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新しい時代を切り拓く。進化し続けるマンガのかたち〜マンガボックス部長・松崎武吏インタビュー〜

※こちらはnoteで2021年11月に公開した記事からの転記です。


2013年から提供を開始したアプリ「マンガボックス」。
有名作家の人気作から新進気鋭の話題作まで、枠にとらわれない幅広いラインナップを擁し、マンガボックス編集部オリジナル作品の『ホリデイラブ~夫婦間恋愛~』『にぶんのいち夫婦』はTVドラマ化、週刊少年マガジン編集部作品の『恋と嘘』はアニメ・映画化するなど数々のヒットコンテンツを生み出してきました。

そんなマンガボックスで働く様々な社員にインタビューをする本企画。
今回はマンガボックス編集部編集長である松崎武吏(まつざきたけし)さんが登場。他社で編集長をしていたところから、マンガボックスに転職するまでの経緯や、出版社とは異なるマンガボックスの特徴についてなどをお伺いしました。外側から見たマンガボックスは、一体どう映っているのか?松崎さんの視点だからこそ見えた、マンガボックスの姿を聞いていきます。

マンガボックスは一歩先を行っている、悔しくも惹かれる存在だった

──今回は松崎さんに、マンガボックスに入社するまでの経緯や、現在編集グループのリーダーとしてどのような働きをしているのかについてお伺いしていければと思っております。まず、松崎さんがマンガボックスに入社するまでの経歴をお伺いできればと思うのですが、入社する以前は、株式会社スクウェア・エニックス(以下スクウェア・エニックス)で編集長をされていたんですよね?

松崎さん:そうです。スクウェア・エニックスでは、紙媒体である『月刊ガンガン』と、WEBの『ガンガンオンライン』の編集長をそれぞれ10年ずつ担当していました。

──編集長の仕事とは、具体的にどういったものなのでしょうか?

松崎さん:言い出すとキリがないぐらいたくさんあるのですが、編集部全体を管理するのが主な仕事でした。編集者と作家がよりいいチームとなって戦えるように、人員の配置を割り振るマネジメントの仕事から、編集長として作品の企画やネームを見て、連載するかしないかの判断をしていましたね。

──そこからなぜ、マンガボックスに入社することになったのでしょうか。

松崎さん:スクウェア・エニックスにいたころから、マンガボックスは僕にとってライバルとして、同業として、惹かれていた存在だったんです。心のどこかでずっと意識はしていて、ちょうど自分が現場を離れるタイミングで話があったので、お話しを聞きに行きました。現社長(当時マンガボックス編集長)の安江とは以前から面識があったので、面接という形で再会した際は「なんで松崎さんがうちに!」と驚かれましたね。

──どういった点でマンガボックスを意識していたのでしょうか?

松崎さん:まずマンガボックスが誕生したこと自体が、当時の僕にとってはとても衝撃的なことだったんです。その頃スクウェア・エニックスも、WEBであった雑誌のアプリ化へ踏み切ろうと編集部や営業と協議をしていたところでした。

──一足先にマンガボックスがアプリへと踏み切ったんですね。

松崎さん:スクウェア・エニックスはアプリ化に踏み切るための、「課金」というしくみがネックになりつつも、実現に向けた前向きな議論がなされていました。やはりアプリは課金が収入源として必要になり、そのためには広告表示などをしなければなりません。その点で、ユーザーへのヘイトを集めやすくなってしまう懸念もありました。それまでWebを通して無料で読者へ読んでもらって作品へ入ってもらい、いかに拡大していくかを目的としていたので、課金制にするとその形を一気に崩すことにもなる。今まで自分たちで育ててきたブランドや、既存のユーザーの方たちのことを考えると、諸刃の剣なので、どうしても慎重になる必要はありました。そんな矢先に出版社ではないDeNAからマンガボックスという課金・広告てんこ盛りのアプリが誕生したと聞いて、平然を装ってましたが「やられた……!」と内心かなり悔しい思いをしていました

