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「おもしろい」を世の中に。作家と一緒に戦うマンガボックスの編集者とは〜副編集長・野上雄一郎さんインタビュー〜

※こちらはnoteで2022年1月に公開した記事からの転記です。


2013年から提供を開始したアプリ「マンガボックス」。
有名作家の人気作から新進気鋭の話題作まで、枠にとらわれない幅広いラインナップを擁し、マンガボックス編集部オリジナル作品の『ホリデイラブ~夫婦間恋愛~』『にぶんのいち夫婦』はTVドラマ化、週刊少年マガジン編集部作品の『恋と嘘』はアニメ・映画化するなど数々のヒットコンテンツを生み出してきました。

そんなマンガボックスで働く様々な社員にインタビューをする本企画。
今回は副編集長の野上雄一郎(のがみ ゆういちろう)さんが登場。現在野上さんはマンガボックスの副編集長として、編集部の中核を担っています。ゲームのシナリオライターからマンガの編集者へ。多くの現場を経験してきた野上さんが見る、作家とともに歩んでいく編集者の仕事とは、いったいどんなものなのでしょうか? マンガボックスの編集部だからこそ経験できることや、野上さんの描くこれからの編集部の未来について、伺ってみました。

小説も、ゲームも、マンガも、物語が根本にある

──今回は、マンガボックスの副編集長として、野上さんのこれまでの経歴や、現在の仕事について、お伺いしたいと思います。まずは野上さんがマンガボックスに入社するまでの経緯を教えてください。

野上さん:学生の頃に小説を書いていたこともあり、クリエイティブなコンテンツを作る分野で仕事がしたくて、家庭用ゲームの会社に就職しました。「物語」を表現する媒体として、ゲームに可能性を感じていたんです。小説では読者が自分の中で情景を組み立てながら物語を読み解いていきますが、ゲームではそれを「体験」を通して語ることができる。その点に魅力を感じていました。

──物語の発信の媒体としてゲームを選ぶのは面白いですね。ゲーム会社ではどのような仕事をされていたのでしょうか?

野上さん:希望通り、シナリオライティングを担当していました。ゲーム全体の物語を設計したり、ムービーシーンの脚本を書いたり、モーションキャプチャーの撮影や音声収録の監修をしたりという仕事です。10年ほど経験を積んだ後、もっと早いスパンで多くの企画にトライしたいと思い、当時「ゲームコンセプター」という職種で求人を出していたDeNAに転職をしました。「ゲームコンセプター」に期待されていた業務内容が、複数のゲームタイトルの「世界観構築」全般を横断的に担当するというもので、当時の自分がやりたかったこととぴったりマッチしていたためです。リリースされたもの、されなかったものと合わせて、30本ほどのゲームの企画に関わることができました。

──なるほど。そこからどのようにマンガボックスにジョインするようになったのでしょうか?

野上さん: DeNAはもともと部署間の人材の異動がすごく自由で流動的な会社なのですが、あるとき、マンガボックスや小説投稿サイト「エブリスタ」の運営を担当している事業部から社内公募がかかりました。ゲームの仕事にも未練がなかったわけではないのですが、新しいIPを世の中に提案していくという観点からはもう少しフットワーク軽くチャレンジしていきたいと考えていた当時の自分にとって、ウェブ小説という分野は魅力的に見えました。公募に応募したところ、異動が認められ、エブリスタでの仕事を始めました。

野上さん:エブリスタで主に担当していたのは、ユーザーから投稿された小説のプロデュースです。複数の出版社に協力いただきながら、いい作品があれば書籍として刊行したり、その小説を原作にしたマンガを制作するという仕事でした。担当していた中でも、特にマンガは好調で、いくつかの作品はミリオンセラーになり、映像化されたものも出ました。そのうちに、せっかくいい原作が手元にあるなら、他社に任せるのではなく自分たちでマンガを作れないだろうか、という考えが生まれてきたんです。社内で提案したところ「やってみろ」ということになり、漫画家さんを探してきて、原作をお渡しして、相談しながらマンガを作っていく、ということを一人でスタートさせました。今から考えてみれば「マンガ編集者」の仕事そのものでしたね。並行して社外の出版社とのプロデュースの仕事も続けていたのですが、漫画家さんと一緒にマンガを作っていくプロセスがあまりにも刺激的で楽しく、その仕事に専念したいという思いが日に日に強くなりました。いくつかの作品が揃ってきたタイミングで社内の各所と相談した結果、エブリスタの隣の部署だったマンガボックスに、作品ごと移籍するという形になりました。

作家とともに「創作の泥沼」に足を踏み入れる覚悟

──実際にマンガボックスに入ってからはどのように働いていたのでしょうか?

