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イベントTシャツだって世界観の一部──「北欧、暮らしの道具店」デザイナーの思考プロセス【後編】

こんにちは。クラシコム・デザイナーの鈴木です。

クラシコムが2018年5月26日(土)に行ったトークイベントのデザインプロセス後編です。前編ではイベントロゴができるまでのプロセスをまとめました。

後編では、こちらのロゴをどのように展開したのか、スタッフが当日着たユニフォームのデザインプロセスを中心にお話いたします。

ユニフォームが果たす役割

そもそもなぜユニフォームを着る必要があるのでしょうか。私たちはこんな目的があると考えました。

◼️ ぱっと見てスタッフであると分かるための「記号」
「あの人はスタッフだ」とお客さまに認識してもらうため。
お客さまが何か困った時、すぐにスタッフを発見でき、気軽に声をかけられる状況を作りたいと考えました。

◼️ スタッフの「ファッション」
お客さまにとってスタッフのファッションも楽しみのひとつ。ユニフォームも見ていてワクワクするようなものにしたいと思いました。

◼️ 会場の世界観をつくる「演出」
例えばディズニーランドでも、キャストの方が着ているユニフォームがアトラクションごとに凝ったデザインになっています。これと同じように、ユニフォームでも世界観を演出できればと考えました。

Tシャツ以外の案もあるかもしれない

ユニフォームを考えるにあたり、スタッフがお揃いの服を着て、その統一感でスタッフ感を出す、というアイデアもありました。

実はクラシコムのオフィスでは、時折こんな光景が見られるのです。


コーディネートが丸かぶり!です。

イベントでもこのようにスタッフが全員お揃いの服にすれば、統一感が生まれてスタッフ感が出るのではと考えました。これにバッジや名札を身につけて。「北欧、暮らしの道具店」ではオリジナルのアパレルアイテムもあるので、それを着るのも良さそうです。

この場合、「スタッフのおしゃれ感」や「世界観の演出」は、選ぶ服によって良い感じに出来そうです。ですが「記号」としての機能が弱いように感じました。

400人規模のイベントですから、スタッフが埋もれてしまう事だけは避けたいところです。規模やコンセプトによっては良いかもしれませんが、今回はわかりやすさ重視にしようということになりました。

Tシャツ案を考える

ということで、Tシャツがやっぱり分かりやすいだろうということに。最初はポスターなどのビジュアルに合わせて、色はネイビーにしようとしていました。

ロゴを大きくとのせると、ちょっとイベント感が強すぎたので、もう少しさり気ない案も探りました。

ロゴをやめて夜の星のモチーフだけにしてみたり、

ガーランドのモチーフをあしらってみたり。

やってみたものの、記号という面で、やっぱりロゴはあった方が分かりやすそうです。

それとTシャツの色ですが、

・なんだか暑苦しい。
5月だし、やっぱり爽やかな白Tシャツが良さそうです。
ボトムスとのコーディネートも白Tの方がしやすそう。

・会場になじみすぎてしまう
会場は照明を暗くするため、ネイビーだと暗闇と同化して目立たなくなってしまいそうです。

ということで白Tシャツに変更しました。

ロゴを大きくのせるのはやっぱり「いかにもイベントTシャツ」感が強いので、ロゴを少し小さくし、寂しくならないように星を散らしました。

あら、やっぱりロゴはもう少し大きい方がいいかな?
バランスを調整します。

ということで、こちらのデザインに落ち着きました。

本当にこれで目立つのか?

