先日、Wantedlyさんが、我社に話を聞きに来てくださいました!本日は対談の様子をご紹介します。
「日本をアップグレードする」そんなビジョンを掲げた会社、株式会社日本データサイエンス研究所(以下、JDSC)。CEOの加藤エルテス聡志氏と、COOの淵高晴氏に話を聞いてみました。まずは二人のこれまでのキャリアと出会いを知りたいと思います。
起業家である二人のこれまでと出会い
ハンガリー人の父と日本人の母を持つ加藤氏。サイエンスへの興味が強かった少年時代の加藤氏が、高校時代に衝撃を受けたのがクローン羊「ドリー」です。科学的なトピックであることはもちろんですが、日本でクローン技術が発達するには法律的な壁があったことから、最新技術と法律や社会的な領域、つまり理系と文系どちらにも強い興味を持つようになったそうです。
そんな加藤氏が、大学時代を過ごしたのが東京大学の心理統計学科。統計学が学びたかったのはもちろん、単位の半分を他学部の講座で取得できることが理由だったといいます。
―加藤
「大学時代はSASやSPSSといった、統計のソフトウェアを利用して学んでいました。統計と共に力を入れて学んだのが、経営学や会計学です。日本の経営学というと、経営哲学のような話が主流になっていますが、海外では経営学はもっと科学的な統計のような学問です。私は統計学を軸に経営学などを学んだので、より具体的な経営について学ぶことができたと思います」
その後、加藤氏は自分がどっぷり浸かってビジネスを行う仕事と、様々な企業を見ていく仕事と、どちらも経験したいと考え、まずは前者の経験を選んでP&Gに就職します。そこで数年経験を積んだ後、次のチャレンジの場に選んだのは、後者の経験ができるマッキンゼー・アンド・カンパニーでした。
―加藤
「マッキンゼー・アンド・カンパニーでは3ヶ月に1度クライアントが変わるのですが、おかげで様々な業界を見ることができました。そこで気づいたのが、多くの企業がビジネスにデータを使っていないということです。そもそもデータをとっていない企業もあれば、データがあっても使えていない企業、データを使っても利益に繋げられない企業ばかりだったのです。
そんな状況を見ていた私は、もっとデータを使ってビジネスをしたいと思うようになりました」
そんな加藤氏に舞い降りたチャンスが、外資の製薬会社の、日本のデジタル部門の責任者というオファー。もともとヘルスケアに強い興味があった加藤氏は、快く引き受けました。
―加藤
「テクノロジーを使ってビジネスを拡大させる仕事だったので、当時はIBMのWatsonを利用していました。担当者としてIBMの方と話をしていると、私が学んでいた2004年ころの多変量解析と、当時の機械学習に大きな乖離を感じました。そこで改めて人工知能を学ぼうと考えたのです」
人工知能の知見を蓄えた加藤氏は、2013年にJDSCの前身となる一般社団法人日本データサイエンス研究所を立ち上げます。それと同時に、共同創業者として教育系ベンチャーの取締役を務めますが、社会のAIへのニーズが高まっていったことを機に、一般社団法人日本データサイエンス研究所に専念。株式会社化したのが2018年でした。
そんなJDSCで加藤氏と共に、経営の舵をとるのがCOOの淵氏です。京都大学在学中にオンラインリサーチを活用したコンサルティング企業を起業した経験を持ちます。
―淵
「学生のころは起業しようと思って起業したわけではなく、統計学を学んでいる延長線上に、起業があったようなものでした。当時は学生起業家が珍しかったので、メディアにも取り上げてもらって、ソフトバンクの孫さんや楽天の三木谷さんにお会いさせてもらいました。しかし、誤解を恐れずに言えば、仕事で数百万円もらって作るレポートも、大学の授業で出しているレポートも、クオリティはさほど変わらないことに違和感を覚えたのです。その違和感から会社をオン・ザ・エッジ(後のlivedoor)に売却して、就職する選択をしました」
大学院を卒業後就職したのは、加藤と同じP&G。二人はインターンの時からの付き合いだといいます。
―淵
「P&Gではマーケティングの部署に配属されました。5、6年もP&Gでマーケティングをしていると、『P&Gがなくなっても、お客さんは他のメーカーの商品を買うんだよなぁ』と思うようになり、もっと唯一無二の仕事をしたいと思うようになったのです。そして『薬だったらないと困るな』と思い、外資系の製薬会社に転職し、デジタル部門のヘッドを任されました。しかし、薬だって他社のメーカーの薬で代替がききますし、サラリーマンという働き方自体が、代替がきく仕事だと思うようになったのです」