野上さん:連載作品を担当しながら新規の作品の仕込みも行っていくという、マンガ制作の仕事が主になりますが、作家さんの発掘・スカウトを目的に「コミティア」等のイベントに出張編集部として参加して持ち込まれる作品を拝見したり、マンガの専門教育を行っている大学や専門学校にゲスト講師としてお邪魔して生徒さんの作品を講評したりということも担当してきています。現在は新たなマンガ賞の企画も進めています。また、作家さんの創作を色々な形で会社としてサポートするために、連載が決まる前の作家さんにも一定の金額をお支払いする制度や、従来は作家さんご本人が雇用する形が多かった「作画アシスタント」の求人や進捗管理を我々が代行する仕組みなどを整えるという仕事も担当しています。

──作品の担当からプロモーション、作家さんの発掘やサポートまで、編集者の仕事は本当にたくさんありますね。

野上さん:確かに俯瞰して見ると、編集者の仕事はかなり幅広いです。ただ、マンガ編集者としてもっとも大切なのは、目の前の作家さんと良い関係性を持ちながら、継続的に世の中におもしろい作品を出していくことです。そのゴールを忘れないようにしながら、自分のやれる範囲で、やるべきことをやっています。

──野上さんがこれまで担当された作品で印象に残っている作品はありますか?

野上さん:『インゴシマ』という作品は、エブリスタにいた頃に手探りで企画を立ち上げて、自身の異動とともにマンガボックスに移ってきた作品なので思い入れが深いですね。現時点で電子書籍と紙の単行本を合わせた累計の売上が150万部を超えるほどのヒットになりました。作家の田中克樹さんは、謎めいた世界観を作り込むことと、かわいい女の子を描くことがとても上手いんです。その感性と技術をできるだけそのまま発揮してもらいながら描いてもらっている作品です。僕も、編集者として担当しながらも、一人目の読者としても楽しませてもらっている作品です。

──野上さんが考える、マンガ編集者にとって大切なものとはなんでしょうか?

野上さん:マンガの編集者には大事なことが2つあると思っています。1つは作家さんとともに戦うということです。0から1を生み出すことは作家さんにしかできませんが、その過程は生易しいものではありません。だから、ただ土俵の外から応援するのではなく、一緒に創作の泥沼に足を踏み入れて、ともに考え、悩み、作品にとってベストだと確信できる答えを模索することを通じて、自らも1を生み出す当事者でいるということも編集者の仕事だと僕は思っています。

──なるほど。

野上さん:もう1つは、作品が出来上がったあと、どうすればその作品を多くの人に読んでもらえるのかを考えることですね。どのように世の中に作品を出していくべきなのか、あらゆる方向から作戦を立てて、手を尽くす。いわゆるプロデューサーのような視点や思考が必要となる側面です。伝統的な出版社の編集部だと、作品制作は編集者、プロデュースは広報や営業の担当という形で分業されていることも多いようなので、その両方を体験できるのはマンガボックスの編集者ならではと言えるのかもしれません。

航路が見えなくても、自ら舵を取って進むことができるか

──マンガボックスとして、これからの展望はありますか?

野上さん:最大の目標は、マンガボックスオリジナルの強力なIPを生み出すことです。簡単なことではないし、一発で代表的なものが生み出せるわけでもないので、何度もチャレンジしていくこと、そのための体制を整えていくことが必要だと考えています。質の高い作品をコンスタントに生み出して結果を残していくためには、編集部としての人員規模も拡大していくべきですし、他の出版社にはない特徴や武器も必要になってきます。その点、我々の親会社のTBSさんは、ドラマの制作ノウハウや報道の取材網をはじめとする、コンテンツ制作において頼れる豊富な蓄積があり、かつ、マスメディアとしての強大な拡散力もお持ちなので、とても心強いですね。

──野上さん自身の、これからの展望はありますか?

野上さん:もともとマンガボックスは、様々なジャンルの作品をひとつの誌面にまとめたアプリとして運営されてきました。その方針には長所と短所があり、読者にとっては「色々な作品が読める」というメリットはありつつも、その裏返しとして「好きなタイプの作品ばかりが読めるわけではない」というデメリットもありました。また、作家さんからの見え方としては、アプリとしての特徴が把握しづらく、我々が媒体としてどういったタイプの作品を期待しているのかというメッセージが明確には出せていなかったという問題もあります。それを解消するために、我々の作品をいくつかのジャンルに分けて、それぞれのジャンルに特化した「レーベル」として運営していくことを計画しています。まずは女性向けの恋愛マンガに特化したレーベルがスタートする予定ですが、僕自身は現在も「青年マンガ」に分類されるタイプの作品を多く担当しているため、将来的には青年マンガに特化したひとつのレーベルを立ち上げて、その運営を自らが行っていきたいと考えています。

──マンガボックスの編集部は、どんな人が向いていると思いますか?

野上さん:あらかじめ用意されているレールがなくても、自ら進んでいくことのできる人ですね。マンガボックスはまだ新しい会社だということもありますし、そもそもエンターテインメントの世界に明確な航路はありません。そのことを楽しみながら、自分で舵を取って進んでいける強さは必要だと思います。あとはマンガについて何らかの意味でこだわりがある人でしょうか。僕自身もそうであったように、マンガの編集の仕事は、出版社での実務経験がなくてもやっていけます。ただし、作家さんと同じ目線で作品と向き合っていくためには、マンガについての自分なりの価値観は必須です。美学や理論でもいいし、単純に好き嫌いの好みでもいいと思います。このマンガはこうあって欲しいという自分なりのこだわりがあれば、作家さんと一緒に作品を作っていく仕事のスタートラインには立てるはずです。



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