──自分たちもやろうとしていた矢先の出来事だったんですね。

松崎さん:はい。大胆に思いっきりやられた感ですね。僕たちの方がマンガというコンテンツに近いところにいたのもありますが、IT企業発のマンガアプリであり、かつ講談社の作品がメインで掲載されるということで、リリースの晩は眠れないくらい衝撃的でした。でも慎重な自分たちのスタイルにやはり今は正しいと受け入れる一方で、鮮やかにやられて、こりゃ気持ちいいなと思いもしました。安江を筆頭に、最新の技術を使って前衛的なことをしている組織で、出版社にはなかなかできないような新しいことにどんどん挑戦しているし、次の時代を築いているチームだと感じました。

──マンガボックスの誕生そのものが印象に残っていたんですね。

松崎さん:そうですね。そのあとマンガボックスのプレゼンを聞く機会があったんですけど、安江と一緒に来た1人の女性社員が、目をキラキラさせて自分たちの媒体を一生懸命語っていたのが印象的で。そのマンガボックス愛にも素直に心を打たれました。戦略を考え前衛的なことをしているだけではなく、自分たちの作ったものに自信や成長をしている実感を持って働いている人たちなんだということを知って、そこから僕もこういう人たちと仕事がしたいなと思うようになりました。

発見の連続。新しいものづくりのスタイル


──マンガボックスに入社して、スクウェア・エニックスとの違いはありましたか?

松崎さん:まず業務の一連の流れが違いましたね。出版社だと、企画を考えてから世の中に出すまで一定のサイクルがあるんですけど、マンガボックスは出版社ではないので、そのサイクルがないんですよね。僕はそれがすごくいいなと思いました。

──具体的にどういったサイクルの違いがあったんでしょうか?

松崎さん:出版社だと編集者個人の裁量が大きく、基本的には各々が作業をしています。そして週に数度か月に一度、刊行ペースに沿った校了があり、個人ワーク、チームプレイの時期が明確でした。また、編集以外の部署ごとの役割もハッキリしているため、例えば全体で会議をしても、複数部署の全員が揃うまで、材料集め含めた一定設定の時間を要する場合がありました。マンガボックスだと、編集者ではないビジネス側やマルチタスクな人たちが、朝からスタンディングでホワイトボードを使って一生懸命議論し、短い時間でディスカッションを重ねている。その姿から、出版社とはまた別の角度でマンガというビジネスの可能性に本気で向き合っているのが伝わりました。
また、年間を通しての仕事の進め方も異なりました。大雑把に言うと出版社は、年のはじめに1年間分の計画と方針を決めてどう戦うかを組織全体で一致する。そのあとは計画に対しての週次・月毎で答え合わせを1年間かけてしていくような流れになっています。そのサイクルは動きやすくて、小・中・大の積み上げでシンプルです。でも、マンガボックスは、複数の役割の人たちが、その都度今抱えている課題や達成状況を確認し、時に決まったことを疑いながら修正し必要に応じて再構築していくんですよね。つまりサイクルを自分たちで流動的に作っていく

──方針を覆したり前提を変えていくというのは、裏を返せば毎回1から考えるということでもありますよね。それは大変ではないのでしょうか。

松崎さん:そうかもしれないですね。ただ、自分たちのコンテンツを作って売る出版社と違って、編集のマンガづくりに合わせたサイクルで全体が動いているわけではないのと、そもそもマンガボックスは、他社作品を連載したり販売して集客と収益を上げて行くアプリサービスでもあるため、各部署の目標や役割と相談・連動して答えを作り出していくことになります。今の優先順位は何か、都度状況に応じて短期・中期・長期でベストな選択をしていかなければいけない。考えることは多いですけど、その分チャンスも広く、日々改善点が発見できて、結果編集部のコンテンツも伸びて行く。いつも刺激的ですね。

──文化の違いを感じますね。ほかに印象に残っている違いはありますか?