地元に帰ることも考えていた淵氏を引き止めたのは、加藤氏からの電話でした。カフェで会うと加藤氏は「一緒に働きたい」とオファーを出したのです。
―淵
「話を聞いた数分後には、一緒に働く決断をしましたね。なぜかというと、エル(加藤氏の愛称)は以前ルームシェアをしていた友達5人をみんな起業させていて、しかも全員成功させているんです。にも関わらず自身では起業しないエル。そんなエルがわざわざ自分で起業するということは、よほど自信があることだと思いました。エルのビジネスセンスには確信があったので、それだけで決断する理由としては十分でしたね」
迫りくる少子高齢化社会に向けて日本をアップグレードする
今後40年での30%もの人口減少を避けるために、少子化対策を講じるには最早手遅れだと言われており、様々な面で問題として捉えられています。
加藤氏は人口減少が抱えている問題を次のように語ります。
―加藤
「日本の人口減少が大きな問題である理由はふたつあります。
ひとつは日本が国として多額な借金を抱えていること。これから今の生産性のまま人口が減って、日本がお金を稼ぐ力を失っていけば、借金で生まれる利子に全てを充てなければならない未来もありえます。
もうひとつは、これから高齢者が増えていくということ。高齢者が増えると、医療費が増大することになります。日本の医療制度が手厚いことはいいことですが、それを賄えるだけ経済パフォーマンスを上げなければいけません。
日本は社会が成熟して、第3次産業が発達していますが、実は農業や畜産といった第1次産業が盛んなニュージーランドよりも、一人あたりGDPは低いのです。なぜなら、ニュージーランドがテクノロジーで社会をアップデートしてきたのに対して、日本は変わる道を選ばなかったからです。だからこそ、日本もテクノロジーで社会を変えていけばいいと思っています」
では、なぜ日本だけは変わってこれなかったのか。その理由について淵氏はこう語ります。
―淵
「日本は、国内だけでも十分な市場があるため、国内の市場だけでもやってこれました。対して、例えば韓国などは、国内の市場が小さいために、外貨を獲得せざるを得ませんでしたし、そのために変化が必要だったのです。
つまり、日本はよくも悪くもチャレンジしなくても生きてこれたと言えます。しかし、変化しなければ生き残れない時代が差し迫っています。そのための解決策はいろいろあると思いますが、そのひとつがAIなのです」
AIによって何が変わるのか、その問いに対する加藤氏の答えはこうです。
―加藤
「これまで世界中で何度も産業革命というものが起きてきました。石炭が使われ、その次に石油が使われるなど、産業革命というのは動力が置き換わるということです。
そして、AIで起きる産業革命で、どんな動力の置き換えが生じるかというと『判断の置き換え』です。例えば、書店でどの本をどの位置におけばより売れるかという判断や、どの自動販売機にどの飲み物を陳列すれば売上が上がるかといった判断は、AIなら簡単にすることができます。
しかし、全ての判断をAIができるというわけではなく、人がしなくてはいけない判断というものもあります。例えば医者のような専門職による判断は、人がしなくてはいけませんし、それを患者さんに伝えるのも、やはり人でなければいけません。
人がしなくてもいい判断をAIがしてくれることで、人がしなくてはいけない判断に集中することができるようになるのです」
AIによってなくなる仕事というのは、様々な場面で論議されますが、そこについて、淵氏はこう続けます
―淵
「確かにAIによって人減らしが起きるというのも事実です。AIを導入することで、これまでよりもずっと少ない人数で、同じ仕事をすることができますから。今のテクノロジーを使えば、人がやるよりも高い精度で、一瞬で終わらせることができる仕事はたくさんあります。そういった仕事はAIに任せて、もっと人間にしかできない仕事をすることができれば、働く人の人生そのものも、よりハッピーになるのではないでしょうか。
しかし、AIが発達したからといって、『シンギュラリティ(技術的特異点:人口知能が人間の知性を超えて、社会に変革を起こすこと)』が起きるとは思っていません。AIができるのは人ができることを、より速く、正確にできるということでしょう。人がそもそもできないことまでを、AIができるようになるわけではないのです」