ここでTシャツのデザインを運営チームに共有しました。すると受付周りの動線を考えていたスタッフから、こんな意見がありました。

「スタッフを探しているお客さまの目には留まりにくそうなので、もっと目立つ方がよさそう」

確かにその通りです。考えてみれば5月のこの時期、お客さまも白トップスを着ている方は多いかもしれません。Tシャツを着てるとはいえ、遠くからはスタッフが見つけにくそうです。

「スタッフ証を赤系などの目に入りやすい色味にするというのはどうか」というアイデアももらったので、やってみることにしました。

赤はちょっと唐突なので、黄色にしてみます。
黄色はお店のサイトでも「NEW」のポイントに使っているし、アテンションとして使いやすい色です。

目立ちますね!
ただこのイエローカード、なんとなく審判っぽさが漂っています。

ストラップの方をイエローにすると、程よく目立ちました。スタッフパスとTシャツ、両方に家のロゴがあってしつこい感じがするのでこちらは整理が必要です。

スタッフパスに入れる要素は「STAFF」の文字にして、Tシャツと情報が重複しないようにしました。また、ストラップはイベント後の汎用性も考慮して、「FIKA NIGHT」ではなく「KURASHICOM」ロゴにしました。

そうこうしているうちに、別のスタッフからこんな意見がありました。

「お客さまがスタッフに話しかけたい時って、後ろから声をかけることもあるから、後ろ姿でもスタッフって分かるようにした方がいいのでは」

確かに!
ということで、後ろもプリントをすることにしました。
後ろはスタッフパスも見えないので、大きくSTAFFと書くくらいがちょうど良さそうです。

こうしていろんなスタッフの意見に揉まれながら、最終的に出来上がったTシャツがこちらです。

お客様を最初に迎える受付です。Tシャツの色を白にしたことで、後ろの看板とのコントラストが効いています。

薄暗い会場でもスタッフパスが目に留まりやすく、目立っています。

バックに大きくSTAFFとプリントすることで後ろ姿からも見つけやすかったです。

最終的には分かりやすいユニフォームになったのではないかと思っています。
白Tシャツでさわやかさを保ちつつ、スタッフパスの黄色がポイントになって目立っていた感じがしました。

デザインってなんだろう?

ところでデザインについてたまに誤解されてしまうのが、
「デザイン=美しくすること」という認識です。

もちろんそういう側面もありますが、それはデザインという仕事を構成するものの、一部にしかすぎないと私は考えています。

ではデザインってどういうものかというと、あくまで個人の考えですが、

・与えられた条件のもと、課題を解決すること
・新しく価値を生み出すこと

だと考えています。

今回のイベントは、色々な条件や制約がありました。
400人という規模や、会場の制限、コスト、納期など。

その条件を全てクリアしつつ、課題を解決し、新しい価値(クラシコムがお客さまに発信したい世界観)を生み出すことが、デザインの役割だと考えています。

ユニフォームの制作の過程で言えば、記号としての役割を解決するとイベント感が出すぎて世界観が崩れるし、世界観を作ろうとすると記号としての役割が果たせない、なんてことがありました。

でも、全てを叶えることができる、絶妙なバランスや方法はどこかにあるはず。

その答えを探して、行ったり来たりしました。

そしてその過程で、このイベントにおいてクラシコムがお客さまに発信したい世界観とは何なのかを問い続けることになりました。

こうやって出来たTシャツは、今回のイベントという条件の元に導き出した、一つの答えだと思っています。

条件が変わればまた答えが変わりますし、クラシコムがお客さまに発信したい世界観もずっと同じという訳ではなく、変化していきます。

デザイナーはその都度、それらに真剣に向き合う必要があるなと改めて感じました。

まとめ

イベント制作物のデザインプロセスはユニフォームの話に終始してしまいましたが、
他のアイテムもそれぞれこんなことを考えながらデザインしていました。

たかがTシャツで大げさなようですが、そもそもの本質を考えてものづくりをするこの姿勢が、クラシコムらしさなのかもしれません。

制作物がTシャツであろうとバナーであろうと、その一つ一つが集まり大きな価値を生み出すと信じて、私たちはデザインをしています。


Tシャツを着て張り切るスタッフたち。この様子に、作り手である私はじーんときてしまったのでした。

*イベント写真 木村文平(最後の写真を除く)

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