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世界一寄付しない国ニッポンの若手投資家と起業家は「寄付」をどう語る?~佐俣アンリ×松本恭攝×駒崎弘樹~

世界一寄付しない国、と言われる日本。
しかし、直近では首里城の再建に10日あまりで5億円、1ヶ月で10億円の寄付がふるさと納税(ガバメントクラウドファンディング)で集まるなど、1人ひとりの「なんとかしたい」という想いを寄付に託すことは、国内でも潮流になりつつあります。

今回は、その流れの先頭集団を牽引するお二人にお話を聞くことができました。

個人として日本で類を見ないスケールでNPOやガバメントクラウドファンディングに個人寄付をしている、ベンチャーキャピタリストでANRI代表パートナー佐俣アンリ(さまた・あんり)さんと、ラクスル株式会社 代表取締役社長CEO松本恭攝 (まつもと・やすかね)さん。

2016年に文京区ではじまった「こども宅食」、そしてそのモデルの全国展開化「こども宅食応援団」にふるさと納税を通じて支援を届けてくださいました。
今年度はフローレンスの新規事業「医療的ケアシッター ナンシー」のサービスインにもお力添えいただいています。

【佐俣アンリさんプロフィール】
日本ベンチャーキャピタル協会理事。慶應義塾大学経済学部卒業後リクルートに入社、EastVenturesを経て2012年にANRIを設立。独立系ベンチャーキャピタルとしてインターネットハイテクノロジー領域110社に投資実行。シードファンドとして日本最大規模となる約200億円のファンドを運営中。主な投資支援先としてRaksul、hey、UUUM、Mirrativ、SmartDrive、CrowdWorksがある。

【松本恭攝さんプロフィール】
1984年富山県生まれ。慶應義塾大学卒業後、A.T.カーニーに入社。コスト削減プロジェクトに従事する中で、6兆円の市場規模がある印刷業界に効率化が行われていないことに注目し、インターネットの力で印刷業界の仕組みを変えるべく2009年9月にラクスル株式会社を設立。印刷機の非稼働時間を活用した印刷のシェアリングプラットフォーム事業「ラクスル」を展開する。2015年12月からは物流のシェアリングプラットフォーム事業「ハコベル」も開始。2018年、Forbes JAPAN誌が選ぶ「日本の起業家ランキング」で1位獲得。

こども宅食(文京区)・こども宅食応援団概要


「こども宅食」は、生活の厳しいご家庭に、定期的に食品を届ける取り組みです。
食品のお届けをきっかけにつながりをつくり、見守りながら、食品以外の様々な支援につないでいきます。運営資金を返礼品なしのふるさと納税で集める手法にも注目が集まりました。


文京区で生まれた本モデルは、現在「一般社団法人こども宅食応援団」により全国に広まっています。※フローレンスは文京区でのこども宅食事業を運営するコンソーシアムの一員であるとともに、「一般社団法人こども宅食応援団」から運営を受託しています。

フローレンス代表駒崎より、支援者であるお二人に様々な非営利事業を寄付で支える理由に迫りました。

普段から交流のある同世代起業家同士の三人ですが、改まって「寄付」を掘り下げ会話をするのは初の機会。ちなみに、鼎談の場は、病児保育室フローレンス初台の保育室です。

各業界の雄が小さなテーブルを囲んで、課題解決へのアプローチについて熱く語りました!!

駒崎:ベンチャーキャピタリストとベンチャー起業家であるお二人は、毎年ケタ違いの個人寄付をされることでも知られます。令和時代の起業家のあり方を示唆するお二人が、コンスタントに大きな金額を寄付される理由を伺ってもいいですか。


佐俣:僕は投資家なので、人助けというよりは、世の中の社会課題が仕事のタネなんですね。社会課題の解決には営利のアプローチと非営利のアプローチがあって、それぞれでカバーできる範囲がある。ぼくは営利のアプローチはプロだからできるけど、非営利アプローチはファンドでは扱えません。
寄付というアプローチをもつことで非営利アプローチに関わることができて、社会課題についてより深く学ぶことができる。そう思っています。


駒崎:ベンチャーキャピタル業界全体がそんな感じです?

