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リターン3倍『 社員への「健康投資」』

職場環境の改善や働き方改革の策として、「健康経営」という言葉が定着しつつある。「健康経営」とは社員が心身ともに健康であることによる業績向上の恩恵を、戦略として活かす経営であり、官民上げての取り組みが増えている施策である。2015年、経済産業省は東京証券取引所と共同で「健康経営銘柄」制度を設立、2017年には24社が選定されている。銘柄選定レポートでは、選定銘柄の株価収益率は市場全体を10年間で50%上回ると、健康経営の効果も示されている。経団連、健保組合連合会、医師会はじめ、横断的に各業界が協力し、「日本健康会議」も発足。啓蒙活動が広がりを見せているのは、健康経営とその取り組みがもたらす効果への期待が高いことに他ならない。健康経営のメリットとして、

①欠勤の減少や、メンタルヘルス改善等を通したモチベーション向上などによる生産性アップ
②健康増進による医療費等費用の節減
③社員やその家族など市民の生活環境改善に貢献する企業としてブランドイメージ向上  などが挙げられる。

健康経営の発祥国アメリカでは実証と研究が進んでおり、Johnson & Johnson社ではグループの社員約11万人に健康教育プログラムを提供して試算した結果、健康経営への投資$1に対して、$3のリターン(効用)があったと報告、3倍の投資効果は特筆に値しよう(図表1)。

【図表1 健康経営への投資に対するリターン】


健康経営で表彰される企業(CHAA)の株価、つまり企業価値が市場平均に比べ13年間で約1.8倍になったとの調査結果もある(図表2)。

【図表2 健康経営と株価の関係株価】


※実線:CHAAの受賞企業の株価                               
※点線:アメリカの市場平均株価                              
※「出所:Journal of Occupational and Environmental Medicine(2013年9月)」

『健康経営のメリットは中小企業にこそ』

こうした背景の中、東証一部上場企業の4割がすでに何らかの「社員の心身への健康」に対する取り組みを実践している一方、中小企業の7割はまだその概念自体の認知もない状態である。しかし、健康経営は中小企業にこそ効果が高い。中小企業では欠員時への備えが手薄で、健康を損なうことによる欠勤や退職による影響が大きくなりがちな分、社員が健康で働けることによる恩恵をより受けやすい。また、人材採用時のアピールポイントにもなり、人材が定着しやすい職場環境改善と相まって、人材獲得競争が激化する中で求人に苦労しがちな中小企業の人的資源確保にも役立つであろう。さらには、健康経営実施の有無が金融機関の企業評価にも反映されはじめており、中小企業の資金調達の要である銀行借入の条件にも健康経営の恩恵が及んで来ている。


健康経営の実践を進めている中小企業では、すでに欠勤や遅刻の減少、喫煙率やメタボ該当者比率の低下等、その成果が報告され始めている。こうしたメリットから今後、中小企業にこそ広がる価値の高い健康経営。その実現に向けて、「制度設計や実施を担当する人材育成や社員研修が進まない」「実施環境整備への投資余力に欠ける」といった中小企業経営者が抱えるハードルを解消する制度的な環境整備も進みつつある。中でも協会けんぽと商工会議所が中心となって進める「健康企業宣言」と「健康優良企業認定」、「健康経営アドバイザー」は中小企業向けの制度だ。そうした制度と外部リソースを活用し、外部の知見を取り入れながら工夫を施せば、道は開けていく。

まず、経営者が健康経営へのコミットメントを定め、それを公表することが第一歩となる。社内外への公表は、社員や社会を大切にするというメッセージにもなる。コミットに際しては、健康経営の社内浸透に向け、経営者自身による健康促進への姿勢も大切である。

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