです。その中で、今回の『リコカツ』は、マンガとしてもあえて「ファミレス的」な味付けを尊重して読者に届けるということを方針として掲げつつ、漫画家さんと取り組んできた作品です。そのチャレンジから得られたものは多いですし、今後のTBSさんとの協業の中でも色々な形で活かしていけると考えています。

新たに見つけることのできた、タッグを組むことの意義

──今回『リコカツ』の制作を通してお互いに対して抱かれた印象を、それぞれお伺いしたいと思います。

植田さん:マンガボックスさんは、今の時代のエンターテインメントへコミットする可能性をすごく秘めているように感じました。例えば、映画を映画館で観たり、音楽をCDを買って聴いたりすることは、どんどん廃れていってますよね。代わりに勃興してきているのが、各種のサブスクリプションのサービスだったり、物理的な会場ではなくバーチャルな空間での娯楽です。電子書籍を主戦場とするマンガボックスは、そういった市場の変化に対しても親和性があると感じています。ラーメンとしての尖りを持った作品を世の中に出すことができるし、その一方でファミレス的な方向性でコンテンツを立ち上げることもできる、という柔軟性もそれを示していると思います。

野上さん:そう言っていただけるのはありがたいです!
僕からのTBSさんの印象として一番強いのは、コンテンツの企画に対する熱量がものすごく高いスタッフがたくさんいらっしゃるということです。『リコカツ』の他にも、TBSさんからは継続的に多くのマンガ向けの企画を提案していただいていますが、いずれもまず企画書の書面から「このアイディアは絶対に世の中に出したい」という強い意志を感じます。テレビの現場にいるディレクターさん、プロデューサーさんの視点があるからこそ生まれてくるものを見るのが、僕自身すごく楽しいんですよね。

植田さん:企画について、テレビは、もっといいものを生み出せるはずなんですよ。なのに、他の国のコンテンツと比較したときに、日本の地上波はまだまだ「ファミレス」の枠から抜け出せていないんです。まだ誰も見たことないエンターテインメントを表現するチャンスがあるのに、もったいない使い方をしているなと感じます。そこにマンガというアウトプットがプラスされることで、尖りを持って枠を打ち破るチャレンジをしていけるのではないかと考えています。

──なぜテレビの世界では「尖った」企画が難しくなるのでしょうか?

植田さん:単純に、テレビの番組制作には相対的に多くのお金と人手が必要になってくるからだと思います。尖った企画を市場に突き刺すようなコンテンツ作りにトライしたいという人たちは、TBSのドラマの現場にもたくさんいますが、どうしてもリソースが追いつかない。これまでは「挑戦する気持ちは、あってもいいけど」と言われて蓋をされてきたんです。
マンガボックスさんとタッグを組み、アウトプットの形が増えることで、そうした人たちのアイディアを今後はもっとたくさん世の中に送り出していけるのではないかなと感じています。

──なるほど。今までは実現できなかったコンテンツが生まれてくるのかもしれませんね。

野上さん:やらなければいけないことはたくさんありますが、両社のタッグは大きな可能性を秘めたものだと思います。マンガとテレビ、それぞれの得意としているものを活かしながら、時代のニーズに合わせたコンテンツを発信していきたいですね。

エンターテインメントの世界をおもしろく。2つの視点から見るこれからのビジョン

──最後に、マンガボックスとTBSの協業の未来についてお伺いしたいです。マンガとテレビ、それぞれの視点から、これからの協業のビジョンをどう見ていますか?

植田さん:僕からは二つあります。一つはプロデュース部分についてですね。マンガボックスさんにはとても丁寧に作品を作っていただいているので、今後はその作品を、僕たちTBSの力をもっと活かして、多くの人に届くようにしないといけないと思います。マンガボックスさんがパートナーになっていることはTBSにとってもとても大きな武器だと思うので、協業の成果をきちんと出していくためにも、プロデュース面でのご協力は必要だと考えています。
もう一つは、繰り返しになりますが「尖った」コンテンツを生み出していくことです。テレビではなかなか通らない突飛な発想や企画でも、マンガボックスさんとの協業の中でなら挑戦していけるように感じています。僕らはもっと尖ったコンテンツを作っていくべきなんです。だからこそ、このチャンスを逃さず、エンターテインメントの世界を面白くしていきたいですね。

野上さん:植田さんがこの協業の未来をそのように考えてくれていることは嬉しい限りです。
僕がTBSさんとの協業に期待していることの一つは、TBSさんがお持ちの「情報」の質と量です。放送局としての長い歴史を持つTBSさんには、膨大な情報が蓄積されています。ドラマはもちろん、バラエティ、報道、スポーツ、ドキュメンタリー等々、これまで制作されてきた多種多様な番組を構成しているそれらの情報は、コンテンツ企画のアイディアの宝庫です。それを活かしたマンガを制作することができれば、他の出版社ではなかなか実現できないような種類のエンターテインメントが生まれてくるのではないかと期待しています。

──お二人の熱い想いが伝わってきました。ありがとうございました!

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