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【特別インタビュー】中小M&Aアンケート調査より“M&Aで成功するポイントは 経験回数と積極性”

※本記事は、弊社のM&A事業において、2021年から取り組み始めた早稲田大学との共同研究に関するものになります。

~はじめに~
現在、中小企業の事業承継における選択肢の一つとしてM&Aに注目が集まっている一方、M&Aに関する先行研究は上場企業を対象とした研究が中心となっています。特に、M&A後のPMI(Post Merger Integration=M&A成立後の統合プロセス)まで踏み込んだ実態については情報が乏しく、実態が明らかではありません。このたび実施した「中小企業のM&Aの現状と課題に関する調査」は、それらをデータ化・分析により、M&A前後の譲受及び譲渡企業の実態を明らかにすることで、中小企業にとってのM&Aの効果性及び推進する上での考慮すべきポイントや留意点を共同研究の結果として社会に還元していく目的としています。当社のM&A事業においても、PMIを意識した取り組みを実施し、M&Aの“成約”ではなく“成功”を目指したサービスを提供していますので、本調査データを活用し、サービスの更なる充実を図ってまいります。
本コラムでは、共同研究を進めてまいりました、早稲田大学商学学術院産業経営研究所の久保教授と山野井准教授に9/15(金) に開催した共同研究報告会で発表した内容について、改めてインタビューし、まとめました。

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2021年、中小企業M&Aの実態を調査するため、早稲田大学商学学術院産業経営研究所と中小企業支援を行うインクグロウとの共同研究が開始。23年5月、中間発表として「中小企業M&Aを促進するために何が必要か̶̶アンケート調査の概要」が報告された。中小企業において、どのようなM&A が行われているのか、また成功要因はどこにあるのか、共同研究を行っている早稲田大学の久保克行教授と山野井順一准教授に話を聞いた。

■調査の目的
中小企業のM&Aについて、近年、経営者の高齢化に伴う廃業増加の可能性と、それに伴う経営資源の喪失、雇用喪失による地域経済への悪影響を回避するため、M&A等を通じた第三者等への円滑な事業引継ぎが不可欠であるという認識が広がっている。
では、今後の中小企業のM&A促進のために何が必要か?
総合的な研究を行うため、2021年7月よりインクグロウ社と早稲田大学商学学術院産業経営研究所の共同研究がスタートした。調査方法は、東京商工リサーチを通じたアンケート調査(オンラインおよび郵送)で、過去にM&Aを行った経験のある中小企業(譲受側企業)5288社(有効回答数680社)を対象とした。これまで、大企業を対象とした調査は数多く行われてきたが、中小企業を対象とした調査は少なく、この規模での調査も多くはない。
調査の主なポイントとしては次の3点が挙げられる。

・買収の意図・経緯
・実際にM&Aは成功しているのか?
・買収成功の決定要因は何か?

以下、調査結果を見ていこう。


>図表1 買収の経緯ついて
久保 アンケート結果を見てみると、「しばしば案件の紹介を持ち込まれており、その中から案件を検討した」、「案件の紹介はほとんど受けないが、たまたま受けた案件を検討した」の2つを合わせた場合、全体の約60 %となります。これは、企業戦略を考え、その戦略に沿ってM&A先を探すのではなく、特に探してはいなかったけれど、取引先や金融機関、紹介会社などから紹介された、もしくは検討を依頼されてM&Aを行った、いわば〝受身〞のM&Aを行う企業が多いと考えられます。
たとえば、取引先である元請け企業から、別の下請け企業を「M&Aしてほしい」と依頼され、断りきれなかったというケース。社長が高齢で後継者がいないとか、体調が悪いとか、その技術が失われるとサプライチェーンが成り立たなくなるので困るとか、理由はさまざまですが、頼まれて買収するケースが、実態としてあると推測できます。


>図表2 買収の目的について
山野井 経営学や経済学の教科書的にいえば、「M&Aは利潤を最大化するために行う」手法です。しかし、中小企業のM&Aの場合、必ずしもそうではないことが、アンケートの結果からわかってきました。M&Aの目的として挙げられるものの中で多いのが、「売上・シェア拡大」、次いで「利益の拡大」です。しかし目的の中には、「取引先との関係の維持」や「案件紹介者との信頼関係の維持」など、M&A先の実績やシナジーを生み出せるかどうかといった、企業の成長とはあまり関係のない理由でM&Aを行う場合も一定数あると考えられます。
これらの結果からいえるのは、中小企業の多くは、M&Aを成長戦略として捉え、積極的に取り組んでいるわけではなく、どちらかといえば取引先などとの関係性からM&Aを行う、やはり受身の実態があるということです。