松崎さん:そうですね。マンガボックスは意思決定にしても、会議にしても、とにかくスピード感が早いんです。例えば、スクウェア・エニックスにいたときは、例えば編集会議なら2時間の枠で始めるんですけど、それが3、4時間くらいに延びるときもまあ当たり前でしたが、ただなるべく答えを出しその場で決着をつけていました。一方マンガボックスは案件毎でマストなメンバーが集まり、30分とか1時間でスパッと終了。です。仮にその時間内に議題の答えが出なくても、何らかの意思決定の下、延長はせず各自課題を洗い出して持ち帰り、次の場に熟成させたものを持ち寄り再度議論する。一発で終わらせるか、刻むかの違いなのですが、最初はそのスピード感に戸惑いましたね。

──常に時間を意識していると。

松崎さん:はい。会議のためにちゃんと準備をしてきて、最初から最後まで全力投球なので、そこがいいなと思いました。あとは1度会議が始まると皆が、会議にいるメンバーの1人となって同列に意見を出し合っていきます

──同列というのはどういうことでしょうか?

松崎さん:立場や役職が関係なくなるということです。僕は前職同様、編集部の責任者として在籍しているんですけど、会議の席に着いたらあくまで会議に参加している一員となり、全員同じ立ち場になります。そこで何も意見を言わないと、僕の意見は通用しません。以前は、前述の通り、一年間を通した計画の答え合わせを全員が行うので、戦う方針を皆把握しているため、一通り議論し終わったあとすべての最終決定権がある図式だったのですが、もちろん、今も編集長としての意思決定や意見でまとめる面はあるものの、それがすべてじゃないというのがすごく新鮮ですね。

──1つのチームであり、皆が同じチームメンバーという感じがしますね。

松崎さん:僕も一緒に考えて刺激を受けつつ、今までの経験をそこにプラスしていけるようにしています。出版社にいたときとはまた違った発見の日々を送っていますね。毎回新たな答えを求めて一緒にものづくりをしていくスタイルはとても魅力的だと感じています。

それぞれが抱える葛藤を乗り越え、希望を見つける後押しを

──松崎さんはマンガボックスの編集長として、現在どういったミッションがあるのでしょうか。

松崎さん:今編集部としての1番の目標は、「オリジナルIPを作る」ということですね。

──マンガボックスオリジナルの、自社IPということでしょうか。

松崎さん:そうですね、今1番力を入れているところです。マンガボックス編集部の圧倒的な弱点は他社のコンテンツを同じ誌面で掲載している売りはあるものの、まだ自社コンテンツだけでは自立できないということです。会社という組織をしっかり立たせるために他社のコンテンツを取り扱っていることは大事な収益源であるのは間違いないのですが、そろそろ自分たちも次の段階に進んでいこうとしています。

──具体的には何をしているんでしょうか?

松崎さん:作品の制作に始まり、連載、ニーズの判別、ユーザーに合わせたタイトルの調整など細かいところを営業や運営チームと一緒に考えています。限られたリソースの中で勝てる戦いをするにはどうしたらいいのか、収益をあげてブランディングを強化するには何をしたらいいのか。この2つを重点的に考えて運営しています。なので、TBSさんのメディア力が加わることになったのはとても重要でありがたいですね。

──TBSがマンガボックスと一緒に動くようになり、どのような影響がありましたか?

松崎さん:今までにない圧倒的な突破口を手に入れたという感覚です。たとえばテレビドラマは3か月の放送期間ですけど、拡散力や影響力はすごいものがあるじゃないですか。時にTBSのコンテンツがその瞬間の時代の話題や世間の注目を攫ってしまう。僕らは逆に3か月で終わるコンテンツを取り扱っていないんです。1年かけて仕込んだものが売れて認知されるまで3年。マンガは長期的なIPとして連載が続いていくものなので、3か月と3年、両方のコンテンツ発信の利点を持っていられるのが強みになっていますね。

──強みとしている部分を活かして、お互いを補い合っているんですね。逆にTBSと共通している部分はあったりしますか?

