今回の記事では、10年以上にわたり数多くの企業でITエンジニアの採用やマネジメントに携わり、往年のメルマガ配信スタンドの開発・運用経験も持つ久松剛さんをゲストに迎え、HENNGEが展開するクラウド型メール配信サービス「Customers Mail Cloud(以下、CMC)」の魅力を紐解いていただきます。
CMCは、中央官庁や数百万人規模の顧客を抱える大手企業に導入され、ワンタイムパスワードの送信や取引確定通知など、基幹業務で使われるメールの配信に活用されています。
なぜ今、クラウド型メール配信サービスのニーズが高まっているのか? CMCの競合優位性や、今後の可能性は? IT業界に精通する久松さんの視点を通じて、掘り下げていただきました。
久松 剛 (ひさまつ つよし)
合同会社エンジニアリングマネージメント 社長
慶應義塾大学大学院政策メディア研究科博士(政策・メディア)。2000年より慶應義塾大学村井純教授に師事。合同会社エンジニアリングマネージメント社長兼「流しのEM」。ベンチャー企業3社にてエンジニアや中間管理職を歴任後、独立。スタートアップ、コンサルティング企業、人材紹介企業など複数の組織で、ITエンジニア採用、研修、評価給与制度の設計、ブランディングなどの組織改善に携わるほか、セミナー講師や執筆活動も行う。
大久保 正博 (おおくぼ まさひろ)
Messaging Business Division / Division Manager
SIerでプログラマー、ネットワークエンジニア、ウェブアプリケーション開発など、約15年にわたる幅広い技術経験を積んだ後、2009年にHENNGE(当時HDE)に入社。クラウド型メール配信サービス「Customers Mail Cloud」の基盤開発に携わり、プロダクトオーナーとしてクラウド移行をリード。現在は事業部長として組織づくりや採用に注力する。
原田 幸治 (はらだ こうじ)
Messaging DevOps Section / Deputy Section Manager
インフラエンジニアとしてキャリアをスタートし、メール配信サービスの立ち上げなどに従事。その後、SES企業で大手企業のシステムのAWS移行を、事業会社で開発・運用部門のマネジメントおよび組織づくりを経験。2024年7月、HENNGE入社。現在はDevOps Sectionで運用側のリーダーを務める。
朴 濟賢 (Jehyeon Park)
Messaging DevOps Section
韓国の大学で日本語を専攻し、卒業後に渡日。SIerでプログラマーとして3年間、ウェブアプリケーション開発に従事。2021年にHENNGEへ入社し、初年度はCMCの開発を担当。2年目からは運用部門へポジションを移し、現在も運用メンバーとして活動中。
高度化・複雑化が進む、メールサーバー運用
久松:本日はよろしくお願いします。CMCは企業のメールサーバー運用をクラウドで代行するサービスですが、まずはそのニーズが高まっている背景について、事業部長の大久保さんにお伺いします。
以前、神奈川県の高校入試のネット出願システムで、Gmail宛にメールが届かない問題が話題になりました。その際、SNSでは「メールサーバーなんて簡単に立てられるはず」といった意見もあった一方で、「最近のメール運用は非常に複雑だ」との声も多く見られました。このような声について、大久保さんはどうお考えですか?
大久保:メールは古くからある標準的なプロトコルを使用しているため、簡単に運用できると思われがちですが、昨今のなりすましメールを入り口としたフィッシング詐欺の横行に伴い、その運用は非常に複雑化しています。
これはGoogleやMicrosoftなどの大手メールプロバイダーが、増加するなりすましメールへの対策として、新たな技術やルールを次々に導入し、セキュリティを強化しているためです。しかし、多くの企業はこれらの新しい技術やルールに十分対応できておらず、その結果、送信したメールが正しく届かない、または迷惑メールとして処理されるという問題が深刻化しています。このギャップを解消することが、現在の重要な課題となっています。
久松:企業が自社でメールサーバーを運用するのは難しくなっているということでしょうか。
大久保:難易度は上がっていると思います。自社で運用を行う場合、大手プラットフォーマーが主導する高度なセキュリティ要件をクリアするための専門知識をキャッチアップし続ける必要があります。そのコストや労力を踏まえ、運用の是非を慎重に検討する必要があると言えます。
久松:メールを通じた犯罪が巧妙化していることで、その対策技術も高度化しているのですね。
大久保:そうですね。なりすましメールやフィッシング詐欺は、「オレオレ詐欺」が進化したものと考えるとわかりやすいかもしれません。
電話では声を通じて人間的な要素を感じられるため、警戒もしやすいですが、メールでは「人の気配」が薄いため、一度信じ込んでしまうと最後まで警戒心を持たずに進んでしまう可能性が高い。こうした点が、メールを入り口とした犯罪行為の危険性だと感じています。
「DMARC」と「BIMI」の普及促進で、社会問題の解決に貢献
久松:これまでは「SPFやDKIMの設定さえしておけば大丈夫」と言われていましたが、現在ではどのような技術が登場しているのでしょうか?
