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Q_0007:どうやって人間パワー増幅を実現するのですか?

いい質問ですね。筆者は研究者ですので、こういう質問は嬉しく思います。技術の詳細に立ち入ることは避けますが、少しだけ詳しく紹介させていただくことにしましょう。

まず「人間パワー増幅技術」とは何か、説明が必要ですね。これは、超人ハルクのように生身の人間のパワーを増幅する技術、ではありません。そうではなく、人と、人より桁外れに大きなパワーを発揮する大出力ロボットとを、直感的にインタフェースする技術です。つまり、人が大出力ロボットを、まるで自分の身体のパワーが増幅されたかのように、まるで大出力ロボットが自分の強化された身体であるかのように、思い通りに操るための技術です。『フルメタル・パニック』のアーム・スレイブ、『アップルシード』のランドメイトのような、人間と大出力ロボットとの双方向インタフェース(バイラテラルマスタスレーブ)を実現する、と考えて頂ければいいでしょう。

なぜこのような技術が必要なのでしょうか。ガンダムを含む多くの操縦型ロボットでは、操縦者は、主にレバーやペダルで操作しているようです。これを工学的に実現するのは、現状の技術では困難です。ロボットが持つ自由度数に比べて、レバーやペダルで入力できる自由度数が圧倒的に少ないからです。レバーやペダルでロボットの全身動作を直接操ることが難しければ必然的に、操縦者は「歩け」とか「走れ」とか、パンチ、キックなどの「動作の概略」のみを指示し、具体的に実行される動作の詳細はコンピュータに補完させることになります。こちらは、『機動警察パトレイバー』の LOS = Labor Operating System をイメージして頂ければよいでしょう。究極的には鉄人 28 号もこのカテゴリに入りそうですね。

しかし、そのようなコンピュータソフトウェアは、現在のロボット工学では初歩的なレベルしか実現できていません。たとえ近年著しい発展を見せている AI 技術を駆使したとしても、未知の環境下での汎用作業に使えるようなレベルではありません。もちろん物理的に不可能というわけではなく、多くの優秀な研究者が真剣に研究していますので、そう遠くない未来に実現できるのかもしれませんが、今のところは実現できていません。

そこで、人間パワー増幅技術です。この技術であれば、既に実験室内では完成に近いレベルに達しています。言語化できない人間の身体スキルを、言語化せずに身体スキルのままロボットに繋ぐことで、コンピュータによる補完を最小限にし、現在のロボット工学技術で実用化可能にするのです。

人間パワー増幅技術は、既存のロボット工学のカテゴリでは「マスタスレーブ」や「ハプティクス」に該当するでしょう。しかし、マスタスレーブにせよハプティクスにせよ、既存の多くの研究では、遠隔地点間あるいは仮想空間とのインタフェースに主眼が置かれてきました。また、マスタ(操作する側)とスレーブ(操作される側)の大小関係は、暗黙の内に「マスタ ≥ スレーブ」と想定されていました。

それに対して、本プロジェクトで我々が目指すのは、通信時間遅延が無視できる現実の近接地点間で、人間と大出力ロボットとの双方向インタフェースを確立し、直感的に繋ぐことです。マスタとスレーブの大小関係は、ここでは明確に「マスタ << スレーブ」です。

このように問題を捉え直すと、実は既存のロボット工学技術では、人間パワー増幅を実現するために足りないパズルのピースが幾つかあることに気付きます。我々は本プロジェクトで、足りないピースを一つづつ埋めてきました。そのようなピースとしての基盤技術の一つに、

力順送型バイラテラル制御 = Force Projecting Bilateral Control

があります。これは、大出力ロボットをスレーブとするパワー増幅マスタスレーブシステムにおいて、マスタでの巧緻な操作を実現する、我々独自の制御手法です。中身は非常に単純な制御則なのですが、このような単純な制御則が真剣に検討されてこなかったほど、この分野の研究は疎でした。

このような技術を積み上げることにより、2012-2013 年には既に、以下のような実験機が開発されています。

立命館大学 金岡研究室 三軸マスタスレーブロボット デモと解説 @ YouTube [04:47](音注意)
九州大学(現 広島大学)菊植研究室 力順送型バイラテラル制御の実装例 @ YouTube [00:13](音注意)
九州大学(現 広島大学)菊植研究室 力順送型バイラテラル制御の実装例 @ YouTube [01:12]

現実には難しいレバーやペダルではなく、また不完全な現実の LOS でもなく、この人間パワー増幅技術を応用することで、人と、人より桁外れに大きなパワーを発揮する大出力ロボットとを、直感的にインタフェースすることができます。つまり、大出力ロボットが自分の強化された身体であるかのように、思い通りに操ることが実現できるのです。

先の実験機は、実験室内での力順送型バイラテラル制御の検証用実験機でした。これらの地道な基礎研究により、実験室レベルでの人間パワー増幅技術は、ほぼ完成の域に達したと我々は考えています。ハードウェアを大出力化すれば増幅率をもっと上げることもできます。ハードウェアが変わっても基本的な制御則はそのままですので問題ありません。

もう、実験室内に篭っているときではありません。金岡研ではなく株式会社人機一体として、これからいよいよ、実用化のための研究開発に入ります。

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▶︎ 2012/07/30(月)20:53:00 = uploaded
▶︎ 2014/06/07(土)11:38:00 = revised
▶︎ 2018/01/14(日)16:11:30 = last revised
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