宅配業界の抱える大きな課題「不在配達」をAIで解決、各種メディアで取り上げられる
テクノロジーで社会を変えるとは、ブレイクダウンすると産業が抱える大きな課題を解決することです。その実例のひとつとして、宅配業界の大きな課題である「不在宅配」をなくすことに取り組んでいます。
―加藤
「今は家庭の利用電力をインターネットで見える化する、スマートメーターという仕組みが普及され始めています。私たちは、そのスマートメーターを使って、家にいる時間を予測するというシステムを開発しました。データとAIをかけ合わせ、在宅の可能性が高い時間を予測、その予測を基に、ドライバーに最適な宅配ルートを提示するのです。
宅配業界と電気業界と、産業をまたいで個人的な情報を利用するため、プライバシーの問題もありますが、プライバシーの保護するアルゴリズムも開発しています。ドライバーに在不在自体を伝えるのではなく、在宅している家のルートを提示するという方法をとるためです。むしろ不在配達がなくなれば『不在』であることすら知られなくなり、今よりもプライバシーは守られることにもなります。技術だけでなく、その技術によって起きる社会的な問題についてもカバーしているのです」
―淵
「スマートメーターのデータを引っ張ってきて、今家にいるかどうかを調べるなら、実はAIはいりません。AIの何がすごいかというと、過去のデータを分析して、とても高い確率で未来を予測できることです。
例えば、連休明けの火曜日だったら、あくまで機械だけが内部で処理する情報ですが、○時から○時まで配達すると受け取ってもらいやすい、といったことが予測できます。
これらのデータから算出されたルートは、運転距離だけみると一見とても非効率にも見えます。不在の確率の高い近い家よりも、在宅の確率の高い遠い家を優先して通ることもあるからです。しかし、このシステムを使うことで、大手宅配企業3社で不在配達にかかるコスト2000億円をほとんど削減することができます。
作業も効率化することができるので、宅配業界の人材不足という課題の解決にも繋がります」
―加藤
「これは一例ですが、決してどこか1社だけのためのサービスではなくて、産業全体を変える仕事だと言えます。他にも、先程紹介したスマートメーターは、近いうちに関東の家庭に100%設置される予定ですが、そのデータをどう使えばいいか、という課題もありました。
AIを利用すれば、見守りサービスなど、幅広いサービスに利用することができます。既に全国の電力会社のほとんどに、私たちの技術力はオファーを受けているのです。1社のために受託の仕事をするのではなく、産業全体を変えられる仕事をしていくのが私たちのスタイルです。
これからも私たちが手がけるのは、日本のGDPを上げる仕事だけです。これから日本の人口が3割減少するのは変えられませんが、同じく衰退するにも『寂しい衰退』と『明るい衰退』があると思っています。私は『人口が3割減っても豊かな国だね』と言われる日本にしていきたいですね」
―淵
「私は正直、私たちだけでは世界はおろか、日本全体を変えられるとは思っていません。私たちが取り掛かろうとしているミッションは、本来政府がやるべきことなので、力不足は否めません。しかし、できないからやらないというのは違うと思っています。それに、少なくとも私達が関わった産業は、今よりもハッピーにしたいと思って仕事をしています。
私はもともと働くことに失望していたこともある人間です。一時はもう働かなくてもいいとさえ思っていました。しかし、そんな自分をたまたまエルが仕事に誘ってくれて、たまたま産業を変えられるくらいの仕事のチャンスをもらったのです。
今、私は手を伸ばしさえすれば、社会の何か変えられるかもしれないという実感を持っています。生きているうちに、そんなチャンスがある人っていうのは、少ないとも思っているんです。そんなチャンスをもらいながら、何もしないというのは裏切り行為だとすら思っています。」
「なすべきことを、なすべきする人がやる」そんな使命感を持って今は働いています
大きなビジョンを掲げ、それを実現するために奮闘する優秀な経営者二人のもとに、現在各分野のスペシャリストが集まっているJDSC。これからさらなる成長が期待されています。迫りくる超高齢化社会に向けて、AIで産業革命を起こしたいという方にとっては、注目すべき会社なのかもしれません。