大久保:メールセキュリティ分野で近年注目されている技術が「DMARC」と「BIMI」です。
現在、銀行や企業のドメインを偽装した「なりすましメール」が大きな社会問題になっています。こうしたメールのリンク先にアクセスすると、本物そっくりにつくられた偽サイトに誘導され、IDやパスワードなどの機密情報が盗まれる危険性があります。この被害は消費者にとどまらず、企業にもブランド価値や信用の毀損といった影響を及ぼしています。
この問題への対策として注目されているのがBIMIです。BIMIは、厳格な認証を通過したメールにのみ、商標登録されている企業やブランドのロゴを表示する技術で、これにより受信者はメールが正規のものであることをひと目で判断できるようになります。そして、この“厳格な認証”を行うための技術がDMARCです。
実際、当社の組織ドメイン hennge.com も我々 Messaging Business Division が支援をしてDMARCポリシーを引き上げ、現在はBIMIに対応しています。社内で日々利用しているメーラーで自社のブランドロゴが表示されたときの反響は大きかったです。
ブランドロゴの表示イメージなど、詳細はこちらのページをご覧ください。
久松:DMARCとBIMIについて、もう少し詳しく説明をお願いします。
大久保:DMARCは、SPFとDKIMという2つのメール認証技術を補強する仕組みです。SPFやDKIMでは、送信者が正規かどうかの確認はできますが、認証に失敗したメールの扱いは受信者の判断に委ねられます。これに対して、DMARCを導入すると、SPFとDKIMの認証結果に基づき、認証に失敗したメールの処理方法(受け入れる、隔離する、拒否する)を、 送信者があらかじめ指定できるようになります。
BIMIは、DMARCで「認証に失敗したメールは拒否せよ」とあらかじめ設定されており、そのうえでSPFとDKIMの両方で認証が成功した場合にのみ、メールにロゴを表示させる仕組みです。
久松:しかし自分のメールボックスを見てみると、ロゴが表示されているメールはほとんどなく、BIMIを導入している企業はまだ少ないように感じます。BIMIの導入には、やはり手間がかかるのでしょうか?
大久保:そうですね。特にハードルが高いのが、DMARCで「認証に失敗したメールは拒否せよ」と設定する部分です。自社のメールが100%認証に通る自信がなければこの設定を行うことは難しく、多くの企業では設定の不備により自社のメールが届かなくなるリスクを避けるため、慎重に対応しています。
とはいえ、DMARCの導入は急速に重要性を増しています。経済産業省や警察庁、総務省が連名で導入を推奨しているほか、GoogleでもGmailに1日5,000通以上のメールを送信する事業者に対し、DMARCの導入を義務化しています。こうした状況を踏まえ、CMCではSPF、DKIM、DMARCの設定に対応し、BIMIの導入に必要な環境を整えるためのサポートを提供しています。
今後も技術開発が続く、メールセキュリティ領域
久松:続いては、今後CMCに関わる魅力を掘り下げたいと思います。メール領域では、技術的な余白や挑戦の余地はまだあるのでしょうか?
大久保:メールセキュリティの領域には未だ多くの課題が残されているため、DKIMの次世代規格である「DKIM2」や、メールサーバー間の通信セキュリティを強化する「MTA-STS」など、新たな技術開発がまだまだ続いています。
また、CMCで取り組んでいるテーマは「インターネット上のデジタルコミュニケーションを安全かつ快適に利用できるようにすること」なので、今後はメールだけでなく、SMSやモバイルのプッシュ通知など、他のチャネルを包含したメッセージング基盤としての開発も進めていく予定です。そうした意味では、挑戦の余地はまだまだ大きいと言えます。
久松:CMCと競合製品の違いについても教えてください。
大久保:大きな違いは、お客様のメール利用の目的や運用実態に基づいて最適なソリューションを提案するフルマネージド型サービスを提供している点です。
競合のグローバルサービスは基本的にセルフサービス型で、お客様が自ら運用方法を決め、使いこなす必要があります。一方、CMCではお客様に伴走し、問題解決の「ラストワンマイル」までサポートしているのが特徴です。
久松:コンサルティングからデリバリーまで伴走する形ですね。ちなみに、標準化団体などにも参加しているのでしょうか?
