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vol.3【イノベーションは”ムチャブリ”から ~石川樹脂工業のFAプロジェクト~】

石川樹脂工業では、ロボットやAIによる作業の自動化を進めています。「人の手」を不用意に入れないことで省人化を進め、人が“人らしく”、人としての価値を発揮できるエリアでモノづくりに集中する。それは持続可能なモノづくりへの実践です。

こんにちは、石川樹脂工業専務取締役の石川勤です。3年前、弊社では工場にロボットを導入した新生産ラインを構築しました。これらのロボットシステムは、原料となる樹脂の切断や研磨の工程における自動化を実現しました。今回は、弊社のFA(ファクトリーオートメーション)の経緯を紹介したいと思います。

わたしの“ムチャブリ”を受けた二人──開発部のサブマネージャー北村匡浩さんとロボット事業部の森澤碩文さんに話してもらいました。

インタビューの風景

ロボット導入のはじまり

2018年、工場の機械はその半分が機能していなかった。26台ある成形機の内、稼働しているのが10台ほど。機械が故障していたわけではない。主な理由は、人手が足りないこと。

北村

専務と話し合っていて、「人がいなくても機能するようなラインにできないかな?」という話になりました。当時は、ロボットを採用するのではなく、コンベアに製品を乗せて自動化できないかという発想でした。ただ、それだと1億円かけたとしても、ラインに製品が流れてくるだけ。形にする価値を見出せません。良いアイデアが見つからないまま一年ほどが過ぎた頃、専務から「ロボットを導入してみてはどうだろう?」と提案された。

「製品を自動で流すこと」と「ロボットが作業する」というのでは概念が違います。考え方としてはわかります。ただ、ロボットに何ができるのかということがさっぱりわかりませんでした。人の作業をロボットが代替する。その具体的なイメージが湧かない。

石川

「やれることをとりあえずやる、そこに鉱脈があれば深堀りする」というのがわたしたちのスタンスです。あくまでもロボットは解決法を模索する中での選択肢の一つ。最初は半信半疑で、「とりあえず1台入れてみよう」と動き出しました。

2019年5月、工場にロボットが導入される。国内外でロボット、ロボマシン事業を展開するファナック株式会社に依頼した。工場に設置されたロボットシステムを見て、北村さんは確信する。これが実際に機能すれば、成形時間が短縮され、かつ人が関わらなくとも効果的に稼働する。

北村

ロボットを導入するにあたり、僕一人ではとても対応できない。そこで、入社して間もない(1年と少し)の森澤くんをロボットシステム開発メンバーに抜擢しました。それは専務の「確か森澤さん、大学でロボット工学を学んでいたよね」という一言からはじまりました。

森澤

唖然としました。「学んだ」と言っても、金沢工業大学でロボティクス学科を専攻していただけで、産業ロボットに少し触れたことがある程度です。工学(製図、金属加工)、プログラミング、電気系の知識、経験は少なからず有りましたが、実際的なロボットシステムについては何もわからない状態。そもそも、僕は金型の設計に配属されていたので、そのような話が進んでいたことさえ知りませんでした。「ロボット導入って何の話?」というところからのスタートです。

ロボット事業部 森澤さん

北村さんと森澤さんはファナックのロボット講習を受けに行った。同じ理系でも、北村さんは電子系、森澤さんは工学系。二人ともロボットが専門というわけではない。そこで森澤さんは、ロボットの開発者から「一週間でハンドをつくってください」と言われる。ハンドとは、ロボットが製品を掴むパーツのこと。二色成形の工程を自動化する上で重要な役割となる。

北村

最初の1台はファナックさんがつくってくれたのですが、予算の関係上、その先は自分たちでつくらなければならなかった。設置する2日間で、プログラム作成の担当者に教えてもらいながら。

森澤

急遽、僕がつくることに決まりました。「どういうものをつくればいいですか?」と聞いたら、「掴むことができればいい」という答えが返ってきた。あまりにも漠然としている。最適解がわからない上に、社内でのノウハウはゼロ、完全に手探り状態です。

社内の環境でできること(あるいは、できないこと)を調べるところからはじめ、ファナックさんに相談をしてアドバイスをもらい、わからないながらもなんとか形にしました。お世辞にも上出来とは言えませんが、動かしてみるとうまく機能した。

北村

当初、人と一緒に働く「協働ロボット」をイメージしていました。一般的にロボットを扱う時、人との間に安全柵を設置する必要があるのですが、協働ロボットは柵を省いて共に作業ができる。ある意味、それが製造業におけるトレンドでした。ただ、協働ロボットは何かに当たると即停止してしまいます。ロボットがハンドの重さに耐えられないことさえ起こる。作業がなめらかに進むよう、思案しては試行錯誤を繰り返しました。結果的に、僕たちの手がけたロボットは一定基準を超えて機能した。ロボット導入から2ヵ月後──7月のことです。

石川

確かに完璧とは言えませんが、わたしの中では「結構できている」と感じました。これがうまくいくと高い効果が期待できる。進めてゆく中で、わたしたちの場合には、協働ロボットではなく産業ロボットの方が使い勝手が良いこともわかってきた。ただ、課題はたくさんあります。それらを一つひとつ解決していけば、本格的な量産を実現できる可能性がある。すぐに導入を決めました。