>図表3 買収は成功
久保 「買収は成功だったか」という質問に対し、約70%の企業が「とても当てはまる」「ある程度当てはまる」にチェックを入れていました。これは私たちにも驚きの結果でした。
ネットで検索してみると「M&Aは難しい、うまくいかない確率が高い」といったネガティブな記事を多く見かけます。そのため、ネットでいわれているように、否定的な反応が多いのではと予測していたのです。
ただ、ここでいう「成功」「失敗」は、あくまでも主観によるものです。成功の水準は人によってそれぞれですので、注意が必要です。しかし、それを差し引いても、多くの企業がM&Aの結果を「成功」だったと前向きに捉えています。


>図表4 M&Aの経験回数
山野井 M&Aの回数に注目してみると、ほとんどの中小企業が、1回ないしは2回しかM&Aをしていないことがわかります。M&Aを「成功だった」と評価している企業が多いにもかかわらずです。これはどうしてなのでしょうか。
M&Aは、手続きの上で揃えなければならない資料なども多く、初めてのことばかりで戸惑うこともあるでしょう。その結果、M&Aによってシェアの拡大や売上げの増大といった効果があり、「成功」といえる結果は出したものの、その過程については「大変だった」という感想を持つ方も多いのではないかと思います。
M&Aに成功しても次のM&Aに向かうことがないのは、こうした「大変だった」という思いから、「もうやめておこう」という意識になったのかもしれません。
ただ、M&Aの手続きは、事務的な作業も多く、1度やれば2度目は同じことの繰り返しです。また、回数を重ねることで自社なりのM&Aのやり方が見えてきて、ある程度マニュアル化も可能です。もちろん、会社が違えば人も違いますから、一概に同じ要領でできるわけではありませんが、それでも「慣れる」ことでM&Aに対する嗅覚のようなものがついてくるようです。


>図表5 買収回数と成功の関係
久保 買収回数と成功の相関関係についてのグラフを見ると、M&Aの回数が1回の企業では、「M&Aが成功したか」という質問に「全く当てはまらない」、「あまり当てはまらない」と答えた企業は11%です。M&Aの回数が増えるたびに、ネガティブな評価をする企業は減っていき、一番下の5回以上M&Aを行ってきた企業では、ネガティブな評価をしている企業は見られません。
山野井 実際に何社もM&Aをしてきた経営者にヒアリングしてみると「1社目、2社目と回を重ねるごとに経験値が上がり、M&Aをする際のポイントが見えてくる」といいます。M&Aを検討する際に、どこを見ておくといいのか、どこに気をつけるべきかといった勘所のようなものがわかってくるため、失敗する確率は減っていくのです。
久保 1社目でうまくいったにもかかわらず、次をやらないというのは、せっかく得た経験を次に活かさないことになります。それは何とももったいないことです。ぜひ2社目、3社目と戦略的にM&Aを検討してもらいたいと思います。


>図表6 買収のきっかけと成功要因
久保 買収成功の要因として考えられる、M&Aのきっかけの違いについて分析したのが図表6です。これを見ると、「たまたま」や「消極的探索」でM&Aを行った場合よりも、自ら戦略を考え、積極的にM&Aをする企業を探索した方が、成功の確率は高くなるといえそうです。
積極的に探索を行うということは、たとえば「商圏を広げる」「自社とのシナジー」という目的を設定し、それに沿って隣の県にある同業他社でM&Aできそうな企業を探すといったことです。うまくいけば、隣の県にまで自社の商品を広めることができ、M&A先の取引先を新たな取引先とすることもできます。また、もしその企業が自社にない技術を持っており自社とのシナジーが見込めれば、事業のさらなる発展も望めます。理想的なM&Aは、1+1が2ではなく、3にも4にもできるM&Aです。それには、きちんと戦略を考え、何のためにM&Aをするのかを明確にする必要があるといえます。
買収する側もされる側も、M&Aをうまく活用できれば、利益は拡大し、従業員にもそれが還元され、皆がハッピーになれるはずです。M&Aによって急成長する企業が増えることで、社会も活性化できるのです。
Google やメタ・プラットフォームズ( 旧Facebook)、Amazon。日本でも楽天やソフトバンク……と、近年急成長を遂げた企業の多くが、M&Aを活用して大きくなっています。
企業規模の大小に関わらず、M&Aは、企業の成長手段の一つとして、非常に有効なものだといえるでしょう。中小企業経営者には、積極的にM&Aを活用していってほしいと思います。
(文中敬称略)

■まとめ
今回発表いたしました内容は、さらに、研究・分析を進め、学術的な研究結果として社会に還元していく予定としています。インクグロウにおいては当研究結果の知見をM&Aコンサルティング実務に生かすべく、現在推進している『M&Aグロースサポートサービス』をアップデートしていくとともに、提携金融機関のみが利用できるM&Aマッチングプラットフォーム『事業引継ぎ.net』を活用した中小企業M&AのDX推進を予定しています。

報告会当日の投影資料や研究報告レポート(ワーキングペーパー)他、参考資料をご希望の場合は、お気軽にお問い合わせください

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