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事業開発以外の戦略オプション (エンゲージ・投資・提携・買収)

今回は新規事業開発の上位レイヤー、経営判断・投資判断に関する内容です。

出典 : Capturing Startup Value (500startup)

企業はなぜ新規事業開発をしたいのか

以前、「環境分析 (SWOT分析・PEST分析) 」という記事で、以下のように説明しました。

環境分析は、自分たちの置かれている環境を俯瞰して把握するという実質的な効果の他に、投資家と目線を合わせ、「事業をやる理由・必然性」を合理的に説明する目的がある
環境分析 (SWOT分析・PEST分析) より

企業が行う事業開発は、背景に「潜在的なビジネス機会」・「外部環境の変化がもたらす脅威」のいずれか、もしくは両方を抱えていることでしょう。

「潜在的なビジネス機会」によって生まれる事業開発は、例えば「IT化が加速しているから我が社もこの領域で事業を立ち上げよう」とか、「スマホが普及しているからここに進出すれば儲かる」というようなアグレッシブなモチベーションです。

一方、「外部環境の変化がもたらす脅威」によって生まれる事業開発は、例えば「最近競合が始めた新サービスに顧客を取られておりヤバイ」とか、「ネットの時代に、製造業だからといってこれまでと同じことをやっていたらまずいのではないか」といった消極的な理由。

いずれにせよ、「機会」や「脅威」といった外的刺激を発端として、過去の延長線上にはない、非連続的な成長を実現すべく「事業開発」という選択が決定されることになります。

新規事業以外の選択肢

ここで問題にしたいのは、そういった「機械」や「脅威」への対抗措置として「事業開発」が妥当なのか、という観点です。

500 StartupsがINSEADとまとめたレポート "#500CORPORATIONS (日本語版ダイジェスト)" に掲載されている「スタートアップと関わるための5つの戦略オプション」は、大企業がイノベーション (新結合) を獲得するためのオプションとしても有用でしょう。

冒頭の画像を再掲します。


上図に示した通り、事業開発とはイノベーションを取り込み、非連続的な成長を実現するためのひとつの選択肢でしかありません。

それぞれの戦略オプションは求めるリターン、回収期間、リスク、必要となる人的リソースの量などが異なるため、自社にとって最適な方法はどれか、新規事業開発に先立って検討しておくべきでしょう。

それぞれの戦略オプションについて説明していきます。

エンゲージ


Engage とは、英語で「従事する、携わる、婚約する」といった意味を表す単語で、2010年頃から国内マーケティングの分野で用いられ始め、「つながり」「絆」といった言葉で表されます。ブランドとユーザーの親密さ・結びつき・絆・共感を重視するマーケティング手法は昔からあ、以下のような理由で近年特に注目されています。

  • SNSの浸透によってブランドと生活者のコミュニケーションが容易になった
  • インターネットの普及により生活者が多くの情報を得、ブランドの一方的なメッセージを信用しなくなった
  • モバイルデバイスの普及により、生活者のインターネットメディア接触時間が長くなってきている

企業がイノベーションを獲得する方法としての「エンゲージ」は、上記のようなマーケティング的考え方とは異なり、「イノベーションに関するシーズ (種) とのカジュアルな交流」程度に捉えればよいでしょう。

例えば、TECH PLAYStartup Hub Tokyo のようなコミュニティが実施しているイベントに参加したり、協賛することができます。

他には、オープンイノベーションプラットフォーム「Creww」や、社外交流のマッチング支援「サンカク」のように、交流そのものをビジネスにしているサービスもあります。

トーマツベンチャーサポートが大企業向けに行っている「出張モーニングピッチ」は、大企業の経営者に対してスタートアップが直接プレゼンテーションするというもの。大企業に適切な "ショック" を与える手法としてユニークです。

エンゲージのメリット・デメリット

前述のような機会を活用してスタートアップと関わることは、ビジネスのトレンドや手法、ツール、アイデアを得るための安価で手軽な方法であるにとどまらず、そのカルチャーを自社にフィードバックする効果もあります。

新卒から大企業で長く勤めてきた中堅ビジネスマンは、どうしても知識やカルチャーが自社のものに偏りがちです。そういったバイアスを矯正するためにこのような交流を活用するのもよいでしょう。

一方で、手軽である反面、ビジネスとしてのリターン・インパクトは限定的です。他の手法と組み合わせることも検討しましょう。

提携

他社との業務提携を通じて、外部環境の機会や脅威に適応しようと試みることもできます。


昨年は、例えばインターネット企業の DeNA が自動車メーカー 日産と提携したり、スポーツ動画配信のダゾーンと音楽のスポティファイ が提携したり、といったように、お互いの持っていないものをそれぞれ提供することで新事業領域やリーチできていない顧客層を開拓しよう、というアプローチです。