大久保:2年前から「M3AAWG(マーグ)」という、Google、Microsoft、Meta、Amazonなども参加するグローバルコミュニティに参加しています。年に3回、米国の西海岸、東海岸、ヨーロッパで開催されるゼネラルミーティングに参加し、迷惑メールなどの脅威に対処するための技術推進や情報共有を行っています。IETFのような標準化団体とは違い、迷惑メールに対応するための会議であるため、非公開で実施される機密性の高い会議です。
また、メール配信に当社独自のIPアドレスを使用するために、アジア太平洋地域のIPアドレスを管理する「APNIC」という団体にも参加しています。インターネットサービスプロバイダーから提供される共有IPアドレスではなく、独自のIPアドレスを使用することで、信頼性や独立性を高めています。
600台超のサーバーを管理!成長フェーズのCMCに加わる魅力
久松:ここからは、CMCのインフラエンジニアとして働く原田さんと朴さんにお話を伺います。お二人は普段、どんな仕事をしているのでしょうか?
原田:私たち運用部門では、主に監視や効率化のために複数サービスの運用状況を見える化する作業を行っています。運用部門はシステムの正常稼働を維持し、問題発生時に対処する役割を担っているため、効率化や改善が重要な仕事です。
私はマネージャーとして、主にメンバーのリソース管理を担当しています。現在は複数のプロジェクトを並行して進めているため、1日の業務は様々なミーティングの準備と実施が中心になっています。
朴:私はもともと開発者として働いていましたが、HENNGEに入社後インフラエンジニアに転向し、現在は運用業務を担当しています。以前は1日のほとんどを突発業務が占めていましたが、チームメンバーと共に突発業務の根本原因を解決していきました。突発業務が減ったことで、現在は1日の半分を運用改善に充てられるようになりました。
久松:普段の業務の中で、特に面白いと感じることを教えてください。
朴:インフラエンジニアは一般的にはサーバー管理を担当しますが、私たちはそれに加え、IPアドレスのレピュテーション管理や、メールが正しく送信されているかを確認するためにSMTP応答メッセージの監視なども行います。こうした経験は、他の企業ではなかなか得られないものだと思います。
また管理するサーバーの規模が非常に大きく、その効率的な管理方法を考えるのも面白いポイントです。現在は約600台のサーバーを管理しており、現在の需要ペースが続けば、2年後には1000台を超える規模になる見込みです。
原田:私は成長フェーズの事業に関わり、運用体制を自ら構築できる点に面白さとやりがいを感じています。
HENNGEは事業の急成長に伴い、サービスやインフラの規模が年々拡大しており、運用体制もそれに合わせた再構築が求められています。そのため今入社すれば、決まった手順書に従うのではなく、体制をつくりあげる一員になることができます。
サービス品質を維持しつつ、業務効率化や採用活動を進めるのはチャレンジングではありますが、こうしたフェーズに関われる機会はなかなかないと思いますし、改善マインドを持つ方にとっては特にやりがいを感じられる環境だと思います。
「誇り」と「楽しさ」を大切にして働きたい仲間を募集中
久松:最後に、この記事を読んでいる方々へのメッセージをお願いします。
朴:私には「CMCってすごいな」と感じた経験が2つあります。1つ目は、自分が愛読しているメールマガジンの配信に、CMCが利用されているのを知ったことです。普段使っているサービスに自分が関わるプロダクトが活用されていると分かり、とても誇らしい気持ちになりました。
2つ目は、全国のメール事業者が集まる会議に参加した際、多くの事業者がオープンソースや既存ツールを利用する中、CMCはゼロから構築した独自のシステムを使っていると知ったことです。他社がオープンソースに起因する課題を議論している場面で、CMCではその課題をすでにクリアしている状況を目の当たりにし、良い製品をつくっているなと改めて実感しました。
エンジニアとして、誇りが持てるプロダクトに関われることは大きな魅力です。私も入社前はメールについては初心者だったので、興味さえあればぜひ飛び込んでもらえたらと思います。
大久保:私たちは、「楽しい」という気持ちをとても大事にしながら仕事に取り組んでいます。例えば、「ネットワークを使えば、こんなに遠くの人にも情報が送れるんだ!」という、インターネット黎明期に感じた新たな技術へのワクワク感や、「Linuxのコマンドを組み合わせて、一行の命令で思い通りに動かせた!」という、パズルを解くような面白さ。そんな純粋な楽しさを大切にして働きたいと考える方には、フィットする環境だと思います。
CMCでエンジニアとして働けば、消費者としてメールサービスを使うだけでなく、システムの仕組みを理解し、実際に動かす側になる面白さを存分に味わえるはずです。この記事を読んで少しでもピンときた方や、エンジニアとしてキャリアに悩んでいる方は、ぜひお気軽にご連絡ください!
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Edit by 高野 優海
Photo by 宮本和明