『モダンサッカー3.0』に学ぶ、強いチームと心理的安全性の本質〜エンジニアリングマネージャー・窪野安彦〜|月イチ!カケハシさん
こんにちは、カケハシ公式note編集部の鈴木です。
2016年の創業以来、事業をつくる仲間を増やしてきたカケハシ。気がついてみると社員数は300名を超えており、プロダクト数もチーム数も昔とは比べ物にならないほどに拡大しました。
そこでカケハシでは、社内Podcastとして「カケハシラジオ」を公開。ブランディングチームの上田恭平さん、鈴木啓祐さんの二名をラジオパーソナリティとして、日々さまざまな配信を行っています。
そのなかでのメインコンテンツの一つが、一人のメンバーをゲストに迎えてお送りする「月イチ!カケハシさん」。カケハシとの出会いや仕事を進めるうえで大切にしているスタンスなど、メンバーの人柄を紐解く時間をつくっています。
さて、そんなわけで、これまでは社内だけで公開していたカケハシラジオですが、せっかくなので「月イチ!カケハシさん」をnoteでもおすそわけする運びとなりました。今月もカケハシラジオの世界を覗き見していきましょう。今日はどんな話が飛び出すのでしょうか、それではさっそくどうぞ!
目次
- 強いチームに求められる「状況を思考する力」
- ただ気遣うだけではない、心理的安全性の真髄
- 行動の規範になり得る「バリュー」の存在
上田恭平(以下、上田):カケハシのみなさん、こんにちは。今回もはじまりました「カケハシラジオ」のお時間です。久しぶりの収録になりますね。今日は、以前のリレースピーチで話してくださった、エンジニアリングマネージャーの窪野さんをゲストにお呼びしています。
上田:窪野さんは少年サッカーのコーチをされたことがきっかけで、大人になってからサッカーに興味を持つようになったと。その経験を通して得た、サッカーチームや選手として大切なこと、カケハシの組織やバリューとを紐づけて先日話してくださいましたよね。
今回は、そこから発展して、サッカーの話を深掘りしつつ、組織論やチーム論についての小話ができたらと思っています。そういえば、啓祐さんはサッカーの戦術厨とかなんとか……。
鈴木啓祐(以下、啓祐):そうですね。僕はサッカー部だったとか、サッカーをずっとやっていたとかではないんですが、戦術分析とかスタッツが大好物なんです。先日、イタリア・ペルージャの育成世代の監督をやられていた方の著書『モダンサッカー3.0』を読んだんですけれど、サッカーの戦術って変わってきているそうなんです。
たとえば、今までのサッカー戦術って監督がゲームの全体像を描いて、選手が実行するというスタイルでした。そこから、フィールドのなかで偶発的に起こる現象を通してモデルをつくっていくように変わってきているという話があって。
戦術を実行することを目的にするのではなく、選手間で起こる現象や発言からゲームをつくって、選手自身が考えプレーしていくことが最近の戦術のトレンドなんだそうです。この話を読んだとき、すごくいいなって思ったし、同時にすごくカケハシっぽいとも思ったんですよね。
上田:もう決まったことをただただ実行するのではなく、そこにいる人たちの関係性から、どう行動するのか考えてプランをつくっていくような……。
啓祐:そうですね。だから、さまざまな変化に対応していく適応力みたいなものが最も大切だという話でした。めちゃくちゃおもしろい本だったのでカケハシのみなさんにもおすすめしたいんですが、この本が会社のスキルアップ支援の対象になるのかどうか(笑)。
上田:対象になるようなトークをしていきましょう(笑)。
強いチームに求められる「状況を思考する力」
上田:先ほどの話って、以前窪野さんが話してくださったことに似ている気がしませんか。複数のポジションをこなせることがサッカーでは大切だけれど、エンジニアだって複数の役割を必要に応じて演じ分けられることが重要だよね、とか。バリューでいうところの「変幻自在」を体現して、フォロワーシップを発揮することの重要性なんかの話もありましたしね。
窪野安彦(以下、窪野):そうですね。『モダンサッカー3.0』は読んでいないですし、戦術にそこまで長けているわけではないですけれど、子どものサッカーチームのコーチングをしているなかで感じるのは、やっぱり選手自身に考えて動いてもらうことの重要性なんです。
監督やコーチも試合になると白熱しちゃって、あれこれ言っちゃうんですよね。監督が「あっちを攻めろ」って叫んでる後ろで、別のコーチが「こっちを守れ」って言ってるし、しまいにはベンチまで好き勝手言い出す、みたいな。そんななかで最終的に判断して行動するのは、試合をやっている子どもたちなんです。
上田:なるほど。
窪野:もちろん戦術もたしかに重要ではあるんですけれど、試合で動いている選手の判断が最終的な結果につながっているので、一番大切な部分なのかなとは思います。
とはいえチームのコンセプトというのも重要だとは思っていて。たとえばイングランドの2部なんかによくある「キック・アンド・ラッシュ」と呼ばれる戦い方。これは、ドカーンとロングボールを蹴って、足の速い選手がそれを受けてワンタッチでゴールする、いわゆるラグビーみたいな戦術なんですけれど。
上田:身体がでかい選手が強い、みたいな?
