1
/
5

慎重過ぎるよりやる事が多すぎる会社の方がいい。誰も作ったことがない靴を作るフリックフィットのエンジニアたち

株式会社フリックフィットでは足元から動作データを取得するウェアラブルデバイスの企画・開発・販売を行ってます。普段使いの靴から得られる日常動作のデータを活用し、個別最適化された日常トレーニングのメニューを提供することを目指しており、そのプロダクトであるセンシングモジュールardiは雑誌『Tarzan』に掲載されました。

今回はardi開発チームの宮西さんと小出さんに、ardiの開発の経緯についてお伺いしました。



――センシングモジュールardiの開発チームは何人くらいの体制ですか?

小出:ソフトウェアチームはデザイン、アルゴリズム、アプリ、バックエンドのサーバーを10人くらいで分業しています。ハードウェアについては量産設計を依頼する協業パートナーも携わっています。 

――センシングモジュールardi開発の経緯を教えていただけますか?

宮西:小出さんと私は入社してすぐ、センシングモジュールardiの開発プロジェクトに参加しました。しかし、ハードを作ると言われても、私はソフトウェアのエンジニアなのでよくわからず、いろいろな分野のスペシャリストに参加してもらい、設計してもらうところからはじめました。

小出:もう一つ大変だったのは、センサーシートです。すごく特殊な技術なので一から作ろうとするとけっこう大変で、いろいろなメーカーに問い合わせをしても、やったことがないからと面白がってやってくれるようなところはすぐに見つからなかったです。

――センサーシートを作ってくれる企業を探すのが一仕事なんですね。

宮西:コンサルタント会社に相談して仕様書を作ってもらったり、圧力のセンサーやパーツを作れる企業のあたりをつけてもらったのですが、なかなかうまくいかなくて。結局、うちに入社した元大手企業のハードウェアエンジニアを経由してその元いた会社へお願いすることになりました。

――入社して1年くらいで開発の目星がついたのですね。

宮西:はい、一から試作を始めました。インソール本体は元アシックスの大窪先生という方に設計していただき、それをもとに3Dデータを起こしてREDLISTの靴作りの過程で知り合った中国メーカーに作ってもらっています。

一番困ったのは圧力のセンサーシートです。圧力が測れるシートを作っている会社自体があまりないし、しかも靴の中に入れるとなるとなおさらです。

たまたまある展示会で、とある海外メーカーが足のセンサーを作っていることがわかりました。そのセンサーを取り寄せて、弊社用にカスタマイズできるかとか、原価の話を詰めて、その海外メーカーと契約しました。 

――誰も作ったことがないものを作るのは大変ですね。

小出:誰も作ったことがないものだから突破しなきゃいけないところが多すぎる。ハードに詳しい人を巻き込んで教えてもらいながらやってました。

宮西:やっと全部を作れるパーツが揃い、ようやく第一次モデルができあがりました。できあがってデータは取れることになったけど、何も見られるものがなくて……。

小出:圧力センサーを入れればデータは取れます。12カ所のセンサーから波形のデータは入ってくるけれど、見ても何もわかりません。どこが反応しているとか反応の強弱はわかるけれど、蹴り出しが強いのかどうかは評価できない。定義付けを進めて、はじめて蹴り出しの強さが強いとか弱いとか見えるようになってきました。

宮西:私たちが入社して1年経ったころ、ようやくデータが取れるようになりました。でもそれだけではデータが足りないんですよね。

小出:いろいろなことができるようにしようという構想がありますが、まずは歩行のデータを取れるようにしようというプロジェクトだったんです。

歩行はけっこう研究されている分野なので、似たデバイスを使って論文などを参考にしながら作っていきます。圧力センサーがあるだけでは、とりあえず圧力がかかっていて数値が出ていることくらいしかわかりません。圧力センサー以外にもジャイロ、加速度の組み合わせのデータを全部統合して判断するのですが、バラバラだと見てもまったくわかりません。 

――今、技術的に突き当たっているのはどのようなことですか?

小出:歩行のデータが取れるようになったので開発に役立てられるのはよかったのですが、量産して販売するとなるとハード面のブラッシュアップが全然足りていません。今一番の課題は薄くすることです。

宮西:UXを考えると、充電をどうするかという話も出ています。

小出:歩行のアルゴリズムはだいたいできたけれど、歩行以外にもトレーニングとか、何気ない動作を分析できるようにしたいと、今その開発をやっています。画面はなくてもデータさえあればアルゴリズムの通信結果は出てきますが、サービスを提供するときにはスマホアプリなどが必要です。アプリの開発に着手して、アプリのデザインも必要になるなど、いろいろな話が出てきて、開発の領域からやることが拡散している状況です。 

――歩行の分析ができるようになって、そこから次は何をやるのか、それをどう技術に落としていくのかという難しさがあるのですか?