提携のメリット・デメリット

企業間のやり取りになるのでケースバイケースではあるのですが、提携によって何が起こるかは比較的予測しやすく、コストも比較的少ないので、リスク許容度の低い企業でも採択できるという点はメリットになるでしょう。

成果についても同様に予測しやすく、うまくいけば適度なリターンが得られるでしょう。

ただし、会社同士の連携になるため、マネジメントの理解が得られることが大前提です。また、提携交渉やスキーム構築などを行う優秀な自社の人材も欠かせません。

投資

冒頭に出てきた 500 startup のようなファンド へのLP (有限責任組合員) 出資や CVC (Corporate Venture Capital) を組成し、直接・間接的に投資を行う方法です。


CVCの組成は、ファンド投資に比べて投資先に自社の価値観を投資判断に反映させ易く、自社の指向性や投資対象が明確な場合に有効といわれています。

投資のメリット・デメリット

自ら新規事業開発を行う場合と比較すると、投資の方が必要となる人的リソースが少ない点は人材不足に悩む企業にとっては魅力的でしょう。事業開発は自社の優秀な社員を中心としてチームを組成するため、異動が発生し間接的に既存事業にも影響を与えます。

また、投資先や新規事業の探索範囲も自社リソースで行うより早く、実行すれば投資先として一般には公開されていないビジネスの内情も入ってくるため、情報収集としても適しています。

デメリットとしては、投資の回収期間は事業提携や買収に比べると長くなる点があげられます。今すぐ得られる成果より3年後〜5年後を見据えて仕掛けたい場合に有効でしょう。

事業開発

企業が自社リソースを使って新規事業開発を行う手法です。本ブログのメインテーマです。


自社で事業開発チームを立ち上げる他に、アクセラレーションプログラムを実施し、スタートアップのビジネスに機会を提供し、加速させることでビジネスを生み出す方法もあります。

アクセラレーター (加速器) ・アクセラレーションプログラム で有名なのは米国の Y Combinator でしょう。アクセラレータープログラムでは、期間があらかじめ設定されており、個々の企業が数週間から数カ月かけてメンターと協力し、自分たちのビジネスを構築していきます。

インキュベーター (孵化器) ・インキュベーションでは、アクセラレーターよりも若い段階の会社を、ハード面・ソフト面から支援します。前者は主に事業に必要なオフィスや機器、機能等を手頃な費用を貸し出すことで、後者は経営や戦略のアドバイスやコーポレート機能の支援などを行い事業開発を支援します。

日本ではVCやCVCが機能としてこれらのプログラムを提供している状況です。企業が実施する独立系のアクセラレーションプログラムも、2016年〜2017年頃はいくつか見られましたが、単発で終わることが多いようです。

結果として、企業が行う戦略オプションとしての新規事業開発は、自社リソース (特に人材) による事業立ち上げを指すといってもよいでしょう。

事業開発のメリット・デメリット

500 startup のレポート では、事業開発を最もリスクの高い戦略オプションと説明しています。


大企業の新規事業開発の成功率については 明治大学社会イノベーション・デザイン研究所の記事では5%程度、2017年版 中小企業白書 では29%というように、様々な調査や統計が出されています。それぞれ調査の対象や前提が違うため一概には言えないのですが、やはり新しい事業を成功させるのは難しいというのが通説だと考えます。

一方で、うまく成功させることができれば大きなリターンが得られる手法なので、確率ではなく、人材・アセット・論理を活用し、目論見通りの結果が得られるようにしっかりと狙いを定めましょう。

買収

買収、いわゆる M&A はもっともコストのかかる戦略オプションです。


買収 (M&A) のメリット・デメリット

PMI (Post Merger Integration) の実務はあるものの、事業開発や投資に比べると財務諸表上は即効性があり、きちんとしたデューデリジェンスを経ることで買収後の効果もある程度予測できるため、リスクに関してはより低い評価となっています。

とはいえ、事業を買うのか、人材を買うのか。買収後にシナジーを発揮してさらに伸ばすことができるのか。カルチャーフィットは得られるのか。などなど一緒になるからこその難しさやコストを含めてのハードルの高さもあるので、まずは常に案件を探索するケイパビリティを自社内で持つところから始めることになるでしょう。

まとめ

今回の記事では、そもそも新規事業開発を行うべき理由の再確認と、目的を達成するためには、あらゆる手段を俯瞰的に評価すべきだということを説明しました。

事業開発以外の戦略オプションとして、エンゲージ・提携・投資・買収 (M&A) があり、それぞれの特徴を簡単に説明しました。

あらゆる状況に対応できる万能の手段はないため、目的やリソース、リスク許容度といった自社が置かれている前提に応じて、適切な手段を選んでいく、というのが基本になるかと思います。

謝辞

私が大企業で事業開発に邁進している頃、今回紹介した俯瞰的な戦略オプションを紹介いただき、また記事の掲載にも快く応じてくれた 500 startup マネージングパートナー 澤山 陽平 さんに、この場を借りて改めてお礼申し上げます。

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