佐俣:もちろん考えている方はいますが、日本のベンチャーキャピタル全体を考えるとまだまだというのが現状です。今はベンチャーキャピタルの出資者である年金や銀行などの機関投資家から、もっと社会のことを考えて投資を行ってほしいという要請を受けています。やはりSDGsの流れで。

でも、今さらSDGs的な話ってもう僕らミレニアル世代にはサムいわけで。


僕たちは5年前から発達障害児向けのマッチングサービスBranchをファンドで投資しています。
いまさら、わざわざSDGsとか言わなくても、自然な感覚で社会課題をみたときに、ファンドでも寄付でもいろんなアプローチあるから、ベストなツールを使って普通にやっているのだよな、と。

駒崎:名言でましたね。「SGDsさむい」!(笑)


佐俣:出資者の要請でもあるので事あるごとにベンチャーキャピタル業界は言うんですよね、SDGs。
でも、ほんとにやるんだったらNPOの人たちとちゃんと話して、目の前にある社会課題を認識して、その上で投資をして進めていってほしいと思っています。

僕らはいわゆるミレニアル世代でしょ。資産の99%は未来の子どものために寄付すると表明したマーク・ザッカーバーグは僕と同世代なので感覚がよく分かります。

基本的には、僕は「全ての子どもは幸せになる権利がある」、それから「一人ひとりの強い個性をフィルタリングする天才児教育」の2つの分野に寄付をすることを決めています。こども宅食やフローレンスへの支援は、前者のほうですね。

駒崎:前向きになれます。ありがとうございます。恭攝(やすかね)さんはどうですか?

松本:僕は、課題フリークなんですよね。課題がだいすき。課題をみつけて、課題を測定して、課題を解決することに、アドレナリンがでる。


駒崎:ナチュラルボーン起業家だ。笑

松本:そう。課題を「本質的に」解決したいんですよね。
嫌いなのは、課題を表面的にもぐらたたきすること。インパクトの出る本質的なことで、課題を解決したい。

これは事業も全く一緒で、収益になることをやりたいわけじゃなくて、ありかたや仕組みを変えて課題を解決したいんです。課題のなかでも、アンリのいうとおり、ビジネスでアクセスできる課題ってとても大きいしビジネスはとても有効なアプローチだけど、ビジネスのラインにのってこない課題というのもたくさんあって。

佐俣:例えば、世界で一番大きい課題は気候変動。日本という国家の問題でいうと、人口構造による社会保障費の問題、とかね。

松本:うん。子どもや20代、30代の育成に力を使っていかないといけないのに70代、80代にパワーを割きすぎている構造。これをなんとか変えなきゃいけないと思ってる。


僕も、すべてのひとは幸せになる権利があるというアンリの考えに100%賛成です。
人が幸せになる権利を妨げている課題に対し、自分がリーダーシップを取って解決できる場合はそうするし、自分だけでできない場合は、人生かけてその大きな課題を解決しようとしているリーダーのサポートをすることで、課題を解いていけると思い、寄付しています。

なので、寄付をすることが善意という意識はあまりなくて、課題解決がお金を使ってできるのであればお金を使えばいいと思ってる。

佐俣:ビル・ゲイツもまったく同じこと言ってたよね。ゲイツは課題を効率的に解く方法を探していて、たぶんそこに善悪感情はない。課題を見たときに、どうエレガントに解くか、それにリソースがあれば使えばいいかという感じ。

松本:そう。自分の信条としてある「若い人やこどもに予算つかうべきである」「差別はあるべきではない」とか「人は平等である」「地球はみらいのためにある」など、善悪はそこだけです。

そうした前提の信条から外れる課題…例えば「温暖化は明確に未来のこどもたちに悪である」とか「格差社会は構造的なものだから解決すべき」だとか「社会福祉から漏れ落ちた人を救うべきである」とかを、寄付で解決したいです。


佐俣:そうした僕たちのシンプルな信条が、近い将来現実になるように。寄付は投資だと考えてます。

松本:課題解決を実行するリーダーは極めて貴重な社会資源だから、少しでもそのリーダーをサポートすることは、自分が課題を解く一つのアプローチですよね。

駒崎:ありがとうございます。
新規事業のスタートアップには誰よりもシビアな鑑識眼をお持ちのお二人が、中でも、2016年の文京区「こども宅食」モデルの立ち上げ、そして「こども宅食」の全国展開化にふるさと納税でご支援くださった理由を伺えますか。


松本:このモデルの一番優れている点は、困っているけど役所の窓口にはつながっていない家庭にこちらからアクセスできる仕組みのところですね。「生協がきたよ!」くらいまで受け手の心理的ハードルを下げている。
こども宅食は、画期的なドアノックツールで、狙いはもっと深いところにある。そこに本質的なものを感じました。