窪野:そうそう。そういうチームのコンセプトを理解しつつ、選手が試合を進めていく様っていうのがすごくおもしろいですね。子どもたちの性格や特徴が、判断にも表現されていたりするので。
たとえば、普段の練習のなかではよくわがままな行動をとっていて、周りからも「あいつなんだよ〜」と思われている子が、案外試合になると他の選手から頼られていたり、その子を中心にゲームが進んだりするんですよ。
そういうのって結構仕事でもあるあるなんじゃないかと思うんです。普段の会話だとすごく意識の高さを感じさせたり、周りを少しカチンとさせちゃうような人が、障害時のトラブルシューティングで真っ先に動いて引っ張ってくれるとか。そういう経験があるので、サッカーも仕事も、すごく似ている点があるんだなと思っています。
上田:話を聞いていて思ったんですけれど、現場で行う判断って、特に意思の強い個人の考えにあわせて全体のプランができあがっていくような感覚がありませんか?
窪野:あると思います。チームメンバーの組み合わせによっても変わってきそうですよね。チームって新しい人が入ってくるだけで雰囲気が変わったりするじゃないですか。
たとえば仕事でも、これまで少数精鋭で阿吽の呼吸で開発していたときには目立たなかった人が、人数が増えて暗黙知を共有しないといけなくなったタイミングで突然、縁の下の力持ちとしてのパフォーマンスを発揮するとか。そういうところもでも、サッカーと仕事は似ているなあと。
上田:なるほど。現場や人との関係性に適応していくかあ。そういうことの重要性って『モダンサッカー3.0』でも語られていますかね?
啓祐:本のなかでは言語化の重要性がよく書かれていましたね。『モダンサッカー3.0』で言われていることって、監督が戦術をつくるのではなく、あるプレー原則みたいなものを軸に、選手それぞれが考えるって感じなんですよ。プレー原則のもとで、「こういう状況において、自分はどう行動したらいいのか」考えることを促していく、というか。
そこで求められるのは誰がどう動くのかを観察して、言語化して、自分のとるべきアクションをプレー原則に落とし込んでいくことなんです。このプレー原則と呼ばれるものは会社でいうところのバリューとかビジョンにあたるものだと思うんですけど、みんながそういった原則に則って自分がどう動くべきなのかを考えて行動できると、とても良いチームになるみたいです。あくまで僕の理解ですが(笑)。
ただ気遣うだけではない、心理的安全性の真髄
上田:少年サッカーのコーチングをする際にもそういった言語化ってよく行われているんですかね。僕、以前なにかの記事で読んだんですけれど、(川崎)フロンターレの育成組織出身の久保建英選手のことが書いてあって。
彼、飛び級で上の世代とも練習するような選手だったそうなんですけれど、なかでもずば抜けて「自分が今なにをしたいのか」「なにをしなければならないのか」をコーチの前で言葉にすることに長けていたらしいんですよね。
「彼はきちんと言葉にして考えられる思考力がすごく高い」ということを育成コーチが語っているその記事を読んで、サッカーにおいてもそういった視点で育成を進めようとしているのかと衝撃を受けたことを覚えています。
窪野:久保選手のような方と、僕の関わっているチームとを一緒にするのはちょっとおこがましいんですけれど、たしかに観点としてはあるかもしれません。
子どもたちには、自分の良かった点や悪かった点を振り返るサッカーノートを書くよう伝えたり、自分の思っていることを人に伝える、あるいは、相手の要求していることを理解するようなコミュニケーションを意識していこうと話をしています。とくに、「試合中にもっと選手同士で会話をしようよ」っていうコーチングが頻繁にありますね。
やっぱり黙ってプレーしているだけだとお互いになにを思っているのかわからないし、ゲームの流れも生まれにくかったりしていて。でも喋りながらプレーができていると、点数を取られたあとでも「取り返そうぜ!」って誰かが言えるし、その言葉によってスイッチが入ったりする。だから、できるだけ声を出して、喋りながらサッカーをしようねってよく言っています。
啓祐:先日のリレースピーチでも、ピッチ内で選手がコミュニケーションを取ることの大切さって話をされていましたよね。心理的安全性を保つことにもつながるのかなと解釈しました。
上田:心理的安全性があるからコミュニケーションが取れて、コミュニケーションを取っているから心理的安全性が生まれるっていう循環ですよね。
啓祐:サッカーの中継を見ていても思うんですけれど、強いチームってプレー中にコミュニケーションをしっかり取っていますよね。プレーがうまくいっていないときには、「今のはどうすればよかったのか」をすぐに言語化して修正していますし。戦術分析とか戦術カメラとか見ていると、そういう選手同士の会話も見えてきて、すごくおもしろいんですよ。