松崎さん:作品を通して伝えたいことの軸が一緒なところですね。マンガボックスの編集の方針には、「葛藤」「受容」「希望」というものがあります。今の時代はみんなそれぞれ違う葛藤を抱えていますよね。それを受け入れ、自分にとっての幸せとはなんなのか、みんなそれぞれの希望を見つけられるまでの後押しをマンガボックスができたらという思いが込められています。TBSも、テレビドラマの根底には「人間を描く」というテーマを大切にしていると聞いています。恋愛ドラマやサスペンスなど、曜日によってターゲットは違いますが、さまざまな人間模様を描いていることは共通しています。共通している面は強く、得意としているところは補い合って、さらに大きくなっていければと思っていますね。

新しい可能性に向けて進んでいく楽しさ

──今後マンガ業界の市場はどうなっていくと思いますか?

松崎さん:今のマンガの配信形式は、最終形態ではないと思っています。時代に合わせてデバイスも進化していくので、それに合わせてマンガ自体も変わっていくと思うんです。根本的に作家さんがマンガを作るということは変わらないのですが、デバイスや発信媒体によってその形は進化していくし、届けるユーザーも変わっていくと思いますね。

──その変化に対して、マンガボックスはどのようにアプローチしていく予定ですか?

松崎さん:僕たちはビジョンとして、「テクノロジーと嗜好性の変化の先にあるエンタメの未来を切り拓く」というテーマを掲げています。マンガボックスには、最大の武器と言ってもいいくらいの強みでもある、優秀なエンジニアがいます。そのエンジニアと編集部が一緒になって、時代に合わせたものを作っていく。もっと言えば、時代に合わせて作るのではなく、先取りする勢いで進んでいきたいと思っています。これが、「エンタメの未来を切り拓く」ことなのかなと。今あるものを最大限使って、時代の少し先を見据えている集団でありたいなと思います。

──作品を生み出す、作家側に対してはどういった動きをしていますか?

松崎さん:作家さんは、0から1を生み出す価値を世界にもたらす人たちだと思っています。これは技術云々の世界ではないと思うし、そこだけは僕たちが担えない領域です。作家さんはそこに命をかけている人たちなので、僕たちはその1が生まれたあとのサポートを独自のシステムややり方ですることで、10にも100にもすることが出来たらなと考えています。

──具体的にはどういったサポートをしていくのでしょうか。

松崎さん:今は作家さんのアシスタントの部分をサポートし始めているところです。作家さんは、一般的に自分の後継者を育てるためにアシスタントをつけるんです。これは未来の卵となる存在を生むためにも、すごくいいシステムだなと思います。ただ、作家さんが直接すべてを教える環境も制作スピードや効率化の点では、限界が来ているのかなと今は考えています。なぜなら作家さん自身がマネジメントをしなければいけないため、管理・育成コストは避けられませんし、人間的なトラブルもあったりするからです。マンガボックスではなるべく作家さんが作品に集中できるように、作家さんがアシスタントを雇うのではなく、マンガボックスが雇用した人たちが制作して支援する仕組みを作り始めています。そこがもう少し強まり安定すれば、社員、作品同士でリソース共有もでき、作業のスピード効率が上がるのではないかと考えていますね。

──市場の面と制作の面それぞれでのアプローチがあるんですね。最後に、これからマンガボックスはどのような人材を求めているのかについて教えてください。

松崎さん:新しいことに挑戦するのを楽しめる人にぜひ来ていただきたいですね。新しいな何かを始めるのってエネルギーは使いますけど、その労力を厭わずにパワーに変えられる人はきっとその何十倍も楽しめると思います。僕は編集者を30年近くやっていますが、もうマンガを好きこれ以上好きになることはないだろうな、と思っていた自分が、マンガボックスに来てもっとマンガが好きになった。様々なことを経験してきた先にある、今が実は1番楽いし、まだまだ未発見や未経験、やることが沢山待っている世界にワクワクしています。新しい可能性を前にして、今すごく楽しんで仕事ができていることが伝わればいいなと思います。


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