写真:フローレンスの運営するみんなのみらいをつくる保育園を見学するアンリさん

佐俣:そう。インターフェイスは「食品のお届け」なんだけど、実は各家庭で困っていることはないか?リスクがないか?モニタリングのツールになっているっていう。仕掛けが、すごいなと。

駒崎:厚生労働省の調査結果によると、虐待で死亡した児童の半分が行政支援につながっていないことが分かっています。


これまでの日本の福祉は「お店モデル」だったんですよね。
つまり、困ったら来て下さいっていうモデル。だけど、平日9時~17時しかやってない役所に行って、どの課の窓口に相談したらよいかも分からず、渡される申請書類は分厚くて複雑。困っている人ほど、そんな心理的・物理的体力はないですよ。


だから、困ったことが起こる前に普段からつながって関係性を築いていく。「出張モデル」がこれからの福祉の流れになると思います。僕らは「アウトリーチモデル」って呼んでいます。

佐俣:福祉業界のパラダイムシフトですね。待ってないで、こちらから行く。

松本:そして、リスクが起こる前に、未然に防ぐ
医療の分野も同じですよね。病気になってからサービスが発動する仕組みだけど、その前の予防ができたら死ぬことはない。病気で倒れる前に何段階もあるから、リアルタイムで情報が吸い上げられれば2段階目くらいで対処できる。


写真:フローレンスの運営する障害児保育園ヘレンを見学する松本さん

駒崎:定期的に調査・データ分析を目的とした生活に関するアンケートもやっていて、これまで可視化できていなかった実態がわかってきました。就学援助を受けているような経済的に困難な家庭は、何を必要としているのか?が。


佐俣:データドリブンで可視化するの大事だよね。全国でこども食堂も広がっていると聞くけど、そこにも行ったことがないっていう家庭が半数以上も…。

駒崎:こども宅食で実施したアンケートや調査では、リアルなニーズが見えます。親御さんが外国籍で日本語がわからないから保育園の申請書が出せない、知的障害があるから書類を書くことができない、だからLINEのQRコードなら申請できる、とか。ビジネスにたとえると、これまでの政策は、ニーズとかけ離れた供給なんですよね。

松本:最初からここまで仕組みを計算して事業化したんですか?

駒崎:正直、初めはそこまで見えてなかったんです。
でも、データがとれて実態が分かってくると、これはより深い事業に深化させられるな、と。アメリカではアウトリーチすると4割こどもの虐待リスクを下げられるという調査結果も出ています。日本には今一切そういうデータがないから、こども宅食では政策に訴えるエビデンスをつくることが新たに軸として加わりました。

松本:全国で文京区のこども宅食のインスパイアモデルが生まれて広がりを見せていることも、全国ニーズを可視化できる立派なエビデンスになりますね。こども宅食の全国化を支援したのも、このモデルへの共感が広がって全国にインストールされると良いと思ったからです。


佐俣:初年度は全国4箇所でこのモデルが立ち上がったということだけど、こども宅食が各都道府県に広がっていくにはどうしたらいいんだろう。

今はふるさと納税で寄付を集めて駒崎さんたちが活動してるから、単純に自治体は自分たちは予算使わず「助かっちゃってます」という状況?


駒崎:そうですね、全国の各支援団体もほぼボランティアでこうした活動をしていて。サステナブルじゃないから、制度化を目標にしています。現在、行政もこのアウトリーチモデルのレバレッジに非常に注目し、行政側も予算をつける機運は高まっています。

松本:日本の子どもの相対的貧困率は7人に1人、つまり全体の14%ですよね。国内で子育て中の相対的貧困家庭すべてにこども宅食を提供するには…。


駒崎:文京区600世帯にこども宅食サービスを届けるのに年間6000万。1世帯あたり10万円です。文京区は調査分析等含めたフルパッケージモデルなので一番高額なモデルですが、子どもの数は一学年約100万人と言われるので、世帯でいうとざっくり1500万世帯くらいなのかな。そのうちの14%とすると、対象となるのは全国で約200万世帯

佐俣:200万全世帯にこども宅食を提供したら、1200億ですね。1200億かけたら国内の全相対的貧困家庭にアウトリーチができて、かつ精緻な情報が取れるってことだ。


駒崎:一方、今年度10月にスタートした「幼児教育無償化」にかかる国家予算は毎年7000億です。だから、そのカネがあれば相対的貧困家庭へのアウトリーチがフル装備できるんですよ。

佐俣:正しい情報が取れれば、確実に子どもの貧困率の低減につながりますね。

駒崎:食品を届けて可処分所得あげるだけじゃなく、情報を取ることで国内の親子のリスクを防ぐことができる。課題解決を課題が大きくなる手前でできるんですよ。

働けなくて困っていたら生活保護や就労支援につなげるし、虐待があれば区の相談支援につなげていける。


松本:スゴイ可能性がある事業。アンリ、もっと投資したほうがいいんじゃない?