ちょっと前にあった日本対ドイツ戦(※ 2023年9月10日に開催された国際親善試合。日本代表が4-1で勝利した)でも、ドイツ選手ってほとんど会話をしていないんですよね。日本がサイドを破って突破していっても、全然修正をしていなかった。
ドイツみたいに強い選手が集まっているようなチームでも、コミュニケーションを怠ると修正できないし、どうしてほしいのかお互いに伝えられない。仲間の意図がわからずにプレーするっていうのは、それだけで結構なハンデになるのだなと実感しました。
上田:コミュニケーションがきちんと取れるのか取れないかって、チームの状態にもよりますよね。
窪野:必要なときに必要なことが言えるかどうかって、すごく難しいけれど、それができてこその心理的安全性なのだろうなと思います。
元フットサル日本代表監督のミゲル・ロドリゴさんが、カズ(三浦知良選手)をフットサルの日本代表に招集したことがありました。カズってレジェンドなので、周りのメンバーがとにかく気を遣っていたそうなんですけれど、カズはまず仲間に「俺のことなんて呼び捨てでいいから!」と言ったそうなんです。
それで選手たちがゲーム中に「カズ!」って呼ぶようになり、それがきっかけでチームのコミュニケーションがよりスムーズになったそうで。そういう意味で、ただお互いに気を遣いあえばいいっていうわけではなくて、必要なときに必要なことが言えるというのが、良いコミュニケーションなのかなと僕は思っています。
啓祐:あと、チームがうまくいっているときって、勝手にコミュニケーションが生まれますよね。反対に、チームがうまくいっていないとみんな黙っちゃったり、下を向いたりしちゃう。これはたぶん仕事のときでも同じだと思うんですけれど。
たとえば、前職にいたとき、不具合やバグが起きて修正にあたらなければならないっていうシーンに出会うことがしばしばあったんですが、そういうときはやっぱり雰囲気が悪いし、Slackでの連絡さえしにくい空気があって。
でも、良いチームって、そんなときこそ声をかけあうし、お互いをリスペクトしていて状況を好転させられるのかなって感じました。サッカーにおいては、それを促すのがコーチの役割なんですかね。
窪野:そうですね。状況が悪いときこそコミュニケーションを取れるって、本当の心理的安全性かなとは思います。「本当はここにボールがほしかったんだ」とかって、素直に伝えられないと修正もできないですからね。
同様に、仕事の面でも「こういうアウトプットがほしかった」と言えるのが理想ですよね。カケハシのバリューでいうと「高潔」な姿勢っていうのがそれに該当するのかなと思うんですけれど。
行動の規範になり得る「バリュー」の存在
上田:良いコーチだったり、カズのような良いリーダーがいればチームが良くなるのではないかと感じられがちですが、実際はそうではないのでしょうね。
個人個人が意識を高められるような、積み重ねられた規律やディシプリン、あるいはバリューの存在が、一人ひとりをリーダー的な振る舞いにさせてくれるのかもしれないし、暗い空気を切り開こうとする意思に繋げてくれるのかもしれない。そういう意味で、バリューや規律がすごく重要なのだなと改めて思いました。
啓祐:なにかの原則やバリューって、同じ方向を見るために使うにはとても有効だしわかりやすいですよね。雰囲気でどうしたらいいのかって察するとか、目で見て盗むより、言語化されている柱を見るほうが理解しやすいなと思います。
上田:そうですね。『モダンサッカー3.0』の話からの流れで、チームで心理的安全性を保つにはっていう話にまで行き着きましたけれど、たくさん良い話が出ましたね。
啓祐:だいぶトリッキーなパスになってしまった気はしますが(笑)。今回、僕は自分の好きな話をしただけな感覚があります……。
上田:いや、すごく良いじゃないですか! 窪野さん、今回の話はいかがでしたか?
窪野:カケハシも、これから事業によって良いとき、悪いときと状況が変わっていくと思うんです。それでも、バリューをベースにしてお互いに声をかけあいながら、良いプロダクトをつくっていけたらなと、改めて感じました。
上田:リレースピーチの際、全社でひとつのチームだということもおっしゃっていましたが、そういった点も再認識していきたいですね。それでは、今回のカケハシラジオはこのあたりでお開きにしましょうか。窪野さん、ありがとうございました!
窪野:ありがとうございました!
上田:では、また次回のラジオでお会いしましょう。さようなら〜!
啓祐:さようなら!