医療やヘルスケア分野をデジタル技術で革新することを掲げるジェイフロンティア株式会社(以下、ジェイフロンティア)。2021年現在13期目、近い将来IPO(新規株式公開)から売上高1000億円企業を目指し、社員数50名規模のベンチャーながら急成長を遂げています。
自社オリジナル商品を通販で展開するBtoC領域を主力に、クライアントである通販会社の売上拡大を支援するBtoB領域、新規事業であるオンライン診療・服薬指導のファーマシー(薬局)領域と、主要3事業を展開。本シリーズでは3事業の部長から役員まで計6名にインタビューし、各々が感じているリアルな声をお届けします。
今回紹介するのは、メディカルプラットフォームサービス事業部長 深沢七菜。彼女は2020年9月入社ながら、オンライン診療プラットフォーム『SOKUYAKU』をゼロイチで立ち上げ、新規事業を牽引。プロダクトマネージャーとしてサービスの要件定義から営業、マーケティングまで幅広い業務領域を担当しています。深沢が『SOKUYAKU』をリリースするまでの紆余曲折、そしてプロダクトに込めた想いとはーー新規事業立ち上げのストーリーから、ジェイフロンティアの挑戦できる風土に迫ります。
プロフィール
深沢七菜(ふかさわなな)
メディカルプラットフォームサービス事業部長。SEとしてキャリアをスタートし、アプリやインフラ周り、サーバー構築などを5年ほど経験。さらに上流工程を経験したいとITコンサルタント企業へ転職。BtoB領域でDXの企業コンサルタントを中心に3年間活躍した。2018年から、ジェイフロンティアのコンサルタントを担当。新規事業であるオンライン診療サービスの立ち上げフェーズから関わり、2020年にスカウトを受ける。社長直下で自社サービスを経験できることに魅力を感じ、同年9月にジェイフロンティアへ入社。オンライン診療サービスのトップを任され、BtoC領域は初めての経験ながらアプリの要件定義、医師への営業活動、マーケティング観点のKPI設計、ホームページやランディングページの制作までプロダクトマネージャーをひとりでこなしている。
<目次>
- 目指したのは、Uber のお薬版
- いかに使い続けてもらうか。こだわったのは「導線設計」
- 医療のDXで日本社会に貢献する。『SOKUYAKU』にはそのポテンシャルがある
目指したのは、Uber のお薬版
――新規事業のオンライン診療サービス『SOKUYAKU(速薬)』について教えてください。
2021年2月にリリースしたばかりのオンラインで診療・服薬指導を受けられるアプリです。受診から薬の処方、配達、受け取りまですべてがオンライン上で即完できる点が特徴で、結患者さんは自宅にいながら医師の診断、薬剤師の服薬指導、処方箋や処方薬の受け取りといったサービスを受けることができます。
――深沢さんは『SOKUYAKU』の立ち上げにゼロイチで携わったと聞いています。どのような点にこだわってサービスを設計されたのでしょうか?
一番は患者さんが最短で当日中に処方薬を受け取れるようにすることです。これまでのオンライン診断では処方箋が郵送されてくるまでに丸1日かかり、即日で薬を受け取れない課題がありました。
せっかくオンライン診断できても、患者さんは薬を受け取るために薬局へ行き、薬局でさらに待たなければいけない。これなら直接、診察や服薬指導を受けたほうが薬を手にできるまでの時間が早く、価格も安い。オンラインのほうが不便では、まったく意味がないと思ったんです。そこで当日中に薬を届けられる方法や手段から逆算して、サービス設計に落とし込んでいきました。
具体的には、まず提携した配達業者とシステム上で連携し、配達時間の短縮化を図りました。私たちは「薬のUber」と呼んでいるのですが、要はUber のお薬版です。例えば、患者さんがアプリを使ってオンライン診療を受けます。アプリ上では、患者さんの住所といちばん近い薬局とマッチングし、選択できるようになっています。
次に、処方箋が医師から薬局へ送られる。注文を受けた薬局は薬をセットし、アプリを通じて患者さんへ薬の説明を行う。システム上「調剤完了」のステータスとなれば、バイク便業者へ自動で呼び出しがかかる。一番近くから配達できる配送員がアサインされ、薬局から患者宅へ最短で薬が届けられる仕組みを作りました。
手前味噌ですが、最短ルートをつないで配送コストを下げ、宅配時間も短縮できる『SOKUYAKU』のようなサービスは他にないと思います(笑)。
いかに使い続けてもらうか。こだわったのは「導線設計」
――サービスを軌道に乗せるまでの課題は?