駒崎:経済的リターンはなんもないけど…社会的リターンはハンパないです!
要はモデル開発の段階なので、ふるさと納税による寄付を原資にしていますが、制度化してしまえば国からの税でレバレッジきかせられるようになる。

佐俣:制度化にこぎつけるまで今はふるさと納税と相性がいいフェーズだね。ふるさと納税は実質的に、自分の財布から現金がなくなるわけじゃないから、たくさんの人が寄付に参加しやすい。ふるさと納税の返戻率はどんどん下がって、最後は選択型寄付になると思うし。

駒崎:みんな!今年もふるさと納税で「こども宅食応援団」に寄付してねと、声を大にして言いたいですね。

とはいえ、僕らの上の世代では、寄付というと慈善の色が濃くて、アンリさんや恭攝さんのように「投資」だっていうような発言はあまり聞かれなかったと思うのですが、文化が変わってきている?


佐俣:寄付は日本では個人的な感情の話に結び付けられることが多いです。
だから、オープンに話すことに対する罪悪感みたいなあったのかなと思う。上の世代は寄付してても、それを人に言わないもんね。

駒崎:陰徳の美っていうのも、美しいのかもしれないけど、我々NPOとしてはぜひ寄付してることを寄付者の方に言って欲しいですよ。だって、寄付って課題解決だから。
課題の存在を見える化するためにも、この問題の解決のために投資しましたって言ってほしい。

佐俣:とは言うても、僕ら寄付額が尋常じゃない。
昔は年間100万円寄付したいって言ってたのに…。狂気じみてきた。

松本:僕も。もう課題フリーク的な執念です。

一同:爆笑


松本:正確に言うと、僕らがやってることは寄付ではなくてプロジェクトだと思ってます。投資だと思う。だから、そろそろちゃんと人を雇ってROI(投資対効果)を見ていかないといけないかもな。

佐俣:そうそう。ビル・ゲイツみたいに、年間予算をきめて財団組織をつくって。eBAYの創業者ピエール・オミダイアは、eBayの上場で得た10億ドルを元手に、オミダイアネットワーク財団というのを設立してます。この財団は、融資と寄付と投資を使い分けて全部やるっていうのを10年やってるんだよね。一番社会的インパクトのあるアプローチで社会課題を攻める。毎年約100億円の寄付を動かしている。そんな風になりたいですね。


松本:アンリや僕は日本ではかなり変わった人だと思われていて。慈善のために寄付してるわけじゃない、要は好きでやってる「奇特な人」なんですよ。いかんせん、「奇特な人」の再現性ってそんなに高くない。

でも、アメリカやヨーロッパの文化って寄付しないとかっこ悪い、ってなってるじゃないですか。成功して得たお金を社会に還元してやっと世の中から成功者と言われる。寄付しないと成功者になれないというプロトコルが社会に組み込まれていて、これってある種のファッションの話ですよね。こういうムーブメントを作るためにも、僕は「寄付する」って言っていくのはけっこう大事だと思うんです。寄付は「奇特な人」がやることではなく、多くの成功者の要件になるように。

佐俣:年収1000万超えたら寄付しよう、IPOしたら何割は寄付しようって大々的に言えて、それを世の中が「いいね!」と称賛する空気ですよね。
本質ではないかもしれないけど、トレンドってあると思っていて、それを作っていくというのはひとつ重要ですね。


駒崎:ふるさと納税も、肉や魚や家電製品で満額使い切るのもなんかイケてないなあ・・・って感じている人が最近多い気がします。
ふるさと納税って興味なかったけど、関心のある課題のための寄付になるならやってみようかなという新たな動きがあったりね。

例えば「多様な親子が笑顔でいられる社会」。
そういうシンプルな信条を北極星にして、ビジネスとノンビジネスの間をシームレスにいったりきたりできる感覚が、今の僕たち世代のメインストリームになっていくのかなと感じました。投資対効果を最大限バックできるよう、これからも尽力します!
本日は、ありがとうございました。


こども宅食応援団は2年目となる今年度も、全国の皆さんの「親子を支えたい、助けたい」という温かい気持ちを、少しずつ集めてひとつにすることで、親子の”つらい”を見逃さない「こども宅食事業モデル」の普及に尽力していきます。

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