小出:歩行やランニングは先行研究が盛んな領域なので、先人の知恵を借りやすいのですが、別の動きだと動作の定義からオリジナルで考えなくてはいけない。そういった難しさはあります。得意な動作と苦手な動作があって、足が大きく動くほど、データが取りやすく、特徴が出やすい。例えばケン・ケン・パは足の動きがメインですけど、スクワットは足が動かず微妙な重心の変化だけです。本当にスクワットしているのか、重心がちょっと移動しているだけなのか技術的には判別が難しい。歩行やランニング以外の動きのデータを取る事例がまったくないわけではありませんが、まだ精度が低く、実用レベルにはなっていません。

――試行錯誤でとりあえずいろいろやっていく感じですか?

小出:片足立ちでデータを検出できます、と言っても「何がすごいの?」と言われるかもしれませんが、片足立ちを30秒計測できるというのはこれまで世の中になかったわけで、計測できるだけでも価値があると思います。でも、それだけでは世の中に浸透しないので、どういう切り口で見せるかを考えて、そこに技術をのせていく感じです。

宮西:ソフトが見えるようになると、ハードでこうしたいというのが見えてきます。長時間充電したくないならバッテリーのサイズを大きくしないといけないとか。

小出:コストの問題もありますね。ジャイロセンサーとか加速度センサーを使うとその分コストが上がる。でも50万円の靴なんて誰も買わないですよ。ベストというのは多分ないからベターを探していく感じです。

 ――ardiを長く使い続けてもらうために技術サイドで意識していることはありますか?

宮西:UXを強く意識しながらやっています。例えばどうしたら充電しやすくなるかをユーザー目線で考えています。MVPという一番小さいアプリを作ったときも「ここまで必要か」とか「それを見てどうするの」という話もありましたが、出せばこれを見たいという要望は出てくると思うので、できた物は早めにアウトプットするようにしています。アウトプットしてそこから得られる意見を盛り込むのはけっこう大事なので。

小出:長く使ってもらうために考えに考えて、これなら大丈夫と思ったものが結局使えなかったということがあります。とりあえず使える物を出して使ってみる。使ってみると、これがあまり良くないとか、ここはいいとかわかって改善のサイクルが回っていき、結果的に長く使えるものができあがってくると考えています。

――将来は普通の靴にもardiは入りますか?

小出:普通の靴にもおおむね入ります。薄さは半分くらいになります。いずれサービスを正式にローンチする予定で、その時には歩くことはもちろん、トレーニングメニューも予定しています。そこで決まるサービスの内容が実装される予定です。もしかしたらフル実装ではなくミニマムな状態で出るかもしれません。作りきってからリリースするのではなく、予定している時期にローンチすることになるでしょう。

 

――量産化に向けての技術的な問題点はありますか?

小出:新しい設計で量産に向けて作っていくなかで、いろいろな課題を解決していきます。

宮西:スマートインソールは普通の靴の中敷きと変わらない厚さにする見込みで、来春には試作品があがってきます。

小出:あとは通信ですね。

宮西:そうそう。省電力を考えたデータ通信の設計がまだできていないので、最適化を目指しています。

――小さな企業でハードの開発に取り組むのは大変ではありませんか?

小出:めっちゃ大変ですけどやりがいはとてもあります。小さな会社がやるべきじゃないかもしれないけど、会社の文化として物が好きなんですよね。これまで足の三次元デバイスも靴の内部計測デバイスも作ったし、スニーカーブランドもわざわざデザインして作った。

宮西:普通の靴だけど、デザイナーを入れて一から型を起こして作っているし。ソフトウェアやインターネットも好きだけどリアルなものが好きな社風ですね。

小出:ビジネス的には今後に乞うご期待という状態。本当はもっとすごく売れて会社を支える柱になってたらよかったなと思うけど、今はまだそうなっていない。ただこれがardi入りの靴になったらまた話は変わると考えています。

宮西:ビジネス的にはまだまだでも一旦作っちゃおうという文化がある。

小出:単なる靴かもしれないけれど、新しいブランドを作っているとも言えます。インソールの中にセンサーを仕込むことで新しいデータ発生源を作り、まだ誰も取っていないデータをデータ化する。足裏から取れる情報を全部データ化して、そのデータが集まる仕組みを作るのは面白いですよ。 

――お二人はいいエンジニアってどんな人物だと思いますか?

宮西:本当にこれを使って何かしたいとか、自分がこうしたいと思って手を動かしてくれる人、熱量がある人ですね。

小出:ベタかもしれないけどギークさがある人。ギークというのはオタクですね。うちの例で言ったら論文をリサーチして、そこで試されている実装方法を同じように試してみるとか。

深く潜る探求心とパワーを持ち合わせていることも含めてギークというのかもしれません。ドライな発注関係だけで納期をきっちり守って決められた仕事をやるのもプロフェッショナルだとは思いますけど、もっと熱量高く楽しくやりたいし、面白がってやりたい。この未開の地を一緒に開拓するメンバーにはそういう要素がほしいですね。

 


株式会社フリックフィットからお誘い
この話題に共感したら、メンバーと話してみませんか?
株式会社フリックフィットでは一緒に働く仲間を募集しています

同じタグの記事

今週のランキング

千葉 紗緒理さんにいいねを伝えよう
千葉 紗緒理さんや会社があなたに興味を持つかも