「12月に5つのラインを導入する」

北村

今でこそ笑い話ですが、当時は全員固まりました。残り5ヵ月で、5ラインを導入。銀行からも「県内では、(このスケールのFAは)前代未聞です」と言われました。普通に考えれば、できない。石川樹脂工業はこの速度感なんです。いつだって専務はカジュアルに、とんでもない提案をする(笑)。

開発部サブマネージャー 北村さん

予算と納期の関係上、5ラインを一気に導入できる会社はなかった。北村さんは県内のロボット製造ができる企業を探し奔走した。8月に1社が見つかり、3台の導入が決まった。9月にもう1社、残り2台分の導入が決まる。その間、森澤さんは新たにハンドの設計を進めていた。

森澤

産業ロボットに切り替えたことにより、重量の大きなハンドを使用できるようになりました。より強大な力で動かすことが可能になったということです。そのため、設計を描き直しはじめました。

石川樹脂工業では金型の設計と加工を自社で扱っています。この技術を生かして、金属加工を施したハンドを製作することができる。幸運なことに弊社には加工のプロフェッショナルがいるので、大先輩の下に弟子入りして教えていただきました。

ただ、一口に「つくる」と言っても、どの材料を使用すればいいのかわからない。たとえば、「アルミ」と言っても、様々な種類があります。最も安くて軽いものを採用していたのですが、ある時、操作を間違えてぶつけてしまい、部品が使い物にならなくなった。「安いだけではダメだ」と学び、耐久性のあるものに一新したこともあります。

また、ロボットのハンドは金属に緩衝材としてスポンジシートを張っています。製品を扱うデリケートな部分ですから、素材選びに苦心しました。出来立ての製品は熱を持っています。適当なものを選ぶとシートが溶けてしまう。ものによっては、運転中に剥がれてしまうこともある。

結局、採用されたのは、社内でたまたまデスクの上に置いてあったスポンジシート。先輩の持ち物だったのですが、「これ、使っていいですか?」とお借りして、試してみると全てうまくいった。何十種類とある中、先輩が何気なく持っていたシートが最適の素材だったんです。

森澤さんが開発設計したロボットハンド

時間のないドタバタの中、突貫工事でロボットを導入し、5ラインが整った。設置自体は10月に終えたのだが、動かない。複数の、複雑な不具合が発見された。配管を整理し、デジタル板の配線を調整し、製品を運ぶ同線をプログラムし、夜中まで議論を重ねながら微調整を続けた。

2020年2月、晴れて5ラインが立ち上がった。

モノづくりをハックせよ

ロボットシステム導入が実現した背景には、石川樹脂工業のモノづくりの速度感、多様な課題設定、精度の高い意思決定が存在する。

石川

今の世の中、Amazon、MonotaRO、Misumiなどがあれば結構いろんなことができます。いちいち設計して、見積を取って、加工して……という工程をショートカットして、既存品で代替できてしまう。今回のプロジェクトにしても、様々なパーツを複数のプラットフォームで探して、既製品を組み合わせて形にしている部分もあります。PCが1台あれば、おおよそ解決できてしまう。

北村

何かやりたいことがあった時に、まずYouTubeで調べます。似たような作業を探して、それを参考にする。たとえば、今手がけているのはパレットのラップ巻き。動作が複雑で、難航していたのですが、専務に相談するとその場でYouTubeを調べて「あるじゃん」と。会社名を調べて、連絡を取り、その日のうちに見学させてもらえるようアポを取りました。これくらいのスピード感なんです。自分たちの理想工場はYouTubeにあるんですよ。それを学び、組み合わせていけばいい。

森澤

専務から「二色成形できるでしょ?」と言われ、それを形にすることに最も苦労しました。二色形成とは、二種類の材料で一つの成形品をつくること。ロボットが互いにぶつかり合うリスクがあるので、繊細な調整が要求される。二重三重の安全装置を備え、いかにロボットと人の安全を確保するかを考えました。

北村

理論上できるとは思ったのですが、どうやればいいのかまではわからない。ロボットによるモノの受け渡しは、一度モノを置いて、それを取るというのが一般的です。製品を、どの位置に、どのように置くかを悩んでいた。そこで、「ロボット同士で直接受け渡ししたらどうか」という発想に至りました。

森澤

基本的に、ロボットは別々に動きます。お互いがどのような動きをしているかを把握していません。ロボット同士のコミュニケーションを掘り下げて考え、信号の配線をつくっていきました。

まず「はじめます」と送信して、次に「置きました」と送信する。この段階で相手のロボットが入ってくるとぶつかるわけです。「置きました」の後、「離れました」「どうぞ入ってください」の信号を送って、ようやく相手のロボットが入ってくる。

北村

これを一つのコードに整理しなければいけない。今、話していても混乱しそうなことをプログラミングで一つひとつ書き込んでゆく。実際に僕と森澤くんでシミュレーションしながら、どのタイミングで何が起きるのかを想定しながら丁寧につくっていきました。