ユーザーに認知いただいたあと、使い続けてもらうことですね。オンライン診療というマーケットも習慣もない中で、どう需要を喚起しマーケットを作っていくか。認知を上げ、どうやって人々の生活習慣を変え、使いつづけていただくか。いかにスマートに、安心してオンラインで受診いただけるか。こうした課題の解決に向けて、アクティブ率をKPIにして、日々改善を重ねています。
――病院にかかる方はお年寄りの比率が多いと思います。アプリの使い勝手も重要ですね?
そうですね。どれだけ工夫して設計してもアプリの使い方が分からない方は一定数出てくると思うので、問い合わせ窓口のコールセンターを設け、誰にでも当たり前にサービスをご活用いただけるサポート体制を構築。特にアプリの使い勝手や体験を左右するUI/UXは重要で、「検索導線」には徹底的にこだわっています。
例えば、患者さんがWebでお店や宿を予約するような感覚で医師の診察を受けられるようアプリ上で迷わず病院や診療科目、薬局などを探し予約できるUIにしたり、少しでも患者さんが迷わず、不便を感じない使い勝手を目指しています。
診療科目を絞り込んでいったら、初診には対応していないクリニックが表示される……なんてもってのほか。予約から薬の配送までの導線を可能な限りシンプルでストレスなく分かりやすくしています。オンライン診療サービスは体調が悪いときこそ、いちばん便利で簡単であってほしいツールのはずですから。
また、「病院は待つのが当たり前」という常識も覆したい。アプリの体験が悪いとクリニックや薬局のイメージまで悪くなりかねませんから、待ち時間なく確実にオンラインで診察を受けられるような設計にもこだわりました。
アプリが便利なのは当たり前。「ログインしてみたけどなんだかめんどくさくて使いにくい」と感じさせないための工夫をし、医療サービスを気軽に受てほしい。それが、プロジェクトの立ち上げ当初からの想いです。
医療のDXで日本社会に貢献する。『SOKUYAKU』にはそのポテンシャルがある
――そもそも、『SOKUYAKU』はどのような背景で立ち上がったのでしょうか?
プロジェクトが始まった2018年頃は、ちょうど医療のDXが叫ばれ始めた時期。代表中村が「医療分野のDXを推進することができれば、日本の未来に光を射すことができるのではないか。本格的に医療分野へ挑もう。中でもジェイフロンティアの強みを活かせるのがオンライン診療だ」と立ち上げたのが、当プロジェクトだったそうです。
中村はもともとドラッグストアで働いていて、医薬品関係の仕事が原点にあります。後に、通販や広告代理店を通じた健康食品や医薬品、ヘルスケア商品の販売経験を重ねていく中で、医療分野へそのノウハウを活用できないかと考えるようになったとのこと。
今後、日本の労働人口はますます減少し、高齢化社会を迎える中で税収は減り、社会保障費の財源を確保できなくなることが予想されます。すると、医療業界が「薄利多売」の構造に変化していく恐れもある。そのような時代背景もプロジェクト立ち上げを後押ししたのだと思います。
その頃、私は別会社のコンサルタントとして外からプロジェクトを支援していたのですが、中村の想いに共感し2020年9月に正式に『SOKUYAKU』の立ち上げにジョインすることにしました。
ただ、当時は今以上にオンライン診療への法規制が強く、企画構想自体が難しかったのを覚えています。株式会社は医療法人を運営できません。当社は診療などの医療行為を行うことはできなかったんです。そこで、「手触り感」をつかむために自社で薬局を運営することにしました。現在も赤坂にある「健康日本堂調剤薬局」1号店です。この店舗でトライエラーを繰り返し、具体的なオペレーションの仕組みを構築していきました。薬剤師とのやり取り、近隣クリニック様との関係構築、日々ご来店いただく患者様、等、まさに我々のノウハウが詰まった店舗。私も現場には足を運び、誰よりも現場を理解する、ことを徹底しました。
ーーそこからどのようにオンライン化していったのでしょうか?