石川

プログラミングには経験が反映されています。他人の書いたプログラミングを見る時によくある話なのですが、よくわからないエラー処理がたくさん施してある。わたしから見ると「こんなに細かくしなくてもできるんじゃないの?」と思うのですが、きっとそれなりの理由があるんですよ。それは全てのモノづくりに言えること。

人間、手痛い失敗をしたら、覚えます。「もう二度としない」と心に誓う。北村さんも森澤さんも、手痛い失敗を何度も経験している。だからこのハンドの形なんだ、このプログラムなんだ、この配線なんだ、というストーリーがある。たとえば、今から森澤さんがハンドのつくり方を新しく誰かに教えたとしても、その人にとっては「既存のハンド」なんです。形のつくり方はわかるけれど、どうしてこの形に至ったのかまではわからない。そこには “手痛い失敗”という経験がすっぽり抜け落ちている。

森澤

1回失敗する度にエラー処理が一つ増える。プログラムに「この場合は…」というコードが一つ増えていきます。試行錯誤の歴史ですね。

石川

わたしがやっていることは2つ。1つ目はアイデアをたくさん出して、広げること。2つ目は、やらないことを決めていくこと。やればやるほど課題は見えてきます。1やったとしたら10の課題が出てくる。その10を溜めていくと、いつの間にか身動きが取れなくなります。その前に「今はこれをやめて、これをしよう」と整理してゆく。

課題を解ける可能性があるかという横軸と、解いた時に意味があるかという縦軸を意識しています。解ける可能性が高く、やる意味のある課題は優先順位が高い。解ける可能性が高く、やる意味のない課題はやらない方がいい。解ける可能性が低くて、やる意味のある課題は、意味の種類によって検討しなければならない。解ける可能性が低くて、やる意味のない課題は、やらない。

「やらないこと」を決める時は、その考え方をベースにしています。このような議論でよく抜けるのが、「“解ける価値”があるのか」ということです。人は課題を解けるか解けないかで判断しがちですが、そもそも解いた時の価値を考えることを見落としてしまっている。人間は誰しも、解きやすい課題から手をつけます。そこを一度立ち止まって考えて、判断した方がいい。

価値基準で優先すべきは、世の中、個人、会社という順番ではないでしょうか。会社としてはやるべきであっても、個人が楽しめていないならばやらない方がいい。世の中のためになり、個人でも楽しめることならば形にした方がいい。会社は、あくまで「そのための場所」に過ぎない。もちろん、きれいごとだけでは整理できない部分もありますが、基本的にはそのように考えています。

専務 石川勤

これからの構想~どのような工場を作っていきたいか~

森澤

技術職として働く限り、その技術を使って、人の役に立ちたい。「役に立つ」ということを具体的に言うと、人を楽(らく)させること。技術によって手助けする。知識を学び、技術を磨き、それを応用して誰かの役に立つ。それが個人の喜びであり、一社員として会社に貢献し、社会全体をより良くしたいと思っています。

北村

24時間、365日、作業者0人を実現すること。できるかどうかはわかりません。ただ、そこになるべく近づけるような工場をつくりたい。“単純作業”と呼ばれるものをすべて自動化して、人が“人”として価値を発揮できる場所をつくること。その実現に、全力を尽くしたいです。

石川

工場に期待するものは、世の中に良い影響を与え、かつ個人が楽しい会社にしたい。わたしは結構、“ムチャブリ”が好きなんです。一気に解決することは難しくても、少しずつでもそこに応えていく中で、やりがいは生まれてくるものだと思っています。そのためには誰かがボールを高く投げる必要がある。そうしなければ、ずっと同じ位置で、同じ話をしているだけになってしまう。それよりも、わたしが何か突拍子もないことを言って、みんなが楽しく知恵を出し合って、技術を高め合えること。そんな工場にしていくと、働く人も楽しいのではないでしょうか。

常にイノベーティブなモノづくりを続ける石川樹脂工業。最後に、その大きな一歩を支える北村さんと森澤さんの二人に「イノベーションとは何か?」を訊ねた。

北村

まず思い浮かぶのは、無邪気な専務の笑顔。専務が「やりたい」と思ったことを、実現することがイノベーションとなります。無邪気に無理難題を言われるのですが、それに対して、「どう実現しようか」と考える。「絶対にできない」ということは基本的にないんです。まずは形にしてみる。一度形にしてみると、何が問題なのかが見えてくるんです。課題がわかれば、それを一つひとつ解決するために形にする。この繰り返しで前に進んでゆきます。

森澤

地道に繰り返すことですね。まずは一歩目ができるようになる。一歩目ができたら、次は二歩目。それを繰り返す。そこに「できた」という実感をしっかりと記録して残してゆく。他人から見たら大したことはないかもしれません。でも、自分が今までできなかったことができるようになった喜びが、次に進むために必要な力になると思うのです。

自動ラインのようす

現在、石川樹脂工業の工場はロボットが10台、8ラインまで増加している。生産性の高い性能のロボットにグレードアップし、さらなる未来を描いている。

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