2020年初頭にコロナ禍が到来した際、Uber Eatsなどオンラインでの食事の配達サービスや家にいながら生活を充実させる巣篭もり需要が生まれ、オンライン診療の法律も一部緩和されました。「このタイミングで患者様にとって一番使いやすいオンライン診療サービスをリリースすることで、オンライン診療が世の中の新しい当たり前になるのでは」と思い、2020年5月からいっきに開発スピードを上げ進めました。
同時に、オンライン診療サービスに協力してくれる医師への営業も開始。最初はオンライン診療に対して慎重な意見もある一方で、推進派の医師もいて、一筋縄ではいきませんでした。ただ、ITコンサル時代に培った営業力を活かし当社に協力するメリットを伝えることで、少しずつ賛同を得られるように。一人の医師とつながると、数珠つなぎで紹介が拡大し、サービス開始まで漕ぎ着けることができました。
ローンチした今も認知拡大のために、薬局や病院にポスターやリーフレットを配っています。ただ、中には「オンライン診療が進んだら他の病院やクリニックに患者を取られるのでは」と懸念される医師や薬局の方もいらっしゃるかもしれません。その懸念を払拭するため、その病院を「かかりつけクリニック」として登録できる機能を付けました。敵対ではなくWin-Winの関係で共存できることを伝えることを意識しています。
関係者を巻き込んで新しいことを始める際は、並走しながら「お互い一緒にやりましょう」という気持ちがないと上手くいかない。それはコンサルタント時代に学びました。そして、自分がそのサービスのいちばんのファンになる。それができて初めてプロジェクトやサービスは上手くいく。そんな想いで、日々営業活動に励んでいます。
――最後にメッセージをお願いします。
これまで医療のDXに向けて奔走してきましたが、私自身は医療行為の全てを『SOKUYAKU』で完結してほしいとは思っていません。例えば、病気になる手前の段階で治って完結する予防医療に使われてもいいし、コロナ禍で頻繁に病院へ行けない状況の中での健康管理ツールとして使ってもらってもいい。
通院にしたって全てをオンライン化する必要はなくて、薬だけでは病気や怪我に対処できない患者さんには病院を紹介する流れをつくりたいと思っています。ただ、「デジタルの力で困っている人を助けたい」という気持ちがブレることはありません。
メディカルプラットフォームサービス事業部としての方向性やビジョンは決まっていますが、課題もやるべきことも山積みです。これまで私と代表の中村が中心となって『SOKUYAKU』の立ち上げやグロースを推進してきましたが、今後はより多くの仲間の力が必要なフェーズ。
そこで求めているのは、「自分ができる領域を増やしたい」といったチャレンジ精神を持った方。もちろん、「『SOKUYAKU』を日本一のオンライン診療プラットフォームにしたい」そんな意欲がある方は大歓迎です。
「薬が今日中に届く」ことは薬が切れて困っている方にとって大きな価値があります。しかも外出がしづらいこのご時世。『SOKUYAKU』の社会的意義は、今後さらに高まっていくでしょう。日本の医療業界を支えるサービスを手がけたい方は、ぜひジェイフロンティアにジョインしてください。
取材・文:山岸 裕一